​『異世界弁護士・桜田リベラは罪を憎み、法廷で悪を討つ。~同期の検事と裁判官は、甘味と激辛で戦場と化す~』

月神世一

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EP 10

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開廷! 独占禁止法違反、及び国家転覆罪
 帝都コロシアム。
 数万人の観衆が固唾を飲んで見守る中、リベラの凛とした声が響き渡った。
「これより、被告人・鬼神龍魔呂の無実を証明すると共に、真に裁かれるべき『巨悪』を告発します!」
 彼女が指差したのは、貴族席でふんぞり返っている肥満体の男――ゴルド商会会頭だ。
 会頭は葉巻を揉み消し、鼻で笑った。
「ハッ! 何を言うかと思えば。たかが小娘が、この国の経済を支える我々に歯向かうだと? 証拠はあるのかね?」
「証拠? ……ええ、山ほどありますわ」
 リベラはニヤリと笑い、パチンと指を鳴らした。
「まずは証人の入廷を。……どうぞ!」
 ***
 【証人その1:労働者代表・ゴズ(オーク)】
 最初に現れたのは、第2話で救われたオークのゴズだ。彼は今や、故郷で建設会社を立ち上げ、立派な社長になっていた。
「証言するでごわす! ゴルド商会は、我ら亜人を奴隷のように扱い、給料も払わず使い捨てにした! これは労働基準法違反でごわす!」
「フン、魔物の戯言だ」と会頭は一蹴する。
 【証人その2:被害者代表・キュルリン(妖精)】
 次に宙を舞って現れたのは、第6話の迷惑妖精。
「やっほー! ボクね、見ちゃったんだー!」
 キュルリンが空中に魔法映像(ホログラム)を投影する。
 映し出されたのは、会頭が部下に『月見屋を燃やせ』『龍魔呂を罠にハメろ』と指示している決定的瞬間だった。
「なっ……!? いつの間に盗撮を!」
「ボクのダンジョンの『隠しカメラ』は優秀なんだよ~ん!」
 会場がざわめく。
 だが、会頭はまだ余裕だった。
「映像など捏造できる! それに、それがどうした? 金ならいくらでも払ってやる!」
 【証人その3:???】
「……金で解決だと?」
 ズズズ……と地面が震えた。
 証言台に、巨大な寸胴鍋を持った男が立つ。竜王デュークだ。
 彼は裁判長席の健義に一礼(健義はビビってタバスコをあおった)し、会頭を睨みつけた。
「貴様だな。我がラーメン屋台に因縁をつけ、営業停止に追い込もうとしたクズは」
「りゅ、竜王……!?」
「我は神々の友(リベラ)の代理として来た。……覚悟はできているな?」
 竜王の殺気に、会頭の顔色が青ざめる。
 だが、リベラは「まだですわ」と制した。
「これらはあくまで『余罪』。……本題はここからです」
 リベラは法廷の中央に進み出ると、一冊の黒いファイルを掲げた。
 それは、昨夜デューラが命がけで持ち出した極秘データだ。
「ゴルド商会。貴方たちは、表向きは物流の覇者。ですがその裏で、とんでもない商品を扱っていましたね?」
 リベラはファイルをめくった。
「――『人造勇者システム』」
 その単語が出た瞬間、会頭が椅子から転げ落ちた。
 観衆が静まり返る。
「貴方たちは、ユニークスキルを持つ子供や異世界転生者を誘拐し、地下施設に監禁。その『スキル』や『魔力』を強制的に抽出し、魔導兵器のエネルギーとして軍に横流ししていた。……違いますか?」
 これこそが、ゴルド商会の急成長の秘密であり、帝国の軍事力を支える闇。
 そして、龍魔呂の弟・ユウが犠牲になった実験の正体でもあった。
「き、貴様……国家機密を……!」
「機密? いいえ、これは『独占禁止法違反(スキルの不当な囲い込み)』であり、人道的見地からの『国家転覆罪』です!」
 リベラは叫んだ。
「人の命を資源(リソース)として消費する経済など、破綻して然るべき! 裁判長、私は商会の解体と、全資産の没収を求めます!」
 追い詰められた会頭は、狂ったように笑い出した。
「ハハハ……! バレたなら仕方ない! そうだ、我々は国そのものだ! 私を裁けば帝国経済は死ぬぞ! それに……ここで死ぬのは貴様らだ!」
 会頭が合図を送ると、コロシアムの壁が崩れ、数百名の私兵団と、開発中の魔導兵器(暴走状態の人造勇者)が乱入してきた。
 武力行使。
 裁判を物理的に揉み消すつもりだ。
「ふん。……議論(レスバトル)で勝てぬと見て、暴力に訴えるか」
 検察官席のデューラが、翼を広げて飛翔した。
「神聖治安維持部隊、突入せよ! 法の番人として、このテロリストどもを鎮圧する!」
 空から無数の警察天使が舞い降りる。
 さらに、被告人席で鎖に繋がれていた龍魔呂が、ため息をついた。
「……リベラ。もう我慢しなくていいんだよな?」
「ええ。正当防衛ですわ」
 バキィッ!!
 龍魔呂は鋼鉄の鎖を引きちぎり、赤黒い闘気を全開にした。
 角砂糖を三つ、口に放り込む。
「DEATH 4、開演だ。……弟の分まで、きっちり請求させてもらうぞ」
 戦場と化す法廷。
 デューラが聖剣で兵器を両断し、龍魔呂が私兵団を指弾で吹き飛ばし、キスケが煙幕で撹乱し、デュークが「スープが冷める!」とブレスで敵を焼く。
 カオスな大乱闘の中、リベラは裁判長席を見上げた。
「健義くん! 判決を!」
 裁判長・佐藤健義。
 彼はカオスな状況に白目を剥き、震える手でタバスコの瓶を掴んでいた。
 想定外の連続。許容量オーバー。
 だが、彼の目には「司法の正義」の炎が燃えていた。
「(……僕の法廷を、盤面を、これ以上汚すなァァァ!!)」
 健義はタバスコを一気飲みした。
 激辛成分が脳を突き抜け、覚醒する。
 彼は立ち上がり、全身全霊で木槌(ガベル)を振り下ろした。
「主文んんんッ!!」
 ドォォォォォン!!
 木槌が衝撃で粉砕される。
「被告人・ゴルド商会に対し、有罪(ギルティ)を言い渡す! 商会の即時解体! 全財産の没収! 及び、会頭には禁錮1000年の実刑を処す!! 退廷ッ!!」
 ユニークスキル【退廷命令】が発動。
 赤い光が会頭を包み込み、彼をコロシアムの外――遥か彼方の監獄島へと強制転移させて消し飛ばした。
「……勝訴、ですわ!」
 リベラがVサインを掲げる。
 観衆から、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
 ***
 【エピローグ】
 数日後。
 ゴルド商会の解体により、帝国の経済は一時混乱したが、リベラが「更生プログラム」として元社員や被害者を再雇用し、新たな流通網を構築したことで、かつてない健全な発展を遂げつつあった。
 再建された『桜田法律事務所』。
 そこには、いつものメンバーが揃っていた。
「へっへっへ。賠償金で店を新築できましたぜ。今度は『立ち食い蕎麦』も始めやす」
 キスケが新しい暖簾を磨いている。
「……子供たちの未来、少しはマシになったかな」
 龍魔呂は、穏やかな顔で角砂糖をコーヒーに溶かしている。
「まったく。貴様らの尻拭いをする検察の身にもなれ」
 デューラは文句を言いながらも、差し入れのコーヒーキャンディを置いていく。
「次は平和な案件にしてくれよ……。僕の胃薬が持たない」
 健義は激辛カレーパンをかじりながら、遠い目をしている。
 リベラは彼らを見渡し、幸せそうに微笑んだ。
 だが、その時。
 パリッ。
 事務所の隅に置いてあった、ゴルド商会からの押収品――『巨大な化石の卵』から、音がした。
 最後で回収した、謎の物体だ。
「あら?」
 パリパリッ、パリーン!
 殻が割れ、中から出てきたのは……虹色に輝く、小さなトカゲのような生き物。
 だがその瞳には、悠久の時を超える知性が宿っていた。
 伝説の『始祖竜(クロノス・オリジン)』の幼体である。
「きゅ?」
 始祖竜はリベラを見上げ、つぶらな瞳で鳴いた。
「……ママ?」
 全員が凍りついた。
 龍魔呂が角砂糖を落とし、健義がメガネを落とした。
 リベラだけが、ニッコリと笑った。
「まあ。……ペットの飼育は、マンションの管理規約を確認しないといけませんわね?」
 異世界弁護士・桜田リベラ。
 彼女の戦いは終わらない。
 次なる依頼人(トラブル)は、世界を滅ぼしかねない「赤ちゃん竜」の養育権争いになりそうだ――。
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