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EP 4
妹の学校からSOS「お弁当忘れた(震え声)」
翌朝。
俺はアパートのキッチンで、黙々と唐揚げを揚げていた。
ジュワワワ……という小気味良い音が、少しだけ荒んだ心を癒してくれる。
「はぁ……ギルド、出禁になっちゃったな」
昨日の測定器爆破事件。
カレンに「二度と来るな!」と怒鳴られ、俺は逃げるように帰ってきた。
弁償請求が来ていないのが唯一の救いだが、探索者としての活動は当分自粛したほうがいいだろう。
「……暇だな」
未緒はとっくに学校へ行っている。
俺は揚げたての唐揚げをつまみ食いした。
サクッ、ジュワッ。
溢れ出すのは、昨日持ち帰った『龍王の霜降り肉』の濃厚な旨味だ。
「うんま……。これ、未緒にも食わせてやりたかったな」
昨夜は焼肉だったが、唐揚げにしても絶品だ。冷めても美味しいだろう。
俺はため息をつきながら、残りの唐揚げをタッパーに詰めた。
その時。
テーブルの上に置いてあったスマホが震えた。
ブブブッ、ブブブッ。
画面を見ると、『ATM(未緒)』からの着信だ。
時間は11時。もうすぐ昼休みか。
「ん? なんだろ。早弁の報告か?」
俺は軽い気持ちで通話ボタンを押した。
「もしもしー? どうした、未緒」
『――っ、……兄ちゃん……!』
スピーカーから聞こえてきたのは、いつもの元気な声ではなかった。
ノイズ混じりの、悲鳴のような、震える声。
『助け……て……! 学校が……変なの……いっぱい……!』
「ん? 電波悪いな。変なの? 不審者か?」
俺は首を傾げた。
未緒の通う「私立カナン高校」は、探索者育成コースもある名門だ。セキュリティは万全のはずだが。
『違う……! スライム……うわっ、窓が割れ……キャアアアッ!』
ガシャーン! という破壊音が響く。
同時に、周囲の生徒たちの悲鳴も聞こえてきた。
どうやら、ただ事ではないらしい。
「おい、大丈夫か!? 何があった!?」
『……怖い……死にたくない……!』
未緒が泣いている。
俺の背筋が凍った。
あいつがここまで怯えるなんて、よっぽどのことが起きているに違いない。
『……お弁当……』
「え?」
『お弁当……忘れた……の……』
プツン。
通話が切れた。
「…………」
俺はスマホを握りしめたまま、数秒間フリーズした。
――整理しよう。
1.未緒が泣いている。
2.学校で何かトラブル(不審者かスライム?)があった。
3.そして最後に、「お弁当忘れた」と言い残した。
俺はキッチンを見渡した。
そこには、俺がさっき作った「特製ドラゴン唐揚げ弁当」が鎮座している。
そして、玄関には未緒が忘れていった弁当箱包みがあった。
「……なるほど。そういうことか」
俺の中で、全てのピースが(間違った方向に)ハマった。
未緒は腹が減っているんだ。
育ち盛りの高校生だ。空腹は最大の敵だ。
「スライム」というのは、たぶん「腹が減りすぎて先生がスライムに見える」とか、そういう若者言葉の比喩だろう。
「死にたくない」は、「空腹で死にそう」という意味だ。
「……泣くほど腹減ってるのか。可哀想に」
俺は立ち上がった。
妹のピンチだ。兄として、放っておくわけにはいかない。
「待ってろ未緒。今すぐ、世界一美味い弁当を届けてやるからな!」
俺は弁当をリュックに詰め込むと、アパートを飛び出した。
愛車である銀色のママチャリ『シルバー・チャリオット号』に跨る。
「行くぞ! 最高速で!」
キコキコキコ……!
俺はペダルを全力で回した。
目指すは未緒の高校。
ママチャリのカゴには、世界を揺るがすSSS級食材が満載されていた。
◇
一方その頃。
私立カナン高校は、地獄と化していた。
「ひぃぃっ! 来るな! 来ないでぇぇ!」
「魔法が効かない! なんだこいつら!」
校舎の窓ガラスは割れ、廊下には無数のスライムが溢れかえっていた。
ただのスライムではない。
全身が黒く濁り、物理攻撃を無効化し、触れたものを強酸で溶かす『変異種(ミュータント)』だ。
未緒は、教室の隅で机の下に隠れ、震えていた。
「……お兄ちゃん……」
さっき、奇跡的に電話が繋がった。
校舎全体が「空間断絶結界」で覆われているのに、なぜか兄のスマホにだけは繋がったのだ。
必死に助けを求めた。
でも、肝心なところで言葉が出なかった。
恐怖でパニックになり、最後に口をついて出たのは、朝の些細な後悔――「お弁当忘れた」という、どうでもいい一言だった。
「……バカ私。最期の言葉が『弁当』って……」
未緒は絶望的な笑みを浮かべた。
廊下からは、生徒たちの悲鳴と、肉が焼けるような嫌な音が近づいてくる。
ドロリ……。
教室のドアの隙間から、黒い粘液が染み出してくる。
「あ……見つかった……」
未緒が死を覚悟した、その時。
ズドォォォォン!!
校庭の方で、凄まじい爆音が響いた。
まるで、何かが結界を無理やりこじ開けたような音。
「な、なに……?」
未緒が顔を上げると、窓の外に信じられない光景が見えた。
校門の頑丈な鉄扉が――いや、校門を守っていた「見えない結界の壁」ごと、粉々に砕け散っていたのだ。
そして、その土煙の中から現れたのは。
キコキコキコ……。
必死の形相でママチャリを漕ぐ、エプロン姿の男。
「……は?」
未緒の目が点になった。
「……お兄ちゃん?」
九条湊。
彼はママチャリをドリフトさせながら校庭に乗り入れると、校舎を見上げて大声で叫んだ。
「未緒ーーーっ! 弁当忘れてるぞーーーっ! 唐揚げだぞーーーっ!」
その声は、拡声器も使っていないのに、戦場と化した校舎全体に響き渡った。
「……はぁあああ!?」
未緒の絶叫がこだまする。
校庭にいたスライムたちが、一斉に「新しい餌」である湊の方へ向きを変えた。
翌朝。
俺はアパートのキッチンで、黙々と唐揚げを揚げていた。
ジュワワワ……という小気味良い音が、少しだけ荒んだ心を癒してくれる。
「はぁ……ギルド、出禁になっちゃったな」
昨日の測定器爆破事件。
カレンに「二度と来るな!」と怒鳴られ、俺は逃げるように帰ってきた。
弁償請求が来ていないのが唯一の救いだが、探索者としての活動は当分自粛したほうがいいだろう。
「……暇だな」
未緒はとっくに学校へ行っている。
俺は揚げたての唐揚げをつまみ食いした。
サクッ、ジュワッ。
溢れ出すのは、昨日持ち帰った『龍王の霜降り肉』の濃厚な旨味だ。
「うんま……。これ、未緒にも食わせてやりたかったな」
昨夜は焼肉だったが、唐揚げにしても絶品だ。冷めても美味しいだろう。
俺はため息をつきながら、残りの唐揚げをタッパーに詰めた。
その時。
テーブルの上に置いてあったスマホが震えた。
ブブブッ、ブブブッ。
画面を見ると、『ATM(未緒)』からの着信だ。
時間は11時。もうすぐ昼休みか。
「ん? なんだろ。早弁の報告か?」
俺は軽い気持ちで通話ボタンを押した。
「もしもしー? どうした、未緒」
『――っ、……兄ちゃん……!』
スピーカーから聞こえてきたのは、いつもの元気な声ではなかった。
ノイズ混じりの、悲鳴のような、震える声。
『助け……て……! 学校が……変なの……いっぱい……!』
「ん? 電波悪いな。変なの? 不審者か?」
俺は首を傾げた。
未緒の通う「私立カナン高校」は、探索者育成コースもある名門だ。セキュリティは万全のはずだが。
『違う……! スライム……うわっ、窓が割れ……キャアアアッ!』
ガシャーン! という破壊音が響く。
同時に、周囲の生徒たちの悲鳴も聞こえてきた。
どうやら、ただ事ではないらしい。
「おい、大丈夫か!? 何があった!?」
『……怖い……死にたくない……!』
未緒が泣いている。
俺の背筋が凍った。
あいつがここまで怯えるなんて、よっぽどのことが起きているに違いない。
『……お弁当……』
「え?」
『お弁当……忘れた……の……』
プツン。
通話が切れた。
「…………」
俺はスマホを握りしめたまま、数秒間フリーズした。
――整理しよう。
1.未緒が泣いている。
2.学校で何かトラブル(不審者かスライム?)があった。
3.そして最後に、「お弁当忘れた」と言い残した。
俺はキッチンを見渡した。
そこには、俺がさっき作った「特製ドラゴン唐揚げ弁当」が鎮座している。
そして、玄関には未緒が忘れていった弁当箱包みがあった。
「……なるほど。そういうことか」
俺の中で、全てのピースが(間違った方向に)ハマった。
未緒は腹が減っているんだ。
育ち盛りの高校生だ。空腹は最大の敵だ。
「スライム」というのは、たぶん「腹が減りすぎて先生がスライムに見える」とか、そういう若者言葉の比喩だろう。
「死にたくない」は、「空腹で死にそう」という意味だ。
「……泣くほど腹減ってるのか。可哀想に」
俺は立ち上がった。
妹のピンチだ。兄として、放っておくわけにはいかない。
「待ってろ未緒。今すぐ、世界一美味い弁当を届けてやるからな!」
俺は弁当をリュックに詰め込むと、アパートを飛び出した。
愛車である銀色のママチャリ『シルバー・チャリオット号』に跨る。
「行くぞ! 最高速で!」
キコキコキコ……!
俺はペダルを全力で回した。
目指すは未緒の高校。
ママチャリのカゴには、世界を揺るがすSSS級食材が満載されていた。
◇
一方その頃。
私立カナン高校は、地獄と化していた。
「ひぃぃっ! 来るな! 来ないでぇぇ!」
「魔法が効かない! なんだこいつら!」
校舎の窓ガラスは割れ、廊下には無数のスライムが溢れかえっていた。
ただのスライムではない。
全身が黒く濁り、物理攻撃を無効化し、触れたものを強酸で溶かす『変異種(ミュータント)』だ。
未緒は、教室の隅で机の下に隠れ、震えていた。
「……お兄ちゃん……」
さっき、奇跡的に電話が繋がった。
校舎全体が「空間断絶結界」で覆われているのに、なぜか兄のスマホにだけは繋がったのだ。
必死に助けを求めた。
でも、肝心なところで言葉が出なかった。
恐怖でパニックになり、最後に口をついて出たのは、朝の些細な後悔――「お弁当忘れた」という、どうでもいい一言だった。
「……バカ私。最期の言葉が『弁当』って……」
未緒は絶望的な笑みを浮かべた。
廊下からは、生徒たちの悲鳴と、肉が焼けるような嫌な音が近づいてくる。
ドロリ……。
教室のドアの隙間から、黒い粘液が染み出してくる。
「あ……見つかった……」
未緒が死を覚悟した、その時。
ズドォォォォン!!
校庭の方で、凄まじい爆音が響いた。
まるで、何かが結界を無理やりこじ開けたような音。
「な、なに……?」
未緒が顔を上げると、窓の外に信じられない光景が見えた。
校門の頑丈な鉄扉が――いや、校門を守っていた「見えない結界の壁」ごと、粉々に砕け散っていたのだ。
そして、その土煙の中から現れたのは。
キコキコキコ……。
必死の形相でママチャリを漕ぐ、エプロン姿の男。
「……は?」
未緒の目が点になった。
「……お兄ちゃん?」
九条湊。
彼はママチャリをドリフトさせながら校庭に乗り入れると、校舎を見上げて大声で叫んだ。
「未緒ーーーっ! 弁当忘れてるぞーーーっ! 唐揚げだぞーーーっ!」
その声は、拡声器も使っていないのに、戦場と化した校舎全体に響き渡った。
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校庭にいたスライムたちが、一斉に「新しい餌」である湊の方へ向きを変えた。
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