万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜

月神世一

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第二章 勘違いする1000円バイト

家の前が自衛隊で封鎖されているので、裏口からバイトに行きます
​ バラララララッ……。
​ 翌朝。
 俺は、ヘリコプターの爆音と、地鳴りのような重低音で目を覚ました。
​「んん……なんだ? 工事か?」
​ 時計を見ると、朝の6時。
 まだ眠い目をこすりながら、俺はアパートの窓を開けた。
 そして、固まった。
​「…………はい?」
​ そこは戦場だった。
 いや、正確には「我が家の前」が、だ。
​ 狭い路地には、黒塗りの高級車が隙間なく駐車されている。
 その奥には、迷彩服を着た自衛隊員たちが並び、装甲車――あれ、軽装甲機動車だよな?――が鎮座していた。
 上空には報道ヘリが3機、旋回している。
​『――現在、現場周辺は半径500メートルにわたり封鎖されています!』
『政府の特別対策チームが、九条氏との接触を試みていますが……!』
​ 拡声器の声と、無線飛び交う怒号。
 近所のおばちゃんたちが、規制線の外から不安そうに覗いている。
​「……え、なにこれ」
​ 俺はパジャマのまま、窓枠に手をついた。
 脳内会議が高速で回転を始める。
​ 自衛隊。警察。黒塗りの車。
 そして、俺の家を取り囲む包囲網。
​ ――思い当たる節しかなかった。
​「……昨日の『壁』か」
​ 血の気が引いた。
 ダンジョンの壁は、国の所有物だ。
 それを勝手に破壊し、あまつさえ内部の希少金属(ミスリル)を無許可で採掘し、持ち帰ってしまった。
 これ、完全に犯罪じゃないか?
​「器物損壊……窃盗……ダンジョン法違反……」
​ 罪状が頭をよぎる。
 昨日は「1億だ!」と浮かれていたが、冷静に考えれば、あの配信のせいで証拠はバッチリ残っている。
 つまり、これは「お迎え(VIP待遇)」ではなく、「逮捕(強制連行)」だ。
​「やばい。捕まったら、借金返済どころか、損害賠償で人生終わる」
​ 俺はガタガタと震えながら、カーテンを閉めた。
 未緒はまだ寝ている。あいつを巻き込むわけにはいかない。
 とりあえず、ほとぼりが冷めるまで身を隠そう。
 いや、その前に。
​「……バイト、行かなきゃ」
​ 俺はハッとした。
 今日は朝7時から、駅前のコンビニでシフトが入っている。
 店長は厳しい人だ。「家の前が戦場なんで休みます」なんて言ったら、「嘘つくなクビだ!」と怒鳴られるに決まっている。
 クビになったら、来月の家賃が払えない。
 1億はあるけど、口座が凍結されたら終わりだ。
​「よし。……逃げよう」
​ 俺は着替えると、リュック(中身は空っぽ)を背負い、1階の台所の勝手口へ向かった。
 そっとドアを開ける。
 裏の路地にも、警官が二人立っていた。
​「くそっ、裏まで完全に包囲されてる……!」
​ 逃げ場なし。
 普通なら、ここで諦めて両手を上げるところだ。
 だが、今の俺には『解体』がある。
​ 俺は視線を巡らせた。
 警官たちの背後にある、ブロック塀。
 あれが邪魔だ。あそこさえ通れれば、隣の家の庭を抜けて大通りに出られる。
​「……すいません、ちょっとだけ通りますね」
​ 俺は小声で呟き、ブロック塀に指を向けた。
 イメージするのは、人が一人通れるだけの「穴」。
 音を立てずに、分子結合を解く。
​「――『解体』」
​ シュゥ……。
​ 音もなく、ブロック塀の一部が砂となって崩れ落ちた。
 警官たちは正面の通り(表玄関側)を警戒していて、背後の異変に気づいていない。
 俺はその隙に、猫のように音もなく穴をくぐり抜けた。
​ ◇
​「いらっしゃいませー」
​ 朝7時15分。
 駅前のコンビニ『セブン・イレブンブン』。
 俺はいつもの制服を着て、レジに立っていた。
 無事に包囲網を突破し、定刻通りに出勤できたのだ。我ながら完璧なステルススキルだ。
​「おい九条、品出し終わったか?」
「あ、はい店長。今やります」
​ 店長がバックヤードから顔を出した。
 店内のテレビでは、朝のニュース番組が流れている。
​『――速報です。政府関係者が九条氏の自宅へ突入しましたが、室内はもぬけの殻でした!』
『ええっ!? あの厳重な包囲網をどうやって!?』
『まさに神出鬼没! これぞ特級探索者のスキルと言えるでしょう!』
『専門家の分析では、空間転移(テレポート)を使った可能性も示唆されており――』
​ テレビの中で、コメンテーターが熱く語っている。
 店長が鼻を鳴らした。
​「へぇ、すごいなこの『解体師』って奴。魔法使いか?」
「さあ……すごいっすねぇ(棒読み)」
​ 俺はおにぎりを棚に並べながら、冷や汗を拭った。
 テレポートなんて使ってない。ただ壁に穴を開けて、ママチャリで爆走してきただけだ。
​「しかし、1億稼いで姿を消すとはな。俺なら即引退して遊んで暮らすけどなー」
「……そうっすね。あはは」
​ 俺は乾いた笑いを漏らした。
 引退? 無理だ。
 俺は今、指名手配犯(勘違い)として追われている身なのだから。
​ その時、自動ドアが開いた。
​「いらっしゃいませー」
​ 入ってきたのは、煌びやかな鎧に身を包んだ、モデルのように美しい女性だった。
 プラチナブロンドの長い髪。冷ややかな青い瞳。
 そして、その胸元には『Sランク』を示す金色のバッジが輝いている。
​(うわっ、Sランク探索者だ……。なんでこんな場末のコンビニに?)
​ 彼女は周囲の客の視線を一身に集めながら、真っ直ぐにレジへ――ではなく、コピー機の方へ向かった。
 そして、なぜかコピー機の前でスマホを取り出し、ニヤニヤと画面を見つめている。
​「ふふっ……九条様……素敵……」
​ ……ん?
 今、俺の名前言った?
​ 俺が棚の隙間から覗き見ると、彼女のスマホ画面には、昨日の俺の配信アーカイブが映っていた。
 しかも、俺が「お肉、今日の晩ご飯なんです」と言ったシーンを、何度もリピート再生している。
​「『妹の笑顔の方が高いんで』……キャーッ! 尊い! なんて家族思いなの!?」
​ Sランクの美女が、コンビニのコピー機の前で身悶えしている。
 なんか見てはいけないものを見てしまった気がする。
​「……さて、仕事しよ」
​ 俺は見なかったことにして、レジに戻った。
 まさか、この美女――『氷の女帝』カレンが、俺の(勘違い)ストーカーだとは露知らず。
​ 俺の平穏なバイト生活に、新たな嵐が近づいていた。
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