万年Fランクの荷持ち、ハズレ枠『解体』スキルでダンジョンの壁を崩したらSSS級素材が出た〜誤配信で世界中が震えている件〜

月神世一

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EP 5

ボス『深海のクラーケン』? いえ、ただの新鮮な『魚介類』ですね
​ 船内のリフォームを終え、俺たちは再び甲板に出た。
 かつての幽霊船は、今や豪華客船のような輝きを放っている。
 潮風が心地よい。
​「……Unbelievable……」
​ ジャックがサングラスを外し、ピカピカになった手すりを撫でている。
 彼の中で「日本の清掃員=Crazy(ヤバい奴)」という認識が確定したようだ。
​「ふぅ。これで仕事は終わりかな?」
​ 俺が伸びをした、その時だ。
​ ズズズズズ……!!
​ 船体が大きく傾いた。
 海面が盛り上がり、山のような巨体が浮上してくる。
 ヌラヌラと光る赤黒い皮膚。吸盤のついた極太の触手。
​「Giyaaaaaa!!」
「Shiiiiiiii!!」
​ 海を割って現れたのは、船そのものよりも巨大な、伝説の海の怪物――『深海のクラーケン』だった。
 その触手の一本が、せっかく磨き上げた甲板に叩きつけられる。
​ バシィィィンッ!
​ 綺麗なチーク材の床に、ドス黒い粘液(インク)が飛び散った。
​「あ……」
​ 俺の中で、何かがプツンと切れた。
​「Warning! ボスのお出ましだ!」
​ ジャックが即座に反応し、全身に雷を纏う。
​「こいつが元凶か! 下がってろボーイ! 俺が黒焦げにしてやる!」
​ ジャックが跳躍する。
 右手に圧縮された雷球を作り出し、クラーケンの眉間(と思われる場所)へ投げつける。
​「Eat this!! ギガ・ボルト・スマッシャー!!」
​ ズガァァァァァンッ!!
​ 直撃。
 凄まじい稲妻が怪物を包み込む。
 普通なら即死だ。
 だが――
​「グオオオオオオッ!」
​ クラーケンは悲鳴を上げたものの、倒れない。
 その皮膚から大量の粘液を分泌し、電気を地面(海)へ逃がしているのだ(アース効果)。
 それどころか、怒り狂って数千本の触手を一斉に振り上げた。
​「No Way! 電気が効かねえ!? ゴム人間かよこいつ!」
​ ジャックが焦る。
 触手の雨が降り注ぐ。
 このままでは、リフォームしたばかりの豪華客船がまた藻屑になってしまう。
​「くそっ、カレン! 援護しろ!」
「断るわ。師匠の邪魔になるもの」
​ カレンは腕を組んで、静かに俺を見つめている。
 さすが弟子。わかってるな。
​「……おい、タコ」
​ 俺はデッキブラシを握りしめ、前に出た。
 いや、タコじゃないな。イカか?
​「せっかく綺麗にした床を……汚してくれたな?」
​ 俺の視線は、クラーケンではなく、甲板に飛び散ったインクに向けられていた。
 許せない。
 掃除した直後に汚されるのが、清掃員として一番腹が立つんだよ。
​「責任取って、食材になってもらうぞ」
​ 俺は空を見上げた。
 巨大なイカ。新鮮な魚介類。
 あれだけの大きさなら、刺し身、天ぷら、塩辛……何人前取れるだろうか。
​「Hey! ボーイ! 逃げろ! 食われるぞ!」
​ ジャックが叫ぶ中、巨大な触手が俺の頭上に迫る。
 俺は動じない。
 まな板の上の魚が暴れたところで、料理人には勝てないのだ。
​ 俺はデッキブラシを包丁のように構えた。
 対象:『軟体動物の筋肉繊維』および『可食部』。
 不要な内臓、墨袋、クチバシ(カラス)は産業廃棄物として分離。
​「――『解体(さばく)』」
​ ズバァッ!!
​ 俺が一閃した瞬間。
 世界が止まった。
​ 襲いかかってきた触手が、空中で綺麗にスライスされた。
 輪切りではない。
 皮が剥がれ、吸盤が取れ、真っ白で透き通った「イカそうめん」のような短冊状に加工されて、バラバラと甲板に降り注いだのだ。
​「……Hah?」
​ ジャックが目を丸くする。
 だが、まだ終わらない。
 俺は連続でブラシを振るった。
​ シュッシュッシュッシュッ!!
​ 目にも止まらぬ高速解体。
 クラーケンの巨体が、だるま落としのように崩れていく。
 胴体は「ロールイカ」に。
 エンペラは「刺し身」に。
 ゲソは「唐揚げ用」に。
​ ドサドサドサドサッ!
​ 数秒後。
 海上に聳え立っていた怪物は消滅していた。
 代わりに甲板には、築地市場も裸足で逃げ出すほどの、大量かつ高品質な「イカの切り身」が山積みになっていた。
​「……一丁上がり」
​ 俺は額の汗を拭った。
 そして、呆然としているジャックの方を向いた。
​「ジャックさん、火(雷)、貸してくれません? ちょっと炙りたいんで」
​「…………」
​ ジャックは震える手でサングラスを外し、そして俺の足元に崩れ落ちた。
​「Oh my god……。You are Monster……」
​ カメラドローンが、山積みのイカと、膝をつく全米No.1を映し出す。
​『wwwwwwww』
『イカwwwwww』
『解体ショー始まった』
『強すぎて草』
『ジャック:「俺の雷が!」 湊:「刺し身一丁!」』
『これ絶対うまいやつ』
『クラーケン(食材)』
『世界最強の漁師誕生』
​ 俺はとりあえず、一番新鮮そうなエンペラの部分を一切れつまみ、醤油(常に携帯している)を垂らして口に放り込んだ。
​「ん! 甘い!」
​ 最高だ。
 これなら未緒へのお土産にもなるし、政府への追加報酬(現物支給)としても喜ばれるだろう。
 こうして、東京湾の危機は「大漁」という形で幕を閉じた。
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