108 / 153
第二章 神竜の守護者
EP 38
しおりを挟む
王たちの休日、釣り糸、そして神竜の心
その日、アルニア公爵領を流れる穏やかな川のほとりには、信じがたい光景が広がっていた。
竜人族の王ドラグニールが、その威厳ある巨体を丸め、静かに釣り糸を垂れている。その隣に、ふらりと一人の男が姿を現した。
「やあ、元魔王殿。ご機嫌いかがかな」
ドラグニールが、視線も動かさずに声をかける。
「フハハ、ああ、おかげさまでな。肩の荷が下りて、すっかり気楽になったぜ。あんたもどうだ?そろそろ、その重たい冠を誰かに押し付けて、のんびりしては」
魔王の座をマモルに押し付け、悠々自適の隠居生活を送るサルバロスは、実に楽しそうだった。
「……ああ。若手のドランゴに席を譲りたいのは、やまやまなんじゃがな」ドラグニールは、深いため息をついた。「いかんせん、あやつはまだ血の気が多すぎる。今のあやつに国を任せれば、再び戦火を招くだけじゃ。まだまだ、先は長いわい」
その時だった。
「お二人さん、お揃いで。隣、失礼するよ」
ひょっこりと現れたのは、釣竿を一本抱えたマモルだった。彼は、二人の王の間に、何の遠慮もなく腰を下ろし、慣れた手つきで釣り糸を垂らし始めた。
「マモル~!」
そのマモルの足元に、神竜アルカがとてとてと駆け寄り、その膝の上にちょこんと座ってべったりと甘え始める。
ドラグニールは、その光景に、目を細めた。
「おお……アルカ様だ。なんと、健やかにお育ちで……。アルカ様さえ、その気になってくだされば、ワシも安心して、竜人族の未来を任せられるのじゃがな」
その言葉には、滅びゆく一族の王としての、切なる願いが込められていた。
「ハッ、まだただのガキじゃないか」サルバロスが、面白そうに茶々を入れる。
「神竜に、人間の常識は通用せん」ドラグニールは、静かに反論した。「アルカ様が望めば、一夜にして、我らを導く偉大なるお姿へと成長されることも、ありえるのじゃ」
「へぇ、そうなんすね。アルカ、おっきくなれるのか?」
マモルは、膝の上のアルカの頭を撫でながら、軽い口調で尋ねた。
すると、アルカは、マモルの顔を見上げ、その瑠璃色の瞳で、はっきりと告げた。
「アルカは、マモルと、いっしょに居たい」
その、あまりにも純粋で、揺るぎない一言。
ドラグニールとサルバロスは、一瞬、言葉を失った。
やがて、サルバロスが、腹を抱えて笑い出した。
「フハハハハ!だそうだ、ドラグニール!こりゃあ、あんたが竜人族をまとめる日々は、当分終わりそうにないな!」
「…………やれやれ、だ」
ドラグニールは、天を仰ぎ、深すぎるため息をついた。しかし、その表情は、どこか吹っ切れたように、穏やかだった。
大陸最強と謳われた二人の王と、異世界から来た新たな魔王(本人は否定)。
そして、世界の運命をその身に秘めた、小さな神竜。
彼らが並んで釣り糸を垂れる、奇妙で、そしてどこまでも平和な光景。
それこそが、マモルが創り上げようとしている「理想郷」の、最初の、そして最も美しい形なのかもしれない。
川面には、ただ、穏やかな時間が流れていくだけだった。
その日、アルニア公爵領を流れる穏やかな川のほとりには、信じがたい光景が広がっていた。
竜人族の王ドラグニールが、その威厳ある巨体を丸め、静かに釣り糸を垂れている。その隣に、ふらりと一人の男が姿を現した。
「やあ、元魔王殿。ご機嫌いかがかな」
ドラグニールが、視線も動かさずに声をかける。
「フハハ、ああ、おかげさまでな。肩の荷が下りて、すっかり気楽になったぜ。あんたもどうだ?そろそろ、その重たい冠を誰かに押し付けて、のんびりしては」
魔王の座をマモルに押し付け、悠々自適の隠居生活を送るサルバロスは、実に楽しそうだった。
「……ああ。若手のドランゴに席を譲りたいのは、やまやまなんじゃがな」ドラグニールは、深いため息をついた。「いかんせん、あやつはまだ血の気が多すぎる。今のあやつに国を任せれば、再び戦火を招くだけじゃ。まだまだ、先は長いわい」
その時だった。
「お二人さん、お揃いで。隣、失礼するよ」
ひょっこりと現れたのは、釣竿を一本抱えたマモルだった。彼は、二人の王の間に、何の遠慮もなく腰を下ろし、慣れた手つきで釣り糸を垂らし始めた。
「マモル~!」
そのマモルの足元に、神竜アルカがとてとてと駆け寄り、その膝の上にちょこんと座ってべったりと甘え始める。
ドラグニールは、その光景に、目を細めた。
「おお……アルカ様だ。なんと、健やかにお育ちで……。アルカ様さえ、その気になってくだされば、ワシも安心して、竜人族の未来を任せられるのじゃがな」
その言葉には、滅びゆく一族の王としての、切なる願いが込められていた。
「ハッ、まだただのガキじゃないか」サルバロスが、面白そうに茶々を入れる。
「神竜に、人間の常識は通用せん」ドラグニールは、静かに反論した。「アルカ様が望めば、一夜にして、我らを導く偉大なるお姿へと成長されることも、ありえるのじゃ」
「へぇ、そうなんすね。アルカ、おっきくなれるのか?」
マモルは、膝の上のアルカの頭を撫でながら、軽い口調で尋ねた。
すると、アルカは、マモルの顔を見上げ、その瑠璃色の瞳で、はっきりと告げた。
「アルカは、マモルと、いっしょに居たい」
その、あまりにも純粋で、揺るぎない一言。
ドラグニールとサルバロスは、一瞬、言葉を失った。
やがて、サルバロスが、腹を抱えて笑い出した。
「フハハハハ!だそうだ、ドラグニール!こりゃあ、あんたが竜人族をまとめる日々は、当分終わりそうにないな!」
「…………やれやれ、だ」
ドラグニールは、天を仰ぎ、深すぎるため息をついた。しかし、その表情は、どこか吹っ切れたように、穏やかだった。
大陸最強と謳われた二人の王と、異世界から来た新たな魔王(本人は否定)。
そして、世界の運命をその身に秘めた、小さな神竜。
彼らが並んで釣り糸を垂れる、奇妙で、そしてどこまでも平和な光景。
それこそが、マモルが創り上げようとしている「理想郷」の、最初の、そして最も美しい形なのかもしれない。
川面には、ただ、穏やかな時間が流れていくだけだった。
11
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる