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妊娠
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「ヴェルくんはコーヒー飲む?」
「はい!僕がやりますよ」
お昼に彼と休憩しようと食堂に来ていた。
眠気覚ましにと選んだコーヒーの、その密封された入れ物を開けた時にどうしようも無く嫌な臭いが漂ってきた。
「う……」
「サキさん!?どうかしましたか」
「これ……臭いが……凄く」
「臭い……?何も……」
言いかけたヴェルくんは焦ったように私の手を取る。
「サキさん!それって……!」
一度家に戻り、急いで医者を呼ぶようお願いする。
二時間後、夫たちが部屋に集まり見守る中、医者から診断が告げられた。
「妊娠されていますね」
「「!」」
「マジで……!」
「サキさんっ!」
リュークとヴェルくんに飛びつかれて私もようやくその言葉を理解する。
「妊娠……した……本当に……?」
「ああ……サキ、本当だ」
「サキちゃ……うぅ……」
「サキ、ありがとう」
喜びが溢れるハインツさんの笑顔と感動で既に泣いているラグトさんを見て、頭を撫でるミスカさんの温かい手で、私も涙を流す。
ようやく訪れたこの日は嬉しさばかりだったが、それからはそうも言っていられない日々だった。
「サキ、起き上がれるか」
「うん……」
妊娠が分かってから仕事はお休みしてしばらくは特に何も無くお家でゆっくり過ごしていただけだったが、つわりが重くなってきて今はほとんど家に寝たきりだった。
「リンゴを剥いたが……」
ミスカさんが差し出してくれるリンゴを一つ食べるが、気持ち悪さで吐き出してしまう。
「……っげほ……ごめんなさい、今日は無理そう……」
「大丈夫だ。他の物を用意してくるから、水はここに置いておくぞ」
「ありがとうございます…」
食べられる物も少なく、日によって変わる味覚に合わせて口に出来るものを必死に探すしか無かった。
夫たちが毎日誰かは傍について世話をしてくれるので、それが凄く有難かった。彼らには当たり前だと言われたが、日本では一人で頑張っている女性も居るのだろうから。
「サキさん!」
「ヴェルくん……おかえり」
「ただいまです」
帰ってきたヴェルくんは私の元へ飛んできて腰を優しくさすってくれる。
「昨日より顔色は良さそうですね」
「うん、ちょっとは気分も……良いかな」
「今日はずっとここに居ますから、何でも言ってください」
「……頭……撫でて」
「はい」
風邪の時などに食欲が低下したりするけれどこんなに長期間は初めてで。お腹は空いているのに毎日少ししか食べられない。吐き気はするのに何も吐き出せない。
今まで経験したことない苦痛に日に日に耐えられなくなって、泣き出しては夫に慰めてもらっていた。
「ぅ……っ……りゅーく……」
「今ラグトがご飯持ってきてくれるから」
「うん…だいじょうぶ…だいじょうぶ……っ」
「大丈夫だよ。……サキ…ごめんね…」
彼らもそんな私を見てずっと苦しそうだったけれど、安心させようとなんとか笑顔を作ってくれる。
「サキ、今日はお風呂に入る?」
「……」
「無理そうなら大丈夫だよ」
「…入る……」
立ち上がるのが辛くてお風呂も一日おき。
ハインツさんに抱えてもらってようやくベッドから出た。
ぬるま湯の湯船に横になって頭も体も二人がかりで彼らに洗ってもらう。
「痛くないですか?」
「ん……」
ヴェルくんが優しく頭を洗ってくれる。
体を撫でるハインツさんの手の安心感で、またグスグス泣いてしまう。
「ハインツさん……」
「ああ」
「っ……ハインツさ……ん」
「ここに居るよ」
何度も何度も涙を流し、掬ってもらいまた流す。そんな毎日が一ヶ月以上続いた。
「はい!僕がやりますよ」
お昼に彼と休憩しようと食堂に来ていた。
眠気覚ましにと選んだコーヒーの、その密封された入れ物を開けた時にどうしようも無く嫌な臭いが漂ってきた。
「う……」
「サキさん!?どうかしましたか」
「これ……臭いが……凄く」
「臭い……?何も……」
言いかけたヴェルくんは焦ったように私の手を取る。
「サキさん!それって……!」
一度家に戻り、急いで医者を呼ぶようお願いする。
二時間後、夫たちが部屋に集まり見守る中、医者から診断が告げられた。
「妊娠されていますね」
「「!」」
「マジで……!」
「サキさんっ!」
リュークとヴェルくんに飛びつかれて私もようやくその言葉を理解する。
「妊娠……した……本当に……?」
「ああ……サキ、本当だ」
「サキちゃ……うぅ……」
「サキ、ありがとう」
喜びが溢れるハインツさんの笑顔と感動で既に泣いているラグトさんを見て、頭を撫でるミスカさんの温かい手で、私も涙を流す。
ようやく訪れたこの日は嬉しさばかりだったが、それからはそうも言っていられない日々だった。
「サキ、起き上がれるか」
「うん……」
妊娠が分かってから仕事はお休みしてしばらくは特に何も無くお家でゆっくり過ごしていただけだったが、つわりが重くなってきて今はほとんど家に寝たきりだった。
「リンゴを剥いたが……」
ミスカさんが差し出してくれるリンゴを一つ食べるが、気持ち悪さで吐き出してしまう。
「……っげほ……ごめんなさい、今日は無理そう……」
「大丈夫だ。他の物を用意してくるから、水はここに置いておくぞ」
「ありがとうございます…」
食べられる物も少なく、日によって変わる味覚に合わせて口に出来るものを必死に探すしか無かった。
夫たちが毎日誰かは傍について世話をしてくれるので、それが凄く有難かった。彼らには当たり前だと言われたが、日本では一人で頑張っている女性も居るのだろうから。
「サキさん!」
「ヴェルくん……おかえり」
「ただいまです」
帰ってきたヴェルくんは私の元へ飛んできて腰を優しくさすってくれる。
「昨日より顔色は良さそうですね」
「うん、ちょっとは気分も……良いかな」
「今日はずっとここに居ますから、何でも言ってください」
「……頭……撫でて」
「はい」
風邪の時などに食欲が低下したりするけれどこんなに長期間は初めてで。お腹は空いているのに毎日少ししか食べられない。吐き気はするのに何も吐き出せない。
今まで経験したことない苦痛に日に日に耐えられなくなって、泣き出しては夫に慰めてもらっていた。
「ぅ……っ……りゅーく……」
「今ラグトがご飯持ってきてくれるから」
「うん…だいじょうぶ…だいじょうぶ……っ」
「大丈夫だよ。……サキ…ごめんね…」
彼らもそんな私を見てずっと苦しそうだったけれど、安心させようとなんとか笑顔を作ってくれる。
「サキ、今日はお風呂に入る?」
「……」
「無理そうなら大丈夫だよ」
「…入る……」
立ち上がるのが辛くてお風呂も一日おき。
ハインツさんに抱えてもらってようやくベッドから出た。
ぬるま湯の湯船に横になって頭も体も二人がかりで彼らに洗ってもらう。
「痛くないですか?」
「ん……」
ヴェルくんが優しく頭を洗ってくれる。
体を撫でるハインツさんの手の安心感で、またグスグス泣いてしまう。
「ハインツさん……」
「ああ」
「っ……ハインツさ……ん」
「ここに居るよ」
何度も何度も涙を流し、掬ってもらいまた流す。そんな毎日が一ヶ月以上続いた。
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