空母艦長(45歳)の俺が、真珠湾直後に東條英機に転生。徹底した合理的戦略で『B-29と原爆』の未来を潰し、日本を勝ちに導く

月神世一

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EP 19

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恐怖の天秤
1944年10月5日、ワシントンD.C.、ホワイトハウス。
大統領執務室(オーバルオフィス)は、夜明け前にもかかわらず、米国の最高権力者たちで埋め尽くされていた。陸軍長官スティムソン、海軍長官フォレスタル、統合参謀本部の面々、そしてマンハッタン計画の責任者であるロバート・オッペンハイマー博士。
彼らは全員、一枚の電文を凝視していた。
ウルシー環礁が地図から消滅したという報告と、スイス経由で叩きつけられた東條英機(坂上)からの「最後通牒」。
「…信じられん」
陸軍参謀総長ジョージ・マーシャルが、震える声で言った。
「日本が、我々より先に『爆弾』を完成させ、そして…使った」
トルーマン大統領は、大統領に就任して間もない(※この世界線ではルーズベルトが早期に急死した設定)が、すでにこの戦争で最大の決断を迫られていた。
「オッペンハイマー博士。我々のはどうなっている」
「…閣下」オッペンハイマーは青ざめた顔で答えた。「アラモゴルドでの実験(トリニティ実験)は、最短でも来年(1945年)の夏。実用化はその後です」
「つまり!」海軍作戦部長アーネスト・キングが激昂した。「我々は、核兵器を持つ日本に対し、核兵器で報復できない! 丸腰だということか!」
「それだけではありません」オッペンハイマーは続けた。
「ウルシーで使われたのが『旭光』第一号だとして、彼らが第二号、第三号を持っていない保証は、どこにもない」
トルーマンは、坂上の電文を指差した。
「彼らは、サイパンのB-29基地、あるいは真珠湾を脅している。…これは、ハッタリか?」
「ハッタリだと賭けるには、リスクが高すぎます」オッペンハイマーは首を振った。「ウルシーという『事実』がある以上、彼らの脅しは『現実』として対処せねばなりません。閣下、核戦争は…人類の破滅を意味します」
「では、どうしろと!」キングが吼えた。「ジャップの要求を飲めと? 占領もせず、天皇制も維持しろと? ウルシーで死んだ何万もの兵士たちはどうなる!」
「キング提督!」トルーマンが制した。
「今、我々がサイパンからB-29を飛ばせば、彼らは真珠湾に核を落とすかもしれんのだぞ! それでも本土侵攻(ダウンフォール作戦)を強行するのか? 核の援護もなく? 彼らが『旭光』を、上陸部隊(九州)の頭上で炸裂させたら?」
会議室は、絶望的な沈黙に包まれた。
坂上真一が放った一発の「旭光」は、アメリカの「物量」という絶対的な前提を、根底から覆した。
戦争は、もはや戦艦の数でも、兵士の数でもなくなっていた。
「…交渉に応じる」
トルーマンは、苦渋に満ちた決断を下した。
「だが、時間稼ぎだ。我々の『爆弾』が完成するまでの時間稼ぎに過ぎん。…それと同時に、彼らの要求を探れ。彼らが本当に『第二弾』を持っているのか、スイスの外交官に総力を挙げて探らせろ」
1944年10月下旬、スイス・ジュネーブ。
雪に覆われたレマン湖のほとりで、日米の極秘の和平交渉が始まった。
アメリカ側は、アレン・ダレス(OSS、後のCIA長官)。
日本側は、駐在武官と外交官。
そして、その交渉のテーブルに、世界を驚愕させる人物が現れた。
「連合艦隊司令長官、山本五十六である」
「死んだはずの男」の登場は、ダレスに「日本(東條)は、我々の想像を絶する『何か』を隠している」と確信させるのに十分だった。
「ダレス君」山本は、死人のような静けさで切り出した。「我が国は、戦争を終わらせる用意がある。東條総理からの条件は、電文の通りだ」
ダレスは、本国からの指示通り、時間稼ぎと揺さぶりを試みた。
「山本提督。貴国の要求は、敗戦国(日本)のものではなく、戦勝国(アメリカ)のもののようだ。国体護持はともかく、本土の非占領など、到底受け入れられん」
山本は、静かに一枚の写真をテーブルに置いた。
それは、ウルシー環礁の、上空から撮影された「消滅後」の写真だった。
「ダレス君。これは『戦争』ではない。『駆除』だ。
東條総理は、この『駆除』を、サイパンで繰り返す用意がある。そうなれば、貴国が心血を注いだB-29計画は、基地ごと消滅する」
「脅しですかな」
「事実だ」
山本は、続けた。
「東條総理は、合理的な男だ。彼は、これ以上の血を流すことを望んでいない。貴国の国民も、我が国の国民も」
「だからこそ、我々は『第二弾』を撃つ前に、こうして話し合いの場に来た。…だが」
山本の目が、鋭くダレスを射抜いた。
「貴国が、時間稼ぎをしていることにも気づいている。貴国もまた、『同じもの』を開発中であろう?」
ダレスは、冷や汗を隠せなかった。
(東條は、マンハッタン計画まで知っているのか…!?)
「我々の忍耐は、無限ではない」山本は、最後のカードを切った。
「交渉期限は、11月末日。それまでに貴国が停戦協定に署名しなければ、12月1日、第二の『旭光』が、サイパン島に投下される」
官邸の地下壕で、その報告を受けた坂上(東條)は、激しく咳き込んだ。
(第二弾など、ない…! 完成には、早くともあと2ヶ月はかかる!)
彼は、人類史上最大の「ブラフ(ハッタリ)」を仕掛けていた。
トルーマンは、存在しない「第二の原爆」のタイムリミットと、確実に存在する「自国の原爆(来年夏完成)」を、天秤にかけることになった。
11月28日、ホワイトハウス。
「大統領! ダレスからの最終報告です! 日本は、12月1日にサイパンを核攻撃すると!」
「オッペンハイマー! 我々のは間に合わんのか!」
「無理です! 間に合いません!」
トルーマンは、顔を覆った。
もし、日本が本当に第二弾を撃ち、サイパンが壊滅すれば、米国民の世論は、大統領の弾劾と即時停戦になだれ込むだろう。
賭けに、負けるわけにはいかない。
「…わかった」
トルーマンは、受話器を取った。
「ダレス君。…日本の要求を、受け入れろ。…停戦だ」
1944年(昭和19年)11月30日。
スイス・ジュネーブにおいて、「日米停戦協定」が仮調印された。
史実(1945年8月15日)より、9ヶ月も早い終戦。
それは、広島も、長崎も、東京大空襲も、沖縄戦も起こらなかった、「あり得たかもしれない未来」だった。
坂上真一は、官邸でその速報を聞き、持っていた珈琲飴の瓶を、床に落とした。
彼は、椅子に崩れ落ち、東條英機の顔のまま、45歳の海上自衛官として、ただ静かに、故郷・広島の方角を向いて涙を流した。
「…勝った…のか…? 祖父さん…」
彼の戦争は、終わった。
だが、東條英機としての「戦後処理」は、今、始まったばかりだった。
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