​「何か寄越せ」と女神を壁ドンしたら、最強通販スキルと婚姻届を渡された。元処刑人の俺は、異世界で小料理屋を営みたい

月神世一

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第二章 神、魔王、竜王の飲み会

EP 13

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魔王の科学実験 ~炊飯器という名の魔導兵器~
 その夜、小料理屋『鬼灯(ほおずき)』の厨房には、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「……龍魔呂。貴方、ついに世界を滅ぼす気になったの?」
 カウンター席で、魔王ラスティアが蒼白な顔をして立ち上がった。
 彼女の視線の先――厨房の作業台には、漆黒のボディに包まれた『謎の黒い箱』が鎮座していた。
 鈍い光沢を放つ流線型のフォルム。
 表面に浮かび上がるデジタル文字。
 そして、龍魔呂が先日購入した『業務用発電機』から伸びる太いケーブルが、その箱に接続されている。
「私の解析によると、その箱の内部では、異常な高圧と熱エネルギーが渦巻いているわ。……これは小型の『魔力炉心(リアクター)』? それとも対城塞用・時限爆弾?」
 ラスティアが防御結界を展開しようと杖を構える。
 無理もない。
 中世レベルの文明において、最新家電のデザインはあまりに異質で、禍々しくすら見える。
「……あぁ? 何言ってんだ」
 龍魔呂は角砂糖を噛み砕き、黒い箱の蓋を撫でた。
「こいつは『炊飯器』だ。……『極厚釜・圧力IHジャー 1升炊き』だぞ」
 そう。
 龍魔呂がついに導入した文明の利器。
 日本の食卓の心臓部、炊飯器である。
 しかも、10万円クラスの最高級モデルだ。
「スイハンキ……? 炊飯(飯を炊く)……? 嘘よ! たかが穀物を煮るためだけに、こんなオーバーテクノロジーな魔導兵器を使うわけがないわ!」
「黙って見てろ。今、クライマックスだ」
 龍魔呂はラスティアの警告を無視し、パネルの表示を見つめた。
 残り時間1分。
 その時。
 プシューーーーーッ!!!!
 突如、炊飯器の上部から猛烈な勢いで白煙(蒸気)が噴き出した。
「きゃあぁッ! 臨界点突破!? 爆発するわ!」
「ひいぃ! 逃げましょう龍魔呂さぁん!」
 ラスティアとルナが悲鳴を上げてカウンターの下に隠れる。
 だが、龍魔呂は微動だにしない。
「……蒸らしに入っただけだ」
 ピーッ、ピーッ、ピーッ♪
 軽快なメロディが炊き上がりを告げた。
 龍魔呂はボタンを押す。
 パカッ。
 蓋が開いた瞬間。
 立ち上る湯気と共に、甘く、芳醇な香りが店内に爆発的に広がった。
「――っ!?」
 ラスティアが恐る恐る顔を出す。
 彼女の目に飛び込んできたのは、黒い釜の中で宝石のように輝く、純白の粒たちだった。
「何これ……白い宝石? 一粒一粒が立っているわ……」
「『銀シャリ』だ」
 龍魔呂は大きなしゃもじで、十字を切るように底から混ぜ返した。
 湯気が踊る。
 米の一粒一粒がコーティングされたかのように艶めき、粘りと弾力を主張している。
 この世界にも麦や雑穀はあるが、精米されたジャポニカ米(短粒種)を、圧力IHで極限まで旨味を引き出して炊いたものは存在しない。
「へい。まずはコレで食え」
 龍魔呂は、炊きたてのご飯を熱いうちに手に取り、素早く握った。
 キュッ、キュッ。
 適度な空気を含ませ、口の中で解ける絶妙な加減。
 具はない。海苔もない。
 手にまぶした『赤穂の天塩』のみ。
 ドンッ。
 出されたのは、湯気を立てる『塩むすび』。
「……ただの白い塊じゃない。具は? ソースは?」
「いらねぇ。米そのものを味わうんだ」
 ラスティアは半信半疑で、熱々のおにぎりを手に取った。
 熱い。けれど、ふっくらとした感触が指に伝わる。
 一口、齧(かじ)る。
 ハフッ……。
「――んんっ!?」
 ラスティアの眼鏡が、蒸気で真っ白に曇った。
 噛んだ瞬間、口の中に広がる優しい甘み。
 砂糖の甘さではない。デンプンが熱によって糖化した、穀物本来の奥深い甘みだ。
 表面についた塩が、その甘みを爆発的に引き立てている。
 粘り気のあるモチモチとした食感。
 噛めば噛むほど、旨味が溢れ出す。
「な、何これぇぇぇ!? おかずが無いのに……米だけで成立してる!?」
 ラスティアの論理が崩壊した。
 主食とは、味のない腹を満たすための詰め物(スポンジ)のはずだった。
 だが、これは違う。
 これ単体で、ご馳走だ。
「美味しい……! シンプルなのに、情報量が多すぎるわ! これが『圧力IH』の魔力なの!?」
 ラスティアは夢中で塩むすびを頬張った。
 ハフハフと熱さを楽しみながら、あっという間に完食する。
「龍魔呂! おかわり! 次は『明太子(さっき冷蔵庫で見た)』を入れてちょうだい!」
「へいよ」
 ラスティアが銀シャリの虜になっている横で、もう一つの戦いが勃発していた。
「グルルルル……!」
 足元で、ケルベロスが唸っていたのだ。
 その視線は、龍魔呂が釜の底からこそげ取った「ある物」に釘付けだった。
 茶色く焦げた、香ばしい板状のご飯。
 **『おこげ』**である。
「おっ、分かってるな犬。一番美味いのはココだ」
 龍魔呂がおこげを手に乗せると、ケルベロスの三つの頭がヨダレを垂らして食らいつこうとした。
 だが。
「待ちなさいケルベロス! それは私のよ!」
 ラスティアが口の端にご飯粒をつけたまま叫んだ。
「そのメイラード反応(焦げ)を起こした部分は、通常の白米とは異なるクリスピーな食感と香ばしさがあるはず! 私が分析(味見)するわ!」
「ワンッ!(嫌だ!)」
「よこしなさい!」
 魔王と魔獣による、おこげ争奪戦。
 見苦しい。あまりに見苦しい。
「……チッ。喧嘩すんな」
 龍魔呂は、おこげを半分に割り、ラスティアの口とケルベロスの口にそれぞれ放り込んだ。
 バリボリ……。
 サクサク……。
 香ばしい音と、醤油を少し垂らした焦げた香りが広がる。
 一人と一匹は、同時に恍惚の表情を浮かべた。
「んん~っ♡ パリパリしてて最高……! 私、もうパン食には戻れないわ……」
「クゥ~ン……(至福)」
 ラスティアは、黒く輝く炊飯器を見つめ、敬意を込めて呟いた。
「認めるわ。これは世界を滅ぼす兵器ではない……世界(の食文化)を支配する、最強の魔導器よ」
 こうして、魔王城に「朝食は和食派」という新たなルールが刻まれることになった。
 なお、電気代の請求を見たネギオが白目を剥いて倒れたのは、翌日のことである。
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