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EP 4
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原価計算とポーンの活用法
街道をしばらく進んだ先に、その物件はあった。
かつては宿場町の外れにある休憩所だったのだろうか。今は屋根が半分崩れ落ち、壁はツタに覆われ、幽霊が出そうな廃屋と化している。
「……ここを拠点にするんですかぁ? お化け出そうですけどぉ」
ルナが恐る恐る優也の袖を掴む。
しかし、青田優也の目は、不動産鑑定士のように冷徹に建物をスキャンしていた。
「立地は悪くない。街道沿いで、王都と国境の中間地点。人の往来が見込める」
「でもボロボロですよ?」
「だから良いんだ。所有権が放棄された物件なら、初期投資(イニシャルコスト)はゼロ。リフォーム費用だけで済む」
優也はバイクを止め、ヘルメットを脱いだ。
『ネット通販』スキルは便利だが、物資を無限に亜空間に収納できるわけではない。
今後、大量の食材や商品を扱うなら、物理的な倉庫と、調理場(キッチン)が必要だ。
何より、彼は料理人だ。自分の城(店)を持ちたいという欲求は、本能に近い。
「よし。ここを『キッチン・アオタ』の1号店にする。総員、作業開始だ」
優也が手を叩くと、ネギオが一歩前に出た。
『承知いたしました、旦那様。……して、そこの穀潰しエルフは何をさせましょうか?』
「ふえっ? 私もやるんですか?」
「当たり前だ」
優也は懐から一冊のノートを取り出した。表紙には『借用書兼労働契約書』と書かれている。
「ルナ。お前が昨日食べた『高級デニッシュパン』と『100%果汁ジュース』、それに今朝の『ロイヤルミルクティー』。こちらの世界にはない希少品だ。原価と輸送費、関税(スキル手数料)を含めると……現時点で銀貨10枚(1万円)の借金がある」
「いちまんえん!?」
「返済プランは二つ。身体で払うか、労働で払うかだ」
「労働でお願いしますぅぅ!!」
ルナが涙目で土下座する。優也はニヤリと笑った。
もちろん、最初から働かせるつもりだったが、数字を見せて危機感を煽るのは経営者の基本テクニックだ。
「では、作業分担を指示する。ネギオ!」
『はッ』
「お前は重機だ。ポーンの特性を活かし、瓦礫の撤去と柱の運搬を行え」
優也の指示が飛ぶと、ネギオの体がギチギチと音を立てて変形した。
植物の蔓が筋肉のように肥大化し、両腕が巨大な「盾」と「アーム」のような形状に変わる。
『ルーク形態(重機仕様)』だ。
『ふんッ!』
ネギオは人間数人がかりでも動かないような巨大な梁を、軽々と持ち上げた。
「次はキャルル。お前は周辺の警備と、雑草の刈り取りだ。そのトンファーと足技なら、藪払いも早いだろう」
「任せてユーヤ! 草刈りなら得意だよ! とりゃー!」
キャルルが竜巻のような回転蹴りを放つと、伸び放題だった雑草が一瞬でミンチになり、更地が出来上がっていく。
「そしてルナ。お前は魔法を使え」
「は、はい! 任せてください! 魔法なら得意です! この廃屋を『エクスプロージョン』で爆破して更地に……」
「馬鹿野郎!!」
優也の拳骨がルナの頭に落ちた。
「誰が更地にしろと言った! 『修繕』だ! 土魔法で基礎を固めろ! 風魔法で室内の埃を外に出せ! 水魔法で汚れを落とせ!」
「は、はいぃぃ! 地味な魔法ばっかりぃぃ!」
優也は現場監督と化した。
三つ星レストランの厨房は戦場だ。副料理長(スーシェフ)は、調理だけでなく、ホールの状況、在庫、スタッフの動き、全てを俯瞰して指揮する能力が求められる。
そのスキルは、建築現場でも遺憾なく発揮された。
「ルナ、出力が高すぎる! 窓ガラスを割る気か! 『そよ風』レベルに抑えろ!」
「む、難しいですぅ……!」
「ネギオ、その柱は右に3センチずらして固定だ。水平器(ネット通販で購入)で確認するぞ」
『完璧です、旦那様』
優也自身も動き回る。
『ネット通販』で購入した電動ドリルとインパクトドライバーを駆使し、補強材を打ち込んでいく。
電源はポータブル発電機だ。文明の利器の音が、異世界の廃屋に響き渡る。
――数時間後。
幽霊屋敷のようだった廃屋は、見違えるような姿になっていた。
崩れた壁はルナの土魔法で綺麗に修復され、屋根もネギオが乗せた新しい木材で塞がれている。
内装は、優也が選んだシックな壁紙(シールタイプ)で覆われ、モダンなビストロのような雰囲気を醸し出していた。
「す、すごーい! お城みたい!」
「私の魔法、こんな使い方があったんですねぇ……」
『旦那様の指揮のおかげですな。見事な手腕です』
三者三様に感嘆する中、優也は満足げに頷いた。
だが、まだ終わりではない。
「よし、労働の対価を支払おう。……『賄い(まかない)』の時間だ」
その言葉に、全員の目の色が変わった。
優也は新設したキッチンのコンロに火を入れた。
今日のメニューは、労働で疲れた体に染み渡るガッツリ系。
『厚切りベーコンと春キャベツのペペロンチーノ』だ。
通販で取り寄せたイタリア産のパスタを茹で上げ、オリーブオイルでニンニクと唐辛子の香りを引き出す。
そこに、厚切りにしたベーコンと、甘味の強い春キャベツを投入。
ジュワァッ! という音と共に、食欲をそそる強烈な香りが店内に充満する。
最後に茹で汁を加えて乳化(エマルジョン)させ、パスタと絡める。
「お待たせしました」
湯気の立つ皿が三人の前に置かれた。
「「『いただきまーす!!』」」
キャルルがフォークで豪快に巻き取り、口に運ぶ。
「んぐッ……!! か、辛い! でも美味しい! 油が甘いよぉぉ!」
ルナも上品に、しかし高速で口に運ぶ。
「はふはふ……! ニンニクの香りが凄いです! これを食べたらお嫁に行けないかも……でも止まりません!」
ネギオも(植物だが食事は可能らしい)無言で皿を空にしていく。
その様子を見ながら、優也は手帳を開いた。
リフォーム費用、光熱費、そして食費。
これらを回収し、黒字化するためには、明日からの「売上」が必須だ。
「……さて、箱は出来た。次は『集客』だな」
優也は窓の外を見た。
街道の向こうから、冒険者らしき集団が歩いてくるのが見える。
漂うニンニクの香りに、彼らが鼻をひくつかせているのを、優也は見逃さなかった。
「カモが……いや、お客様のご来店だ」
三つ星シェフの、異世界での最初のディナータイムが始まろうとしていた。
街道をしばらく進んだ先に、その物件はあった。
かつては宿場町の外れにある休憩所だったのだろうか。今は屋根が半分崩れ落ち、壁はツタに覆われ、幽霊が出そうな廃屋と化している。
「……ここを拠点にするんですかぁ? お化け出そうですけどぉ」
ルナが恐る恐る優也の袖を掴む。
しかし、青田優也の目は、不動産鑑定士のように冷徹に建物をスキャンしていた。
「立地は悪くない。街道沿いで、王都と国境の中間地点。人の往来が見込める」
「でもボロボロですよ?」
「だから良いんだ。所有権が放棄された物件なら、初期投資(イニシャルコスト)はゼロ。リフォーム費用だけで済む」
優也はバイクを止め、ヘルメットを脱いだ。
『ネット通販』スキルは便利だが、物資を無限に亜空間に収納できるわけではない。
今後、大量の食材や商品を扱うなら、物理的な倉庫と、調理場(キッチン)が必要だ。
何より、彼は料理人だ。自分の城(店)を持ちたいという欲求は、本能に近い。
「よし。ここを『キッチン・アオタ』の1号店にする。総員、作業開始だ」
優也が手を叩くと、ネギオが一歩前に出た。
『承知いたしました、旦那様。……して、そこの穀潰しエルフは何をさせましょうか?』
「ふえっ? 私もやるんですか?」
「当たり前だ」
優也は懐から一冊のノートを取り出した。表紙には『借用書兼労働契約書』と書かれている。
「ルナ。お前が昨日食べた『高級デニッシュパン』と『100%果汁ジュース』、それに今朝の『ロイヤルミルクティー』。こちらの世界にはない希少品だ。原価と輸送費、関税(スキル手数料)を含めると……現時点で銀貨10枚(1万円)の借金がある」
「いちまんえん!?」
「返済プランは二つ。身体で払うか、労働で払うかだ」
「労働でお願いしますぅぅ!!」
ルナが涙目で土下座する。優也はニヤリと笑った。
もちろん、最初から働かせるつもりだったが、数字を見せて危機感を煽るのは経営者の基本テクニックだ。
「では、作業分担を指示する。ネギオ!」
『はッ』
「お前は重機だ。ポーンの特性を活かし、瓦礫の撤去と柱の運搬を行え」
優也の指示が飛ぶと、ネギオの体がギチギチと音を立てて変形した。
植物の蔓が筋肉のように肥大化し、両腕が巨大な「盾」と「アーム」のような形状に変わる。
『ルーク形態(重機仕様)』だ。
『ふんッ!』
ネギオは人間数人がかりでも動かないような巨大な梁を、軽々と持ち上げた。
「次はキャルル。お前は周辺の警備と、雑草の刈り取りだ。そのトンファーと足技なら、藪払いも早いだろう」
「任せてユーヤ! 草刈りなら得意だよ! とりゃー!」
キャルルが竜巻のような回転蹴りを放つと、伸び放題だった雑草が一瞬でミンチになり、更地が出来上がっていく。
「そしてルナ。お前は魔法を使え」
「は、はい! 任せてください! 魔法なら得意です! この廃屋を『エクスプロージョン』で爆破して更地に……」
「馬鹿野郎!!」
優也の拳骨がルナの頭に落ちた。
「誰が更地にしろと言った! 『修繕』だ! 土魔法で基礎を固めろ! 風魔法で室内の埃を外に出せ! 水魔法で汚れを落とせ!」
「は、はいぃぃ! 地味な魔法ばっかりぃぃ!」
優也は現場監督と化した。
三つ星レストランの厨房は戦場だ。副料理長(スーシェフ)は、調理だけでなく、ホールの状況、在庫、スタッフの動き、全てを俯瞰して指揮する能力が求められる。
そのスキルは、建築現場でも遺憾なく発揮された。
「ルナ、出力が高すぎる! 窓ガラスを割る気か! 『そよ風』レベルに抑えろ!」
「む、難しいですぅ……!」
「ネギオ、その柱は右に3センチずらして固定だ。水平器(ネット通販で購入)で確認するぞ」
『完璧です、旦那様』
優也自身も動き回る。
『ネット通販』で購入した電動ドリルとインパクトドライバーを駆使し、補強材を打ち込んでいく。
電源はポータブル発電機だ。文明の利器の音が、異世界の廃屋に響き渡る。
――数時間後。
幽霊屋敷のようだった廃屋は、見違えるような姿になっていた。
崩れた壁はルナの土魔法で綺麗に修復され、屋根もネギオが乗せた新しい木材で塞がれている。
内装は、優也が選んだシックな壁紙(シールタイプ)で覆われ、モダンなビストロのような雰囲気を醸し出していた。
「す、すごーい! お城みたい!」
「私の魔法、こんな使い方があったんですねぇ……」
『旦那様の指揮のおかげですな。見事な手腕です』
三者三様に感嘆する中、優也は満足げに頷いた。
だが、まだ終わりではない。
「よし、労働の対価を支払おう。……『賄い(まかない)』の時間だ」
その言葉に、全員の目の色が変わった。
優也は新設したキッチンのコンロに火を入れた。
今日のメニューは、労働で疲れた体に染み渡るガッツリ系。
『厚切りベーコンと春キャベツのペペロンチーノ』だ。
通販で取り寄せたイタリア産のパスタを茹で上げ、オリーブオイルでニンニクと唐辛子の香りを引き出す。
そこに、厚切りにしたベーコンと、甘味の強い春キャベツを投入。
ジュワァッ! という音と共に、食欲をそそる強烈な香りが店内に充満する。
最後に茹で汁を加えて乳化(エマルジョン)させ、パスタと絡める。
「お待たせしました」
湯気の立つ皿が三人の前に置かれた。
「「『いただきまーす!!』」」
キャルルがフォークで豪快に巻き取り、口に運ぶ。
「んぐッ……!! か、辛い! でも美味しい! 油が甘いよぉぉ!」
ルナも上品に、しかし高速で口に運ぶ。
「はふはふ……! ニンニクの香りが凄いです! これを食べたらお嫁に行けないかも……でも止まりません!」
ネギオも(植物だが食事は可能らしい)無言で皿を空にしていく。
その様子を見ながら、優也は手帳を開いた。
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これらを回収し、黒字化するためには、明日からの「売上」が必須だ。
「……さて、箱は出来た。次は『集客』だな」
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