​魔法少女ドジっ子ルナちゃん!愛の貢ぎ物が72時間で石に戻り、F級冒険者の僕が指名手配されました

月神世一

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EP 2

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借金地獄へのカウントダウン(残り72時間)

「……で、そこの『長ネギ』は誰だ?」

 俺は震える指先で、ルナの背後を指差した。

 地面から生えてきた、執事服を着た緑色の肌の男。

 その頭頂部には、スーパーの特売コーナーでよく見る立派な「長ネギ」が揺れている。

「あら? ネギオ、いつの間に」

「失敬な。最初から居ましたよ、マスターが私の存在を忘れて『王子様ごっこ』に夢中になっていただけです」

 ネギオと呼ばれた男は、服の埃を払いながら、俺に冷徹な視線を向けた。

「初めまして、貧弱な有機物(リカル)さん。私はポーン・ルーク級個体、通称ネギオ。マスターの守護者であり、貴様のような有象無象からマスターを守る害虫駆除係です」

「自己紹介に殺意が混ざってるぞ!?」

「リカル様、気にしないでくださいまし! ネギオはちょっと口が悪いだけなんです。根は……多分、植物ですわ!」

 ルナがニコニコと笑う。

 いや、植物なのは見ればわかる。問題なのは、こいつから漂う「強者」のオーラだ。Fランクの俺でもわかる、こいつはヤバい。

「まあいいでしょう。マスターが貴様を『王子』と定めた以上、今のところは排除しません。……今のところは」

「目が笑ってないんだよなぁ……」

 俺はため息をつき、とにかく街へ戻ることにした。

 これ以上、森にいると何が起きるかわからない。

 ◇

 街への帰り道、ルナは俺の右腕にガッチリと抱きついていた。

 柔らかい感触と、花のようないい匂いがする。

 すれ違う冒険者たちが、「あいつ、何であんな上玉を連れてんだ?」「騙されてるんじゃないか?」とヒソヒソ噂しているのが聞こえる。

 ……俺もそう思う。

「リカル様、リカル様! これからどこへ行きますの?」

「まずはギルドに報告だ。その後は……まあ、お前を宿に案内しないとな」

「宿! つまり同棲! 結婚! 老後は二人で畑仕事ですわね!」

「飛躍しすぎだ。一旦落ち着け」

 街の大通りに出た時だ。

 ルナがふと足を止め、俺の腰元を凝視した。

「……リカル様。その剣、ボロボロですわ」

「え? ああ、これか」

 俺は腰の剣を撫でた。

 ギルドから支給された安物の鉄剣。刃こぼれも酷いし、赤錆も浮いている。

「俺はFランクだし、薬草採取がメインだからな。これで十分なんだよ」

「いけません!!」

 ルナが大声を上げた。

「私の王子様が、そんな粗末な鉄くずを帯びているなんて! 万が一、指先でも怪我をされたらどうしますの! 世界の損失ですわ!」

「いや、俺一人が怪我しても世界は痛くも痒くもないけど……」

「決めました! リカル様に相応しい、最高の剣をプレゼントしますわ!」

 言うが早いか、ルナは俺の手を引いて走り出した。

 向かう先は、この街で一番デカい建物――あの大陸屈指の巨大企業『ゴルド商会』の武器支店だ。

「おい待て! あそこは高級品しか置いてないぞ! 俺の全財産でも『柄(つか)』も買えない!」

「お任せくださいませ! 愛の力で何とかしてみせます!」

 嫌な予感がする。

 背後でネギオが「……始まりましたか」と呟いたのが聞こえた。

 ◇

『いらっしゃいませぇ! ゴルド商会へようこそぉ!』

 店に入ると、揉み手をした商人が飛んできた。

 店内には、きらびやかな鎧や、魔力が付与された杖、業物がずらりと並んでいる。

 銅貨数枚で生活している俺には、空気が重い。

「店主さん! この店で一番強くて、一番高くて、一番リカル様に似合う剣をくださいな!」

「は、はぁ……お嬢ちゃん、うちは高級店でねぇ。一番高いとなると……」

 店主は俺の装備(安物)を見て、明らかに値踏みするような目をした。

 だが、商売人だ。すぐに愛想笑いを浮かべて、奥のガラスケースを指差す。

「これなんかいかがでしょう? 古代遺跡から発掘された『聖剣アスカロン(レプリカ)』。切れ味抜群、ドラゴンの鱗も紙のように切り裂きます。お値段なんと、白金貨50枚(5,000万円)!」

「ぶっ!!?」

 俺は噴き出した。

 白金貨50枚!? 一般市民が一生働いても拝めない金額だ。

「いいですわね! それにします!」

「よしなさいルナ! 買えるわけないだろ!」

「大丈夫ですわ、リカル様。私、お財布を落としてしまったのですが……錬金術が少し使えますの」

 ルナは店の外へ走ると、道端に転がっていた「砂利」を両手いっぱいに拾ってきた。

「え、お前まさか……」

「見ていてくださいね。――『マテリアル・コンバート(物質変換)』!」

 カッ!!

 店内に眩い光が走る。

 ルナが持っていた世界樹の杖が唸りを上げ、その手にあった汚い砂利が――黄金色の輝きを放ち始めた。

 光が収まった時。

 彼女の手のひらには、ジャラジャラと輝く**「白金貨」**の山があった。

「なっ……!?」

「ひぇぇぇぇぇ!!」

 俺と店主の叫び声が重なる。

 偽物か? いや、その輝き、魔力の波動、どこからどう見ても本物の白金貨だ。

「こ、これは……純度100%の白金!? なんという美しさだ!」

「これで足りますか? 足りなければ、そこの植木鉢の土も変換しますけど」

「足ります! 足りますともぉぉ! お客様、いや神様ぁぁ!!」

 店主はヨダレを垂らさんばかりに白金貨をひったくり、恭しく『聖剣』を俺に差し出した。

「ささっ、旦那様! こちらが聖剣です! これほどの剣を持てるのは、あなた様のような選ばれたお方だけです!」

「え、あ、いや……本当にいいのか……?」

 俺は震える手で剣を受け取った。

 ズシリと重い。だが、鞘から抜くと、刀身は鏡のように澄んでいる。

 すげぇ……これなら、俺でもドラゴンを倒せるかもしれない。

「リカル様、素敵です! やっぱり王子様には聖剣がお似合いですわ!」

 ルナが手を叩いて喜んでいる。

 ……そうか、彼女は高位の魔法使いだったのか。錬金術で金を作れるなんて、国宝級の人材じゃないか。

 これなら、借金どころか一生遊んで暮らせるんじゃ……。

 俺が夢見心地で剣を掲げている時。

 店の隅で、ネギオが手帳を取り出し、サラサラと何かを書き込んでいた。

「記録。マスターが大規模な通貨偽造を実行。被害店舗、ゴルド商会。……罪状、国家転覆罪クラスの詐欺」

 ネギオは懐中時計を取り出し、無慈悲なカウントダウンを開始する。

「変換維持時間は、マスターの魔力残量から計算して……約72時間(3日)。それが過ぎれば、あの白金貨はただの砂利に戻る」

 そして、哀れなものを見る目で俺を一瞥した。

「楽しむがいい、有機物(リカル)。それが、貴様の人生最後の輝きだ」

 何も知らない俺は、聖剣を腰に差して店の外へ出た。

 空は青く、未来は明るい。

 ……そう、あと3日だけは。

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