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第七章 公園のクルッポーと半額もやし
EP 4
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半額シールの敗北感
タロー国、庶民の台所『タローマート』。
夕方のタイムセールが始まるその刻、二つの影が精肉・青果コーナーを疾走していた。
一人は、ジャージ姿の金髪少女、リーザ。
もう一人は、ゴスロリ服だが所々が薄汚れた少女、ルルシア(新人)。
かつて敵対していた二人は今、同じ目的のために連携する戦友(貧乏仲間)となっていた。
「あっちです! 店員さんがシール貼り機を持って移動しました!」
「ナイスです、新人(ルルシア)ちゃん! 狙うは『見切り品』ワゴン、一点突破ですよ!」
二人は他の主婦たちを華麗なステップでかわし、ワゴンコーナーへ滑り込んだ。
そこは戦場。
少しでも傷んだ野菜や、賞味期限ギリギリの食材が並ぶ、貧者たちの聖域。
「あっ! ありました!」
ルルシアがワゴンの一角を指差し、歓声を上げた。
彼女が宝物のように両手で持ち上げたのは、少ししなびた袋入りの野菜だった。
「パイセン! もやしですよっ! 10円です!」
通常20円のもやしに、輝かしい『見切り品:10円』の赤札が貼られている。
ルルシアの瞳がキラキラと輝いている。かつての伯爵令嬢の面影はない。完全にこちらの世界に染まっている。
「でかした! 素晴らしい成果です!」
リーザはもやしを受け取り、深く頷いた。
「後輩、今日は豪勢にいきましょう。公園で摘んできたタンポポとオオバコ、それにこのもやしを合わせれば……『シャキシャキ野草サラダ(もやし増量)』が食べられるわね!」
「わぁっ! 楽しみですね! パイセン! マヨネーズもかけちゃいますか!?」
「ええ、今日は特別です。チューブの残り、全部絞り出しちゃいましょう!」
10円の出費で得られる、最大限の幸福。
二人は顔を見合わせ、へへへと笑い合った。
これぞ、清く正しい貧乏生活の知恵と喜び――のはずだった。
ピロリン♪
その時、ルルシアの懐に入れていたスマホ(竜からのお下がり)が通知音を鳴らした。
「あれ? 誰か配信を始めたみたいです」
「ん? ああ、あの『駄天使』ですか?」
リーザはカゴにもやしを入れながら、何気なくルルシアのスマホ画面を覗き込んだ。
画面に映っていたのは、タロー・プロダクション所属の新人T-チューバー、キュララだ。
『みんな~! 昨日はたくさんのスパチャありがとう! おかげで今日は……じゃじゃーん! A5ランクステーキを買っちゃいました~☆』
画面の中のキュララが、霜降りの分厚い肉を見せびらかしている。
その瞬間、画面上のチャット欄が爆発した。
『うまそう!』
『もっと食え!』
『肉代だ! 取っとけ!』
チャリン! チャリン! ドサササッ!
画面を埋め尽くす、赤や黄色の帯。
スーパーチャット(投げ銭)だ。
1万タロー、5万タロー……中には10万タローなんていう高額支援も飛び交っている。
「えっ……すご……」
ルルシアが口を開けて固まる。
「パイセン、見てください! この『赤スパ』一本で……もやしが1000袋買えますよ!?」
「……は?」
リーザの思考が停止した。
1000袋?
たった数秒、カメラの前で肉を見せただけで?
私たちが必死にワゴンセールを駆け回り、10円のもやしで喜んでいる間に?
『あむっ! ん~おいひぃ~! みんな大好き~! 愛してる~!』
キュララが適当な愛想を振りまくたびに、さらに金が舞い込む。
その総額は、リーザの全財産(タンス貯金含む)を遥かに超えていた。
「…………」
リーザの手から、愛おしいはずの10円もやしが滑り落ちそうになった。
「パ、パイセン? どうしました? 顔色が……」
「……後輩」
「は、はい」
リーザは震える声で言った。
「私たち……これでいいんでしょうか?」
「えっ?」
カゴの中の、茶色くなりかけた10円のもやし。
スマホの中の、輝くステーキと数百万の現金。
圧倒的な格差。
そして何より、あのポンコツ天使に「稼ぎ」で負けているという事実。
「私……先輩ですよね? アイドル……ですよね?」
リーザの中に、どす黒い焦燥感が渦を巻き始めた。
貧乏は楽しい。サバイバルは誇りだ。
でも――。
「(……悔しい。なんであの子ばっかり! 私だって……私だってお金持ちになりたい!)」
スーパーの明るい照明の下、リーザは初めて、自分の手に握られた「半額シール」が、敗北の烙印のように見えてしまったのだった。
タロー国、庶民の台所『タローマート』。
夕方のタイムセールが始まるその刻、二つの影が精肉・青果コーナーを疾走していた。
一人は、ジャージ姿の金髪少女、リーザ。
もう一人は、ゴスロリ服だが所々が薄汚れた少女、ルルシア(新人)。
かつて敵対していた二人は今、同じ目的のために連携する戦友(貧乏仲間)となっていた。
「あっちです! 店員さんがシール貼り機を持って移動しました!」
「ナイスです、新人(ルルシア)ちゃん! 狙うは『見切り品』ワゴン、一点突破ですよ!」
二人は他の主婦たちを華麗なステップでかわし、ワゴンコーナーへ滑り込んだ。
そこは戦場。
少しでも傷んだ野菜や、賞味期限ギリギリの食材が並ぶ、貧者たちの聖域。
「あっ! ありました!」
ルルシアがワゴンの一角を指差し、歓声を上げた。
彼女が宝物のように両手で持ち上げたのは、少ししなびた袋入りの野菜だった。
「パイセン! もやしですよっ! 10円です!」
通常20円のもやしに、輝かしい『見切り品:10円』の赤札が貼られている。
ルルシアの瞳がキラキラと輝いている。かつての伯爵令嬢の面影はない。完全にこちらの世界に染まっている。
「でかした! 素晴らしい成果です!」
リーザはもやしを受け取り、深く頷いた。
「後輩、今日は豪勢にいきましょう。公園で摘んできたタンポポとオオバコ、それにこのもやしを合わせれば……『シャキシャキ野草サラダ(もやし増量)』が食べられるわね!」
「わぁっ! 楽しみですね! パイセン! マヨネーズもかけちゃいますか!?」
「ええ、今日は特別です。チューブの残り、全部絞り出しちゃいましょう!」
10円の出費で得られる、最大限の幸福。
二人は顔を見合わせ、へへへと笑い合った。
これぞ、清く正しい貧乏生活の知恵と喜び――のはずだった。
ピロリン♪
その時、ルルシアの懐に入れていたスマホ(竜からのお下がり)が通知音を鳴らした。
「あれ? 誰か配信を始めたみたいです」
「ん? ああ、あの『駄天使』ですか?」
リーザはカゴにもやしを入れながら、何気なくルルシアのスマホ画面を覗き込んだ。
画面に映っていたのは、タロー・プロダクション所属の新人T-チューバー、キュララだ。
『みんな~! 昨日はたくさんのスパチャありがとう! おかげで今日は……じゃじゃーん! A5ランクステーキを買っちゃいました~☆』
画面の中のキュララが、霜降りの分厚い肉を見せびらかしている。
その瞬間、画面上のチャット欄が爆発した。
『うまそう!』
『もっと食え!』
『肉代だ! 取っとけ!』
チャリン! チャリン! ドサササッ!
画面を埋め尽くす、赤や黄色の帯。
スーパーチャット(投げ銭)だ。
1万タロー、5万タロー……中には10万タローなんていう高額支援も飛び交っている。
「えっ……すご……」
ルルシアが口を開けて固まる。
「パイセン、見てください! この『赤スパ』一本で……もやしが1000袋買えますよ!?」
「……は?」
リーザの思考が停止した。
1000袋?
たった数秒、カメラの前で肉を見せただけで?
私たちが必死にワゴンセールを駆け回り、10円のもやしで喜んでいる間に?
『あむっ! ん~おいひぃ~! みんな大好き~! 愛してる~!』
キュララが適当な愛想を振りまくたびに、さらに金が舞い込む。
その総額は、リーザの全財産(タンス貯金含む)を遥かに超えていた。
「…………」
リーザの手から、愛おしいはずの10円もやしが滑り落ちそうになった。
「パ、パイセン? どうしました? 顔色が……」
「……後輩」
「は、はい」
リーザは震える声で言った。
「私たち……これでいいんでしょうか?」
「えっ?」
カゴの中の、茶色くなりかけた10円のもやし。
スマホの中の、輝くステーキと数百万の現金。
圧倒的な格差。
そして何より、あのポンコツ天使に「稼ぎ」で負けているという事実。
「私……先輩ですよね? アイドル……ですよね?」
リーザの中に、どす黒い焦燥感が渦を巻き始めた。
貧乏は楽しい。サバイバルは誇りだ。
でも――。
「(……悔しい。なんであの子ばっかり! 私だって……私だってお金持ちになりたい!)」
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