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第二章 勇者魔王公爵
EP 10
『竜人族、電子社会に敗北す』
「ここが冒険者ギルド……! 俺の覇道が始まる場所か!」
イグニスは目の前の自動ドア(ガラス製)に一瞬ビビりつつも、意を決して踏み込んだ。
中は涼しく、静かな音楽が流れ、整然としたカウンターが並んでいる。荒くれ者たちが酒を飲んで喧嘩しているような、彼の知るギルドの光景はどこにもない。
イグニスはドカドカと一番手前のカウンターへ歩み寄り、カウンターをバンと叩いた。
「頼もう!!」
その大声に、フロア中の視線が集まる。
しかし、受付の女性――パリッとした制服を着こなし、インカムをつけたお姉さん――は、眉一つ動かさずに営業スマイルを向けた。
「いらっしゃいませ、お客様。……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「え? あ? ……おう。ここは冒険者ギルドだろ!? 俺は依頼を受けに来たんだ。一番でかい魔物討伐を回せ!」
イグニスが身を乗り出すと、受付嬢は手元のタブレット端末を指先で弾きながら、涼しげに言った。
「かしこまりました。……して、お客様。ご予約は?」
「……は?」
イグニスの思考が停止した。
「よ、予約? 魔物を狩るのに予約がいるのか?」
「はい、困ります。当店では混雑緩和のため、『魔導通信石(スマートフォン)』から専用アプリを通じて、ご予約を取って頂いてから依頼を承る事になっています」
「ま、魔導、通信、石……?」
聞いたことのない単語の羅列に、イグニスの赤髪が逆立つ。
受付嬢は構わず、流れるような事務トークを続けた。
「また、報酬の受け渡しやクエスト受注の手数料につきましても、全て『電子マネー』での取り扱いとなっております。現金(ゴールド)での直接取引は、先月の法改正で廃止されましたので」
「で、でんし……まねー?」
イグニスは腰の袋に入った金貨を握りしめた。これが使えない? 金なのに?
「あの、姉ちゃん。俺はただ、暴れたくて……」
「ですから、まずは魔導通信石をお求めください。駅前の『ゴルド商会』に行き、端末を購入して通信契約をして頂く必要がございます」
受付嬢はそこまで言うと、少し目を細めてイグニスの恰好――ボロボロの腰布に、上半身裸、背中に巨大な斧――を上から下まで眺めた。
「……ところでお客様。『身分証』はお持ちですか? 運転免許証や、マイナンバーカードなどは」
「……」
運転? マイナンバー?
竜人の里で岩を砕いていた彼にとって、それは古代語魔法よりも難解な言葉だった。
「み、身分証って、この角とか……鱗とかじゃ駄目か?」
「公的なICチップ入りのもので願いします」
「……は、ははは」
イグニスから、プシュゥ……と闘気が抜けていく音が聞こえた気がした。
絶対的な「システム」の壁。
斧で岩は砕けても、役所の手続きは砕けない。
受付嬢は、魂の抜けたイグニスに会釈をし、すぐに背後の列へと声をかけた。
「そうですか、では必要書類を揃えてから又のお越しを。……はい! お待ちの番号札14番の方~!」
「あ、はい」
「ちょ、待っ……」
イグニスは流れる人波に押され、あれよあれよという間に出口へと弾き出されてしまった。
ウィーン。
自動ドアが閉まる。
「……なんだよ、あそこ。魔境かよ……」
秋風が吹き抜ける大通りの真ん中で、最強の竜人族イグニスは、生まれて初めての敗北感と、猛烈な空腹を抱えて立ち尽くすのだった。
「ここが冒険者ギルド……! 俺の覇道が始まる場所か!」
イグニスは目の前の自動ドア(ガラス製)に一瞬ビビりつつも、意を決して踏み込んだ。
中は涼しく、静かな音楽が流れ、整然としたカウンターが並んでいる。荒くれ者たちが酒を飲んで喧嘩しているような、彼の知るギルドの光景はどこにもない。
イグニスはドカドカと一番手前のカウンターへ歩み寄り、カウンターをバンと叩いた。
「頼もう!!」
その大声に、フロア中の視線が集まる。
しかし、受付の女性――パリッとした制服を着こなし、インカムをつけたお姉さん――は、眉一つ動かさずに営業スマイルを向けた。
「いらっしゃいませ、お客様。……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「え? あ? ……おう。ここは冒険者ギルドだろ!? 俺は依頼を受けに来たんだ。一番でかい魔物討伐を回せ!」
イグニスが身を乗り出すと、受付嬢は手元のタブレット端末を指先で弾きながら、涼しげに言った。
「かしこまりました。……して、お客様。ご予約は?」
「……は?」
イグニスの思考が停止した。
「よ、予約? 魔物を狩るのに予約がいるのか?」
「はい、困ります。当店では混雑緩和のため、『魔導通信石(スマートフォン)』から専用アプリを通じて、ご予約を取って頂いてから依頼を承る事になっています」
「ま、魔導、通信、石……?」
聞いたことのない単語の羅列に、イグニスの赤髪が逆立つ。
受付嬢は構わず、流れるような事務トークを続けた。
「また、報酬の受け渡しやクエスト受注の手数料につきましても、全て『電子マネー』での取り扱いとなっております。現金(ゴールド)での直接取引は、先月の法改正で廃止されましたので」
「で、でんし……まねー?」
イグニスは腰の袋に入った金貨を握りしめた。これが使えない? 金なのに?
「あの、姉ちゃん。俺はただ、暴れたくて……」
「ですから、まずは魔導通信石をお求めください。駅前の『ゴルド商会』に行き、端末を購入して通信契約をして頂く必要がございます」
受付嬢はそこまで言うと、少し目を細めてイグニスの恰好――ボロボロの腰布に、上半身裸、背中に巨大な斧――を上から下まで眺めた。
「……ところでお客様。『身分証』はお持ちですか? 運転免許証や、マイナンバーカードなどは」
「……」
運転? マイナンバー?
竜人の里で岩を砕いていた彼にとって、それは古代語魔法よりも難解な言葉だった。
「み、身分証って、この角とか……鱗とかじゃ駄目か?」
「公的なICチップ入りのもので願いします」
「……は、ははは」
イグニスから、プシュゥ……と闘気が抜けていく音が聞こえた気がした。
絶対的な「システム」の壁。
斧で岩は砕けても、役所の手続きは砕けない。
受付嬢は、魂の抜けたイグニスに会釈をし、すぐに背後の列へと声をかけた。
「そうですか、では必要書類を揃えてから又のお越しを。……はい! お待ちの番号札14番の方~!」
「あ、はい」
「ちょ、待っ……」
イグニスは流れる人波に押され、あれよあれよという間に出口へと弾き出されてしまった。
ウィーン。
自動ドアが閉まる。
「……なんだよ、あそこ。魔境かよ……」
秋風が吹き抜ける大通りの真ん中で、最強の竜人族イグニスは、生まれて初めての敗北感と、猛烈な空腹を抱えて立ち尽くすのだった。
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