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第三章 マルストア領へ
EP 11
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悪魔のトレーニングと騎士団長の驚愕
マルストアの領主執務室に、勇太は三人の女性を呼び出していた。騎士団長のマンミヤ、そしてパーティーの仲間であるキャルルとリーシャだ。その少し改まった雰囲気に、キャルルはそわそわと落ち着かない様子だった。
「ユ、ユウタさん……。私と、リーシャさんと、それにマンミヤさんまで……。一体、どんな話が有るんだ……」
キャルルは、もじもじとしながら、頬を赤らめる。
「きゃ~! まさか、ついに……! 心の準備が~!……って、え? マンミヤさんも何故居るの? まさか……三股なの!?」
「なっ……!?」
「キャルル様は何を言ってるんだ? 『さんまた』とは一体……」
キャルルの突拍子もない叫びに、勇太は椅子からずり落ちそうになり、マンミヤはケンタウロスの蹄で困惑したように床を掻いた。
「さぁ? 俺には何のことだか……。えっと、気を取り直して。今日、三人に来て貰ったのは、騎士団の訓練に付いてだ」
勇太は咳払いをして、本題に入った。
「訓練、でありますか。現在は、騎士団の練度を維持するため、基礎訓練に走り込み、対人戦闘訓練を毎日やらせていますが」
マンミヤが、真面目な顔で報告する。
「うん、大事だよね。 基礎体力と技術は、どんな時でも裏切らない。だけど、もし、その厳しい訓練を、一日に何回も出来たら? どうなると思いますか?」
「……は? 言ってる意味が分かりかねますが。一度限界まで追い込めば、回復には丸一日、あるいはそれ以上かかります。無茶をすれば、兵が潰れるだけです」
マンミヤは、当然のことを言う、という表情だ。
「そこで、超回復っていう考え方があるんだ」
勇太は、ホワイトボード(もちろんスキルで出したものだ)に、簡単な筋肉の図を描き始めた。
「人間……まあ、ケンタウロスやエルフ、獣人も同じだと思うけど、厳しい鍛錬をすれば筋肉が壊れて、その後に栄養を取り、しっかり休んで回復させることで、以前より筋肉量は増えて強くなる。 いわゆる『超回復』が起きるんだ」
「そ、そうなんですね!」
「初めて聞いたわ。知らなかったわね」
キャルルとリーシャは、勇太の医学的な説明に感心したように聞き入っている。
「そう。問題は、この『回復』に時間がかかることだ。でも、もし、その時間を魔法でショートカットできたら?」
勇太は、キャルルとリーシャに向き直った。
「これから、騎士団の鍛練が終わったらすぐに、キャルルやリーシャに回復して貰い、栄養補給を挟んですぐに次の鍛練を行って貰います。このサイクルを、1日に何度もして貰います」
「な、何度も!?」
マンミヤが、信じられないといった顔で叫んだ。
「ええ。そうすれば、意図的に超回復のサイクルを高速で回せる。理論上は、短期間に兵士たちの身体能力を飛躍的に強くなれます」
「そ、その為に、私達を呼んだんですね……」
キャルルは、ようやく勇太の意図を理解し、ゴクリと喉を鳴らした。
「……勇太。 あなた、たまに悪魔に見えてきたわ」
リーシャが、そのあまりにも効率的で、ある意味人間性を無視したトレーニング方法に、少し引いたような目で勇太を見る。
だが、一人だけ、その瞳を爛々と輝かせている者がいた。騎士団長のマンミヤだ。
「……素晴らしい」
彼女は、わなわなと震えながら、勇太の前に進み出た。
「悪魔……? いいえ、これは革命です! 我が騎士団が、大陸最強の部隊になるための、天啓だ!」
彼女は、その場で片膝をつき、勇太に深々と頭を下げた。
「勇太様! いや、その画期的な方法を、是非とも我が騎士団にやらせて下さい! このマンミヤ、どんな過酷な訓練にも、兵を率いてついて行きます!」
真面目すぎる彼女にとって、勇太の提案は、理想の騎士団を作り上げるための、まさに夢のような方法論に思えたのだった。
こうして、マルストア騎士団の、地獄の(しかし、超効率的な)強化合宿が始まることが決定した。
マルストアの領主執務室に、勇太は三人の女性を呼び出していた。騎士団長のマンミヤ、そしてパーティーの仲間であるキャルルとリーシャだ。その少し改まった雰囲気に、キャルルはそわそわと落ち着かない様子だった。
「ユ、ユウタさん……。私と、リーシャさんと、それにマンミヤさんまで……。一体、どんな話が有るんだ……」
キャルルは、もじもじとしながら、頬を赤らめる。
「きゃ~! まさか、ついに……! 心の準備が~!……って、え? マンミヤさんも何故居るの? まさか……三股なの!?」
「なっ……!?」
「キャルル様は何を言ってるんだ? 『さんまた』とは一体……」
キャルルの突拍子もない叫びに、勇太は椅子からずり落ちそうになり、マンミヤはケンタウロスの蹄で困惑したように床を掻いた。
「さぁ? 俺には何のことだか……。えっと、気を取り直して。今日、三人に来て貰ったのは、騎士団の訓練に付いてだ」
勇太は咳払いをして、本題に入った。
「訓練、でありますか。現在は、騎士団の練度を維持するため、基礎訓練に走り込み、対人戦闘訓練を毎日やらせていますが」
マンミヤが、真面目な顔で報告する。
「うん、大事だよね。 基礎体力と技術は、どんな時でも裏切らない。だけど、もし、その厳しい訓練を、一日に何回も出来たら? どうなると思いますか?」
「……は? 言ってる意味が分かりかねますが。一度限界まで追い込めば、回復には丸一日、あるいはそれ以上かかります。無茶をすれば、兵が潰れるだけです」
マンミヤは、当然のことを言う、という表情だ。
「そこで、超回復っていう考え方があるんだ」
勇太は、ホワイトボード(もちろんスキルで出したものだ)に、簡単な筋肉の図を描き始めた。
「人間……まあ、ケンタウロスやエルフ、獣人も同じだと思うけど、厳しい鍛錬をすれば筋肉が壊れて、その後に栄養を取り、しっかり休んで回復させることで、以前より筋肉量は増えて強くなる。 いわゆる『超回復』が起きるんだ」
「そ、そうなんですね!」
「初めて聞いたわ。知らなかったわね」
キャルルとリーシャは、勇太の医学的な説明に感心したように聞き入っている。
「そう。問題は、この『回復』に時間がかかることだ。でも、もし、その時間を魔法でショートカットできたら?」
勇太は、キャルルとリーシャに向き直った。
「これから、騎士団の鍛練が終わったらすぐに、キャルルやリーシャに回復して貰い、栄養補給を挟んですぐに次の鍛練を行って貰います。このサイクルを、1日に何度もして貰います」
「な、何度も!?」
マンミヤが、信じられないといった顔で叫んだ。
「ええ。そうすれば、意図的に超回復のサイクルを高速で回せる。理論上は、短期間に兵士たちの身体能力を飛躍的に強くなれます」
「そ、その為に、私達を呼んだんですね……」
キャルルは、ようやく勇太の意図を理解し、ゴクリと喉を鳴らした。
「……勇太。 あなた、たまに悪魔に見えてきたわ」
リーシャが、そのあまりにも効率的で、ある意味人間性を無視したトレーニング方法に、少し引いたような目で勇太を見る。
だが、一人だけ、その瞳を爛々と輝かせている者がいた。騎士団長のマンミヤだ。
「……素晴らしい」
彼女は、わなわなと震えながら、勇太の前に進み出た。
「悪魔……? いいえ、これは革命です! 我が騎士団が、大陸最強の部隊になるための、天啓だ!」
彼女は、その場で片膝をつき、勇太に深々と頭を下げた。
「勇太様! いや、その画期的な方法を、是非とも我が騎士団にやらせて下さい! このマンミヤ、どんな過酷な訓練にも、兵を率いてついて行きます!」
真面目すぎる彼女にとって、勇太の提案は、理想の騎士団を作り上げるための、まさに夢のような方法論に思えたのだった。
こうして、マルストア騎士団の、地獄の(しかし、超効率的な)強化合宿が始まることが決定した。
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