空母艦長(45歳)の俺が、真珠湾直後に東條英機に転生。徹底した合理的戦略で『B-29と原爆』の未来を潰し、日本を勝ちに導く

月神世一

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EP 15

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七面鳥撃ちと雷鳴
1944年6月19日、マリアナ沖。
空は、日米合わせて千機に迫る航空機によって、埋め尽くされていた。
米軍のF6Fヘルキャット戦闘機隊は、熟練のパイロットが操る高性能機で、日本の旧式化した攻撃隊を次々と「七面鳥」のように撃ち落としていく。
「『大鳳(たいほう)』、被雷! 艦載機への引火により、大爆発!」
「『翔鶴(しょうかく)』、被弾多数! 傾斜復旧不能、総員退艦!」
連合艦隊司令長官、小沢治三郎は、旗艦の艦橋でその報告に奥歯を噛み締めた。
彼の目の前で、虎の子の機動部隊が、文字通り溶けていく。
だが、彼の脳裏には、東京の東條(坂上)と、トラックの山本(潜伏中)から送られた、狂気とも言える命令が焼き付いていた。
『敵空母ヲ顧ミルナ。目標ハ敵上陸船団ノミ』
「怯むな!」小沢は絶叫した。「第二次攻撃隊、目標変更! 敵輸送船団に全機突入せよ!」
「し、しかし長官! ヘルキャットの壁を抜けられません!」
「抜けずともよい! 1機でも突っ込み、敵の陸兵を道連れにせよ!」
日本の攻撃隊は、米空母群への攻撃を半ば放棄し、死を覚悟して、サイパン島に群がる米軍の上陸用舟艇(LST)や輸送船に、文字通りの「特攻」を開始した。
それは、坂上が最も嫌悪する「精神論」による攻撃ではなかった。
空母一隻の「コスト」と、敵の上陸師団数万人という「コスト」を天秤にかけた、坂上真一の冷徹な「合理主義」が生んだ、組織的な自爆戦術だった。
「LST-34、大破炎上!」「輸送船『リブラ』、沈没!」「弾薬運搬船に命中!」
米第5艦隊司令長官、スプルーアンスの元に、悪夢のような報告が飛び込む。
「馬鹿な! 日本艦隊は我々(空母)と戦わずに、輸送船を狙っているのか!?」
海戦の常識が、覆されていた。
その頃、サイパン島上空、高度1万メートル。
この戦いの「真の主役」が、静かに戦場に到着していた。
米陸軍航空隊所属、B-29「スーパーフォートレス」。東京への爆撃ルートを最終確認するため、高高度を悠々と飛行していた。
「見ろよ、下は地獄だ。だが、ここまで来れるジャップの戦闘機はいねえ」
機長が、コーヒーを飲もうとした、その瞬間だった。
「なっ…なんだ、あれは!?」
雲を突き破り、銀色の機体が、B-29と「同じ高度」まで一気に昇ってきた。
排気タービン(ターボ)の甲高い音。中島飛行機の試作迎撃機『天雷』だった。
「敵機! 3万フィートに敵機!」
B-29の乗組員がパニックに陥る。
『天雷』のパイロットは、坂上(東條)が陸軍大臣権限で集めた、射撃の天才たちだった。
「(目標、B-29。総理の言った通りの、化け物だ…!)」
パイロットは、照準器に敵を捉える。
「撃(テ)ッ!」
『天雷』の翼下に搭載された30ミリ機関砲が、火を噴いた。
それは、戦闘機を落とすためではなく、重爆撃機を一撃で粉砕するために設計された、坂上の「未来の知識」の弾丸だった。
数発の砲弾が、B-29の主翼付け根とエンジンに吸い込まれる。
次の瞬間、米軍の「戦略爆撃の切り札」は、空中で巨大な火球となり、マリアナの海に墜落していった。
東京・官邸地下壕。
坂上(東條)は、二つの相反する電文を、無表情で読んでいた。
電文(海軍):『大鳳』『翔鶴』『飛鷹』沈没。機動部隊ハ壊滅状態ナリ。シカシナガラ、敵上陸船団ニ多大ナ損害ヲ与エ、敵ノ上陸計画ヲ大幅ニ遅延セシメタルモノト認ム。小沢艦隊ハ、命令ニ従イ、撤退スル。
電文(陸軍):サイパン守備隊(栗林)ヨリ。敵新型重爆『B-29』一機ヲ、『天雷』隊ガ撃墜セリ。コレハ奇跡ナリ。
将校たちは、機動部隊の壊滅に青ざめ、B-29の撃墜に(それが何かもよく分からぬまま)わずかに沸き立った。
坂上は、珈琲飴を一つ、強く噛み砕いた。
(失った空母3隻、パイロット数百名。コストは高い。だが…)
彼は、壁の時計を見た。
(米軍の上陸計画は、これで最低でも数週間は遅延する。そして、B-29の護衛戦闘機が開発されるまで、奴らは簡単には東京に来れない)
彼は、受話器を取った。相手は、理化学研究所の仁科博士だ。
「俺だ。…ああ、海軍が時間を稼いだ。『3ヶ月』だ。何としても、3ヶ月以内に『実証機(テスト)』を間に合わせろ。この国の運命は、君の『ウラン』にかかっている」
マリアナ沖海戦は、日本の「戦術的」大敗北と、米国の「戦略的」計算ミスによって、幕を閉じた。
坂上は、自らの艦隊の「死体」の上に立ち、破滅の未来に対する「時間」を、金で買った。
だが、スプルーアンスも、ワシントンの米軍上層部も、今や理解していた。
日本は、B-29の価値を正確に理解し、それに対抗する迎撃機を、マリアナに「配備済み」だったという恐るべき事実を。
サイパン島は、もはや単なる前線基地ではなかった。
日米両国の「未来の兵器」が激突する、最初の戦場(グラウンド・ゼロ)となったのだ。
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