35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一

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第二章 勇者魔王公爵

EP 41

『レモンサワーの罠と、生ハムの公開処刑』
​「地獄の合コン(という名の身内飲み会)」が始まった。
テーブルにはまだ料理はなく、張り詰めた空気だけが漂っている。
​「……ふん」
​元魔王サルバロスは、気まずい空気を打破すべく、わざとらしくメニューを広げた。
​「さて、まずは喉を潤そうではないか。お主達は何を飲む?」
​「そうですわね……」
​天使族族長ヴァルキュリアは、眉間にシワを寄せたままメニューを睨みつけていた。まるで敵軍の配置図を分析するかのような真剣な眼差しだ。
​「……私は、この『レモンサワー』と言う物を頂きましょうか。酸味のある果実酒……疲労回復に良さそうですし」
​「おっ、いいですね」
​マモルはつい、いつもの癖で口を挟んでしまった。
​「ヴァルキュリアさん、ナイスチョイスです。これはな、唐揚げに合うんだ。レモンの酸味が脂っぽさを中和して、さっぱりと食べられるんですよ」
​マモルとしては、単なる日本の居酒屋知識を披露しただけだった。
しかし、ヴァルキュリアの反応は予想外だった。
​「……ほう!」
​彼女は瞳を輝かせ、身を乗り出した。
​「味の相乗効果まで計算して飲み物を選ぶとは……。流石は魔王を倒したお方。戦術眼だけでなく、食への造詣も深いのですね。……マモル様はお詳しい。是非、じっくりとお話を聞いてみたいです」
​ヴァルキュリアは純粋な尊敬の眼差しを向けてくる。
だが、その瞬間。
​ゴゴゴゴゴゴ……。
​マモルの左右から、絶対零度の冷気が噴き出した。
​「…………」
「…………」
​エルミナとフィリアが、無言でじっとマモルを見つめている。
その瞳は光を失い、ハイライトが消えていた。
​(え!? な、何このプレッシャー!? 俺、唐揚げに合うと言っただけだぞ!?)
​マモルは冷や汗をダラダラと流しながら、必死に話題を振った。
​「え、えっと……エルミナとフィリアは? 何を飲む?」
​「私達は……『果実酒(サングリア)』でお願いします」
​エルミナが氷のような声で答える。
フィリアはニコリと微笑んだ。口元だけ。
​「うん、果実酒美味しいもんね~♡ ……ねぇ、マモル?」
​フィリアがマモルの顔を覗き込む。目は全く笑っていない。
​「レモンサワーが唐揚げに合うなら……果実酒には、何が合うの?」
​「ヒッ……!」
​これはテストだ。
下手に答えれば「なんでそんなこと知ってるの? 誰と飲んだの?」と詰問される。かといって答えなければ「私達には興味がないの?」となる。
​マモルは脳をフル回転させ、震える声で提案した。
​「そ、そうだな……この『生ハム』とかどうだろう? 生ハムの塩気と、果実酒の甘み……あと果物(メロン)と一緒に食べたら旨いぞ……あまじょっぱくて……」
​言い終わった瞬間、空気がさらに重くなった。
​「へ~……」
​エルミナがグラスの縁を指でなぞりながら、低い声で呟く。
​「生ハムとメロン……随分とお洒落な組み合わせをご存知なんですのね。……マモル様、詳しいですのね」
​「……」
​「この手合い(女性を口説くような店)には、随分と慣れていますのね。私達が知らない間に、どこのどなたと経験を積まれたのかしら?」
​「ち、ちがっ! これは前の世界の知識で……!」
​「前の世界? ……ふぅん、あっちでもブイブイ言わせてたんだ?」
​フィリアがマモルの太ももをギュッとつねる。
​「い、痛い! 誤解だフィリア!」
​修羅場と化したテーブルの向かい側で、デュラスは優雅にワインを啜っていた。
​(……ふっ。合コンなどという軟派な催しには反対だったが、これはこれで悪くない)
​デュラスはマモルの狼狽ぶりを肴に、心の中でほくそ笑んだ。
​(マモルの公開処刑を楽しむとしよう。これも人生経験だ)
​(ククク……愉快よのう!)
​サルバロスもニヤニヤしながらビールを煽る。
自分たちが連れてきた(しかも身内だらけの)女性陣に、幹事のマモルが詰められる。このカオスこそ、魔王が求めた娯楽であった。
​「店員さーん! 唐揚げ山盛りと、一番高い生ハム持ってきてー! マモルの奢りで!」
​「やめろサルバロスゥゥ!!」
​マモルの悲鳴と共に、地獄の宴はまだ始まったばかりであった。
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