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偶然の繋がり
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出立してから森を抜け橋を渡り、三時間を過ぎたところでようやく一つ目の町に着き休憩をとる。
「サキちゃんと同じ世界から来たってことは同じ黒髪と黒目なのかな」
ラグトさんは不思議そうに言う。
「そうかもしれないですね。国によっては違うので分からないですけど」
外国語だったら会話出来ないかな……。それでも、やっぱり一度会ってみたい。
「そう思い詰めることは無い。せっかくだからこの旅も楽しめば良い」
「はい、そうですね!」
ミスカさんの言葉で少し胸が軽くなる。
僅かな希望を抱いて私たちはまた長い道のりを進み続けた。
「もうすぐで着きますよ」
「本当ですか!」
道中一泊し、ようやくのアレクさんの言葉に喜びの声を上げる。
そこは広大に広がる草原で、その中に佇む一つの小さな家。
周りには他に建物も無く、本当にその一軒のみがポツンと建っているのであった。
近くに馬を留め、歩いてその家の前へ。
「私がまず話をつけますので」
「お願いします」
アレクさんが扉をノックしようとした時、家の影から一人の男の子が顔を出した。
「だれ?」
この家の子かな。
「あ!帽子助けてくれたお兄さん!」
男の子はアレクさんを指差してそう言った。
「覚えていてくれたのですか」
「もちろん!」
二人はどうやら面識があるみたいで、男の子は嬉しそうに私たちを家の中に入れてくれた。
「お父さん、帽子の人!」
「突然の訪問で申し訳ありません。私たちはアルデン国の黒騎士団の者です」
「騎士団!?そんな方たちがこんな所へ何の用で……?」
「少しお尋ねしたいことがありまして」
この家の主である男性は驚きながらも私たちの分まで椅子を用意してくれた。
「以前息子が言っていた方が貴方だったんですね。本当にありがとうございました」
「いえ、そんな大層なことではありません。まさか息子さんに覚えていてもらえたとは思っておりませんでした」
「ああ、お茶でも入れましょうか」
「お構いなく」
バタバタとキッチンに行ってしまった彼を見てアレクさんがこちらを向いた。
「すぐそこに川があるでしょう」
窓の外、家の傍を流れる川を見る。
「通りがかった際に川から流れてくる帽子を見つけて拾ったのです。それが息子さんからお父様への誕生日プレゼントだったそうで」
その時に誕生日のお祝いのことを聞いたのだという。
「帽子びしょびしょだったけどお父さん喜んでくれたんだ!お金全部使っちゃったからもう何も買えなくて……。だからお兄さんありがとう!」
「それは良かった。お役に立ててなりよりです」
過去の良いエピソードも聞けたところで、お茶を頂きながら私は話を切り出した。
「実は私の故郷にも誕生日を祝う文化があるんです。ここではその文化が無いと知って驚いたのですが……もしかしたら私と同じご出身の方がいらっしゃるのではないかと思いまして」
「そうでしたか……!貴女もなんですね!」
彼は笑顔で頷く。
「誕生日を祝うというのは私の母に教えられた事なんです」
「お母さまから?」
「父は元々その文化を知らなかったそうで周りからも聞かないので、母だけなのだと思っていました」
じゃあその人が……!
「お、お母さまは今どちらへ?」
「上の階に居ますよ。今呼んできますね」
ラグトさんとミスカさんと目を合わせる。
「お客さん?」
「そうそう、母さんと話がしたいって」
降りてきた女性はブロンドの髪色にグレーの瞳のおばあさんだった。
日本人では無さそう……?
「初めまして、サキと申します。突然お邪魔してしまいすみません」
「あら、黒い髪……ここに来てからは見たことないけど……」
「!ここに来た……というのは、どちらから……」
私の様子を見て察したのか、彼女は目を丸くして答えた。
「アメリカと言って……分かるかしら」
「っ……分かります!」
本当に……居た……!会えたんだ……!
涙を流した私を隣に座るミスカさんとラグトさんが抱きしめてくれる。
おばあさん……エマさんとも抱きしめ合い、その出会いを喜んだ。
「サキさんは日本の人なのね。まさかこの歳になって同じ世界の人に会えるなんて…」
エマさんはいつの間にか草原の中に居て、この家の人…今は亡くなられている旦那さんに助けてもらったそう。
ハインツさんの助けがあった私と違って戸籍を作ったりすることが出来なかったから正式には結婚出来ずに、この家でひっそりと暮らしていたんだとか。
「貴女は英語が上手なのね。この世界に来た時も思ったけれど」
「えっ、私は英語では喋っていませんよ」
「……?どういうことかしら」
やっぱり翻訳機能があるんだ……どの言語を使う人でもこの世界で問題なく生きていけるように……。
「普通に話すことが出来るように何かしらの力が働いているんだと思います」
「そう……不思議な事だらけね」
彼女は昔を思い出したのか窓から見える草原を遠い目で眺めた。
「あの日の事は今でもよく覚えているわ。月が青くて……怖かったけれど幻想的だとも思ったの」
青い月……そうだ、私があの森に居た時も青く光っていた。焦っていてその後は何も気にしていなかったけれど……。
「ミスカさん……私を見つけてくれたあの日、月は青かったですか?」
「いや、覚えは少しも無い。そんなことがあるのなら必ず記憶に残っているはずだ」
そうだよね……転移した人にだけ見えるってことかな……。
「サキさんも、この世界の人と結婚したのね」
「はい。彼らに助けてもらって」
「……家族って良いものよ。大変なことも沢山あるけれど、貴女ならきっと乗り越えられるわ」
長く生きていた彼女の言葉は重く温かい。
その後私たちの居た世界について話をしたりして、寂しい思いもあったがお暇することにした。
「わざわざ会いに来てくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございました。本当に……嬉しいです」
握手をしてエマさんの優しい笑顔を受け取った。
「お兄さんバイバイ!」
「はい。次はプレゼントを落とさないように気をつけてくださいね」
お別れして、視察へ向かうアレクさんとも道を分かれる。
「アレクさん、本当にありがとうございました」
「ほんの偶然のことでしたが、貴女に伝えて正解でしたね。では帰りは気をつけて」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
ミスカさんとラグトさんと共に彼を見送り、私は小さい家と草原を振り返りながら来た道を戻った。
「サキちゃんと同じ世界から来たってことは同じ黒髪と黒目なのかな」
ラグトさんは不思議そうに言う。
「そうかもしれないですね。国によっては違うので分からないですけど」
外国語だったら会話出来ないかな……。それでも、やっぱり一度会ってみたい。
「そう思い詰めることは無い。せっかくだからこの旅も楽しめば良い」
「はい、そうですね!」
ミスカさんの言葉で少し胸が軽くなる。
僅かな希望を抱いて私たちはまた長い道のりを進み続けた。
「もうすぐで着きますよ」
「本当ですか!」
道中一泊し、ようやくのアレクさんの言葉に喜びの声を上げる。
そこは広大に広がる草原で、その中に佇む一つの小さな家。
周りには他に建物も無く、本当にその一軒のみがポツンと建っているのであった。
近くに馬を留め、歩いてその家の前へ。
「私がまず話をつけますので」
「お願いします」
アレクさんが扉をノックしようとした時、家の影から一人の男の子が顔を出した。
「だれ?」
この家の子かな。
「あ!帽子助けてくれたお兄さん!」
男の子はアレクさんを指差してそう言った。
「覚えていてくれたのですか」
「もちろん!」
二人はどうやら面識があるみたいで、男の子は嬉しそうに私たちを家の中に入れてくれた。
「お父さん、帽子の人!」
「突然の訪問で申し訳ありません。私たちはアルデン国の黒騎士団の者です」
「騎士団!?そんな方たちがこんな所へ何の用で……?」
「少しお尋ねしたいことがありまして」
この家の主である男性は驚きながらも私たちの分まで椅子を用意してくれた。
「以前息子が言っていた方が貴方だったんですね。本当にありがとうございました」
「いえ、そんな大層なことではありません。まさか息子さんに覚えていてもらえたとは思っておりませんでした」
「ああ、お茶でも入れましょうか」
「お構いなく」
バタバタとキッチンに行ってしまった彼を見てアレクさんがこちらを向いた。
「すぐそこに川があるでしょう」
窓の外、家の傍を流れる川を見る。
「通りがかった際に川から流れてくる帽子を見つけて拾ったのです。それが息子さんからお父様への誕生日プレゼントだったそうで」
その時に誕生日のお祝いのことを聞いたのだという。
「帽子びしょびしょだったけどお父さん喜んでくれたんだ!お金全部使っちゃったからもう何も買えなくて……。だからお兄さんありがとう!」
「それは良かった。お役に立ててなりよりです」
過去の良いエピソードも聞けたところで、お茶を頂きながら私は話を切り出した。
「実は私の故郷にも誕生日を祝う文化があるんです。ここではその文化が無いと知って驚いたのですが……もしかしたら私と同じご出身の方がいらっしゃるのではないかと思いまして」
「そうでしたか……!貴女もなんですね!」
彼は笑顔で頷く。
「誕生日を祝うというのは私の母に教えられた事なんです」
「お母さまから?」
「父は元々その文化を知らなかったそうで周りからも聞かないので、母だけなのだと思っていました」
じゃあその人が……!
「お、お母さまは今どちらへ?」
「上の階に居ますよ。今呼んできますね」
ラグトさんとミスカさんと目を合わせる。
「お客さん?」
「そうそう、母さんと話がしたいって」
降りてきた女性はブロンドの髪色にグレーの瞳のおばあさんだった。
日本人では無さそう……?
「初めまして、サキと申します。突然お邪魔してしまいすみません」
「あら、黒い髪……ここに来てからは見たことないけど……」
「!ここに来た……というのは、どちらから……」
私の様子を見て察したのか、彼女は目を丸くして答えた。
「アメリカと言って……分かるかしら」
「っ……分かります!」
本当に……居た……!会えたんだ……!
涙を流した私を隣に座るミスカさんとラグトさんが抱きしめてくれる。
おばあさん……エマさんとも抱きしめ合い、その出会いを喜んだ。
「サキさんは日本の人なのね。まさかこの歳になって同じ世界の人に会えるなんて…」
エマさんはいつの間にか草原の中に居て、この家の人…今は亡くなられている旦那さんに助けてもらったそう。
ハインツさんの助けがあった私と違って戸籍を作ったりすることが出来なかったから正式には結婚出来ずに、この家でひっそりと暮らしていたんだとか。
「貴女は英語が上手なのね。この世界に来た時も思ったけれど」
「えっ、私は英語では喋っていませんよ」
「……?どういうことかしら」
やっぱり翻訳機能があるんだ……どの言語を使う人でもこの世界で問題なく生きていけるように……。
「普通に話すことが出来るように何かしらの力が働いているんだと思います」
「そう……不思議な事だらけね」
彼女は昔を思い出したのか窓から見える草原を遠い目で眺めた。
「あの日の事は今でもよく覚えているわ。月が青くて……怖かったけれど幻想的だとも思ったの」
青い月……そうだ、私があの森に居た時も青く光っていた。焦っていてその後は何も気にしていなかったけれど……。
「ミスカさん……私を見つけてくれたあの日、月は青かったですか?」
「いや、覚えは少しも無い。そんなことがあるのなら必ず記憶に残っているはずだ」
そうだよね……転移した人にだけ見えるってことかな……。
「サキさんも、この世界の人と結婚したのね」
「はい。彼らに助けてもらって」
「……家族って良いものよ。大変なことも沢山あるけれど、貴女ならきっと乗り越えられるわ」
長く生きていた彼女の言葉は重く温かい。
その後私たちの居た世界について話をしたりして、寂しい思いもあったがお暇することにした。
「わざわざ会いに来てくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございました。本当に……嬉しいです」
握手をしてエマさんの優しい笑顔を受け取った。
「お兄さんバイバイ!」
「はい。次はプレゼントを落とさないように気をつけてくださいね」
お別れして、視察へ向かうアレクさんとも道を分かれる。
「アレクさん、本当にありがとうございました」
「ほんの偶然のことでしたが、貴女に伝えて正解でしたね。では帰りは気をつけて」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
ミスカさんとラグトさんと共に彼を見送り、私は小さい家と草原を振り返りながら来た道を戻った。
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