​簿記1級とネット通販スキルで異世界無双! ~隣のポンコツエルフ王女が善意でハイパーインフレを起こすので、俺が経済を牛耳ることにしました~

月神世一

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EP 20

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締めの一杯と大反省会
 『Dining Bar AOTA』の営業が終了した。
 深夜三時。看板を『CLOSE』にひっくり返し、重い扉の鍵を閉める。
 嵐のような一夜だった。
 女神ルチアナの来店(お忍び)、龍魔呂による「俺様接客」、そして雨上がりの後に残された、店外の植え込みが黄金色に輝く怪奇現象(パワースポット化)。
「……ふぅ。全員、生きてるか?」
 俺がカウンターの中から声をかけると、フロアのソファで死体のように伸びていた従業員たちが、ゾンビのように手を挙げた。
「……あきまへん。もう指一本動かせへん……」
「お腹……すきましたぁ……」
「……糖分が切れた」
 極限状態だ。
 だが、今の俺たちには、疲労をねじ伏せるだけの「達成感」と、何より「食欲」があった。
「よし、まかないにするぞ。今夜は特別メニューだ」
 俺は厨房の奥から、湯気の立つどんぶりを四つ、トレイに乗せて運んできた。
 漂うのは、豚骨を長時間煮込んだ野性的な香りと、焦がしニンニク、そして醤油の香ばしさ。
「名付けて、**『深夜の背徳・特製豚骨醤油ラーメン(全部乗せ)』**だ」
 どんぶりの中には、白濁した茶色のスープ。
 その上に、分厚いチャーシューが5枚、半熟煮玉子、山盛りのネギ、海苔、そしてメンマが鎮座している。
 さらに、スープの表面には背脂(チャッチャ系)が浮き、深夜の胃袋にダイレクトアタックを仕掛けてくる。
「ら、らーめん……? なんですかその暴力的な匂いは!?」
 ルナが目を輝かせて飛び起きた。
「食えばわかる。冷めないうちに啜れ!」
 俺の号令と共に、深夜のラーメン会が始まった。
 ズルルッ! ズルルルッ!
 ルナが豪快に麺を啜る。エルフの作法としては最悪だろうが、ラーメンにおいては正義の音だ。
「ふはふはッ! 熱っ! でも美味しいぃぃ! 麺がつるつるシコシコですぅ! このスープ、ドロドロなのに飲む手が止まりません!」
 彼女はレンゲを使わず、どんぶりを持ち上げてスープを飲んでいる。口の周りが脂でテカテカだが、それがまた幸せそうだ。
 隣では、ニャングルがチャーシューに齧り付いていた。
「はふっ……! この肉、とろけるでぇ……! 噛まんでも解ける! 味が染みとる!」
 彼は左手でチャーシューを持ちながら、右手で電卓を弾くという器用なことをしている。
「今日の売上、過去最高や! 金貨の山と、このラーメン……あぁ、これぞ商人の幸せや!」
 そして、龍魔呂。
 彼は無言で麺を啜り、スープを味わっていたが、ふと懐から「角砂糖」を取り出した。
「……塩気が強い。マイルドにする」
 ポチャン、とスープに入れようとした瞬間、俺がその手首を掴んだ。
「やめろ! スープへの冒涜だ!」
「……チッ。ケチな男だ」
 龍魔呂は不満げに角砂糖をそのまま口に放り込み、豚骨スープで流し込んだ。甘味と塩味の無限ループ。彼なりの「あまじょっぱい」楽しみ方らしい。
 ◇
 全員がスープの一滴まで完食し、満足げなため息が店内に充満した頃。
 俺はいつものホワイトボードを引き寄せた。
「さて、腹も満ちたところで**『第二回・業務反省会』**を行う」
 ペンを取り、最初の議題を書く。
【議題1:ホールの接客態度について(主にルナ)】
「ルナ。お前、今日だけで何回グラスを割った?」
「えっと……さ、3回くらい?」
「5回だ。それに、酒をこぼして客の服を濡らしたな」
 俺が指摘すると、ルナは縮こまった。
「うぅ……ごめんなさい。弁償しますぅ……」
「いや、いい」
 俺は意外な言葉を続けた。
「お前がこぼした後、客はなぜか喜んでチップを弾んでいた。『ドジっ子エルフ、尊い』とか言ってな。……結果的に売上が伸びたから、不問とする」
「えっ? 褒められたんですか? やったぁ!」
「(……この世界の性癖はどうなってるんだ)」
 俺は頭を振って、次の議題へ移った。
【議題2:謎の太客(ルチアナ)について】
 場の空気が変わる。
 龍魔呂が面倒くさそうに顔をしかめた。
「……あのオバサンのことか。また来る気がする。鬱陶しい」
「龍魔呂、言葉を慎め。彼女が置いていったチップは銀貨20枚だ。超優良顧客(太客)だぞ」
 俺は龍魔呂の胸ポケットを指差した。
「それに、そのカードだ。ちょっと見せてみろ」
 龍魔呂が、ルチアナから押し付けられたプラチナ色のカードを放り投げる。
 俺はそれを受け取り、改めて『解析眼』をフル稼働させた。
 ピピッ。
【名称:女神直通ホットライン(ゴールド・カード)】
【ランク:神話級(ゴッド・クラス)】
【機能:創造神ルチアナへの直通通話、および『神の加護』の付与】
【備考:これを所持する者は、事実上『神の愛人』と同等の権限を持つ】
「…………ッ!!」
 俺はカードを取り落としそうになった。
 震える手で、それを丁寧にテーブルに置く。
「……龍魔呂。お前、とんでもないものを捕まえたな」
「あ? なんだ、高く売れるのか?」
「売れるか! これは……まあいい、とにかく絶対に無くすな。肌身離さず持っておけ。これは俺たちの『最強の切り札(保険)』になる」
 俺は冷や汗を拭った。
 まさか、うちの用心棒が神様をナンパ(誤解)して、直通回線までゲットしてくるとは。
 これで、もし国や教会と揉めても、「女神に電話しますよ?」の一言で黙らせることができる。
「……よくわからんが、お前がそう言うなら持っておく」
 龍魔呂は興味なさそうにカードをしまった。
 ◇
 俺はホワイトボードの文字を消し、大きく新たな文字を書いた。
【次なる目標:ダンジョン経営】
「……ダンジョン、でっか?」
 ニャングルが目を丸くする。
「ああ。この店の売上と、女神(のカード)という後ろ盾があれば、もう怖いものはない」
 俺は全員を見渡した。
「次にやるのは、ただの商売じゃない。『資源開発』と『テーマパーク』だ」
「テーマパーク……?」
「手頃なダンジョンを丸ごと買い取って、魔物を管理し、ドロップアイテムを効率的に回収する。さらに、冒険者を呼び込んで入場料を取る。……『アオタ・ランド』の建設だ」
 俺の壮大な計画に、三人が呆気に取られ――そして、ニヤリと笑った。
「面白そうやないか! ダンジョンの利権なんて、夢のまた夢や!」
「ふふっ、楽しそうです! 私、案内係やりますね!」
「……強い魔物が出るなら、退屈はしなさそうだ」
 意見は一致した。
 ラルディアの夜を制した俺たちは、次は「地下迷宮」を経済で支配する。
「よし、明日は不動産屋に行くぞ! 今日は解散! 寝ろ!」
「「「おー!!」」」
 深夜のバーに、野望に満ちた声が響いた。
 俺たちの「異世界経済無双」は、留まるところを知らない。
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