9 / 24
EP 9
しおりを挟む
地獄の門、開くとき
土煙が晴れ、静寂が戻った壊れた牢獄の前。
世一は足元で伸びている巨体を、草履のつま先で軽く蹴った。
「おい、起きろデカブツ」
「ぐ、ぐっ……」
和勇牛が呻き声を上げ、重い瞼を開ける。その視界に、自分を見下ろす世一のニヒルな笑みが映った。
「お前は俺に負けた。コレからお前は俺の物だ。頭に叩き込め」
理不尽なまでの勝者宣言。だが、地獄とは力が全ての修羅の国である。
和勇牛はふらつきながらも巨体を起こし、その場に片膝をついて頭を垂れた。
「ぐ……承知つかまつった。我も武人の端くれ……力比べで我に勝ちし者は、主として仰ごう」
「殊勝な心がけだな」
世一は満足げに頷くと、煙管の灰をパンと払い、何気ない口調で言った。
「じゃあ行くか。今から貴様らの言う、大神とやらを破壊し、世界を壊す」
「な!」
和勇牛が弾かれたように顔を上げた。
「大、大神様を殺すと言うのですか!? 世界を!? 正気でございますか!?」
主と認めた直後の命令が、あまりにも常軌を逸していた。
天界の頂点、創造主たる大神に喧嘩を売るなど、蟻が象に挑むようなものだ。
「む、無理でございます! 幾ら主が強いといっても、大神様は殺せません! 次元が違いまする!」
「黙れ」
「ひっ」
世一の双眸が、冷たく、しかし鋭く和勇牛を射抜く。
先ほどの拳の痛みが蘇り、巨鬼は瞬時に萎縮した。
「誰が殺すと言った? 俺は『破壊』しにいくと言ったぞ」
「は……はい……?」
和勇牛は目を白黒させた。殺すのではなく、破壊する。その言葉の綾が理解できない。
だが、世一にとっては明確な違いがあった。単に命を奪う「殺害」など、彼にとっては日常茶飯事の作業に過ぎない。彼がやろうとしているのは、結を縛り、自分を地獄へ落とした、この世界の「仕組み」そのものを粉々にすることだ。
世一は呆けている門番を放置し、傍らの女神を見た。
「結」
「は、ハイ!」
結は背筋を伸ばした。その表情には、もう迷いも涙もない。あるのは、愛する男への狂信的なまでの忠誠心だけだ。
「今すぐ大神とやらの場に案内しろ」
「は、はい! では地獄門を開き、大神への道を開きましょう!」
結はくるりと和勇牛に向き直り、かつての、いや、かつて以上の威厳を持って命じた。
「和勇牛! 地獄と天界を繋ぐ禁忌の門を開けなさい!」
「は! ……覚悟を決めました」
和勇牛は立ち上がり、鉄棒を力強く握りしめた。その全身から、青黒い闘気が立ち上る。
「この和勇牛、主の為、鬼神となりて主の歩く道を開きましょう! たとえ相手が神仏であろうとも!」
「私は世一様の手となり足となり、どこまでも付いて行きます! 世一様の邪魔をするものは、私が全て排除します!」
結もまた、着物の袖をたすき掛けにし、その白く美しい手に呪術の光を灯した。
「へっ、威勢だけはいいな」
世一は口角を上げ、二人を従えて歩き出す。
目指すは地獄の最奥、天界へと逆流する滝の裏にあるという「裏門」。
悪党と、鬼と、堕ちた女神。
世界を壊すための旅が、今、始まった。
土煙が晴れ、静寂が戻った壊れた牢獄の前。
世一は足元で伸びている巨体を、草履のつま先で軽く蹴った。
「おい、起きろデカブツ」
「ぐ、ぐっ……」
和勇牛が呻き声を上げ、重い瞼を開ける。その視界に、自分を見下ろす世一のニヒルな笑みが映った。
「お前は俺に負けた。コレからお前は俺の物だ。頭に叩き込め」
理不尽なまでの勝者宣言。だが、地獄とは力が全ての修羅の国である。
和勇牛はふらつきながらも巨体を起こし、その場に片膝をついて頭を垂れた。
「ぐ……承知つかまつった。我も武人の端くれ……力比べで我に勝ちし者は、主として仰ごう」
「殊勝な心がけだな」
世一は満足げに頷くと、煙管の灰をパンと払い、何気ない口調で言った。
「じゃあ行くか。今から貴様らの言う、大神とやらを破壊し、世界を壊す」
「な!」
和勇牛が弾かれたように顔を上げた。
「大、大神様を殺すと言うのですか!? 世界を!? 正気でございますか!?」
主と認めた直後の命令が、あまりにも常軌を逸していた。
天界の頂点、創造主たる大神に喧嘩を売るなど、蟻が象に挑むようなものだ。
「む、無理でございます! 幾ら主が強いといっても、大神様は殺せません! 次元が違いまする!」
「黙れ」
「ひっ」
世一の双眸が、冷たく、しかし鋭く和勇牛を射抜く。
先ほどの拳の痛みが蘇り、巨鬼は瞬時に萎縮した。
「誰が殺すと言った? 俺は『破壊』しにいくと言ったぞ」
「は……はい……?」
和勇牛は目を白黒させた。殺すのではなく、破壊する。その言葉の綾が理解できない。
だが、世一にとっては明確な違いがあった。単に命を奪う「殺害」など、彼にとっては日常茶飯事の作業に過ぎない。彼がやろうとしているのは、結を縛り、自分を地獄へ落とした、この世界の「仕組み」そのものを粉々にすることだ。
世一は呆けている門番を放置し、傍らの女神を見た。
「結」
「は、ハイ!」
結は背筋を伸ばした。その表情には、もう迷いも涙もない。あるのは、愛する男への狂信的なまでの忠誠心だけだ。
「今すぐ大神とやらの場に案内しろ」
「は、はい! では地獄門を開き、大神への道を開きましょう!」
結はくるりと和勇牛に向き直り、かつての、いや、かつて以上の威厳を持って命じた。
「和勇牛! 地獄と天界を繋ぐ禁忌の門を開けなさい!」
「は! ……覚悟を決めました」
和勇牛は立ち上がり、鉄棒を力強く握りしめた。その全身から、青黒い闘気が立ち上る。
「この和勇牛、主の為、鬼神となりて主の歩く道を開きましょう! たとえ相手が神仏であろうとも!」
「私は世一様の手となり足となり、どこまでも付いて行きます! 世一様の邪魔をするものは、私が全て排除します!」
結もまた、着物の袖をたすき掛けにし、その白く美しい手に呪術の光を灯した。
「へっ、威勢だけはいいな」
世一は口角を上げ、二人を従えて歩き出す。
目指すは地獄の最奥、天界へと逆流する滝の裏にあるという「裏門」。
悪党と、鬼と、堕ちた女神。
世界を壊すための旅が、今、始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる