美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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彼の檻の中

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 ドンッと、何かが地面に落ちる音が聞こえて目が覚めた。
 何事かと思って慌てて起き上がり周りを見ると、ラグトさんがベッドから落ちてひっくり返っていた。

「ら、ラグトさん!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫……ごめんね……」

 いてて、と頭を擦りながら彼は立ち上がる。

「ベッド狭かったですか?」
「ううん、俺だいぶ寝相悪いからさ!」

「なんでもないよ」と手を大袈裟にぶんぶん振られると逆に気になってしまう。

「私……もしかして、蹴っちゃいましたか……?」
「え!?違う違う」

 気まずそうな顔をしてラグトさんはボソッと言う。

「起きたら目の前にサキちゃんの顔があって……可愛すぎて悶えた」

 か、かわ……い……。

「なんか……ごめんなさい……」
「俺こそ……ごめん……」

 二人して謝るとなんだか笑えてきて、私はラグトさんが差し出してくれた手を取りベッドから出る。

「おはようございます」
「おはよう。準備出来たら食堂行こっか」
「はい!」

 朝食をヴェルストリアくんとラグトさんにも手伝ってもらいながら作り、三人で早めに食べることになった。
 食べている途中でヴェルストリアくんが躊躇いながら話を切り出す。

「サキさん……あの、今日は皆さん仕事があって…」
「あーそっか皆昨日サボったから……いや、うん」
「なので、ずっとは一緒に居られないんです。交代でなら来れるので……」

 二人は申し訳なさそうな顔をするけれど、やっぱりずっと一緒に居てもらうのは良くないのではと私は思っていた。
 皆と離れたいとかじゃなくて、このままだともっと離れがたくなってしまう気がする。私だっていい大人だし甘えてばかりではいけない。
 適切な距離を取るべき……なのかなって。

「私、今日からはもう一人で大丈夫です」

 二人は驚き、仕事の事は気にしなくていいと言う。
 でもそれだけでは無いと私の考えを伝えた。

「皆がお仕事を頑張っているから、私も自分の出来ることを精一杯したいんです。ずっと傍に居てくれたからもう怖くないし、ここなら安全だってちゃんと信じてますから」
「サキさん……」

 ラグトさんとヴェルストリアくんは顔を見合わせ頷く。

「分かった。団長たちにもそう伝えておくね」
「先輩方も心配だとは思うので夜は……一緒に過ごしても良いですか?」
「うん!お願いします」

 どこかホッとした様子でヴェルストリアくんは了承した。
 しかし、お昼ずっと会えなかったらちょっと寂しいかもなんて、やっぱりまだ恋人離れ出来ていない自分に呆れる。

「あの、でも……前みたいに仕事中でもちょっとお話出来たら……嬉しい……です」

 自分から断ったくせにおこがましいことを言って申し訳無かったのだが、二人は抱きついてきて凄く頷いてくれた。

「会える時は会いに来ますから!」
「俺たちも寂しいんだよー!」
「ふふ……ありがとう……!」

 以前のように私は黒騎士団のお手伝いに戻り、皆とは休憩中やお休みの日に会うことになった。


「ふぅ……結構綺麗になったかも!」

 私は久しぶりに黒騎士団寮の掃除をしていた。

「サキさんすげぇ……なんでこんなにピカピカになるんすか」
「この洗剤を入れたお水で拭くと汚れが落ちますよ。あと最後は乾拭きして」
「勉強になります!」

 団員たちが掃除をしていてくれたので全然汚れては無かったのだが、つい張り切って大掃除くらいの勢いでやってしまった。
 通りすがる団員が皆声をかけてくれたので意外と時間は早く進んでいった。
 そして……。

「分かります……!ハインツさん凄く強くてびっくりしちゃって!」
「団長はなかなか俺たちの前でも鍛錬とかしないから……この前のはやばかった!」

 団員二人と盛り上がっているのは先日のハインツさんとアレクさんの打ち合いの話。

「俺、団長が使ってたあの木刀片手は絶対無理だな…形が歪だからバランスが難しい」
「だよなぁ……団長とやり合えるアレクさんも凄いけど」

 二人はあの時の様子を思い出し、心底感心しながら頷き合っている。

「ハインツさんは打ち合い?とかもあまりしないんですか?」
「相手出来る人が少ないんですよ。アレク隊長かミスカさんかリュークさん……くらいですかね」

 へぇ……やっぱりミスカさんとリュークも強いんだな……。そんな凄い人たちと付き合ってると思うと何だか不思議な感じというか……有名人的な?

「強いって分かっていても怪我をしないかどうしても心配で……。皆さんも気をつけてくださいね」
「は、はい!ありがとうごさいます」

 その後も好きな人の話が出来るのが楽しすぎて浮かれていた私は、つい余計な事までペラペラと喋ってしまっていた。

「執務室でお仕事してる時も凄くカッコよくて、普段はふんわり優しい感じなんですけど眼鏡をかけた時のキリッと切り替わるような雰囲気がギャップがあって……」
「惚気られてるな」
「必死になって話してるの可愛い……」
「なんかもう、見守るしか選択肢無いの逆に有難い」
「あ!さ、サキさん……後ろ……」
「え?」

 慌てたように言われてハッと我に返り後ろを向くと、ハインツさんが困ったように顔をかいていた。
 ボンっと音を立てそうな勢いで真っ赤になった私は恐る恐る尋ねる。

「聞こえて……ましたか……?」
「……少しだけ」
「~!」

 あまりの恥ずかしさに思わず逃げ出してしまった。

「あ、サキ!ちょ……二人ともすまない!」
「はい……」
「いってらっしゃいませ……」

 私がスピードでハインツさんに勝てるわけも無く、追い詰められた私は抱っこされて執務室へ連行された。

「ち、違うんですハインツさん!」
「違う?あれは嘘だったのかな」
「本当なんですけど、その……」

 ソファに下ろされ押し倒される形でハインツさんに上から問い詰められる。顔の横に着かれた両手に逃がさないという意思が感じられる。

「サキは私の眼鏡姿が好きだったのか」

 バレちゃったぁぁ……言わずにこっそり眺めてたのに!しかもあんな、人に自慢しているところも見られて……もう駄目恥ずかしぬ……。
 私は耐えきれなくて手で顔を隠した。

「言ってくれれば眼鏡なんていくらでもするのに」

  胸ポケットから取り出したいつもの細いシルバーフレームをかけて彼はニコっと微笑んだ。

「どうかな?」
「カッコいいです……」

 指の隙間から覗いて思わず零れた私の声に嬉しそうにするハインツさんは、私の手を退かしてキスをする。

「んっ……」

 ぴったりと重なる幸福感。行き場を失った手を彼の両腕に絡ませる。

「眼鏡をかけていると顔を当たってしまうな」

 眼鏡はすぐに取られてしまったけれど、今の私たちはキスのほうが優先だった。
 唇で唇を噛むようなキス。柔らかい感触に包まれる。私もそれを真似してハインツさんの唇をはむっと噛む。
 上手く出来ているかは分からないけど、ハインツさんが求めてきてくれるのが嬉しくて必死に追いつく。

「サキは……本当に可愛いな」
「はぁ……ん……」

 ずっとこのままで……と思ってしまうが、仕事中なのでそういうわけにもいかず。
 ようやく両腕の柵から解放され抱き起こしてもらう。

「まだ掃除は終わっていない?」
「片付け……してない……」
「しかし、その状態の君を外には出せないな」
「!」

 まるで、最初からそのつもりだったかのような余裕な笑み。

「暫くはここに居るだろう?」
「はい……」

 やっぱりまだ、彼の檻からは抜け出せていなかった。
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