9 / 11
EP 9
しおりを挟む
【裏社会の台頭】新たな支配者
港区、麻布十番。
かつては外車が列をなし、セレブリティたちが夜ごとグラスを傾けていた高級ラウンジの跡地。重厚なマホガニーのテーブルには、泥靴のまま足を投げ出した男が座っていた。
「……で? その紙切れが、俺たちを腹いっぱいにさせてくれるってのか?」
半グレ集団『バジリスク』のリーダー、恭平(きょうへい)は、手の中でくしゃくしゃになったA4用紙をヒラヒラと揺らした。
足元の絨毯には、鼻の骨を折られ、血まみれになったスーツ姿の男が這いつくばっている。大手ディベロッパーの中堅営業マンだ。彼は、上司(第三話の黒崎)が政府に情報を売って逃げた後、残された顧客データを印刷して「自分だけの取引材料」にしようと目論んでいた。
しかし、彼には政府や自衛隊とのコネがなかった。結果として、食料を探して街を徘徊していた恭平たちに捕まり、単なる「獲物」に成り下がったのだ。
「ほ、本当です……! そこに書いてある松濤(しょうとう)の住所には、IT企業の社長が地下シェルターを作って隠れてます! 1年分の食料があるはずなんです!」
命乞いをする営業マンの頭を、恭平は無造作に安全靴で踏みつけた。
「へえ。金持ちの豚どもが、地下でぬくぬく缶詰食ってるってわけだ」
恭平はニヤリと笑い、傍らに控えていた仲間たちを振り返った。
彼らの手には、ホームセンターから略奪してきたエンジンカッター、バール、そして大型のガスバーナーが握られている。警察のサイレンは、もう何日も聞いていない。交番の警官たちは暴徒に殺されたか、制服を脱いで逃げ出した後だ。
「おい、聞いたかお前ら。俺たちのディナーは、分厚いコンクリートの『缶詰』の中に入ってるらしいぞ」
「ヒャッハー! 缶切り(バーナー)の出番っすね、恭平さん!」
下品な笑い声が、蝋燭の火しか灯らない薄暗いラウンジに響く。
かつて、恭平たちは社会の底辺を這いずり回るゴミだった。学歴もなく、金もなく、タワマンの住人たちからは虫けらのように見下されていた。
だが、この封鎖された1400万人の檻の中では、ルールが完全に逆転した。
暴力(チカラ)こそが、唯一の法なのだ。
「よし、野郎ども。準備しろ。松濤の『豚小屋』へ狩りに行くぞ。……あ、こいつはもう用済みだから、その辺の道端にでも捨てとけ。どうせ数日で飢え死にだ」
「ひっ……! 助けっ、約束が……!」
絶叫する営業マンが仲間たちに引きずられていくのを背に、恭平は奪い取った高級ウイスキーのボトルをラッパ飲みした。
アルコールが血の気をたぎらせる。飢えと暴力の支配する、狂った夜のパレードの始まりだ。
地下で震えている特権階級の豚どもを引きずり出し、泣き叫ぶ顔を見ながら、奴らの備蓄を食い尽くしてやる。
暗闇に沈む高級住宅街へと歩き出した暴徒たちの頭上。
無慈悲な赤い数字が、死神の目のように彼らを見下ろしていた。
【1826:00:12】
裏社会のケダモノたちが「新たな王」として街を闊歩し始めた。
港区、麻布十番。
かつては外車が列をなし、セレブリティたちが夜ごとグラスを傾けていた高級ラウンジの跡地。重厚なマホガニーのテーブルには、泥靴のまま足を投げ出した男が座っていた。
「……で? その紙切れが、俺たちを腹いっぱいにさせてくれるってのか?」
半グレ集団『バジリスク』のリーダー、恭平(きょうへい)は、手の中でくしゃくしゃになったA4用紙をヒラヒラと揺らした。
足元の絨毯には、鼻の骨を折られ、血まみれになったスーツ姿の男が這いつくばっている。大手ディベロッパーの中堅営業マンだ。彼は、上司(第三話の黒崎)が政府に情報を売って逃げた後、残された顧客データを印刷して「自分だけの取引材料」にしようと目論んでいた。
しかし、彼には政府や自衛隊とのコネがなかった。結果として、食料を探して街を徘徊していた恭平たちに捕まり、単なる「獲物」に成り下がったのだ。
「ほ、本当です……! そこに書いてある松濤(しょうとう)の住所には、IT企業の社長が地下シェルターを作って隠れてます! 1年分の食料があるはずなんです!」
命乞いをする営業マンの頭を、恭平は無造作に安全靴で踏みつけた。
「へえ。金持ちの豚どもが、地下でぬくぬく缶詰食ってるってわけだ」
恭平はニヤリと笑い、傍らに控えていた仲間たちを振り返った。
彼らの手には、ホームセンターから略奪してきたエンジンカッター、バール、そして大型のガスバーナーが握られている。警察のサイレンは、もう何日も聞いていない。交番の警官たちは暴徒に殺されたか、制服を脱いで逃げ出した後だ。
「おい、聞いたかお前ら。俺たちのディナーは、分厚いコンクリートの『缶詰』の中に入ってるらしいぞ」
「ヒャッハー! 缶切り(バーナー)の出番っすね、恭平さん!」
下品な笑い声が、蝋燭の火しか灯らない薄暗いラウンジに響く。
かつて、恭平たちは社会の底辺を這いずり回るゴミだった。学歴もなく、金もなく、タワマンの住人たちからは虫けらのように見下されていた。
だが、この封鎖された1400万人の檻の中では、ルールが完全に逆転した。
暴力(チカラ)こそが、唯一の法なのだ。
「よし、野郎ども。準備しろ。松濤の『豚小屋』へ狩りに行くぞ。……あ、こいつはもう用済みだから、その辺の道端にでも捨てとけ。どうせ数日で飢え死にだ」
「ひっ……! 助けっ、約束が……!」
絶叫する営業マンが仲間たちに引きずられていくのを背に、恭平は奪い取った高級ウイスキーのボトルをラッパ飲みした。
アルコールが血の気をたぎらせる。飢えと暴力の支配する、狂った夜のパレードの始まりだ。
地下で震えている特権階級の豚どもを引きずり出し、泣き叫ぶ顔を見ながら、奴らの備蓄を食い尽くしてやる。
暗闇に沈む高級住宅街へと歩き出した暴徒たちの頭上。
無慈悲な赤い数字が、死神の目のように彼らを見下ろしていた。
【1826:00:12】
裏社会のケダモノたちが「新たな王」として街を闊歩し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる