元イージス艦長(50)、戦国に落ちる。~「誉れ」も「忠義」も非合理だ。最先端のシステム思考で、誰も死なない「太平の世」を築きます

月神世一

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EP 6

システムの稼働と、最初の『実戦』
翌日から、東高村は奇妙な活気に包まれた。
坂上真一という異分子(バグ)が持ち込んだ「システム」が、ゆっくりと村に実装(インプリメント)され始めたのだ。
プロジェクトB(栄養改善)は、蘭が主導していた。
彼女は村の子供たちを集め、「これは坂上さんっていうお侍様からの『お仕事』だよ!」と、楽しげなゲームに変えてみせた。
「このギザギザの葉っぱ(たんぽぽ)!」
「この匂いのする草(よもぎ)!」
「それから、蘭姉ちゃんが仕掛けた罠(わな)にかかった鳩さん!」
子供たちは、今まで見向きもしなかった「雑草」や、獲物を「リソース(資源)」として持ち帰る。それを女性たちが、坂上の拙(つたな)い指示(「アク抜き」や「加熱処理」の概念)に従って調理する。
その日の食卓には、粟飯(あわめし)の他に、具の入った汁物と、貴重な焼き鳥(山鳩)が並んだ。
「……うまい!」
「草なのに、食える!」
子供たちの歓声が上がる。
坂上は、その光景を無表情で眺めていた。
(栄養効率はまだ低い。罠猟(りょう)は不確実性が高すぎる。だが、ゼロよりはマシだ。『生存』への第一歩だ)
一方、プロジェクトA(防衛構築)は難航していた。
坂上が指示する見張り台と逆茂木(さかもぎ)の構築作業には、弥助(やすけ)ら3人の若者しか参加していない。
他の村人たちは、庄屋の目を気にして遠巻きに見ているだけだ。
「弥助、その柱の角度が違う。敵(オポネント)の侵入角度に対し、監視の死角(デッドゾーン)ができる」
「は、はい! しかく?」
「見えない場所、ということだ」
坂上が、現代の工学知識(と言っても基礎的な物理だが)を元に指示を出していると、ついにその男がやってきた。
庄屋だ。
「こら! 弥助! お前たち、何をしている!」
庄屋は、昨日とは打って変わって怒りを露(あらわ)にしている。
「侍殿! 我らはあんたを村に置いた覚えはあるが、こんな『戦支度(いくさじたく)』を許した覚えはないぞ!」
坂上は、土を掘る手を止め、冷静に庄屋に向き直った。
「庄屋殿。これは戦支度ではない。最低限の『防衛(ディフェンス)』だ。この村の脆弱性(ぜいじゃくせい)は許容範囲を超えている」
「ええい、知らん! そんな物を作ったら、かえって野盗や侍どものを刺激するわ!『余計なこと』をするな!」
(……出たか)
坂上の脳裏に、艦艇開発隊の会議室が蘇る。
『前例がない』『予算がない』『他部署との調整が』
いつの時代も、変化を拒む「抵抗勢力」のロジックは同じだ。彼らは「何もしない」という、最もハイリスクな選択を「安全」と呼ぶ。
「庄屋殿。リスクとは、刺激するものではなく、常に存在するものです。それを管理(マネジメント)するのが――」
坂上が説明を続けようとした、その時だった。
カン! カン! カン!
甲高い木の板を叩く音。
村中に響き渡る、けたたましい警報(アラート)。
「!!」
弥助が見張り台の予定地(まだ柱が数本立っただけ)から、半狂乱で叫んでいた。
「て、敵だ! 敵が来る! 5人! 刀を持ってる! こっちに来るぞ!」
「ひぃっ!」
さっきまで威勢の良かった庄屋が、腰を抜かしてへたり込んだ。
他の村人たちも「野盗だ!」「逃げろ!」とパニックに陥る。
「(来たか!)」
坂上の全身に、イージス艦長時代の緊張が走った。
CIC(戦闘指揮所)の空気が、400年の時を超えて彼を支配する。
「うろたえるな! システムを稼働させる!」
坂上は、この村で一番響く声で怒鳴った。
パニックに陥っていた村人たちが、ビクリと動きを止める。
「庄屋殿! あなたの仕事は『叫ぶこと』ではない! 村の女子供を、あなたの家(最も頑丈な建物)に退避(シェルター・イン)させろ! すぐにだ!」
「は、はいっ!」
庄屋は、恐怖に突き動かされるように走り出した。
「弥助! 監視を継続! 敵の装備(ウェポン)、速度(スピード)、陣形(フォーメーション)を報告し続けろ!」
「あ、赤い鉢巻のヤツが先頭! 馬はない! 走ってくる!」
「よし! 防衛班(弥助の仲間2名)! 構築中の逆茂木(さかもぎ)を街道の隘路(あいろ)まで引きずって道を塞げ! 決して交戦(エンゲージ)するな! 妨害(ディレイ)が目的だ!」
「お、おう!」
若者たちが、作りかけの防衛設備を必死に動かし始める。
坂上は、村を見渡し、最後の『切り札』を探した。
「蘭!」
「……っ!」
女性たちの避難誘導を手伝おうとしていた蘭が、鋭く振り返った。
彼女の目は、もう村娘のものではなかった。
「お前は『遊撃(ゆうげき)』だ。システムの外から敵を攪乱(かくらん)する」
坂上は、弥助が指さす敵の侵入経路を指差した。
「敵が逆茂木で足止めされた瞬間、お前の速度(スキル)で側面(フランク)を突け。目的は『戦闘』ではない。『混乱』だ。敵の指揮系統を麻痺(まひ)させる。――殺すな。お前の流儀でやれ」
「……!」
蘭の目が見開かれた。
この侍は、この緊急事態に、自分の「殺さない」という信条(ルール)を尊重した。
「――了解(りょうかい)!」
蘭は、一言そう答えると、音もなく家々の影に消えた。
彼女は「二流の仕事」をする気はなかった。
坂上は、村の入り口に仁王立ちになった。
腰の刀には、まだ手をかけていない。
彼は『戦闘員』ではない。彼は『指揮官(コマンダー)』だ。
(敵戦力5。味方(戦闘可能ユニット)実質1.5。防衛設備、未完成)
(無茶苦"そ"が)
坂上は、400年ぶりに、アドレナリンで口の中が渇くのを感じた。
「敵、隘路に侵入! 逆茂木に気づいたぞ!」
弥助の叫び声と、野盗の怒声が、村に響き渡った。
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