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EP 18
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経済制裁(ハイパーデフレ)発動
翌朝。ルミナス中央広場には、昨日以上の人だかりができていた。
市民たちの目当てはラーメンだ。
だが、今日のキッチンカー『アオタ号』の様子は少し違っていた。
カウンターの前に、ラーメンの丼ではなく、山のような『段ボール箱』が積み上げられているのだ。
「いらっしゃいませ。……本日はラーメンの販売はありません」
拡声器(スピーカー)越しの優也のアナウンスに、市民たちから落胆の声が上がる。
しかし、次の言葉がその空気を一変させた。
「その代わり、『生活必需品・大感謝セール』を行います」
優也が合図をすると、ネギオとキャルルが段ボールを開封し、中身をテーブルに並べた。
真っ白に輝く粉末が入った透明な袋。
四角く整形された、雪のように白いブロック。
そして、滑らかな純白の束。
「塩、砂糖、そして紙。……これらを『商会価格の10分の1』で販売します」
広場が一瞬、静まり返った。
誰もが耳を疑ったのだ。
この世界において、塩と砂糖は専売品であり、紙(羊皮紙)は高級品だ。庶民の家計を圧迫する三大出費と言ってもいい。
「う、嘘だろ!? 塩が1キロで銅貨10枚(100円)だって!?」
「ゴルド商会だと銀貨1枚(1000円)はするぞ!」
「しかも見てみろ! 真っ白だ! 砂も混じってない!」
優也が並べたのは、『ネット通販』で購入した『食卓塩(1kg)』と『上白糖』、そして『コピー用紙(500枚入り)』だ。
現代日本の大量生産品は、異世界の精製技術とは次元が違う。不純物ゼロ、純白、サラサラ。
それが、捨て値で売られている。
「さあ、在庫は山ほどあります。お一人様いくらでもどうぞ」
優也が微笑むと、市民たちの目の色が変わった。
食欲ではない。生活防衛本能だ。
「く、くれ! 塩を5袋だ!」
「私は砂糖を! ジャムが作れるわ!」
「紙だ! 学者様に転売すれば一財産だぞ!」
ラーメン行列以上の狂乱が巻き起こった。
キャルルとルナが飛ぶように商品を渡し、ネギオが手際よく小銭を回収していく。
その背後で、優也は冷ややかに商会のビルを見上げていた。
(……相場を崩すのは簡単だ。供給過多にすればいい)
彼は知っている。
市場価格とは、需給バランスで決まる。
圧倒的な品質の商品が、圧倒的な安値で大量に供給されれば、既存の市場価格は崩壊する。
いわゆる「価格破壊(デフレーション)」だ。
***
同時刻。ゴルド商会ルミナス支店。
「し、支店長ぉぉぉ!! た、大変です!!」
執務室に、顔面蒼白の部下が転がり込んできた。
「うるさい! 今、帳簿の整理をしているんだ! ……昨日のラーメン騒ぎのせいで、食堂の売上が激減しているんだぞ!」
ボルゾイはイライラとペンを走らせていた。
だが、部下の報告は、そんなレベルの話ではなかった。
「ち、違います! 売上が減ったのは食堂だけではありません! 塩も、砂糖も、紙も……『全て』です!」
「なに?」
「今朝から、商品が一つも売れません! 卸先の商店からも『アオタの店の方が安くて質が良いから、お宅からは買わない』とキャンセルの嵐が……!」
「ば、馬鹿な!」
ボルゾイは椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
「塩や砂糖はウチの独占販売だぞ!? 奴はどこから仕入れている!?」
「わ、分かりません! ですが、奴の売っている塩は宝石のように白く、砂糖は雪のように甘いそうです! しかも価格はウチの1割……!」
1割。
その数字を聞いた瞬間、ボルゾイの背筋が凍りついた。
それは「競争」ではない。「虐殺」だ。
「ふ、ふざけるな! そんな価格で利益が出るものか! ダンピング(不当廉売)だ! すぐに資金が尽きるはずだ!」
ボルゾイは叫んだ。
だが、彼は知らない。優也の仕入れ値(原価)が、Amazon価格であることを。
塩1kg 100円で売っても、優也には利益が出ているのだ。
さらに、恐ろしい事態はこれからだった。
「し、支店長……もう一つ、ご報告が」
「まだあるのか!?」
「倉庫に積み上がっている『在庫』の資産価値についてですが……」
部下が震える声で告げた。
「市場価格が暴落したため、我々が抱えている塩と砂糖の在庫価値が……事実上、『ゴミ同然』になりました」
ガシャーン!!
ボルゾイの手からワイングラスが滑り落ち、床で砕け散った。
『棚卸資産評価損』。
商会は、高い仕入れ値で商品を確保している。それを売って利益を得るはずだった。
だが、市場価格が暴落すれば、高く仕入れた商品は「含み損」の塊となる。売れば売るほど赤字。売らなければ倉庫代がかかるだけのゴミ。
優也の狙いは、単なる嫌がらせではなかった。
ゴルド商会のバランスシート(貸借対照表)を、資産の部から破壊しに来たのだ。
「あ、あわわ……借金……仕入れの借金はどうなる……?」
商会は銀行から金を借りて在庫を仕入れている。
商品が売れなければ、現金(キャッシュ)が入らない。現金が入らなければ、借金が返せない。
『黒字倒産』ならぬ、『在庫死による資金ショート』。
「と、止めろ! 今すぐ奴を止めろぉぉぉ!!」
ボルゾイは髪を振り乱して絶叫した。
もはやプライドも法律も関係ない。
物理的に優也を排除しなければ、今日中にゴルド商会ルミナス支店は破産する。
「私兵団を全部出せ! 冒険者も雇え! あのキッチンカーを破壊し、アオタを殺せ!」
最後の悪あがき。
なりふり構わぬ暴力の波が、広場へと向かおうとしていた。
しかし、優也はそれすらも計算済みだった。
広場の中心で、彼は狼王フェンリルに、とっておきの「賄い(報酬)」を見せびらかしていた。
「フェンリル。……あと一仕事したら、『最高級A5ランク和牛のステーキ(シャトーブリアン)』を出しますよ」
「……ほう?」
フェンリルの金色の瞳が、ギラリと輝いた。
翌朝。ルミナス中央広場には、昨日以上の人だかりができていた。
市民たちの目当てはラーメンだ。
だが、今日のキッチンカー『アオタ号』の様子は少し違っていた。
カウンターの前に、ラーメンの丼ではなく、山のような『段ボール箱』が積み上げられているのだ。
「いらっしゃいませ。……本日はラーメンの販売はありません」
拡声器(スピーカー)越しの優也のアナウンスに、市民たちから落胆の声が上がる。
しかし、次の言葉がその空気を一変させた。
「その代わり、『生活必需品・大感謝セール』を行います」
優也が合図をすると、ネギオとキャルルが段ボールを開封し、中身をテーブルに並べた。
真っ白に輝く粉末が入った透明な袋。
四角く整形された、雪のように白いブロック。
そして、滑らかな純白の束。
「塩、砂糖、そして紙。……これらを『商会価格の10分の1』で販売します」
広場が一瞬、静まり返った。
誰もが耳を疑ったのだ。
この世界において、塩と砂糖は専売品であり、紙(羊皮紙)は高級品だ。庶民の家計を圧迫する三大出費と言ってもいい。
「う、嘘だろ!? 塩が1キロで銅貨10枚(100円)だって!?」
「ゴルド商会だと銀貨1枚(1000円)はするぞ!」
「しかも見てみろ! 真っ白だ! 砂も混じってない!」
優也が並べたのは、『ネット通販』で購入した『食卓塩(1kg)』と『上白糖』、そして『コピー用紙(500枚入り)』だ。
現代日本の大量生産品は、異世界の精製技術とは次元が違う。不純物ゼロ、純白、サラサラ。
それが、捨て値で売られている。
「さあ、在庫は山ほどあります。お一人様いくらでもどうぞ」
優也が微笑むと、市民たちの目の色が変わった。
食欲ではない。生活防衛本能だ。
「く、くれ! 塩を5袋だ!」
「私は砂糖を! ジャムが作れるわ!」
「紙だ! 学者様に転売すれば一財産だぞ!」
ラーメン行列以上の狂乱が巻き起こった。
キャルルとルナが飛ぶように商品を渡し、ネギオが手際よく小銭を回収していく。
その背後で、優也は冷ややかに商会のビルを見上げていた。
(……相場を崩すのは簡単だ。供給過多にすればいい)
彼は知っている。
市場価格とは、需給バランスで決まる。
圧倒的な品質の商品が、圧倒的な安値で大量に供給されれば、既存の市場価格は崩壊する。
いわゆる「価格破壊(デフレーション)」だ。
***
同時刻。ゴルド商会ルミナス支店。
「し、支店長ぉぉぉ!! た、大変です!!」
執務室に、顔面蒼白の部下が転がり込んできた。
「うるさい! 今、帳簿の整理をしているんだ! ……昨日のラーメン騒ぎのせいで、食堂の売上が激減しているんだぞ!」
ボルゾイはイライラとペンを走らせていた。
だが、部下の報告は、そんなレベルの話ではなかった。
「ち、違います! 売上が減ったのは食堂だけではありません! 塩も、砂糖も、紙も……『全て』です!」
「なに?」
「今朝から、商品が一つも売れません! 卸先の商店からも『アオタの店の方が安くて質が良いから、お宅からは買わない』とキャンセルの嵐が……!」
「ば、馬鹿な!」
ボルゾイは椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
「塩や砂糖はウチの独占販売だぞ!? 奴はどこから仕入れている!?」
「わ、分かりません! ですが、奴の売っている塩は宝石のように白く、砂糖は雪のように甘いそうです! しかも価格はウチの1割……!」
1割。
その数字を聞いた瞬間、ボルゾイの背筋が凍りついた。
それは「競争」ではない。「虐殺」だ。
「ふ、ふざけるな! そんな価格で利益が出るものか! ダンピング(不当廉売)だ! すぐに資金が尽きるはずだ!」
ボルゾイは叫んだ。
だが、彼は知らない。優也の仕入れ値(原価)が、Amazon価格であることを。
塩1kg 100円で売っても、優也には利益が出ているのだ。
さらに、恐ろしい事態はこれからだった。
「し、支店長……もう一つ、ご報告が」
「まだあるのか!?」
「倉庫に積み上がっている『在庫』の資産価値についてですが……」
部下が震える声で告げた。
「市場価格が暴落したため、我々が抱えている塩と砂糖の在庫価値が……事実上、『ゴミ同然』になりました」
ガシャーン!!
ボルゾイの手からワイングラスが滑り落ち、床で砕け散った。
『棚卸資産評価損』。
商会は、高い仕入れ値で商品を確保している。それを売って利益を得るはずだった。
だが、市場価格が暴落すれば、高く仕入れた商品は「含み損」の塊となる。売れば売るほど赤字。売らなければ倉庫代がかかるだけのゴミ。
優也の狙いは、単なる嫌がらせではなかった。
ゴルド商会のバランスシート(貸借対照表)を、資産の部から破壊しに来たのだ。
「あ、あわわ……借金……仕入れの借金はどうなる……?」
商会は銀行から金を借りて在庫を仕入れている。
商品が売れなければ、現金(キャッシュ)が入らない。現金が入らなければ、借金が返せない。
『黒字倒産』ならぬ、『在庫死による資金ショート』。
「と、止めろ! 今すぐ奴を止めろぉぉぉ!!」
ボルゾイは髪を振り乱して絶叫した。
もはやプライドも法律も関係ない。
物理的に優也を排除しなければ、今日中にゴルド商会ルミナス支店は破産する。
「私兵団を全部出せ! 冒険者も雇え! あのキッチンカーを破壊し、アオタを殺せ!」
最後の悪あがき。
なりふり構わぬ暴力の波が、広場へと向かおうとしていた。
しかし、優也はそれすらも計算済みだった。
広場の中心で、彼は狼王フェンリルに、とっておきの「賄い(報酬)」を見せびらかしていた。
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