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EP 10
裏の支配者(女神)、降臨
『コンビニ・天魔窟店』の店長、サエキ・カズヤは、悟りの境地に達していた。
現在の店内の状況を、言葉で説明するのは困難を極める。
「おい店主! この『ポテチ・のり塩』の在庫がないぞ! コンソメしかないとは何事だ!」
スナックコーナーで袋をガサガサ漁っているのは、最強の竜王デューク。
「あーん。……ん、冷たくて美味しい」
イートインスペースで、狼王フェンリルが不死鳥フレアに『あーん』を強要されながらアイスを食べている。ちなみにフレアは完全なるオフモード(すっぴん&ジャージ風の部屋着)だ。
「ねえ店長、この『黒ストッキング』って、私の脚線美を強調できるかしら?」
魔王ラスティアは、日用品コーナーでストッキングのデニール数について真剣に悩んでいる。
世界の命運を握るトップ4が、六畳一間のプレハブにすし詰め状態。
カズヤは死んだ魚のような目でレジ打ちを続けていた。
「(……もう、誰が来ても驚かないぞ。たとえ神様が来たって)」
カズヤがそう思った、正にその時だった。
カランコロン♪
と、本来この店には付いていないはずの、喫茶店のような軽やかなドアベルの音が脳内に響いた。
「――お疲れ様~。やってる~?」
自動ドアが開き、一人の女性が入ってきた。
輝く金髪、慈愛に満ちた碧眼。
その美しさは、店内にいる魔王や不死鳥ですら霞むほど。
背後には後光が差しており、歩くたびに花が咲くような幻覚が見える。
間違いなく、この世界の創造主、女神ルチアナである。
だが、彼女のその手には、『安酒の空き瓶』が握られていた。
「ゲッ……ルチアナ?」
「げぇっ、ババア……いや、女神様」
ラスティアとデュークが露骨に嫌な顔をする。
どうやら彼らにとっても、この女神は『厄介な上司』あるいは『面倒な親戚』のような存在らしい。
ルチアナは彼らの反応をスルーし、スキップでレジカウンターへやってきた。
「あ~、仕事疲れた! 三竦み(さんすくみ)の調整とかマジだるい! ねえ店長さん、とりあえず生!」
「……えっと、生ビールですか?」
「そう! あと枝豆と、焼き鳥(タレ)ね! あ、領収書は『世界維持管理費』で落とすから」
カズヤは混乱した。
女神? ビール? 経費?
だが、ポーンがガタガタと震えながら平伏しているのを見て、相手が『本物』だと悟った。
「か、畏まりました! 直ちに!」
カズヤは通販スキルをフル回転させ、『缶ビール(500ml)』と『冷凍枝豆(解凍済み)』、『炭火焼き鳥缶』を用意した。
ルチアナは缶ビールのプルタブをプシュッと開けると、その場でグビグビと煽った。
「ぷはぁーっ! これこれ! やっぱ地球のビールはキレが違うわね~!」
女神、あぐらをかいて店内で晩酌を開始。
その姿に神聖さは微塵もなかった。ただの仕事帰りのOLである。
「ちょっとルチアナ、あんたまた仕事をサボって……」
「いいじゃないラスティアちゃん。どうせ人間も魔族も、適当に争わせておけば勝手にバランス取れるんだしぃ~」
ルチアナはラスティアに枝豆を投げつけながら、カズヤの方をチラリと見た。
「それにしても、ここの店長さん。……うん、やっぱり見覚えあるわ」
「え?」
カズヤが手を止める。
ルチアナは酔っ払った赤い顔で、ニシシと笑った。
「だって貴方、私が送ったんだもん。先月くらいの『異世界転生キャンペーン』の時、手違いでスキル設定バグっちゃったから、とりあえずこのダンジョンの底にポイってしといたのよ」
店内が静まり返った。
カズヤの思考が停止する。
「……は?」
「いやー、ごめんね? 『ネット通販』なんてふざけたスキル、勇者には渡せないし。でも消すのも可哀想だから、在庫処分……じゃなくて、特別措置としてここに配置したの。忘れてたけど、意外と元気にやってるじゃない!」
カズヤの中で、何かが崩れ落ちる音がした。
自分がここにいる理由。それは運命でも使命でもなく、ただの『事務処理ミス』と『不法投棄』だったのだ。
「ふ、ふざけるなァァァッ!!」
カズヤの魂の叫びが木霊した。
だが、女神は全く動じない。むしろ、面白そうに焼き鳥を頬張っている。
「まあまあ、怒らないの。そのおかげで、こうして私の飲み友達(ラスティアたち)の憩いの場ができたんだし、結果オーライでしょ?」
「オーライなわけあるか! 俺は毎日、ドブ掃除してポイント稼いでるんだぞ!?」
「あ、ポイント制にしたの私だわ。ごめんテヘペロ☆」
この女神、性格が悪い以前に、絶望的に軽い。
カズヤが怒りで震えていると、ルチアナはスッと真顔になり、空になったビール缶をドンと置いた。
「ま、貴方の処遇については、追々考えてあげるわ。……ただし」
彼女の碧眼が、怪しく光った。
「この店は『天界認定・福利厚生施設』として存続を許可するわ。その代わり……来週の『女子会』までに、地球の『季節限定・高級モンブラン』を用意しておきなさい。……できなかったら、ポイントの換金レート、10倍にしちゃうからね?」
「――ッ!?」
それは死の宣告に等しかった。
レートが10倍になれば、水一本買うのに空き缶を100個拾わなければならなくなる。
「そ、そんな……」
「よろしくね、店長さん♪ さーて、今日は飲むわよー! ラスティア、フレア、付き合いなさい!」
「はぁ……。最悪だわ」
「私の美容時間が……」
こうして、最強にして最悪の『裏の支配者』とのコネクション(主従関係)が成立してしまった。
サエキ・カズヤの受難は終わらない。
彼は英雄でも魔王でもなく、『神々のパシリ』として、この異世界を生き抜くことを運命づけられたのである。
『ピロリン♪』
『クエスト発生:女神の機嫌を取れ』
『報酬:生存権の維持』
『期限:来週まで』
「……いらっしゃいませ(血涙)」
コンビニ・天魔窟店。
そこは、世界で一番過酷で、世界で一番賑やかな、地獄の底のオアシスである。
『コンビニ・天魔窟店』の店長、サエキ・カズヤは、悟りの境地に達していた。
現在の店内の状況を、言葉で説明するのは困難を極める。
「おい店主! この『ポテチ・のり塩』の在庫がないぞ! コンソメしかないとは何事だ!」
スナックコーナーで袋をガサガサ漁っているのは、最強の竜王デューク。
「あーん。……ん、冷たくて美味しい」
イートインスペースで、狼王フェンリルが不死鳥フレアに『あーん』を強要されながらアイスを食べている。ちなみにフレアは完全なるオフモード(すっぴん&ジャージ風の部屋着)だ。
「ねえ店長、この『黒ストッキング』って、私の脚線美を強調できるかしら?」
魔王ラスティアは、日用品コーナーでストッキングのデニール数について真剣に悩んでいる。
世界の命運を握るトップ4が、六畳一間のプレハブにすし詰め状態。
カズヤは死んだ魚のような目でレジ打ちを続けていた。
「(……もう、誰が来ても驚かないぞ。たとえ神様が来たって)」
カズヤがそう思った、正にその時だった。
カランコロン♪
と、本来この店には付いていないはずの、喫茶店のような軽やかなドアベルの音が脳内に響いた。
「――お疲れ様~。やってる~?」
自動ドアが開き、一人の女性が入ってきた。
輝く金髪、慈愛に満ちた碧眼。
その美しさは、店内にいる魔王や不死鳥ですら霞むほど。
背後には後光が差しており、歩くたびに花が咲くような幻覚が見える。
間違いなく、この世界の創造主、女神ルチアナである。
だが、彼女のその手には、『安酒の空き瓶』が握られていた。
「ゲッ……ルチアナ?」
「げぇっ、ババア……いや、女神様」
ラスティアとデュークが露骨に嫌な顔をする。
どうやら彼らにとっても、この女神は『厄介な上司』あるいは『面倒な親戚』のような存在らしい。
ルチアナは彼らの反応をスルーし、スキップでレジカウンターへやってきた。
「あ~、仕事疲れた! 三竦み(さんすくみ)の調整とかマジだるい! ねえ店長さん、とりあえず生!」
「……えっと、生ビールですか?」
「そう! あと枝豆と、焼き鳥(タレ)ね! あ、領収書は『世界維持管理費』で落とすから」
カズヤは混乱した。
女神? ビール? 経費?
だが、ポーンがガタガタと震えながら平伏しているのを見て、相手が『本物』だと悟った。
「か、畏まりました! 直ちに!」
カズヤは通販スキルをフル回転させ、『缶ビール(500ml)』と『冷凍枝豆(解凍済み)』、『炭火焼き鳥缶』を用意した。
ルチアナは缶ビールのプルタブをプシュッと開けると、その場でグビグビと煽った。
「ぷはぁーっ! これこれ! やっぱ地球のビールはキレが違うわね~!」
女神、あぐらをかいて店内で晩酌を開始。
その姿に神聖さは微塵もなかった。ただの仕事帰りのOLである。
「ちょっとルチアナ、あんたまた仕事をサボって……」
「いいじゃないラスティアちゃん。どうせ人間も魔族も、適当に争わせておけば勝手にバランス取れるんだしぃ~」
ルチアナはラスティアに枝豆を投げつけながら、カズヤの方をチラリと見た。
「それにしても、ここの店長さん。……うん、やっぱり見覚えあるわ」
「え?」
カズヤが手を止める。
ルチアナは酔っ払った赤い顔で、ニシシと笑った。
「だって貴方、私が送ったんだもん。先月くらいの『異世界転生キャンペーン』の時、手違いでスキル設定バグっちゃったから、とりあえずこのダンジョンの底にポイってしといたのよ」
店内が静まり返った。
カズヤの思考が停止する。
「……は?」
「いやー、ごめんね? 『ネット通販』なんてふざけたスキル、勇者には渡せないし。でも消すのも可哀想だから、在庫処分……じゃなくて、特別措置としてここに配置したの。忘れてたけど、意外と元気にやってるじゃない!」
カズヤの中で、何かが崩れ落ちる音がした。
自分がここにいる理由。それは運命でも使命でもなく、ただの『事務処理ミス』と『不法投棄』だったのだ。
「ふ、ふざけるなァァァッ!!」
カズヤの魂の叫びが木霊した。
だが、女神は全く動じない。むしろ、面白そうに焼き鳥を頬張っている。
「まあまあ、怒らないの。そのおかげで、こうして私の飲み友達(ラスティアたち)の憩いの場ができたんだし、結果オーライでしょ?」
「オーライなわけあるか! 俺は毎日、ドブ掃除してポイント稼いでるんだぞ!?」
「あ、ポイント制にしたの私だわ。ごめんテヘペロ☆」
この女神、性格が悪い以前に、絶望的に軽い。
カズヤが怒りで震えていると、ルチアナはスッと真顔になり、空になったビール缶をドンと置いた。
「ま、貴方の処遇については、追々考えてあげるわ。……ただし」
彼女の碧眼が、怪しく光った。
「この店は『天界認定・福利厚生施設』として存続を許可するわ。その代わり……来週の『女子会』までに、地球の『季節限定・高級モンブラン』を用意しておきなさい。……できなかったら、ポイントの換金レート、10倍にしちゃうからね?」
「――ッ!?」
それは死の宣告に等しかった。
レートが10倍になれば、水一本買うのに空き缶を100個拾わなければならなくなる。
「そ、そんな……」
「よろしくね、店長さん♪ さーて、今日は飲むわよー! ラスティア、フレア、付き合いなさい!」
「はぁ……。最悪だわ」
「私の美容時間が……」
こうして、最強にして最悪の『裏の支配者』とのコネクション(主従関係)が成立してしまった。
サエキ・カズヤの受難は終わらない。
彼は英雄でも魔王でもなく、『神々のパシリ』として、この異世界を生き抜くことを運命づけられたのである。
『ピロリン♪』
『クエスト発生:女神の機嫌を取れ』
『報酬:生存権の維持』
『期限:来週まで』
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※別サイトにも掲載しています。