94 / 221
第二章 マルシア帝国へ
EP 43
しおりを挟む
我が流儀、友に捧ぐ一閃
勇太とイグニス、互いの実力を確かめ合った初手の攻防。闘技場の空気は、二人の闘志によって張り詰め、観客は固唾を飲んでその一挙手一投足を見守っていた。
先に動いたのは、再びイグニスだった。
「まだまだ行くぜ! 大火炎!」
彼が口から吐き出したのは、先ほどの火炎球とは比較にならない、巨大な炎の塊だった。イグニスはそれを勇太の前に放った。炎は着弾すると同時に爆発的に広がり、勇太とイグニスの間に、燃え盛る火の海を作り出した。
「くっ、前が見えない! イグニスは何処だ!」
勇太は、炎の壁に阻まれ、相手の姿を見失う。熱波が肌を焼き、視界は赤く揺らめいていた。
その時、炎の壁の向こうから、唸りを上げて巨大な戦斧が飛来した!
「何!?」
勇太は、気配を頼りに辛うじてそれを避ける。模擬戦斧は彼のすぐ脇を通り過ぎ、そしてブーメランのように回転しながら、炎の壁の向こう側、イグニスの手元に戻ってきた。
「どうだ、ユウタ! この火の海が有る限り、勇太……お前は俺に近づけない!」
イグニスの声が、炎の向こうから響く。続けざまに、見えない位置から戦斧が何度も投げつけられる。
「チイイッ!」
勇太は、飛来する斧を必死に避け続ける。防戦一方だ。
(どうする!? 火の海をどうやって突破する!? )
「どうした、ユウタ! もう終わりか!? 降参するか?」
イグニスの挑発的な声が飛ぶ。
その時だった。
「勇太さーん! 頑張ってー!」
観客席から、キャルルの必死な声援が、不思議と鮮明に勇太の耳に届いた。
「キャルル……!」
(そうだ……。キャルルも、イグニスも、この世界の人間は、当たり前のように闘気を使える。僕は、地球の知識やスキルに頼ってばかりいたけど、この世界に来て、この世界の理の中で生きている。ならば……俺にだって、使えるはずだ!)
勇太は、飛来する斧を最後にかわすと、燃え盛る炎の前で、目を閉じて薙刀を構えた。そして、心の奥底、魂の中心に意識を集中させる。
(俺の力……俺だけの技……!)
勇太は精神統一をした。すると、彼の体から、淡く、しかし清浄な蒼い光が溢れ出し、薙刀に吸い込まれるように勇太の闘気が注入される。模擬薙刀が、まるで魂を宿したかのように、微かに輝き始めた。
「行くぞ!」
勇太は目を見開き、迷いなく火の海に突っ込む。
「馬鹿な! 死ぬぞ!」
イグニスが、その無謀な行動に驚愕の声を上げた。
炎に包まれながらも、勇太は怯まない。彼は、蒼く輝く薙刀を大きく振りかぶった。
「俺の流儀だ! 我流・天波(がりゅう・てんぱ)!!」
薙刀から放たれた闘気の斬撃が、蒼い波となって燃え盛る火の海を真っ二つに割る!
「そ、そんな……バカな!?」
イグニスは、目の前の信じられない光景に言葉を失い、慌てて斧で待ち受ける。
炎の道を通って、勇太が姿を現した。彼は、残った全闘気を、その蒼く輝く薙刀に注入する。
「行くぞ!イグニス!!我流・隼斬り(はやぶさぎり)!」
勇太は、隼のごとき電光石火の踏み込みで、一瞬にしてイグニスの懐に飛び込み、その胴体に強烈な斬り上げをぶちかました。
イグニスの時は止まった。
凄まじい衝撃に、息が止まる。イグニスの手から、戦斧が滑り落ち、カラン、と音を立てた。
「……イグニス、ありがとう。 おかげで、新しい力に気づけた」
勇太は、静かに薙刀を下ろし、友に告げた。
「ゆ、勇太……。 へへ……強えじゃねえか、お前……」
イグニスは、満足そうに笑うと、ゆっくりとその場に倒れた。
闘技場は、一瞬の静寂に包まれた。そして、審判が、震える声で高らかに叫んだ。
「……しょ、勝者! 勇太殿ーーーっ!!」
その瞬間、コロッセオ・アウストラは、この日一番の、地鳴りのような大歓声に響き渡った。
帝都武術大会「獅子王祭」。その頂点に立ったのは、東の国から来た、無名の、しかし誰よりも強く優しい勇者だった。
勇太とイグニス、互いの実力を確かめ合った初手の攻防。闘技場の空気は、二人の闘志によって張り詰め、観客は固唾を飲んでその一挙手一投足を見守っていた。
先に動いたのは、再びイグニスだった。
「まだまだ行くぜ! 大火炎!」
彼が口から吐き出したのは、先ほどの火炎球とは比較にならない、巨大な炎の塊だった。イグニスはそれを勇太の前に放った。炎は着弾すると同時に爆発的に広がり、勇太とイグニスの間に、燃え盛る火の海を作り出した。
「くっ、前が見えない! イグニスは何処だ!」
勇太は、炎の壁に阻まれ、相手の姿を見失う。熱波が肌を焼き、視界は赤く揺らめいていた。
その時、炎の壁の向こうから、唸りを上げて巨大な戦斧が飛来した!
「何!?」
勇太は、気配を頼りに辛うじてそれを避ける。模擬戦斧は彼のすぐ脇を通り過ぎ、そしてブーメランのように回転しながら、炎の壁の向こう側、イグニスの手元に戻ってきた。
「どうだ、ユウタ! この火の海が有る限り、勇太……お前は俺に近づけない!」
イグニスの声が、炎の向こうから響く。続けざまに、見えない位置から戦斧が何度も投げつけられる。
「チイイッ!」
勇太は、飛来する斧を必死に避け続ける。防戦一方だ。
(どうする!? 火の海をどうやって突破する!? )
「どうした、ユウタ! もう終わりか!? 降参するか?」
イグニスの挑発的な声が飛ぶ。
その時だった。
「勇太さーん! 頑張ってー!」
観客席から、キャルルの必死な声援が、不思議と鮮明に勇太の耳に届いた。
「キャルル……!」
(そうだ……。キャルルも、イグニスも、この世界の人間は、当たり前のように闘気を使える。僕は、地球の知識やスキルに頼ってばかりいたけど、この世界に来て、この世界の理の中で生きている。ならば……俺にだって、使えるはずだ!)
勇太は、飛来する斧を最後にかわすと、燃え盛る炎の前で、目を閉じて薙刀を構えた。そして、心の奥底、魂の中心に意識を集中させる。
(俺の力……俺だけの技……!)
勇太は精神統一をした。すると、彼の体から、淡く、しかし清浄な蒼い光が溢れ出し、薙刀に吸い込まれるように勇太の闘気が注入される。模擬薙刀が、まるで魂を宿したかのように、微かに輝き始めた。
「行くぞ!」
勇太は目を見開き、迷いなく火の海に突っ込む。
「馬鹿な! 死ぬぞ!」
イグニスが、その無謀な行動に驚愕の声を上げた。
炎に包まれながらも、勇太は怯まない。彼は、蒼く輝く薙刀を大きく振りかぶった。
「俺の流儀だ! 我流・天波(がりゅう・てんぱ)!!」
薙刀から放たれた闘気の斬撃が、蒼い波となって燃え盛る火の海を真っ二つに割る!
「そ、そんな……バカな!?」
イグニスは、目の前の信じられない光景に言葉を失い、慌てて斧で待ち受ける。
炎の道を通って、勇太が姿を現した。彼は、残った全闘気を、その蒼く輝く薙刀に注入する。
「行くぞ!イグニス!!我流・隼斬り(はやぶさぎり)!」
勇太は、隼のごとき電光石火の踏み込みで、一瞬にしてイグニスの懐に飛び込み、その胴体に強烈な斬り上げをぶちかました。
イグニスの時は止まった。
凄まじい衝撃に、息が止まる。イグニスの手から、戦斧が滑り落ち、カラン、と音を立てた。
「……イグニス、ありがとう。 おかげで、新しい力に気づけた」
勇太は、静かに薙刀を下ろし、友に告げた。
「ゆ、勇太……。 へへ……強えじゃねえか、お前……」
イグニスは、満足そうに笑うと、ゆっくりとその場に倒れた。
闘技場は、一瞬の静寂に包まれた。そして、審判が、震える声で高らかに叫んだ。
「……しょ、勝者! 勇太殿ーーーっ!!」
その瞬間、コロッセオ・アウストラは、この日一番の、地鳴りのような大歓声に響き渡った。
帝都武術大会「獅子王祭」。その頂点に立ったのは、東の国から来た、無名の、しかし誰よりも強く優しい勇者だった。
22
あなたにおすすめの小説
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる