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EP 8
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戦場の兵站線(ロジスティクス)
月明かりもない深夜の森に、異質な咆哮が轟いた。
それは生物の吠え声ではない。
規則正しく爆発を繰り返し、空気を震わせる機械の心臓音――単気筒エンジンの排気音だ。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ!! 速い! 優也様、これ速いですぅぅ!!」
少女の絶叫が風に流れていく。
青田優也は、召喚したばかりの相棒――250ccオフロードバイクのアクセルを開け、荒れた山道を疾走していた。
「キャルル、舌を噛むぞ。ニーグリップ……太ももでしっかりシートを挟め」
「はいっ! 太ももなら自信あります!」
「知ってる」
優也はヘルメットのシールド越しに前方を睨む。
ハンドルに伝わる振動。タイヤが土を噛む感触。
舗装路ではない。木の根や岩が転がる悪路だ。だが、ロングストロークのサスペンションを持つこの機体なら、獣道すら高速道路に変える。
逃げた野盗たちは、森の地理に詳しい。足には自信があるだろう。
だが、時速20kmで走る人間と、時速80kmで悪路を走破するバイク。
勝負になるわけがない。
(兵站(ロジスティクス)の要は『補給』と『輸送』だ。金さえあればガソリンは無限。タイヤも新品。現代文明の機動力を舐めるなよ)
優也はギアを落とし、コーナーへ侵入した。
リアタイヤを滑らせながら向きを変える。
「いたぞ」
前方に、必死に走る数人の背中が見えた。
優也はハンドルスイッチを操作した。
ハイビーム点灯。
カッッッ!!
最新鋭のLEDヘッドライトが、闇を切り裂く白い閃光となって野盗たちを背後から照射した。
「うわぁっ!? な、なんだ!?」
「光!? 太陽か!?」
暗闇に目が慣れていた野盗たちは、強烈なバックライトを浴びて視界を奪われ、その場に転倒したり、木に激突したりして混乱に陥った。
そこへ、エンジンの轟音が迫る。
彼らの目には、一つ目の光る眼を持つ「雷の魔獣」が襲いかかってくるように見えたはずだ。
「な、なんだこの化け物はぁぁ!」
「助け……!」
優也は速度を落とさず、彼らの真横を駆け抜ける。
そして、一瞬だけクラッチを切り、惰性走行に移ると同時に、左手でタンクの上に固定していたコンパウンドボウを掴んだ。
――流鏑馬(やぶさめ)。
不安定な足場の上から、移動する標的を射抜く日本の伝統武芸。
バイクの安定性(ジャイロ効果)があれば、馬よりも揺れは少ない。
優也はハンドルから両手を離し(!)、体幹だけでバイクのバランスを制御しながら、一瞬で矢を放った。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!
三連射。
野盗たちの足元、逃走ルートの先にある木の幹に、矢が深々と突き刺さる。
殺傷目的ではない。威嚇射撃(警告)だ。
「ひぃぃぃッ!?」
「ま、待て! 降参だ! 降参する!」
目の前に矢が突き刺さった野盗たちが、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
優也は再びハンドルを握り、リアブレーキをロックさせて派手なスライド停車(ブレーキターン)を決めた。
土煙が舞う中、エンジンをアイドリングさせたまま、優也は野盗たちを見下ろした。
フルフェイスのヘルメットと、プロテクター入りのライダースジャケット。
その異様な姿は、異世界人にとって「未知の処刑人」そのものだ。
「……キャルル」
「はいっ!」
優也が合図すると、タンデムシートからキャルルが飛び降りた。
彼女はニッコリと笑い、トンファーをパチリと鳴らす。
「優也様からの伝言だよ。『誰に雇われたか、全部吐いてね☆』」
逃げ場はない。
抵抗しようにも、一人は光る魔獣(バイク)を操る射手、もう一人は近衛騎士クラスの格闘家。
野盗のリーダー格は、ガタガタと震えながら地面に額を擦り付けた。
「い、言います! 全部言います! だから命だけは……!」
「ゴルド商会だな?」
優也はヘルメットのシールドを上げ、冷たい瞳を向けた。
「は、はい……! 支店長のボルゾイ様から、店の権利書とスパイスのルートを奪えと……」
「証言確保」
優也は懐からボイスレコーダー(ネット通販:3,980円)を取り出し、録音停止ボタンを押した。
この世界に裁判所はないが、この音声データは後で「取引材料」になる。
「お前たちは衛兵に突き出す。……だが、その前に」
優也は電子ボードを操作し、大量の「結束バンド(インシュロック)」を取り出した。
「輸送コストの削減だ。自分たちで互いを縛って、一列に並んで歩け。キャルル、先導を頼む」
「了解! ……ねえねえおじさん達、遅れたら蹴るからね?」
キャルルの無邪気な笑顔に、野盗たちは涙目で頷くしかなかった。
***
帰り道。
捕縛した野盗たちをキャルルに任せ、優也はバイクを押して歩いていた。
森の空気が、ガソリンの排気臭と混ざり合う。
(ガソリン代、リッター170円換算で……今回消費したのは約2リットル。矢の消耗が3本。合計コスト、約6,500円)
優也は頭の中で損益分岐点を計算していた。
安くはない出費だ。だが、これで「店に手を出すとどうなるか」という抑止力を近隣に知らしめることができた。
広告宣伝費と考えれば、格安と言える。
「……兵站(ロジスティクス)とは、単に物を運ぶことじゃない。必要な時に、必要な場所へ、圧倒的な戦力を投射することだ」
優也は夜空を見上げた。
二つの月が輝いている。
この世界には、まだ「エンジン」を知る者はいない。
それは、優也だけが持つ、魔法以上の切り札だ。
「さて、帰って仕込みの続きだ。……明日は『特別なお客様』が来る予感がするからな」
優也の勘(シェフの直感)は当たっていた。
この騒動を、空の上から面白そうに眺めている存在がいることに、彼はまだ気づいていない。
月明かりもない深夜の森に、異質な咆哮が轟いた。
それは生物の吠え声ではない。
規則正しく爆発を繰り返し、空気を震わせる機械の心臓音――単気筒エンジンの排気音だ。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ!! 速い! 優也様、これ速いですぅぅ!!」
少女の絶叫が風に流れていく。
青田優也は、召喚したばかりの相棒――250ccオフロードバイクのアクセルを開け、荒れた山道を疾走していた。
「キャルル、舌を噛むぞ。ニーグリップ……太ももでしっかりシートを挟め」
「はいっ! 太ももなら自信あります!」
「知ってる」
優也はヘルメットのシールド越しに前方を睨む。
ハンドルに伝わる振動。タイヤが土を噛む感触。
舗装路ではない。木の根や岩が転がる悪路だ。だが、ロングストロークのサスペンションを持つこの機体なら、獣道すら高速道路に変える。
逃げた野盗たちは、森の地理に詳しい。足には自信があるだろう。
だが、時速20kmで走る人間と、時速80kmで悪路を走破するバイク。
勝負になるわけがない。
(兵站(ロジスティクス)の要は『補給』と『輸送』だ。金さえあればガソリンは無限。タイヤも新品。現代文明の機動力を舐めるなよ)
優也はギアを落とし、コーナーへ侵入した。
リアタイヤを滑らせながら向きを変える。
「いたぞ」
前方に、必死に走る数人の背中が見えた。
優也はハンドルスイッチを操作した。
ハイビーム点灯。
カッッッ!!
最新鋭のLEDヘッドライトが、闇を切り裂く白い閃光となって野盗たちを背後から照射した。
「うわぁっ!? な、なんだ!?」
「光!? 太陽か!?」
暗闇に目が慣れていた野盗たちは、強烈なバックライトを浴びて視界を奪われ、その場に転倒したり、木に激突したりして混乱に陥った。
そこへ、エンジンの轟音が迫る。
彼らの目には、一つ目の光る眼を持つ「雷の魔獣」が襲いかかってくるように見えたはずだ。
「な、なんだこの化け物はぁぁ!」
「助け……!」
優也は速度を落とさず、彼らの真横を駆け抜ける。
そして、一瞬だけクラッチを切り、惰性走行に移ると同時に、左手でタンクの上に固定していたコンパウンドボウを掴んだ。
――流鏑馬(やぶさめ)。
不安定な足場の上から、移動する標的を射抜く日本の伝統武芸。
バイクの安定性(ジャイロ効果)があれば、馬よりも揺れは少ない。
優也はハンドルから両手を離し(!)、体幹だけでバイクのバランスを制御しながら、一瞬で矢を放った。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ!
三連射。
野盗たちの足元、逃走ルートの先にある木の幹に、矢が深々と突き刺さる。
殺傷目的ではない。威嚇射撃(警告)だ。
「ひぃぃぃッ!?」
「ま、待て! 降参だ! 降参する!」
目の前に矢が突き刺さった野盗たちが、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
優也は再びハンドルを握り、リアブレーキをロックさせて派手なスライド停車(ブレーキターン)を決めた。
土煙が舞う中、エンジンをアイドリングさせたまま、優也は野盗たちを見下ろした。
フルフェイスのヘルメットと、プロテクター入りのライダースジャケット。
その異様な姿は、異世界人にとって「未知の処刑人」そのものだ。
「……キャルル」
「はいっ!」
優也が合図すると、タンデムシートからキャルルが飛び降りた。
彼女はニッコリと笑い、トンファーをパチリと鳴らす。
「優也様からの伝言だよ。『誰に雇われたか、全部吐いてね☆』」
逃げ場はない。
抵抗しようにも、一人は光る魔獣(バイク)を操る射手、もう一人は近衛騎士クラスの格闘家。
野盗のリーダー格は、ガタガタと震えながら地面に額を擦り付けた。
「い、言います! 全部言います! だから命だけは……!」
「ゴルド商会だな?」
優也はヘルメットのシールドを上げ、冷たい瞳を向けた。
「は、はい……! 支店長のボルゾイ様から、店の権利書とスパイスのルートを奪えと……」
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優也は懐からボイスレコーダー(ネット通販:3,980円)を取り出し、録音停止ボタンを押した。
この世界に裁判所はないが、この音声データは後で「取引材料」になる。
「お前たちは衛兵に突き出す。……だが、その前に」
優也は電子ボードを操作し、大量の「結束バンド(インシュロック)」を取り出した。
「輸送コストの削減だ。自分たちで互いを縛って、一列に並んで歩け。キャルル、先導を頼む」
「了解! ……ねえねえおじさん達、遅れたら蹴るからね?」
キャルルの無邪気な笑顔に、野盗たちは涙目で頷くしかなかった。
***
帰り道。
捕縛した野盗たちをキャルルに任せ、優也はバイクを押して歩いていた。
森の空気が、ガソリンの排気臭と混ざり合う。
(ガソリン代、リッター170円換算で……今回消費したのは約2リットル。矢の消耗が3本。合計コスト、約6,500円)
優也は頭の中で損益分岐点を計算していた。
安くはない出費だ。だが、これで「店に手を出すとどうなるか」という抑止力を近隣に知らしめることができた。
広告宣伝費と考えれば、格安と言える。
「……兵站(ロジスティクス)とは、単に物を運ぶことじゃない。必要な時に、必要な場所へ、圧倒的な戦力を投射することだ」
優也は夜空を見上げた。
二つの月が輝いている。
この世界には、まだ「エンジン」を知る者はいない。
それは、優也だけが持つ、魔法以上の切り札だ。
「さて、帰って仕込みの続きだ。……明日は『特別なお客様』が来る予感がするからな」
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