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第二章 勇者魔王公爵
EP 41
『レモンサワーの罠と、生ハムの公開処刑』
「地獄の合コン(という名の身内飲み会)」が始まった。
テーブルにはまだ料理はなく、張り詰めた空気だけが漂っている。
「……ふん」
元魔王サルバロスは、気まずい空気を打破すべく、わざとらしくメニューを広げた。
「さて、まずは喉を潤そうではないか。お主達は何を飲む?」
「そうですわね……」
天使族族長ヴァルキュリアは、眉間にシワを寄せたままメニューを睨みつけていた。まるで敵軍の配置図を分析するかのような真剣な眼差しだ。
「……私は、この『レモンサワー』と言う物を頂きましょうか。酸味のある果実酒……疲労回復に良さそうですし」
「おっ、いいですね」
マモルはつい、いつもの癖で口を挟んでしまった。
「ヴァルキュリアさん、ナイスチョイスです。これはな、唐揚げに合うんだ。レモンの酸味が脂っぽさを中和して、さっぱりと食べられるんですよ」
マモルとしては、単なる日本の居酒屋知識を披露しただけだった。
しかし、ヴァルキュリアの反応は予想外だった。
「……ほう!」
彼女は瞳を輝かせ、身を乗り出した。
「味の相乗効果まで計算して飲み物を選ぶとは……。流石は魔王を倒したお方。戦術眼だけでなく、食への造詣も深いのですね。……マモル様はお詳しい。是非、じっくりとお話を聞いてみたいです」
ヴァルキュリアは純粋な尊敬の眼差しを向けてくる。
だが、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……。
マモルの左右から、絶対零度の冷気が噴き出した。
「…………」
「…………」
エルミナとフィリアが、無言でじっとマモルを見つめている。
その瞳は光を失い、ハイライトが消えていた。
(え!? な、何このプレッシャー!? 俺、唐揚げに合うと言っただけだぞ!?)
マモルは冷や汗をダラダラと流しながら、必死に話題を振った。
「え、えっと……エルミナとフィリアは? 何を飲む?」
「私達は……『果実酒(サングリア)』でお願いします」
エルミナが氷のような声で答える。
フィリアはニコリと微笑んだ。口元だけ。
「うん、果実酒美味しいもんね~♡ ……ねぇ、マモル?」
フィリアがマモルの顔を覗き込む。目は全く笑っていない。
「レモンサワーが唐揚げに合うなら……果実酒には、何が合うの?」
「ヒッ……!」
これはテストだ。
下手に答えれば「なんでそんなこと知ってるの? 誰と飲んだの?」と詰問される。かといって答えなければ「私達には興味がないの?」となる。
マモルは脳をフル回転させ、震える声で提案した。
「そ、そうだな……この『生ハム』とかどうだろう? 生ハムの塩気と、果実酒の甘み……あと果物(メロン)と一緒に食べたら旨いぞ……あまじょっぱくて……」
言い終わった瞬間、空気がさらに重くなった。
「へ~……」
エルミナがグラスの縁を指でなぞりながら、低い声で呟く。
「生ハムとメロン……随分とお洒落な組み合わせをご存知なんですのね。……マモル様、詳しいですのね」
「……」
「この手合い(女性を口説くような店)には、随分と慣れていますのね。私達が知らない間に、どこのどなたと経験を積まれたのかしら?」
「ち、ちがっ! これは前の世界の知識で……!」
「前の世界? ……ふぅん、あっちでもブイブイ言わせてたんだ?」
フィリアがマモルの太ももをギュッとつねる。
「い、痛い! 誤解だフィリア!」
修羅場と化したテーブルの向かい側で、デュラスは優雅にワインを啜っていた。
(……ふっ。合コンなどという軟派な催しには反対だったが、これはこれで悪くない)
デュラスはマモルの狼狽ぶりを肴に、心の中でほくそ笑んだ。
(マモルの公開処刑を楽しむとしよう。これも人生経験だ)
(ククク……愉快よのう!)
サルバロスもニヤニヤしながらビールを煽る。
自分たちが連れてきた(しかも身内だらけの)女性陣に、幹事のマモルが詰められる。このカオスこそ、魔王が求めた娯楽であった。
「店員さーん! 唐揚げ山盛りと、一番高い生ハム持ってきてー! マモルの奢りで!」
「やめろサルバロスゥゥ!!」
マモルの悲鳴と共に、地獄の宴はまだ始まったばかりであった。
「地獄の合コン(という名の身内飲み会)」が始まった。
テーブルにはまだ料理はなく、張り詰めた空気だけが漂っている。
「……ふん」
元魔王サルバロスは、気まずい空気を打破すべく、わざとらしくメニューを広げた。
「さて、まずは喉を潤そうではないか。お主達は何を飲む?」
「そうですわね……」
天使族族長ヴァルキュリアは、眉間にシワを寄せたままメニューを睨みつけていた。まるで敵軍の配置図を分析するかのような真剣な眼差しだ。
「……私は、この『レモンサワー』と言う物を頂きましょうか。酸味のある果実酒……疲労回復に良さそうですし」
「おっ、いいですね」
マモルはつい、いつもの癖で口を挟んでしまった。
「ヴァルキュリアさん、ナイスチョイスです。これはな、唐揚げに合うんだ。レモンの酸味が脂っぽさを中和して、さっぱりと食べられるんですよ」
マモルとしては、単なる日本の居酒屋知識を披露しただけだった。
しかし、ヴァルキュリアの反応は予想外だった。
「……ほう!」
彼女は瞳を輝かせ、身を乗り出した。
「味の相乗効果まで計算して飲み物を選ぶとは……。流石は魔王を倒したお方。戦術眼だけでなく、食への造詣も深いのですね。……マモル様はお詳しい。是非、じっくりとお話を聞いてみたいです」
ヴァルキュリアは純粋な尊敬の眼差しを向けてくる。
だが、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……。
マモルの左右から、絶対零度の冷気が噴き出した。
「…………」
「…………」
エルミナとフィリアが、無言でじっとマモルを見つめている。
その瞳は光を失い、ハイライトが消えていた。
(え!? な、何このプレッシャー!? 俺、唐揚げに合うと言っただけだぞ!?)
マモルは冷や汗をダラダラと流しながら、必死に話題を振った。
「え、えっと……エルミナとフィリアは? 何を飲む?」
「私達は……『果実酒(サングリア)』でお願いします」
エルミナが氷のような声で答える。
フィリアはニコリと微笑んだ。口元だけ。
「うん、果実酒美味しいもんね~♡ ……ねぇ、マモル?」
フィリアがマモルの顔を覗き込む。目は全く笑っていない。
「レモンサワーが唐揚げに合うなら……果実酒には、何が合うの?」
「ヒッ……!」
これはテストだ。
下手に答えれば「なんでそんなこと知ってるの? 誰と飲んだの?」と詰問される。かといって答えなければ「私達には興味がないの?」となる。
マモルは脳をフル回転させ、震える声で提案した。
「そ、そうだな……この『生ハム』とかどうだろう? 生ハムの塩気と、果実酒の甘み……あと果物(メロン)と一緒に食べたら旨いぞ……あまじょっぱくて……」
言い終わった瞬間、空気がさらに重くなった。
「へ~……」
エルミナがグラスの縁を指でなぞりながら、低い声で呟く。
「生ハムとメロン……随分とお洒落な組み合わせをご存知なんですのね。……マモル様、詳しいですのね」
「……」
「この手合い(女性を口説くような店)には、随分と慣れていますのね。私達が知らない間に、どこのどなたと経験を積まれたのかしら?」
「ち、ちがっ! これは前の世界の知識で……!」
「前の世界? ……ふぅん、あっちでもブイブイ言わせてたんだ?」
フィリアがマモルの太ももをギュッとつねる。
「い、痛い! 誤解だフィリア!」
修羅場と化したテーブルの向かい側で、デュラスは優雅にワインを啜っていた。
(……ふっ。合コンなどという軟派な催しには反対だったが、これはこれで悪くない)
デュラスはマモルの狼狽ぶりを肴に、心の中でほくそ笑んだ。
(マモルの公開処刑を楽しむとしよう。これも人生経験だ)
(ククク……愉快よのう!)
サルバロスもニヤニヤしながらビールを煽る。
自分たちが連れてきた(しかも身内だらけの)女性陣に、幹事のマモルが詰められる。このカオスこそ、魔王が求めた娯楽であった。
「店員さーん! 唐揚げ山盛りと、一番高い生ハム持ってきてー! マモルの奢りで!」
「やめろサルバロスゥゥ!!」
マモルの悲鳴と共に、地獄の宴はまだ始まったばかりであった。
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