35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一

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第二章 勇者魔王公爵

EP 11

『カレーライスの涙と、鳩の餌パイセン』
​マモル領の裏通り。
きらびやかなメインストリートとは対照的な薄暗い路地裏で、最強の竜人族イグニスは、カエルの干物のように干からびていた。
​彼は震える手で革袋(財布)を逆さにする。
チャリン……とも言わない。出てきたのは埃と、小さな石ころが一つだけ。
​「……嘘だろ。もう金もねぇ」
​イグニスは頭を抱えた。
問題は金がないことだけではない。里を出てすぐ、勢いで出した手紙の存在だ。
​『親父へ。俺はアルニアで英雄扱いされてるぜ! 人間たちから感謝されて、毎晩宴だ! 心配すんな!』
​「……あんな見栄張った手紙出しちまったのに……現実は無一文のホームレスかよぉ!」
​己の情けなさに打ちひしがれていると、彼の腹の虫が空気を読まずに咆哮した。
​ギュルルルルルル……!!
​竜の咆哮のような腹の音が路地に響く。
​「あら? すごい音。お腹が空いて困ってらっしゃるの?」
​ふと、鈴を転がしたような涼やかな声が降ってきた。
顔を上げると、そこには透き通るような青い髪と、海色の瞳を持つ美女が立っていた。足元はお洒落なヒールだが、どこか浮世離れした雰囲気を纏っている。
​「え? あんたは?」
​「私は人魚族の歌姫、リーザと申します」
​彼女はスカートの裾を摘んで優雅に一礼した。
​「人魚族? 歌姫? ……なんでこんな所に」
​「ふふ、お腹が減ったならついてきて下さいな。この街に来て日は浅いのでしょう? 『パイセン』の私が、アルニアでの生き方を教えて差し上げますわ」
​「パ、パイセン……?」
​よく分からないが、この美女からは「余裕」が感じられる。もしや、彼女もまた英雄の一人で、俺の才能を見抜いてスカウトに来たのか?
イグニスは一縷の望みをかけて、彼女の後をついて行った。
​***
​「さぁ、着きましたわよ」
​連れてこられたのは、建設中の区画にある広場。
そこには色とりどりのテントが並び、香ばしい匂いが漂っていた。
​「ここは?」
​「**『テント村』**ですわ。身分証がなくて職に就けなかった人とか、夢を追いかけて破れた人とか、色んな事情が有る人が集うセーフティーネットですの」
​リーザは慣れた手つきで列に並び、優しく微笑んだ。
​「ここでは毎日、ボランティアのおばちゃんが炊き出しをしてくれるんです。神の慈悲ですわね」
​英雄のスカウトではなかった。ただの「無職の先輩」だった。
だが、イグニスの前には湯気を立てる皿が差し出された。
​「はいよ、今日は特製カレーライスだよ! いっぱいお食べ!」
「あ、ありがとうございます……」
​割烹着を着たオークのおばちゃんから皿を受け取る。
黄金色のルーと、真っ白な米。スパイシーな香りが鼻腔をくすぐり、イグニスの唾液腺を崩壊させた。
​「やったわ! 今日はカレーライス! 大当たりですわ、ついてますわね私たち!」
​リーザが隣のベンチで嬉しそうにスプーンを握る。
イグニスも震える手でスプーンを運び、一口食べた。
​「……っ!!」
​衝撃が走った。
複雑に絡み合うスパイスの刺激、野菜の甘み、肉の旨味。竜人の里で食べていた「肉の丸焼き(味付けは塩のみ)」とは次元が違う。
​「うめぇ……! うめぇよぉ……!」
​「美味しいぃ~、生き返りますわぁ~」
​イグニスの目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
空腹という極限状態と、カレーの美味さ、そして人の温かさが、彼の頑ななプライドを溶かしていく。
​「ありがとうよ……優しくしてくれて。あんた、女神様みてぇだ」
​イグニスは鼻水をすすりながらリーザを見た。
見知らぬ土地で、唯一優しくしてくれた人魚の少女。彼女への感謝で胸がいっぱいになった。
​リーザは完食した皿を置き、輝くような笑顔でイグニスの肩を叩いた。
​「良いのですよ、後輩君! 助け合いは世の常ですもの!」
​「リーザさん……!」
​「さぁ! 腹ごなしに行きますわよ! 次は公園でおじさんが『鳩の餌』を撒いてくれますから! パンの耳とか豆とか! 競争率は高いですが、一緒に地面をついばんで食べましょう!」
​イグニスの表情が凍りついた。
​「……は?」
​「あそこの豆は香ばしくて美味しいんですのよ! さぁ、急がないと鳩に負けますわ!」
​「い、嫌だああああっ!! 俺は竜だぞ!? 鳩と餌を取り合うなんて死んでも嫌だあああ!!」
​イグニスは全力で首を横に振った。
カレーまでは良かった。だが、そこから先は越えてはいけないラインだ。
​「あら、贅沢なこと。プライドで腹は膨れませんのよ?」
「パイセンに任せなさい!」
​「離せぇぇ! 俺はもっとまともな職を探すんだよぉぉ!!」
​美女(サバイバルガチ勢)に腕を引かれ、公園へと引きずられていく最強の竜人族。
彼の「アルニア英雄伝説」は、まだマイナス地点を彷徨っていた。
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