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EP 5
戦闘力ゼロからの脱却。戦術的『弓』の特訓(前編)
「……よし、決めたぞ」
翌朝。太陽の光を浴びて青々と輝く『陽薬草』の香りが漂うポポロ村で、僕は意を決して村長宅の裏手に向かった。そこには、朝から上半身裸で巨大な丸太を担ぎ上げているサンガさんの姿があった。
「サンガさん、お願いがあります!」
「おぉ、タロウ様! 朝から精が出ますな。して、お願いとは?」
丸太を軽々と放り出し、額の汗を拭うサンガさん。その肉体には、歴戦の冒険者特有の細かな傷跡が刻まれている。
「僕に……戦い方を教えてください」
サンガさんの目が、一瞬で鋭くなった。
「戦い方、ですと? タロウ様ほどの御方なら、高価な魔導具を揃えれば護衛などいくらでも雇えるでしょうに」
「道具だけじゃダメなんです。昨日ゴブリンと戦って痛感しました。咄嗟の判断、体の動かし方……基礎が何もない僕じゃ、いつか死ぬ。それに、僕は自分の力でこの世界を歩いてみたいんです」
サンガさんは黙って僕を数秒間見つめた後、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「いいでしょう。だが、お坊ちゃんのタロウ様には剣や斧は向きません。獣人のパワーや魔族の魔力に対抗するには、真正面からぶつかっては数秒で細切れだ」
サンガさんが物置から取り出してきたのは、使い込まれた一張りの『弓』だった。
「選ぶべきは遠距離。それも、ただ射るだけじゃない。気配を消し、地形を使い、罠と組み合わせて相手の喉元を抜く――『狙撃』の技術だ」
こうして、僕の地獄の特訓が始まった。
「まず第一に! 弓は腕で引くもんじゃない、背中で引け! 闘気を練る感覚を掴め!」
「ぐっ……、うわぁぁぁ!」
弦を引くだけで指が千切れそうになる。16歳でクロスボウを扱えるこの世界の人間と、20歳までキーボードとレジ打ちしかしてこなかった僕とでは、基礎体力が違いすぎる。
「タロウさん、頑張って! これ、差し入れの月見大根のスープです!」
見かねたサリーが、回復効果のあるスープを持ってきてくれるのが唯一の癒やしだ。
だが、サンガさんの指導は容赦ない。
「タロウ! 標的(マト)を動かすな。お前自身が『風の一部』になれ。バード族を相手にするなら、空の動きを読まねば一瞬で急降下ボウガンの餌食だぞ!」
僕は必死に食らいついた。
幸いだったのは、僕には『100円ショップ』のスキルがあったことだ。
サンガさんの教えを実践するために必要な小道具――滑り止めの『ゴム手袋』、指を保護する『テーピング』、そして姿勢を確認するための『大型の鏡』。
これら100均アイテムを惜しみなく投入することで、僕は通常の数倍のスピードで「弓のフォーム」を強制的に矯正していった。
「ほう……。その指の白い布(テーピング)、実に合理的ですな。それにその鏡。自分の弱点が一目で分かるとは……貴殿はやはり、工夫の天才だ」
サンガさんが感心したように頷く。
僕は、ただ弓を射るだけでは終わらせない。
経済学部で学んだ「戦略的優位性」を戦闘に持ち込む。
(剣を持った獣人には近づかせない。魔法使いには詠唱をさせない。そのために弓があるんだ)
特訓3日目の夕暮れ。
僕は、100メートル先の木にぶら下がった小さなリンゴを、100均の『蛍光シール』を貼った矢で見事に貫いた。
「……よしっ!」
「ふむ、筋は悪くない。だがタロウ、これまではただの練習だ」
サンガさんが真剣な顔で僕の肩を叩いた。
「明日からは、その『100円ショップ』の道具と弓をどう組み合わせるか……実戦的な『狩り』を教えてやる」
僕の手に馴染み始めた弓。
それは、平凡な大学生が異世界で生き残るための、最初の「牙」だった。
「……よし、決めたぞ」
翌朝。太陽の光を浴びて青々と輝く『陽薬草』の香りが漂うポポロ村で、僕は意を決して村長宅の裏手に向かった。そこには、朝から上半身裸で巨大な丸太を担ぎ上げているサンガさんの姿があった。
「サンガさん、お願いがあります!」
「おぉ、タロウ様! 朝から精が出ますな。して、お願いとは?」
丸太を軽々と放り出し、額の汗を拭うサンガさん。その肉体には、歴戦の冒険者特有の細かな傷跡が刻まれている。
「僕に……戦い方を教えてください」
サンガさんの目が、一瞬で鋭くなった。
「戦い方、ですと? タロウ様ほどの御方なら、高価な魔導具を揃えれば護衛などいくらでも雇えるでしょうに」
「道具だけじゃダメなんです。昨日ゴブリンと戦って痛感しました。咄嗟の判断、体の動かし方……基礎が何もない僕じゃ、いつか死ぬ。それに、僕は自分の力でこの世界を歩いてみたいんです」
サンガさんは黙って僕を数秒間見つめた後、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「いいでしょう。だが、お坊ちゃんのタロウ様には剣や斧は向きません。獣人のパワーや魔族の魔力に対抗するには、真正面からぶつかっては数秒で細切れだ」
サンガさんが物置から取り出してきたのは、使い込まれた一張りの『弓』だった。
「選ぶべきは遠距離。それも、ただ射るだけじゃない。気配を消し、地形を使い、罠と組み合わせて相手の喉元を抜く――『狙撃』の技術だ」
こうして、僕の地獄の特訓が始まった。
「まず第一に! 弓は腕で引くもんじゃない、背中で引け! 闘気を練る感覚を掴め!」
「ぐっ……、うわぁぁぁ!」
弦を引くだけで指が千切れそうになる。16歳でクロスボウを扱えるこの世界の人間と、20歳までキーボードとレジ打ちしかしてこなかった僕とでは、基礎体力が違いすぎる。
「タロウさん、頑張って! これ、差し入れの月見大根のスープです!」
見かねたサリーが、回復効果のあるスープを持ってきてくれるのが唯一の癒やしだ。
だが、サンガさんの指導は容赦ない。
「タロウ! 標的(マト)を動かすな。お前自身が『風の一部』になれ。バード族を相手にするなら、空の動きを読まねば一瞬で急降下ボウガンの餌食だぞ!」
僕は必死に食らいついた。
幸いだったのは、僕には『100円ショップ』のスキルがあったことだ。
サンガさんの教えを実践するために必要な小道具――滑り止めの『ゴム手袋』、指を保護する『テーピング』、そして姿勢を確認するための『大型の鏡』。
これら100均アイテムを惜しみなく投入することで、僕は通常の数倍のスピードで「弓のフォーム」を強制的に矯正していった。
「ほう……。その指の白い布(テーピング)、実に合理的ですな。それにその鏡。自分の弱点が一目で分かるとは……貴殿はやはり、工夫の天才だ」
サンガさんが感心したように頷く。
僕は、ただ弓を射るだけでは終わらせない。
経済学部で学んだ「戦略的優位性」を戦闘に持ち込む。
(剣を持った獣人には近づかせない。魔法使いには詠唱をさせない。そのために弓があるんだ)
特訓3日目の夕暮れ。
僕は、100メートル先の木にぶら下がった小さなリンゴを、100均の『蛍光シール』を貼った矢で見事に貫いた。
「……よしっ!」
「ふむ、筋は悪くない。だがタロウ、これまではただの練習だ」
サンガさんが真剣な顔で僕の肩を叩いた。
「明日からは、その『100円ショップ』の道具と弓をどう組み合わせるか……実戦的な『狩り』を教えてやる」
僕の手に馴染み始めた弓。
それは、平凡な大学生が異世界で生き残るための、最初の「牙」だった。
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