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第七章 公園のクルッポーと半額もやし
EP 2
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リベラのプロデュース
シェアハウス『メゾン・ド・キャロット』のリビング。
そこには、野生動物の捕食シーンのような、凄まじい音が響き渡っていた。
「ガツガツッ! ムシャムシャ! ングッ、プハァッ! うめぇぇぇ! パンの耳うめぇぇぇ!」
テーブルに齧り付くようにして、山盛りのトースト(と、俺が作った野菜スープ)を胃袋に流し込んでいるのは、公園で拾った自称天使・キュララだ。
彼女の華奢な体のどこにそんなスペースがあるのか不思議なほど、ブラックホールのような吸引力で食料が消えていく。
「……おい、皿まで食うなよ。誰も取らねぇから」
俺が呆れて注意すると、キュララはスープまみれの口元を袖で拭いながら、涙目で俺を見た。
「だってぇ! こんな『温かい固形物』を食べたの、久しぶりなんだもん! 天界のカフェテリアより美味しいわ!」
「天界って、お前、本当に天使なのか?」
「失礼ね! 背中見せたでしょ? 本物よ! ……ちょっと『徳ポイントカード』落として、下界で路頭に迷っちゃっただけなんだから!」
彼女の言い分によると、彼女は天界からの「地上研修」でタロー国に来たらしい。
だが、到着早々に全財産が入ったカードを紛失。
天界への連絡手段もなく(スマホも止められたらしい)、プライドが邪魔して誰にも頼れず、公園で鳩と覇権を争う生活に転落したとのことだ。
「……ポンコツだな」
「うるさいわね! これも試練なのよ! ……多分」
キュララがパンの耳を齧りながら、いじけたように唇を尖らせた。
黙っていれば、本当に絵画のような美少女なのだが。
その時、二階から優雅な足音が降りてきた。
「あら? 下界が騒がしいと思ったら……また妙な『拾い物』が増えていますわね」
現れたのは、ナイトガウン姿のリベラだった。
彼女は眼鏡の位置を指で直しながら、テーブルで暴食するキュララをジロジロと観察した。
「誰ですの? その……食べ方が汚い小動物は」
「あぁん!? 誰が小動物よ! 私は高貴な天使……むぐっ!?」
キュララが噛みつこうとした瞬間、リベラから放たれる『本物の強者(Sランク)』のオーラを感じ取り、本能的に縮こまった。
リベラはキュララの前に歩み寄ると、その顎を扇子でクイッと持ち上げた。
「……ふむ」
リベラの鋭い視線が、キュララの顔立ち、肌の質、そして瞳の輝きを値踏みするように走る。
数秒の沈黙の後、リベラはニヤリと――商売人の笑みを浮かべた。
「竜さん。この子、化けるかもしれませんわ」
「あ? 化けるって、魔物にでもなるのか?」
「いいえ。『金(マネー)』に、ですわ」
リベラは扇子を閉じ、パチンと掌を打った。
「ちょうどタロー様が、新しい通信インフラを使った娯楽事業……『T-Tube(タロー・チューブ)』なるものを始めると仰っていましたの。動画を配信して、視聴者から『投げ銭(スパチャ)』を貰うシステムだとか」
「動画配信か。……前世にもあったな」
俺は納得した。タローのやつ、ついにそこまで手を広げたか。
「この子、顔『だけ』は良いですもの。喋らなければSランクですわ」
「しゃ、喋らなければって何よ! 失礼ねこの眼鏡!」
キュララが抗議するが、リベラは無視して続けた。
「貴女、お金が欲しいのでしょう? 鳩の餌ではなく、温かいご飯がお腹いっぱい食べたいのでしょう?」
その言葉に、キュララの動きがピタリと止まった。
「……お金? 稼げるの?」
「ええ。貴女のその『残念な愛嬌』と『顔面偏差値』があれば、愚民……いえ、視聴者から多額のお布施を巻き上げ……頂くことも可能ですわ」
リベラの言葉巧みな勧誘(悪魔の囁き)。
キュララのサファイア色の瞳が、みるみるうちに『¥(円)』マーク……いや、『T(タロー通貨)』マークに変わっていく。
「やる……! 私、やるわ!」
キュララはガタッと椅子から立ち上がった。
「天使の私が微笑めば、下界の人間なんてイチコロよ! スパチャで億万長者になって、失くしたカードの再発行手数料を稼いでやるんだから!」
動機が不純すぎる。
だが、その瞳に宿った光は本物だった。それは信仰心ではなく、強烈な『物欲』の輝きだ。
「決まりですわね。では、早速機材を準備させましょう。……ふふっ、良い『商品』になりそうですわ」
リベラが悪徳プロデューサーのような笑みを浮かべる。
こうして、公園のホームレス天使・キュララの、T-チューバーとしてのセカンドライフが決定した。
だが、俺たちはまだ知らなかった。
このポンコツ天使が、配信初日からとんでもない『放送事故』を起こすことを。
シェアハウス『メゾン・ド・キャロット』のリビング。
そこには、野生動物の捕食シーンのような、凄まじい音が響き渡っていた。
「ガツガツッ! ムシャムシャ! ングッ、プハァッ! うめぇぇぇ! パンの耳うめぇぇぇ!」
テーブルに齧り付くようにして、山盛りのトースト(と、俺が作った野菜スープ)を胃袋に流し込んでいるのは、公園で拾った自称天使・キュララだ。
彼女の華奢な体のどこにそんなスペースがあるのか不思議なほど、ブラックホールのような吸引力で食料が消えていく。
「……おい、皿まで食うなよ。誰も取らねぇから」
俺が呆れて注意すると、キュララはスープまみれの口元を袖で拭いながら、涙目で俺を見た。
「だってぇ! こんな『温かい固形物』を食べたの、久しぶりなんだもん! 天界のカフェテリアより美味しいわ!」
「天界って、お前、本当に天使なのか?」
「失礼ね! 背中見せたでしょ? 本物よ! ……ちょっと『徳ポイントカード』落として、下界で路頭に迷っちゃっただけなんだから!」
彼女の言い分によると、彼女は天界からの「地上研修」でタロー国に来たらしい。
だが、到着早々に全財産が入ったカードを紛失。
天界への連絡手段もなく(スマホも止められたらしい)、プライドが邪魔して誰にも頼れず、公園で鳩と覇権を争う生活に転落したとのことだ。
「……ポンコツだな」
「うるさいわね! これも試練なのよ! ……多分」
キュララがパンの耳を齧りながら、いじけたように唇を尖らせた。
黙っていれば、本当に絵画のような美少女なのだが。
その時、二階から優雅な足音が降りてきた。
「あら? 下界が騒がしいと思ったら……また妙な『拾い物』が増えていますわね」
現れたのは、ナイトガウン姿のリベラだった。
彼女は眼鏡の位置を指で直しながら、テーブルで暴食するキュララをジロジロと観察した。
「誰ですの? その……食べ方が汚い小動物は」
「あぁん!? 誰が小動物よ! 私は高貴な天使……むぐっ!?」
キュララが噛みつこうとした瞬間、リベラから放たれる『本物の強者(Sランク)』のオーラを感じ取り、本能的に縮こまった。
リベラはキュララの前に歩み寄ると、その顎を扇子でクイッと持ち上げた。
「……ふむ」
リベラの鋭い視線が、キュララの顔立ち、肌の質、そして瞳の輝きを値踏みするように走る。
数秒の沈黙の後、リベラはニヤリと――商売人の笑みを浮かべた。
「竜さん。この子、化けるかもしれませんわ」
「あ? 化けるって、魔物にでもなるのか?」
「いいえ。『金(マネー)』に、ですわ」
リベラは扇子を閉じ、パチンと掌を打った。
「ちょうどタロー様が、新しい通信インフラを使った娯楽事業……『T-Tube(タロー・チューブ)』なるものを始めると仰っていましたの。動画を配信して、視聴者から『投げ銭(スパチャ)』を貰うシステムだとか」
「動画配信か。……前世にもあったな」
俺は納得した。タローのやつ、ついにそこまで手を広げたか。
「この子、顔『だけ』は良いですもの。喋らなければSランクですわ」
「しゃ、喋らなければって何よ! 失礼ねこの眼鏡!」
キュララが抗議するが、リベラは無視して続けた。
「貴女、お金が欲しいのでしょう? 鳩の餌ではなく、温かいご飯がお腹いっぱい食べたいのでしょう?」
その言葉に、キュララの動きがピタリと止まった。
「……お金? 稼げるの?」
「ええ。貴女のその『残念な愛嬌』と『顔面偏差値』があれば、愚民……いえ、視聴者から多額のお布施を巻き上げ……頂くことも可能ですわ」
リベラの言葉巧みな勧誘(悪魔の囁き)。
キュララのサファイア色の瞳が、みるみるうちに『¥(円)』マーク……いや、『T(タロー通貨)』マークに変わっていく。
「やる……! 私、やるわ!」
キュララはガタッと椅子から立ち上がった。
「天使の私が微笑めば、下界の人間なんてイチコロよ! スパチャで億万長者になって、失くしたカードの再発行手数料を稼いでやるんだから!」
動機が不純すぎる。
だが、その瞳に宿った光は本物だった。それは信仰心ではなく、強烈な『物欲』の輝きだ。
「決まりですわね。では、早速機材を準備させましょう。……ふふっ、良い『商品』になりそうですわ」
リベラが悪徳プロデューサーのような笑みを浮かべる。
こうして、公園のホームレス天使・キュララの、T-チューバーとしてのセカンドライフが決定した。
だが、俺たちはまだ知らなかった。
このポンコツ天使が、配信初日からとんでもない『放送事故』を起こすことを。
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