三つ星シェフ、ネット通販と簿記1級で異世界を経営する~現代食材と物流で経済無双してたら、女神と魔王が常連客になりました~

月神世一

文字の大きさ
8 / 35

EP 8

しおりを挟む
戦場の兵站線(ロジスティクス)
 月明かりもない深夜の森に、異質な咆哮が轟いた。
 それは生物の吠え声ではない。
 規則正しく爆発を繰り返し、空気を震わせる機械の心臓音――単気筒エンジンの排気音だ。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ!! 速い! 優也様、これ速いですぅぅ!!」
 少女の絶叫が風に流れていく。
 青田優也は、召喚したばかりの相棒――250ccオフロードバイクのアクセルを開け、荒れた山道を疾走していた。
「キャルル、舌を噛むぞ。ニーグリップ……太ももでしっかりシートを挟め」
「はいっ! 太ももなら自信あります!」
「知ってる」
 優也はヘルメットのシールド越しに前方を睨む。
 ハンドルに伝わる振動。タイヤが土を噛む感触。
 舗装路ではない。木の根や岩が転がる悪路だ。だが、ロングストロークのサスペンションを持つこの機体なら、獣道すら高速道路に変える。
 逃げた野盗たちは、森の地理に詳しい。足には自信があるだろう。
 だが、時速20kmで走る人間と、時速80kmで悪路を走破するバイク。
 勝負になるわけがない。
(兵站(ロジスティクス)の要は『補給』と『輸送』だ。金さえあればガソリンは無限。タイヤも新品。現代文明の機動力を舐めるなよ)
 優也はギアを落とし、コーナーへ侵入した。
 リアタイヤを滑らせながら向きを変える。
「いたぞ」
 前方に、必死に走る数人の背中が見えた。
 優也はハンドルスイッチを操作した。
 ハイビーム点灯。
 カッッッ!!
 最新鋭のLEDヘッドライトが、闇を切り裂く白い閃光となって野盗たちを背後から照射した。
「うわぁっ!? な、なんだ!?」
「光!? 太陽か!?」
 暗闇に目が慣れていた野盗たちは、強烈なバックライトを浴びて視界を奪われ、その場に転倒したり、木に激突したりして混乱に陥った。
 そこへ、エンジンの轟音が迫る。
 彼らの目には、一つ目の光る眼を持つ「雷の魔獣」が襲いかかってくるように見えたはずだ。
「な、なんだこの化け物はぁぁ!」
「助け……!」
 優也は速度を落とさず、彼らの真横を駆け抜ける。
 そして、一瞬だけクラッチを切り、惰性走行に移ると同時に、左手でタンクの上に固定していたコンパウンドボウを掴んだ。
 ――流鏑馬(やぶさめ)。
 不安定な足場の上から、移動する標的を射抜く日本の伝統武芸。
 バイクの安定性(ジャイロ効果)があれば、馬よりも揺れは少ない。
 優也はハンドルから両手を離し(!)、体幹だけでバイクのバランスを制御しながら、一瞬で矢を放った。
 ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!
 三連射。
 野盗たちの足元、逃走ルートの先にある木の幹に、矢が深々と突き刺さる。
 殺傷目的ではない。威嚇射撃(警告)だ。
「ひぃぃぃッ!?」
「ま、待て! 降参だ! 降参する!」
 目の前に矢が突き刺さった野盗たちが、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
 優也は再びハンドルを握り、リアブレーキをロックさせて派手なスライド停車(ブレーキターン)を決めた。
 土煙が舞う中、エンジンをアイドリングさせたまま、優也は野盗たちを見下ろした。
 フルフェイスのヘルメットと、プロテクター入りのライダースジャケット。
 その異様な姿は、異世界人にとって「未知の処刑人」そのものだ。
「……キャルル」
「はいっ!」
 優也が合図すると、タンデムシートからキャルルが飛び降りた。
 彼女はニッコリと笑い、トンファーをパチリと鳴らす。
「優也様からの伝言だよ。『誰に雇われたか、全部吐いてね☆』」
 逃げ場はない。
 抵抗しようにも、一人は光る魔獣(バイク)を操る射手、もう一人は近衛騎士クラスの格闘家。
 野盗のリーダー格は、ガタガタと震えながら地面に額を擦り付けた。
「い、言います! 全部言います! だから命だけは……!」
「ゴルド商会だな?」
 優也はヘルメットのシールドを上げ、冷たい瞳を向けた。
「は、はい……! 支店長のボルゾイ様から、店の権利書とスパイスのルートを奪えと……」
「証言確保」
 優也は懐からボイスレコーダー(ネット通販:3,980円)を取り出し、録音停止ボタンを押した。
 この世界に裁判所はないが、この音声データは後で「取引材料」になる。
「お前たちは衛兵に突き出す。……だが、その前に」
 優也は電子ボードを操作し、大量の「結束バンド(インシュロック)」を取り出した。
「輸送コストの削減だ。自分たちで互いを縛って、一列に並んで歩け。キャルル、先導を頼む」
「了解! ……ねえねえおじさん達、遅れたら蹴るからね?」
 キャルルの無邪気な笑顔に、野盗たちは涙目で頷くしかなかった。
 ***
 帰り道。
 捕縛した野盗たちをキャルルに任せ、優也はバイクを押して歩いていた。
 森の空気が、ガソリンの排気臭と混ざり合う。
(ガソリン代、リッター170円換算で……今回消費したのは約2リットル。矢の消耗が3本。合計コスト、約6,500円)
 優也は頭の中で損益分岐点を計算していた。
 安くはない出費だ。だが、これで「店に手を出すとどうなるか」という抑止力を近隣に知らしめることができた。
 広告宣伝費と考えれば、格安と言える。
「……兵站(ロジスティクス)とは、単に物を運ぶことじゃない。必要な時に、必要な場所へ、圧倒的な戦力を投射することだ」
 優也は夜空を見上げた。
 二つの月が輝いている。
 この世界には、まだ「エンジン」を知る者はいない。
 それは、優也だけが持つ、魔法以上の切り札だ。
「さて、帰って仕込みの続きだ。……明日は『特別なお客様』が来る予感がするからな」
 優也の勘(シェフの直感)は当たっていた。
 この騒動を、空の上から面白そうに眺めている存在がいることに、彼はまだ気づいていない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 2025/09/12(金)5巻発売!同日コミカライズ開始! 2026/03/16(月)コミカライズ1巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...