空母艦長(45歳)の俺が、真珠湾直後に東條英機に転生。徹底した合理的戦略で『B-29と原爆』の未来を潰し、日本を勝ちに導く

月神世一

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EP 11

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大和の解体

1943年2月。

総理官邸の大本営政府連絡会議室は、殺気立った静寂に包まれていた。

議題は「対潜戦力への軍事資源集中に関する件」。実質、海軍の全面的な組織改編案だった。

坂上(東條)は、淡々と、しかし有無を言わせぬ口調で読み上げる。

「…以上をもって、海軍の最優先任務を『艦隊決戦』から『海上交通路の護衛と確保』へと変更する。これに伴い、連合艦隊を『南西諸島防衛艦隊』と『海上護衛総隊』に再編する」

「なっ…!?」

海軍軍令部総長、永野修身の顔が激しく引き攣る。

連合艦隊の解体。それは、海軍の「魂」と「誇り」を、一瞬にして踏みにじる行為だった。

「(東條)総理! 統帥権上、これは海軍に対する内政干渉…!」永野が、震える声で抗議する。

「内政干渉ではない。『生存』への合理的選択だ」

坂上は冷たく切り捨てた。

「敵潜水艦による撃沈率は、この一ヶ月でさらに悪化した。石油が届かず、今や海軍の燃料備蓄は危険水域だ。諸君らが誇る戦艦群は、このままでは演習すらできなくなる! 誇りとは、艦(フネ)が動いてこそ、初めて成り立つものだ!」

会議室の空気が爆発寸前になった、その時。

連合艦隊司令長官、山本五十六が、ゆっくりと席を立った。その動作は、重く、静謐だった。

「東條総理」

山本は、海軍の将校たちを振り返った。その眼光は、熱狂の渦中にあった真珠湾開戦時よりも、さらに鋭く、冷徹だった。

「…本職は、この改革案に賛同する」

「な、長官!?」

永野と、強硬派の海軍将校たちが、信じられないものを見る目で山本を見た。

彼らは、山本が東條の強権に屈してしまった、あるいは裏切ったのだと思った。

「山本君…」永野が呻く。

「永野総長」山本は、総長を遮った。「長官の任にある私が、対潜戦闘の失態の責を負わねばならん。そして…」

山本は、坂上(東條)に向き直った。

「総理、一点、質問させて頂きたい。貴官が推進される『新型爆弾研究(ニ号研究)』に必要な、高精度ベアリングの件ですが、解決の目処は?」

「絶望的だ」坂上は即答した。「ドイツからの輸入は途絶。国内での生産には時間がかかりすぎる。故に、このプロジェクトは頓挫する」

「では、これを」

山本は、机上の海軍の予算書を指差した。

「海軍の象徴。戦艦『大和』『武蔵』。主砲46センチ砲の旋回機構には、世界最高精度のベアリングが使われている。あれを、ニ号研究のために『徴発』されたし」

「な、なんだと!?」

会議室に、絶叫が響き渡った。

「大和の解体だと!?」

「主砲を撤去するのか!? 国辱だ!」

大和は、この時代の海軍将兵にとって、単なる兵器ではない。日本の技術と魂の結晶であり、最後の砦。その一部を、陸軍の原子爆弾研究に回すなど、神をも恐れぬ冒涜だった。

「山本君!」東條(坂上)までもが驚いた。彼は、この提案を裏で山本に打診していたが、公の場で、しかも山本自身が口にするとまでは思っていなかった。

山本は、海軍全員の憎悪を一身に受けながら、静かに答えた。

「総理。艦隊決戦の夢は、貴官に阻止された。大和は、もはや海に浮かぶ『最後の飾り』に過ぎん。飾りを守って、本土が原爆で焼かれる未来など、私は御免蒙る」

「大和は『護国の盾』として、その役割を変える。船体は対潜哨戒用の護衛空母の鋼材と化し、その『魂(ベアリング)』は、この国を救う『未来の兵器』となる」

山本は、海軍大臣の嶋田繁太郎に向き直った。

「海軍大臣。これをもって、連合艦隊司令長官として、総理の改革案と、大和の部品徴発を『断行』する。異論は、私が受ける」

海軍の将校たちは、反論の言葉を失った。彼らが崇拝するカリスマが、自らの手で海軍の象徴を破壊し、「国賊」たる東條に全面降伏したのだ。

坂上は、丸眼鏡の奥で、山本五十六の「犠牲的な合理性」に深く感謝した。

「…わかった」坂上は、重々しく言った。「この会議の決定事項とする。大和の徴発は、直ちに最高機密で実行せよ。海軍大臣、君も協力しろ」

会議が終了し、東條の執務室。

坂上は、山本と二人きりで向き合っていた。

「…山本君。感謝する。君の決断がなければ、海軍の改革は血を流していた」

「貴官に生かされた命ゆえ。それに、貴官の予言した『P-38』に撃ち落とされぬ以上、私は貴官の合理性を信じるしかない」

山本は、疲労の色を濃く浮かべながらも、決意に満ちていた。

「さて。これより、海軍は対潜哨戒と航空隊の本土防空に、組織の全てを捧げることになる。しかし、問題は、この改革に反発する若手だ」

「暗殺か」坂上は珈琲飴を噛み砕く。

「既に『冲鷹』で貴官を狙った者が出た。次は、私にも矛先が向かうだろう。東條総理の狂気に屈した『売国奴』として、な」

坂上は机上の地図を広げた。

「その通りだ。だからこそ、君には、しばらく『隠れて』指揮を執ってもらう」

「隠れる?」

「ああ。君は、海軍の若手にとっては『夢』だ。君が簡単に殺されたとあっては、彼らは暴走する。だが、君は死なない」

坂上は、山本を、本土から遠く離れたトラック諸島(彼が要塞化を命じた拠点)の、さらに奥地の無人島に、無線指揮所を設置して「潜伏」させることを提案した。

「君の指揮官としての声だけが、海軍を動かす。君の身の安全は、俺が極秘裏に派遣する陸軍の精鋭部隊が守る。…どうだ」

山本は、数秒考え、静かに笑った。

「…海軍のトップが、陸軍に命を預け、南方の無人島に隠れるか。これもまた、歴史に残りそうにない、滑稽な事実ですな」

「笑ってくれ。だが、生きてくれ。本土が焼かれる未来を阻止するまで」

二人の男は、東條の執務室で、誰も知らない「共闘」の盟約を強固にした。

外では、海軍の改革に激怒した中堅将校たちが、陸軍の強硬派と手を組み、「二人の国賊」(東條と山本)を討つための、さらに大規模なクーデター計画を密かに練り始めていた。

日本の運命は、今や、未来の記憶を持つ1佐と、死を拒否したカリスマ提督の手に委ねられていた。

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