『影の英雄は静かに暮らしたい ~元三ツ星シェフ、公爵家を弟に押し付けて中立地帯で最強の定食屋はじめます(邪魔する奴は即・処・分)~』

月神世一

文字の大きさ
4 / 70

EP 4

「劇的! ビフォーアフター ~公爵家の裏技を添えて~」
​村の中心から少し離れた、小高い丘の上。
キャルルが案内してくれたのは、かつては立派だったであろう一軒の屋敷だった。
​「……ここよ」
​ギィィィ……。
錆びついた門を開けると、そこにはお化け屋敷と呼ぶに相応しい廃屋が鎮座していた。
屋根は抜け落ち、壁は蔦に覆われ、窓ガラスは一枚も残っていない。庭には粗大ゴミの山。
​キャルルは申し訳無さそうに、自慢の長い耳をぺたんと垂れ下げた。
​「ごめんね、リアン君……。村の空き家で、店舗としても使えそうな広さがあるのはここしかなくて。こんな所しか用意出来なくて……」
​彼女は村長として、恩人にこんなボロ屋をあてがうことを恥じているようだ。
だが、俺――リアン・クラインは、むしろ口角を上げた。
​「構わない。むしろ好都合だ」
「えっ? でも、雨漏りするし、床も抜けそうだし……」
「基礎さえしっかりしていれば問題ない。それに、中途半端に人が住んでいた痕跡があるより、サラ地の方がやりやすい」
​俺は腕まくりをした。
前世の記憶と、現世の魔法。そして「現代の物流」があれば、家一軒建てるなど造作もない。
​「見ていろ。――新築にするだけさ」
​俺は廃屋の玄関ホールに立ち、指を鳴らした。
​「出ろ、『喰丸(くいまる)』」
​ボヨンッ!
空間から飛び出したピンク色のワームが、期待に満ちた目で(目はないが気配で分かる)俺を見上げる。
​「仕事だ。この屋敷の『ゴミ』判定されるものを全て食え。カビた木材、腐った家具、割れたガラス、害虫……全部だ」
​「キュイ!!」
​喰丸が歓喜の声を上げ、猛然とダッシュした。
その捕食スピードは圧巻だった。
バクバクバクバク!
腐った床板を飲み込み、崩れた天井の残骸を吸い込み、庭の雑草ごとゴミ山を消滅させていく。
​「えっ、ちょっ、ええええ!?」
​キャルルが目を白黒させている間に、わずか数分で屋敷は「骨組みだけの綺麗なスケルトン状態」になった。
​「掃除完了。次は資材だ」
​俺は虚空に手をかざし、ユニークスキル『ネット通販』を発動。
脳内の検索ウィンドウに「建材 リフォームセット 業務用」と打ち込む。
​「ポチッとな」
​ドサササササッ!!
何もない空間から、大量の段ボール箱や木材、漆喰の袋が降り注いだ。
見慣れた「笑顔の矢印マーク」が入った箱の山に、キャルルが腰を抜かす。
​「な、何これ!? 空から荷物が!? これどこの商会のマーク!?」
「地球(アース)商会だ。気にするな」
​俺は次なる指示を出す。
​「『影丸(かげまる)』、リフォームしろ。図面は俺の頭の中にあるイメージ通りに」
​ズズズ……。
俺の影から、漆黒の騎士が音もなく立ち上がった。
影丸は無言で一礼すると、影を触手のように無数に伸ばした。
ある影は金槌を握り、ある影は木材を運び、ある影はペンキを塗る。
​カンカンカン! ギコギコ! シュババババ!
​「は、速い……!? 職人さん100人分くらいの動きしてる……!?」
​キャルルのツッコミが追いつかない速度で、突貫工事が進む。
壁が貼られ、屋根が修復され、窓には透明度の高いガラス(強化ガラス)が嵌め込まれた。
外壁は清潔感のある白漆喰と、温かみのあるレンガ造りに。
​「よし、外側は完成だ。次は中身(メイン)だ」
​俺は新しくなったドアを開け、真新しい厨房スペースへと入った。
ここからが料理人としての聖域作りだ。
​再びネット通販を開く。
今度は「業務用厨房機器」のカテゴリだ。
​「システムキッチン、大型冷蔵庫(魔石動力に改造予定)、オーブンレンジ、製麺機、圧力鍋……それと、客席用のテーブルセット」
​光と共に、ステンレスの輝きを放つ最新鋭の調理家電や道具が次々と鎮座していく。
この世界にはない「清潔で機能的な厨房」が、そこに爆誕した。
​「す、すごい……ピカピカ……。鏡みたいに自分が映ってる……」
​キャルルが冷蔵庫の扉に映る自分を見て、恐る恐る触れている。
​俺はコックコート(通販で購入した純白の調理服)に袖を通し、真新しい包丁をまな板の上に置いた。
窓からはポポロ村の豊かな畑が見渡せる。
最高のロケーションだ。
​「よし。――『ポポロ屋』の出来上がりだ」
​俺が満足げに宣言すると、キャルルは呆然とした顔で、しかし尊敬の眼差しを向けてきた。
​「リアン君……君、本当に料理人なの? 大工の神様か何かじゃなくて?」
「ただの準備の良い料理人だよ。さて、キャルル」
​俺は冷蔵庫から、冷えたミネラルウォーターを取り出し、彼女に投げ渡した。
​「開店祝いだ。最初の一品、何かリクエストはあるか?」
「えっ!? い、いいの!? じゃあ……」
​キャルルは喉を鳴らし、少し考えてから満面の笑みで言った。
​「あの『おでん』! リアン君が作る、最高のおでんを食べてみたい!」
​「承知した。最高の出汁(スープ)を取ってやるよ」
​こうして、廃屋だった場所は、大陸で最も近代的で、最も美味い料理を出す定食屋『ポポロ屋』として生まれ変わったのだった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

転生少年は、魔道具で貧乏領地を発展させたい~アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 男(30歳)は、仕事中に命を落とし異世界へ転生する。  捨て子となった男は男爵親子に拾われ、養子として迎えられることになった。  前世で可愛がっていた甥のような兄と、命を救ってくれた父のため、幼い弟は立ち上がる。  魔道具で、僕が領地を発展させる!  これは、家族と領地のために頑張る男(児)の物語。

ダンジョン銭湯 ~鎧は脱いでお入りください~

こまちゃも
ファンタジー
祖父さんから受け継いだ銭湯ごと、ダンジョンに転移してしまった俺。 だがそこは、なぜか”完全安全地帯”だった。 風呂に入れば傷は癒え、疲れも吹き飛ぶ。 噂を聞きつけた冒険者たちが集まり、宿やギルドまでできていく。 俺には最強の武器もスキルもないがーー最強のヒーラーや個性豊かな常連たちに囲まれながら、俺は今日も湯を沸かす。 銭湯を中心に、ダンジョンの中に小さな拠点が広がっていく。 ――ダンジョン銭湯、本日も営業中。

社畜おっさん、異世界で子育てはじめました~拾った娘が可愛すぎるので、世界一のパパを目指します~

空月そらら
ファンタジー
A級パーティー『輝きの剣』で、支援魔法と裏方の雑用を一人で完璧にこなしていたガルド(38歳)は、ある日突然、理不尽な追放を宣告される。 前世は過労死した孤独な社畜。 異世界に転生しても報われない日々に絶望し、雨の降る裏路地を彷徨っていたガルドは、そこでボロボロの布にくるまって震えるメリアと出会う。 「おねがいでしゅ……たしゅけて……」 小さな手にすがりつかれた瞬間、ガルドは決意した。 ――今日から俺が、この子のパパになる。絶対に守り抜いてみせる、と。 冒険者としての栄光などもういらない。 ガルドは愛娘との温かい生活を手に入れるため、長年隠し続けていた『規格外の支援魔法』と『チート級の生活魔法』を惜しげもなく解放する! すべては、世界一可愛い娘の笑顔のために。 一方その頃、ガルドという「完璧な生命線」を失ったパーティーは、格下のダンジョンで罠にかかり、まともな野営すらできずにあっさりと崩壊の危機を迎えていたが……。 「パパのシチュー、せかいでいっちばんおいちい!」 「そうかそうか、いっぱい食べろよ」 そんなことはつゆ知らず。 不遇だった最強のおっさんは、今日も愛娘を全力で甘やかし、幸せなスローライフを満喫中!

銀髪幼女のスローライフ旅 ~お料理バンバン魔法バンバン~

滝川 海老郎
ファンタジー
銀髪で生まれた主人公レナは辺境の村で育った。そこで出会ったのがボーパル・バニーのレクスだった。 レクスは村でなかなか受け入れられず、レナは二人で村を出ることに。 レナの料理が好きなレクス。二人はご飯を食べながら進んでいく。 近くの町について冒険者を始めたレナに、フィオが加わった。 レナとフィオは色々あってレッサー・ワイバーン退治に参加、見事討伐する。 カレーもどきを振舞って、仲間内では有名になっていく。 でも、目標はのんびり生活できるスローライフを目指すこと。旅をして安住の地を探すのだ。

公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。 元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。 そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。 ​「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」 ​軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続! 金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。 街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、 初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊! 気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、 ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。 ​本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走! ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!? ​これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ! 本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。