異世界転生×ユニークスキル【ランダムボックス】で無双する!?

月神世一

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第二章 月下の誓い

EP 8

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「月下の酒盛り、男たちの選択」
ゼルセスの街外れ、静かな川のほとり。
街での騒ぎを避けるように、三人は即席の野営地を作っていた。
パチパチと、焚き火が爆ぜる音が響く。
「むにゃ……ルークス様ぁ……怒らないでぇ……」
毛布にくるまった美月は、先程までの号泣と酔いが回ったせいで、すでに夢の中だ。
泣き腫らした目は赤く、寝顔は無防備そのもの。
焚き火を挟んで、リアスとルークスが向かい合って座っていた。
「……飲むか」
リアスが革袋に入った安酒を放り投げた。
ルークスはそれを受け取り、少し躊躇したが、栓を開けて一口煽った。
喉が焼けるような強烈な酒精。公爵家で飲む年代物のワインとは比べ物にならない、粗野な味だ。
「……不味いな」
「だろうな。だが、泥にまみれた後には丁度いい」
リアスはニヤリと笑い、自分の分を煽った。
しばらくの沈黙。ルークスが炎を見つめながら口を開く。
「……すまなかった。改めて詫びさせてくれ」
「しつこいぞ。治療費はもらった(治してもらった)。それでチャラだ」
リアスは焚き火に枝をくべながら、淡々と言葉を継いだ。
「それより、お前だ」
「私……か?」
「ああ。お前、強いな。人間にしては」
リアスのオッドアイが、ルークスを射抜く。
「剣技も、魔法も、超一流だ。俺が美月を庇わなきゃ、今頃俺たちは消し炭だっただろうよ。……だが」
リアスは言葉を切った。
「お前の剣は『重い』んだよ」
「重い……?」
「ああ。背負ってるもんが多すぎる。家の名誉だか、貴族の矜持だか知らんが……そんな煌びやかな鎧を着込んで、窮屈じゃないのか?」
ルークスはハッとして、自分の白銀の甲冑を見下ろした。
傷一つない、最高級のフルプレート。それは身を守る盾であり、同時に「アルヴィン公爵家」という立場そのものだ。
「美月が逃げ出した理由、分かってるんだろ?」
リアスの問いに、ルークスは苦しげに顔を歪めた。
手紙に書いてあった言葉。『貴方が好きなのはランダムボックス』『与えられるだけの女は終わり』。
「……ああ。私は彼女を鳥籠に閉じ込め、飾り立てて満足していた。彼女自身の輝きを信じず、私の理想を押し付けていたんだ」
「なら、どうする?」
リアスは酒袋を揺らし、突きつけるように言った。
「連れ戻すか? 『ごめんね』と言って、またあの立派な屋敷に閉じ込めるか? それとも、公爵家の力で無理やり守り続けるか?」
「それは……」
「それでは何も変わらん。また逃げられるぞ」
リアスは立ち上がり、眠る美月を見下ろした。
「こいつは阿呆で、弱くて、泣き虫だが……自分の足で立とうとしている。泥水を啜ってでも、お前の隣に並ぼうとしている」
リアスはルークスに向き直り、冷徹に告げた。
「貴様は選ばなければならない」
「選ぶ……?」
「公爵家で何不自由なく、綺麗なまま過ごすか。……それとも、全てをかなぐり捨てて、美月と共に泥にまみれるか」
リアスの言葉が、夜の冷気と共にルークスの胸に突き刺さる。
「両方は選べないぞ、お貴族様。あの煌びやかな鎧を着たままじゃ、こいつの隣は歩けない」
リアスはそれだけ言うと、「あとは勝手にしろ」とばかりに毛布をかぶり、横になった。
残されたルークスは、一人焚き火の前に取り残された。
安酒のボトルを握りしめる。
視線の先には、粗末な毛布にくるまって眠る美月。
そして、月明かりに照らされ、不気味なほど美しく輝く自分の鎧。
(私は……どうしたい?)
(公爵としての責務か。一人の男としての恋心か)
答えは、とっくに出ていた。
ただ、その一歩を踏み出す勇気がなかっただけだ。
父と母のように自由に生きたいと願いながら、領地のしがらみを言い訳にしていただけだ。
「……泥にまみれる、か」
ルークスは安酒を飲み干した。
喉が熱い。だが、その熱さは不思議と心地よかった。
彼は静かに立ち上がり、腰の聖剣を見つめた。
夜風が彼のプラチナブロンドを揺らす。その瞳から、迷いの色は消えていた。
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