​異世界転移した俺のスキルは『丼マスター』!? 善行ポイントで牛丼を召喚して、最強の胃袋を支配する――勘違い聖人のグルメ無双、開店!

月神世一

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EP 3

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「うぅ……拙者にどうしろと!? 剣もまともに握れないのに!?」
​村外れを流れる、薄暗く淀んだ川岸。
生い茂る葦の陰に身を潜めながら、良樹はガタガタと全身を震わせていた。両手でぎゅっと握りしめているのは、ダーナ村を出る時にサンガから餞別として持たされた、使い古しの鉄の剣である。
​「何とかなりまっせ! ヨシキはんなら!」
屋台を川岸の少し離れた場所に停め、その横でロードが太い尻尾をバタンバタンと振って気楽に言う。
​「そうそう。ヨシキさんならイケるわよ。ホブゴブリンだって一撃で倒したんだから!」
ルナも愛用の弓に弦を張りながら、純度100%の信頼と期待の眼差しを向けてきた。
​その無垢な瞳に見つめられ、良樹の中二病心がピクリと反応した。
(ふむ……妙な期待感があるでござるな。まさか、女神のヤツは『丼マスター』という偽装スキルの奥底に、魔王すら一刀両断する『真なる勇者の力』を拙者に隠し持たせているのでは……?)
​良樹が眼帯をスッと押さえ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべようとした、その時だった。
​ブクブクブクッ……!
川の水面が大きく盛り上がり、大量の気泡が弾けた。
​「現れやがったな!」
モウラが腰の鎖をじゃらりと鳴らし、重心を低く落とす。
​ザバァァァッ!!
水しぶきと共に姿を現したのは、小山ほどもある巨大な甲殻類――キングクラブだった。
地球のタラバガニをダンプカーサイズまで巨大化させ、その全身を鋼鉄のような赤黒い甲羅で覆った化け物である。二つの凶悪なハサミが、ギチギチと不気味な金属音を立てて開閉している。
​「ヒィィィッ! で、でかい!! 勇者なんてやっぱり嫌でござる! 牛丼屋の裏で玉ねぎを剥く日々に帰りたいでござるぅぅ!!」
良樹の『真なる勇者』の覚醒はコンマ2秒で終了し、彼は情けない悲鳴を上げて再び葦の陰へと丸まった。
​「シャァァァッ!!」
キングクラブが巨大な右のハサミを振り上げ、一番手前にいたモウラを目掛けてギロチンインの如く振り下ろした。
​「おっと!」
モウラは巨体に似合わぬ俊敏さで横へ跳躍すると同時に、右手に持った『鎖付き片手斧』を鞭のように振るった。
​ガキンッ!
闘気を纏った鎖が、キングクラブの振り下ろした右のハサミに幾重にも巻き付き、ガッチリと食い込む。
​ギチギチ、ギギギッ……!
ハサミを引こうとする巨大ガニと、それを力でねじ伏せようとするモウラの間で、鎖が悲鳴のような音を立てて張り詰める。
​「アタイと力勝負ってわけかい? 面白いねぇ……オラッ!!」
モウラの褐色の肌に血管が浮き上がり、レスラー体型の分厚い筋肉が限界まで隆起した。獣人族・バイソン種特有の、大地を揺るがす圧倒的な膂力。
​ズゴゴゴゴォォッ!!
「ギギャァァッ!?」
​信じられないことに、モウラはダンプカーサイズのキングクラブを、ハサミごと川の中から陸地へと強引に引きずり出したのだ。泥に足を取られ、キングクラブがバランスを崩す。
​「よっしゃ! 今や! ワイの超絶怒涛の大火炎(メガ・フレア)、食らいなはれ!!」
モウラの作った隙を見逃さず、ロードが大きく息を吸い込んだ。その強靭な顎から、周囲の空気を歪ませるほどの灼熱の火炎放射が放たれる。
​ゴォォォォォッ!!
炎がキングクラブの全身を包み込む。鋼のような甲羅が急激に熱せられ、シューシューと白い煙と、海鮮特有の香ばしい(しかし焦げ臭い)匂いが立ち昇った。
​「グギャァァァッ!!」
熱に耐えきれず、キングクラブが暴れ回る。しかし、甲羅が熱せられたことで、その装甲の強度は確実に脆くなっていた。
​「仕上げはアタイの奥義だ! 魔牛流……ブル・クラッシュ!!」
モウラは左手に持ったメイスに、自身の持つ『闘気』を限界まで圧縮・付与させた。メイスが黄金色のオーラを放つ。
彼女は姿勢を極端に低く落とし、爆発的な瞬発力で距離を詰めると、熱せられたキングクラブのど真ん中、最も硬い甲羅の部分に、全身全霊のタックルと共にメイスを叩き込んだ。
​ドッゴォォォォンッ!!!
​落雷のような轟音。
鋼鉄の甲羅が、クレーター状にひび割れ、粉々に砕け散った。
​「トドメよ! 必殺! ルナ・アロー!!」
砕けた甲羅の隙間を縫うように、ルナが放った矢が飛来した。
矢の鏃に纏わされた闘気が貫通力を高め、シャフトに纏わされた風属性の魔法が空気抵抗をゼロにする。超音速の矢は、甲羅の割れ目からキングクラブの柔らかな内部へと深く、致命的に突き刺さった。
​「ギ、ギィィ……」
キングクラブの動きが完全に止まり、八本の脚が力なく地面に崩れ落ちる。
​「完璧や! ……って、おおっと、主役を忘れとったで!」
ロードがニシシと笑うと、葦の陰で震えていた良樹のパーカーの後ろ襟を咥え、ポーンと空高く放り投げた。
​「えっ……? うわあああああッ!!?」
​良樹の体が、重力に引かれて落下していく。
その眼下には、虫の息となっている巨大なキングクラブの、生々しくひび割れた甲羅の隙間がパックリと口を開けていた。
​「ロ、ロード殿のバカヤローーーッ!!」
​ズブゥゥゥッ!!
良樹は、恐怖で硬直したまま両手で握りしめていた鉄の剣を、落下する体重の勢いそのままに、キングクラブの露出した急所に深々と突き立てた。
​ピクッ、ピクッ……。
キングクラブは最後に痙攣すると、完全に息絶えた。
​「よっしゃ! 討伐完了や!」
「やったあああ! ヨシキさん、すごいトドメだったわ!」
「ガハハ! おいしいとこ持っていきやがって! 流石は『丼亭』の大将だぜ!」
​モウラ、ルナ、ロードの三人が、完全に沈黙した巨大ガニの前でハイタッチを交わし、歓喜の声を上げる。
​「……ひぐっ……ひっく……」
一方の良樹は、カニの体液と泥にまみれながら、突き立てた剣の柄を握りしめたまま、カエルのようにペタンと座り込んでいた。
​「酷い目にあったでござる……。拙者のライフ(精神力)はもうゼロでござるよ……」
良樹の頬を、涙がツーッと伝い落ちた。
勇者への覚醒など微塵もない。あるのはただ、異世界の強すぎる仲間たちに振り回される、哀れなツッコミ役(兼トドメ係)の現実だけであった。
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