30 / 134
EP 30
森の奥深く、木々が開けた場所に、その異様な建造物は口を開けていた。
「安全第一」の看板が掲げられた巨大な石造りのゲート。その奥からは、肌を刺すような濃厚な魔素が漂い出している。
キュルリン・ダンジョン。
今や大陸中が注目する最難関迷宮の前には、ルナミス帝国騎士団が陣を敷き、我が物顔で通行を管理していた。
「……相変わらず、物々しいな」
真守たちが近づくと、豪奢なテントから一人の男が優雅に出てきた。
赤いマントを翻し、金ピカの鎧に身を包んだ男、レオパルド団長だ。
「おや……。これはデュラス殿ではありませんか」
レオパルドはデュラスを見つけるなり、わざとらしい笑顔で歩み寄ってきた。そして、その視線を真守たちのパーティ全体へと巡らせる。
「プラチナランクの商人(マモル)や、高潔なる天使族(エルミナ)まで居るとは……一体どんな組み合わせですかな? まるでサーカスの一座だ」
嘲るような響きを含んだ言葉。
真守は一歩前に出て、努めて冷静に口を開いた。
「初めまして、レオパルド団長。私がマモルです。こちらはお隣さんのエルミナとフィリアです」
「冒険者として登録しました。以後、お見知りおきを」
「……どうも」
エルミナとフィリアも続いて挨拶をするが、レオパルドは鼻で笑うだけで、すぐに興味を失ったようにデュラスへと向き直った。
「それで……デュラス殿。魔族の貴方が、いつまで人間の村に滞在されますのかな?」
その瞳には、隠しきれない嫌悪と差別意識が浮かんでいる。
「私も酔狂でしてな。魔族の幹部として、このキュルリン・ダンジョンの事は知っておくのも良いかと。観光ですよ」
「ほう、観光ですか」
レオパルドはニタリと口角を歪めた。
「そうで有りましたか。……ですが、出来れば早々に村を去って頂きたいのですがね」
彼は腰の剣に手を置き、周囲の騎士たちに目配せをした。
「何せ、この辺りは視界が悪い。我々人間には、薄汚い魔物も、高貴な魔族も見分けが付きませんのでね。……訓練中の兵達の矢が、誤ってデュラス殿に向けられるかも知れませんので」
「何!?」
あからさまな脅しに、真守が色めき立つ。
「間違って撃つ」と言いながら、実際は「撃ち殺す」という宣言に等しい。
しかし、真守が動くより早く、デュラスが片手でそれを制した。
「マモル、構うな」
デュラスは紫煙をゆっくりと吐き出し、氷のような冷徹な瞳でレオパルドを見下ろした。
「レオパルド殿、構いませんよ。どうぞ、ご自由に矢を放たせなさい」
「……ほう?」
「私に向けられる矢など、我が身に届く前に消し炭になり、塵になるだけです」
デュラスの全身から、ゆらりと紫色の魔力が立ち上る。
熱気など感じないはずなのに、レオパルドの額から脂汗が滲み出るほどの重圧(プレッシャー)。
「ですが……風向きによっては、その炎の火の粉が、指揮する者にも移るやもしれませんな。……よく燃えるマントをお持ちのようですし」
デュラスの視線が、レオパルドの赤いマントを舐めるように捉えた。
「撃てば、お前を殺す」という明確な死の宣告。
「くっ……!?」
レオパルドの顔が引きつる。
本能が警鐘を鳴らしている。この男は、自分ごときが喧嘩を売っていい相手ではない、と。
「ハ、ハッハッハッ……! 流石デュラス殿、冗談がお上手だ!」
レオパルドは引きつった笑いで誤魔化し、冷や汗を拭うふりをして一歩下がった。
「さて……冗談かどうかは、貴公の兵が矢を放った時に分かるでしょう」
「し、失礼する! 公務がありますのでな!」
レオパルドは逃げるようにテントの中へと引っ込んでいった。その背中は、先程までの威勢が嘘のように小さく見えた。
「……失礼はどっちよ。あんな人が団長なんて、信じられない」
フィリアが憤慨して弓を握りしめる。
「本当ですわ! 神罰が下ればいいのに!」
エルミナもプンプンと怒っている。
真守は安堵のため息をつき、デュラスを見た。
「デュラス、大丈夫かよ? あいつ、また何か仕掛けてくるぞ」
「ふん。あの手合いは何処にでも居る。権力を傘に着る小物は、最初にどちらが『上』かを理解させねばならん」
デュラスは新しいタバコを取り出し、ニヤリと笑った。
「最初が肝心だ。これで奴も、迂闊には手出し出来まい。……さあ、行くぞ。こんな入り口で時間を潰すのは勿体ない」
「ああ、そうだな。行こう!」
真守たちは気を取り直し、キュルリン・ダンジョンの暗い口へと足を踏み入れた。
その背後で、テントの隙間からレオパルドが憎悪に満ちた目で彼らを睨んでいることには気づかないまま。
「安全第一」の看板が掲げられた巨大な石造りのゲート。その奥からは、肌を刺すような濃厚な魔素が漂い出している。
キュルリン・ダンジョン。
今や大陸中が注目する最難関迷宮の前には、ルナミス帝国騎士団が陣を敷き、我が物顔で通行を管理していた。
「……相変わらず、物々しいな」
真守たちが近づくと、豪奢なテントから一人の男が優雅に出てきた。
赤いマントを翻し、金ピカの鎧に身を包んだ男、レオパルド団長だ。
「おや……。これはデュラス殿ではありませんか」
レオパルドはデュラスを見つけるなり、わざとらしい笑顔で歩み寄ってきた。そして、その視線を真守たちのパーティ全体へと巡らせる。
「プラチナランクの商人(マモル)や、高潔なる天使族(エルミナ)まで居るとは……一体どんな組み合わせですかな? まるでサーカスの一座だ」
嘲るような響きを含んだ言葉。
真守は一歩前に出て、努めて冷静に口を開いた。
「初めまして、レオパルド団長。私がマモルです。こちらはお隣さんのエルミナとフィリアです」
「冒険者として登録しました。以後、お見知りおきを」
「……どうも」
エルミナとフィリアも続いて挨拶をするが、レオパルドは鼻で笑うだけで、すぐに興味を失ったようにデュラスへと向き直った。
「それで……デュラス殿。魔族の貴方が、いつまで人間の村に滞在されますのかな?」
その瞳には、隠しきれない嫌悪と差別意識が浮かんでいる。
「私も酔狂でしてな。魔族の幹部として、このキュルリン・ダンジョンの事は知っておくのも良いかと。観光ですよ」
「ほう、観光ですか」
レオパルドはニタリと口角を歪めた。
「そうで有りましたか。……ですが、出来れば早々に村を去って頂きたいのですがね」
彼は腰の剣に手を置き、周囲の騎士たちに目配せをした。
「何せ、この辺りは視界が悪い。我々人間には、薄汚い魔物も、高貴な魔族も見分けが付きませんのでね。……訓練中の兵達の矢が、誤ってデュラス殿に向けられるかも知れませんので」
「何!?」
あからさまな脅しに、真守が色めき立つ。
「間違って撃つ」と言いながら、実際は「撃ち殺す」という宣言に等しい。
しかし、真守が動くより早く、デュラスが片手でそれを制した。
「マモル、構うな」
デュラスは紫煙をゆっくりと吐き出し、氷のような冷徹な瞳でレオパルドを見下ろした。
「レオパルド殿、構いませんよ。どうぞ、ご自由に矢を放たせなさい」
「……ほう?」
「私に向けられる矢など、我が身に届く前に消し炭になり、塵になるだけです」
デュラスの全身から、ゆらりと紫色の魔力が立ち上る。
熱気など感じないはずなのに、レオパルドの額から脂汗が滲み出るほどの重圧(プレッシャー)。
「ですが……風向きによっては、その炎の火の粉が、指揮する者にも移るやもしれませんな。……よく燃えるマントをお持ちのようですし」
デュラスの視線が、レオパルドの赤いマントを舐めるように捉えた。
「撃てば、お前を殺す」という明確な死の宣告。
「くっ……!?」
レオパルドの顔が引きつる。
本能が警鐘を鳴らしている。この男は、自分ごときが喧嘩を売っていい相手ではない、と。
「ハ、ハッハッハッ……! 流石デュラス殿、冗談がお上手だ!」
レオパルドは引きつった笑いで誤魔化し、冷や汗を拭うふりをして一歩下がった。
「さて……冗談かどうかは、貴公の兵が矢を放った時に分かるでしょう」
「し、失礼する! 公務がありますのでな!」
レオパルドは逃げるようにテントの中へと引っ込んでいった。その背中は、先程までの威勢が嘘のように小さく見えた。
「……失礼はどっちよ。あんな人が団長なんて、信じられない」
フィリアが憤慨して弓を握りしめる。
「本当ですわ! 神罰が下ればいいのに!」
エルミナもプンプンと怒っている。
真守は安堵のため息をつき、デュラスを見た。
「デュラス、大丈夫かよ? あいつ、また何か仕掛けてくるぞ」
「ふん。あの手合いは何処にでも居る。権力を傘に着る小物は、最初にどちらが『上』かを理解させねばならん」
デュラスは新しいタバコを取り出し、ニヤリと笑った。
「最初が肝心だ。これで奴も、迂闊には手出し出来まい。……さあ、行くぞ。こんな入り口で時間を潰すのは勿体ない」
「ああ、そうだな。行こう!」
真守たちは気を取り直し、キュルリン・ダンジョンの暗い口へと足を踏み入れた。
その背後で、テントの隙間からレオパルドが憎悪に満ちた目で彼らを睨んでいることには気づかないまま。
あなたにおすすめの小説
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。