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第三章 マルストア領へ
EP 21
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城で密議を交わした数日後、勇太は領主執務室で頭を抱えていた。目の前の羊皮紙には、ダボルグとドルグが描いた工場の初期設計図と、鉱脈開発に必要な人員や資材の予算案が並んでいる。どれもマルストアの未来を飛躍させるものだが、同時に莫大な初期投資が必要なことを見せつけていた。
「工場建設に、鉱脈開発……。どちらも絶対に必要だ。でも、そのためにはやっぱり原資がいる。缶詰やポーションが軌道に乗るまでのキャッシュフローを考えると、もっと早く、確実に利益を出せる次の一手を考えないと……」
勇太は思考を巡らせる。今、マルストアで最も順調に育っている資産は何か。答えはすぐに出た。痩せた土地でも力強く育つ、あの作物だ。
「さつまいも……。よし、決めた!」
彼は椅子から立ち上がると、一直線にドルグの工房へと向かった。工房は相変わらず炉の熱気と、リズミカルな槌音に満ちている。
「よう、勇太様。どうしたんでぃ? また何か面白いもんでも思いついたか?」
汗だくで槌を振るっていたドルグが、ニヤリと笑って勇太を迎えた。
「ええ、その通りです。ドルグさん、ちょっと凄いものがあるんですけど」
勇太はそう言うと、おもむろに「地球ショッピング」を起動した。彼の目の前に、すりガラスの美しい瓶と、一冊の本が出現する。瓶の中では、透明な液体が静かに揺れていた。
「な、何だそりゃ!?」ドルグは目を丸くする。勇太の不思議なスキルにはもう慣れたが、その度に度肝を抜かれる。「その硝子の作り……滑らかで、寸分の歪みもねえ。大した業物だ」
「中身はもっと凄いですよ」勇太はにこやかに言うと、工房にあった杯に、瓶からとくとくと液体を注いだ。途端に、芳醇で、どこか甘い独特の香りが、鉄と汗の匂いが満ちた工房に広がる。
「ま、お一つどうぞ」
「ふん、小僧が美味いって言う酒が、どれほどのモンか……」
ドルグは疑り深そうに杯を受け取ると、ぐいっと一気に煽った。
その瞬間、ドワーフの匠の時間が、止まった。
「――かぁ~~~~ッ!!」
次の瞬間、彼は天を仰いで絶叫した。叩きつけるような強いアルコールの刺激。しかし、そのすぐ後から、鼻腔を抜ける豊潤な芋の香りと、喉の奥に残るクリアで深い甘み。全身の血が、カッと熱くなる。
「う、旨めぇ……! なんだこの酒は!? 今まで俺が飲んできたエールなんざ、泥水じゃねえか! こんな旨い酒が、この世にあったとは……!」
ドルグは、生まれて初めて極上の酒に出会った子供のように、興奮して目を輝かせている。
「これは『芋焼酎』っていうんです。そして、これはさつまいもから作れます」
勇太は、もう一つの切り札である『本格焼酎の作り方』という本を、ドルグの前に置いた。
「この酒を、マルストアの新しい特産品にしたい。ドルグさん、作ってくれますね?」
ドルグは、勇太の言葉と本を交互に見つめ、そして、雷に打たれたような顔で叫んだ。
「当たり前だ! やってやろうじゃねえか! さつまいもから、この黄金の酒を造り出すだと!? 面白え……面白すぎるぜ! 任せとけ! このドルグ様が、大陸中の誰もがひれ伏す、最高の蒸留器を組み上げて、史上最高の酒を造ってやらあ!」
新たな傑作の誕生を確信したドワーフの魂が、再び工房で燃え上がった。マルストアの産業革命を支える、新たな資金源が、今、産声を上げようとしていた。
「工場建設に、鉱脈開発……。どちらも絶対に必要だ。でも、そのためにはやっぱり原資がいる。缶詰やポーションが軌道に乗るまでのキャッシュフローを考えると、もっと早く、確実に利益を出せる次の一手を考えないと……」
勇太は思考を巡らせる。今、マルストアで最も順調に育っている資産は何か。答えはすぐに出た。痩せた土地でも力強く育つ、あの作物だ。
「さつまいも……。よし、決めた!」
彼は椅子から立ち上がると、一直線にドルグの工房へと向かった。工房は相変わらず炉の熱気と、リズミカルな槌音に満ちている。
「よう、勇太様。どうしたんでぃ? また何か面白いもんでも思いついたか?」
汗だくで槌を振るっていたドルグが、ニヤリと笑って勇太を迎えた。
「ええ、その通りです。ドルグさん、ちょっと凄いものがあるんですけど」
勇太はそう言うと、おもむろに「地球ショッピング」を起動した。彼の目の前に、すりガラスの美しい瓶と、一冊の本が出現する。瓶の中では、透明な液体が静かに揺れていた。
「な、何だそりゃ!?」ドルグは目を丸くする。勇太の不思議なスキルにはもう慣れたが、その度に度肝を抜かれる。「その硝子の作り……滑らかで、寸分の歪みもねえ。大した業物だ」
「中身はもっと凄いですよ」勇太はにこやかに言うと、工房にあった杯に、瓶からとくとくと液体を注いだ。途端に、芳醇で、どこか甘い独特の香りが、鉄と汗の匂いが満ちた工房に広がる。
「ま、お一つどうぞ」
「ふん、小僧が美味いって言う酒が、どれほどのモンか……」
ドルグは疑り深そうに杯を受け取ると、ぐいっと一気に煽った。
その瞬間、ドワーフの匠の時間が、止まった。
「――かぁ~~~~ッ!!」
次の瞬間、彼は天を仰いで絶叫した。叩きつけるような強いアルコールの刺激。しかし、そのすぐ後から、鼻腔を抜ける豊潤な芋の香りと、喉の奥に残るクリアで深い甘み。全身の血が、カッと熱くなる。
「う、旨めぇ……! なんだこの酒は!? 今まで俺が飲んできたエールなんざ、泥水じゃねえか! こんな旨い酒が、この世にあったとは……!」
ドルグは、生まれて初めて極上の酒に出会った子供のように、興奮して目を輝かせている。
「これは『芋焼酎』っていうんです。そして、これはさつまいもから作れます」
勇太は、もう一つの切り札である『本格焼酎の作り方』という本を、ドルグの前に置いた。
「この酒を、マルストアの新しい特産品にしたい。ドルグさん、作ってくれますね?」
ドルグは、勇太の言葉と本を交互に見つめ、そして、雷に打たれたような顔で叫んだ。
「当たり前だ! やってやろうじゃねえか! さつまいもから、この黄金の酒を造り出すだと!? 面白え……面白すぎるぜ! 任せとけ! このドルグ様が、大陸中の誰もがひれ伏す、最高の蒸留器を組み上げて、史上最高の酒を造ってやらあ!」
新たな傑作の誕生を確信したドワーフの魂が、再び工房で燃え上がった。マルストアの産業革命を支える、新たな資金源が、今、産声を上げようとしていた。
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