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第六章 ヤサイマシマシニンニクアブラカラメと紅蓮の地獄龍
EP 1
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既視感(デジャヴ)と塩対応
ふと、意識が浮上した。
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
天井も、床も、壁もない。
視界の全てが純白で塗り潰された、無限の虚無。
俺はいつの間にか、その空間に浮かぶ一脚の白い椅子に座らされていた。
「……ん?」
俺は眉をひそめた。
初めて見る光景……のはずだ。
だが、なぜだろう。猛烈な『既視感(デジャヴ)』が襲ってくる。
まるで、ついさっきもここで同じ白い景色を見ていたような、奇妙な感覚。
胃の奥がムカムカするような、生理的な不快感。
「ようこそ、『職人(クラフター)』。君を私のティータイムに招待したかったんだ」
正面から、気取った声が聞こえた。
テーブルを挟んで向かい合っているのは、純白のスーツに身を包み、『0』の仮面をつけた男。
手元にはチェス盤。そして、高級そうなチョコレート。
「……あんたは、誰だ?」
俺は問うた。だが、口から出た言葉すら、台本をなぞっているような感覚があった。
「私は『ナンバー0』。選ばれし者たち(ユニークスキル・ホルダー)の集団、『ナンバーズ』の統率者だ」
0(ゼロ)は優雅に足を組み、チェスのポーンを摘まみ上げた。
「単刀直入に言おう。君、なかなか面白い能力(スキル)を持っているね。ガラクタから兵器を作り出し、Aランクのキメラを屠る……。どうだい? 我々の仲間にならないか?」
彼はスラスラと勧誘の言葉を並べる。
俺の脳裏に、ノイズのようなフラッシュバックが走る。
――『断る』。
――『なら僕のゲームの駒になってもらおう』。
――『リセットだ』。
断片的な記憶。
俺は無意識に顔をしかめた。
こいつは……気に入らない。理屈じゃなく、本能がこいつを「ブラック企業の社長」と同種の生き物だと告げている。
0は仮面の口元から、パキリとチョコレートを齧った。
口の端に、わずかに茶色い欠片がつく。
そして、チョコを持った手袋の指先が、体温で溶けたチョコで少し汚れていた。
それを見た瞬間、俺の中で決定的な「拒絶反応」が出た。
「……汚(きたな)っ」
俺は思わず呟いた。
「……はい?」
0の動きが止まる。
「いや、断る。絶対に断る。あんたとは生理的に無理だ」
俺は手でシッシッと払う仕草をした。
「世界征服だか何だか知らんが、そのチョコの食い方を見て確信したね。あんた、自分の手は汚さないつもりでいて、実は周りをベタベタに汚すタイプだろ。手袋、チョコで黒くなってるぞ。ちゃんと拭けよ」
「は……?」
0が自分の手袋を見る。
そこには、ほんの僅かな染みがあるだけだ。
だが、俺の目には、それがドロドロに溶けたヘドロのように見えて仕方がなかった。
「部下を使い潰して、自分だけ高みの見物。そういう奴に限って、デスク周りが汚いんだよ。……俺は潔癖なんでね。お引き取り願おう」
完全なる塩対応。
0の肩が、ピクリと震えた。
「……き、君……」
彼の「冷静沈着な支配者」の仮面(ペルソナ)に、ピキッという亀裂が入る音が聞こえた気がした。
前回のループでは「面白い」と評価していた余裕が、今回は一瞬で消し飛んだ。
「……交渉、決裂だ」
0の声が氷点下まで下がった。
「死ね」
短い宣告。
0が指を鳴らす。
パチンッ。
世界が強制的に暗転した。
***
「……っ!」
俺はガバッと跳ね起きた。
いつものベッド。窓から差し込む朝日。
下からは朝食の匂い。
「……夢、か?」
俺は頭を振った。
前回と同じ目覚め。だが、今回は寝汗の量が尋常ではなかった。
そして、口の中には苦い後味が残っていた。
「なんだか知らんが……胸くそ悪い夢だったな」
俺は不快感を洗い流すために、シャワーを浴びることにした。
二度とあんな男の顔は見たくない、そう思いながら。
***
一方、ナンバーズのアジト。
現実世界の0は、屈辱に震えていた。
「……汚い、だと?」
彼は神経質に、新しい手袋に付け替えながら、ギリギリと歯噛みしていた。
たかが一般人の分際で。
僕の、この崇高な勧誘を、あろうことか「食べ方が汚い」などという低俗な理由で一蹴するとは。
「許さない……。ゲームなどという生温かいものではない」
0は通信機を叩きつけるように起動した。
「2(ルルシア)! 出撃だ!」
『は~い、0様ぁ。偵察ですかぁ?』
のんびりとした少女の声が返ってくる。
「いいや、偵察など不要だ。……即刻、殺せ」
0の瞳には、明確な殺意が宿っていた。
「あのシェアハウスの住人、全員だ。会話もするな。能力(スキル)を見る必要もない。……不快な害虫を駆除するように、徹底的にすり潰せ!」
『えぇ~? 珍しいですね、0様がそんなに怒るなんて。……ま、了解ですぅ♪』
通信が切れる。
0は新しいチョコレートを口に放り込もうとして――止めた。
そして、苛立ち紛れにチョコを床に投げつけた。
「……見ていろ、職人。君が侮辱した相手が、どれほどの恐怖をもたらすか」
こうして、二周目の世界線は、最悪の形で幕を開けた。
だが、0は一つ計算違いをしていた。
出撃するナンバー2――ルルシアにもまた、前回の「貧乏生活」の記憶が、トラウマとして深く刻まれていることを。
ふと、意識が浮上した。
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
天井も、床も、壁もない。
視界の全てが純白で塗り潰された、無限の虚無。
俺はいつの間にか、その空間に浮かぶ一脚の白い椅子に座らされていた。
「……ん?」
俺は眉をひそめた。
初めて見る光景……のはずだ。
だが、なぜだろう。猛烈な『既視感(デジャヴ)』が襲ってくる。
まるで、ついさっきもここで同じ白い景色を見ていたような、奇妙な感覚。
胃の奥がムカムカするような、生理的な不快感。
「ようこそ、『職人(クラフター)』。君を私のティータイムに招待したかったんだ」
正面から、気取った声が聞こえた。
テーブルを挟んで向かい合っているのは、純白のスーツに身を包み、『0』の仮面をつけた男。
手元にはチェス盤。そして、高級そうなチョコレート。
「……あんたは、誰だ?」
俺は問うた。だが、口から出た言葉すら、台本をなぞっているような感覚があった。
「私は『ナンバー0』。選ばれし者たち(ユニークスキル・ホルダー)の集団、『ナンバーズ』の統率者だ」
0(ゼロ)は優雅に足を組み、チェスのポーンを摘まみ上げた。
「単刀直入に言おう。君、なかなか面白い能力(スキル)を持っているね。ガラクタから兵器を作り出し、Aランクのキメラを屠る……。どうだい? 我々の仲間にならないか?」
彼はスラスラと勧誘の言葉を並べる。
俺の脳裏に、ノイズのようなフラッシュバックが走る。
――『断る』。
――『なら僕のゲームの駒になってもらおう』。
――『リセットだ』。
断片的な記憶。
俺は無意識に顔をしかめた。
こいつは……気に入らない。理屈じゃなく、本能がこいつを「ブラック企業の社長」と同種の生き物だと告げている。
0は仮面の口元から、パキリとチョコレートを齧った。
口の端に、わずかに茶色い欠片がつく。
そして、チョコを持った手袋の指先が、体温で溶けたチョコで少し汚れていた。
それを見た瞬間、俺の中で決定的な「拒絶反応」が出た。
「……汚(きたな)っ」
俺は思わず呟いた。
「……はい?」
0の動きが止まる。
「いや、断る。絶対に断る。あんたとは生理的に無理だ」
俺は手でシッシッと払う仕草をした。
「世界征服だか何だか知らんが、そのチョコの食い方を見て確信したね。あんた、自分の手は汚さないつもりでいて、実は周りをベタベタに汚すタイプだろ。手袋、チョコで黒くなってるぞ。ちゃんと拭けよ」
「は……?」
0が自分の手袋を見る。
そこには、ほんの僅かな染みがあるだけだ。
だが、俺の目には、それがドロドロに溶けたヘドロのように見えて仕方がなかった。
「部下を使い潰して、自分だけ高みの見物。そういう奴に限って、デスク周りが汚いんだよ。……俺は潔癖なんでね。お引き取り願おう」
完全なる塩対応。
0の肩が、ピクリと震えた。
「……き、君……」
彼の「冷静沈着な支配者」の仮面(ペルソナ)に、ピキッという亀裂が入る音が聞こえた気がした。
前回のループでは「面白い」と評価していた余裕が、今回は一瞬で消し飛んだ。
「……交渉、決裂だ」
0の声が氷点下まで下がった。
「死ね」
短い宣告。
0が指を鳴らす。
パチンッ。
世界が強制的に暗転した。
***
「……っ!」
俺はガバッと跳ね起きた。
いつものベッド。窓から差し込む朝日。
下からは朝食の匂い。
「……夢、か?」
俺は頭を振った。
前回と同じ目覚め。だが、今回は寝汗の量が尋常ではなかった。
そして、口の中には苦い後味が残っていた。
「なんだか知らんが……胸くそ悪い夢だったな」
俺は不快感を洗い流すために、シャワーを浴びることにした。
二度とあんな男の顔は見たくない、そう思いながら。
***
一方、ナンバーズのアジト。
現実世界の0は、屈辱に震えていた。
「……汚い、だと?」
彼は神経質に、新しい手袋に付け替えながら、ギリギリと歯噛みしていた。
たかが一般人の分際で。
僕の、この崇高な勧誘を、あろうことか「食べ方が汚い」などという低俗な理由で一蹴するとは。
「許さない……。ゲームなどという生温かいものではない」
0は通信機を叩きつけるように起動した。
「2(ルルシア)! 出撃だ!」
『は~い、0様ぁ。偵察ですかぁ?』
のんびりとした少女の声が返ってくる。
「いいや、偵察など不要だ。……即刻、殺せ」
0の瞳には、明確な殺意が宿っていた。
「あのシェアハウスの住人、全員だ。会話もするな。能力(スキル)を見る必要もない。……不快な害虫を駆除するように、徹底的にすり潰せ!」
『えぇ~? 珍しいですね、0様がそんなに怒るなんて。……ま、了解ですぅ♪』
通信が切れる。
0は新しいチョコレートを口に放り込もうとして――止めた。
そして、苛立ち紛れにチョコを床に投げつけた。
「……見ていろ、職人。君が侮辱した相手が、どれほどの恐怖をもたらすか」
こうして、二周目の世界線は、最悪の形で幕を開けた。
だが、0は一つ計算違いをしていた。
出撃するナンバー2――ルルシアにもまた、前回の「貧乏生活」の記憶が、トラウマとして深く刻まれていることを。
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