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EP 23
ゴルド商会再び。危険な素材調達
帝都ルナミスの第1階層。貴族や大商人が軒を連ねるこのエリアで、一際巨大な威容を誇るのが『ゴルド商会・帝都本部』だった。
大理石で作られた豪奢なエントランスを見上げ、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「すごい建物……。ポポロ村が丸ごと入りそうですね」
サリーがポカンと口を開けている。その後ろで、ライザは周囲の護衛たちに鋭い視線を向け、油断なく剣の柄に手を添えていた。
「タロウ、ここは帝都の経済の心臓部よ。不用意な発言は命取りになるわ」
「分かってる。でも、あの『矢』を完成させるためには、どうしてもここを通るしかないんだ」
受付で商隊長ゴルスの名前を出すと、僕たちはすぐに最上階のVIPルームへと通された。
ふかふかの絨毯が敷かれた部屋で待つこと数分。バンッ! と勢いよく扉が開き、豪快な笑い声と共に大柄な男が入ってきた。
「ガッハッハ! 誰かと思えば、あの時の凄腕スナイパーの兄ちゃんじゃねぇか! 本当にルナミスまで来てくれたんだな!」
街道でオークの群れから救った商隊長、ゴルスだ。
あの時は血と泥に塗れていたが、今日は上質な絹の服に身を包み、大商会の幹部らしい威厳に満ちている。
「お久しぶりです、ゴルスさん。今日は折り入って、商会にお願いしたいことがありまして」
挨拶もそこそこに本題を切り出すと、ゴルスは対面のソファに深く腰を下ろし、商人の顔になった。
「なるほど、あの時の命の恩人の頼みだ。大抵のモンは融通してやるぜ。で、何が欲しいんだ?」
「……『火花鉱』と『精霊石』を、少々」
ピタリ、と。
ゴルスの顔から、親げな笑みが消え失せた。
VIPルームの空気が、一瞬にして数度下がったように感じられる。ライザが微かに重心を沈めるのが分かった。
「……おいおい、兄ちゃん。火花鉱と精霊石だと?」
ゴルスは目を細め、僕を射抜くような視線を向けてきた。
「どっちも、帝都じゃ騎士団が管理してる軍事物資だぞ。そこらの冒険者が焚き火やランプに使うような代物じゃねぇ。『爆発』や『魔力暴走』を引き起こす劇薬だ。……それを何に使う気だ?」
探られている。
ここで少しでもボロを出せば、僕の『異常な知識』に気づかれ、ゴルド商会の巨大な力で取り込まれてしまう。
僕はあらかじめ用意しておいた「最強の盾」を口にした。
「僕が使うのではありません。……ギルドマスター・ヴォルフさんお抱えの、『ドワーフの職人』に頼まれたお使いです」
「ドワーフの職人……?」
「ええ。ギルドの地下工房に引きこもっている変人でして。新しい『強力な魔導具』の実験にどうしても必要だとか。もちろん、費用はお支払いします」
ゴルスの目が、ギラリと光った。
「ほう。ヴォルフの旦那が囲ってる職人ね。……兄ちゃん、あのオークの目を射抜いた弓に変な筒(レンズ)がくっついてたが、あれもそのドワーフの新作か?」
(……やっぱり、あの時しっかり見られてたか!)
冷や汗が背中を伝うが、僕はポーカーフェイスを崩さず静かに頷いた。
「ええ。僕のような非力な冒険者でもオークの目を狙える、試作品です」
「……なるほどな」
ゴルスは顎を撫で、数秒の沈黙の後、ふっと口角を上げた。
「おい、兄ちゃん。もしそのドワーフの『新しい魔導具』が完成したら、冒険者ギルドを通さずに、直接うちの商会に卸す気はねぇか? ヴォルフの旦那が出す金額の、軽く10倍は払ってやるぜ」
強烈な引き抜き工作。
これがゴルド商会のやり方か。だが、僕がここで頷けば、利益と引き換えに商会の鎖に繋がれることになる。
「光栄な申し出ですが、僕たちは冒険者ギルドの自由を愛していますので。それに……」
僕は後ろで控えるライザに視線を向けた。
「その話をヴォルフさんが聞いたら、この赤髪の天才剣士(むすめ)が黙っていないと思いますよ」
ライザが一歩前に出て、静かに闘気を立ち昇らせた。
その洗練された構えと、彼女の顔立ちを見たゴルスは、「あぁ……!」と額を叩いた。
「おいおい、どっかで見た顔だと思ったら、ヴォルフの旦那の愛娘の『閃光のライザ』嬢じゃねぇか! ってことは、兄ちゃんは本気でギルド直属ってわけかよ。こりゃあ一本取られたぜ!」
ゴルスは両手を挙げ、降参のポーズをとった。
ギルドマスターの愛娘を護衛につけている。その事実が、僕の言葉の真実味を完璧に裏付け、ゴルド商会からの干渉を完全に防ぐ『絶対の防壁』として機能したのだ。
「ガッハッハ! 分かった分かった、手出しはしねぇよ。ヴォルフの旦那を敵に回すのは、割に合わねぇからな」
ゴルスは笑いながら立ち上がり、僕に手を差し出した。
「火花鉱と精霊石だな。命の恩人への礼だ、今回は商会の裏ルートを使って『無料(タダ)』で融通してやる。……だが、そのドワーフの新作が完成した時は、ぜひうちの商会にも一枚噛ませてくれよな!」
「……善処します」
僕はゴルスの分厚い手と握手を交わした。
背中を流れる冷や汗を悟られないように必死に笑みを作りながら。
こうして僕たちは、ヴォルフさんとライザという完璧な隠れ蓑を利用し、ゴルド商会の商人とのギリギリの腹の探り合いを制した。
最強の武器『必殺の矢』の素材は、無事に全て揃ったのだ。
帝都ルナミスの第1階層。貴族や大商人が軒を連ねるこのエリアで、一際巨大な威容を誇るのが『ゴルド商会・帝都本部』だった。
大理石で作られた豪奢なエントランスを見上げ、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
「すごい建物……。ポポロ村が丸ごと入りそうですね」
サリーがポカンと口を開けている。その後ろで、ライザは周囲の護衛たちに鋭い視線を向け、油断なく剣の柄に手を添えていた。
「タロウ、ここは帝都の経済の心臓部よ。不用意な発言は命取りになるわ」
「分かってる。でも、あの『矢』を完成させるためには、どうしてもここを通るしかないんだ」
受付で商隊長ゴルスの名前を出すと、僕たちはすぐに最上階のVIPルームへと通された。
ふかふかの絨毯が敷かれた部屋で待つこと数分。バンッ! と勢いよく扉が開き、豪快な笑い声と共に大柄な男が入ってきた。
「ガッハッハ! 誰かと思えば、あの時の凄腕スナイパーの兄ちゃんじゃねぇか! 本当にルナミスまで来てくれたんだな!」
街道でオークの群れから救った商隊長、ゴルスだ。
あの時は血と泥に塗れていたが、今日は上質な絹の服に身を包み、大商会の幹部らしい威厳に満ちている。
「お久しぶりです、ゴルスさん。今日は折り入って、商会にお願いしたいことがありまして」
挨拶もそこそこに本題を切り出すと、ゴルスは対面のソファに深く腰を下ろし、商人の顔になった。
「なるほど、あの時の命の恩人の頼みだ。大抵のモンは融通してやるぜ。で、何が欲しいんだ?」
「……『火花鉱』と『精霊石』を、少々」
ピタリ、と。
ゴルスの顔から、親げな笑みが消え失せた。
VIPルームの空気が、一瞬にして数度下がったように感じられる。ライザが微かに重心を沈めるのが分かった。
「……おいおい、兄ちゃん。火花鉱と精霊石だと?」
ゴルスは目を細め、僕を射抜くような視線を向けてきた。
「どっちも、帝都じゃ騎士団が管理してる軍事物資だぞ。そこらの冒険者が焚き火やランプに使うような代物じゃねぇ。『爆発』や『魔力暴走』を引き起こす劇薬だ。……それを何に使う気だ?」
探られている。
ここで少しでもボロを出せば、僕の『異常な知識』に気づかれ、ゴルド商会の巨大な力で取り込まれてしまう。
僕はあらかじめ用意しておいた「最強の盾」を口にした。
「僕が使うのではありません。……ギルドマスター・ヴォルフさんお抱えの、『ドワーフの職人』に頼まれたお使いです」
「ドワーフの職人……?」
「ええ。ギルドの地下工房に引きこもっている変人でして。新しい『強力な魔導具』の実験にどうしても必要だとか。もちろん、費用はお支払いします」
ゴルスの目が、ギラリと光った。
「ほう。ヴォルフの旦那が囲ってる職人ね。……兄ちゃん、あのオークの目を射抜いた弓に変な筒(レンズ)がくっついてたが、あれもそのドワーフの新作か?」
(……やっぱり、あの時しっかり見られてたか!)
冷や汗が背中を伝うが、僕はポーカーフェイスを崩さず静かに頷いた。
「ええ。僕のような非力な冒険者でもオークの目を狙える、試作品です」
「……なるほどな」
ゴルスは顎を撫で、数秒の沈黙の後、ふっと口角を上げた。
「おい、兄ちゃん。もしそのドワーフの『新しい魔導具』が完成したら、冒険者ギルドを通さずに、直接うちの商会に卸す気はねぇか? ヴォルフの旦那が出す金額の、軽く10倍は払ってやるぜ」
強烈な引き抜き工作。
これがゴルド商会のやり方か。だが、僕がここで頷けば、利益と引き換えに商会の鎖に繋がれることになる。
「光栄な申し出ですが、僕たちは冒険者ギルドの自由を愛していますので。それに……」
僕は後ろで控えるライザに視線を向けた。
「その話をヴォルフさんが聞いたら、この赤髪の天才剣士(むすめ)が黙っていないと思いますよ」
ライザが一歩前に出て、静かに闘気を立ち昇らせた。
その洗練された構えと、彼女の顔立ちを見たゴルスは、「あぁ……!」と額を叩いた。
「おいおい、どっかで見た顔だと思ったら、ヴォルフの旦那の愛娘の『閃光のライザ』嬢じゃねぇか! ってことは、兄ちゃんは本気でギルド直属ってわけかよ。こりゃあ一本取られたぜ!」
ゴルスは両手を挙げ、降参のポーズをとった。
ギルドマスターの愛娘を護衛につけている。その事実が、僕の言葉の真実味を完璧に裏付け、ゴルド商会からの干渉を完全に防ぐ『絶対の防壁』として機能したのだ。
「ガッハッハ! 分かった分かった、手出しはしねぇよ。ヴォルフの旦那を敵に回すのは、割に合わねぇからな」
ゴルスは笑いながら立ち上がり、僕に手を差し出した。
「火花鉱と精霊石だな。命の恩人への礼だ、今回は商会の裏ルートを使って『無料(タダ)』で融通してやる。……だが、そのドワーフの新作が完成した時は、ぜひうちの商会にも一枚噛ませてくれよな!」
「……善処します」
僕はゴルスの分厚い手と握手を交わした。
背中を流れる冷や汗を悟られないように必死に笑みを作りながら。
こうして僕たちは、ヴォルフさんとライザという完璧な隠れ蓑を利用し、ゴルド商会の商人とのギリギリの腹の探り合いを制した。
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