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EP 28
『グルルルルルル……!』
咆哮と共に、血の池から立ち上がったのは、身の丈5メートルを超える異形の獣だった。
全身の毛が赤黒い炎となって燃え盛っており、その熱気だけで周囲の草木がチリチリと音を立てて灰に変わっていく。数十頭のウルフの怨念と血肉が、高濃度の魔力によって強制的に融合させられた突然変異のバケモノ。
ボスモンスター、『紅蓮の魔狼(ぐれんのまろう)』。
「なんだ、あの魔力……息をするだけで喉が焼けそうだ……!」
僕は熱風に顔を庇いながら後ずさった。
「タロウさん、下がって! 私がやります!」
サリーが前に躍り出た。先ほどウルフの群れを蹂躙した中位攻撃魔法の詠唱に入る。
「『光風刃(ホーリー・カッター)』!!」
不可視の鋭い真空刃が魔狼の首筋へと殺到する。しかし――。
カンッ!!
「え……?」
サリーが絶望の声を漏らす。光風刃は魔狼の炎の毛皮に触れた瞬間、硬質な音を立てて弾き返され、霧散してしまった。
「魔法が、通じない……!?」
「炎の毛皮自体が高密度の魔力障壁になっているのよ! サリー、下がって!」
ライザがサリーを庇うように前に出る。
「魔力が通じないなら、純粋な物理的な斬撃で絶つまで! ――秘剣・『閃光』!!」
赤い残像が奔る。
ライザの放った神速の抜刀術。アーマード・ボアの鋼鉄の皮膚すら容易く両断したその一撃が、魔狼の眉間を正確に捉えた。
だが。
ガギィィィィンッ!!!
「くっ……!?」
火花が散り、ライザの顔が苦痛に歪んだ。
魔狼の毛皮は、ただ熱いだけではない。何十頭ものウルフの骨と皮が圧縮された、文字通りの『鎧』だった。ライザの愛剣の刃が欠け、反動で彼女の細い体が大きく後ろへと弾き飛ばされる。
「ライザ!!」
僕が慌ててライザの体を受け止めるが、その勢いを殺しきれず、二人揃って地面を転がった。
『ガァァァァァァッ!!!』
魔狼が雄叫びを上げる。その口から極大の火球が放たれ、僕たちが先ほどまでいた場所の防護柵を一瞬にして炭化させた。
「駄目だ……格が違いすぎる! おいお前ら、早く逃げろ!!」
足に怪我を負ったサンガさんが、血を吐くような声で叫んだ。
「俺が囮になる! サリーを連れて帝都へ戻れ!!」
「お父さん! 嫌です、私がお父さんを置いて逃げるわけないじゃないですか!!」
サリーが泣き叫びながら、必死にサンガさんの前に立ち塞がる。
絶望。
その二文字が、僕の脳裏を支配し始めた。
僕の『100円ショップ』のトラップ……ワイヤーも接着剤も、あの圧倒的な熱量の前では一瞬で溶けて消えるだろう。
ライザの剣も、サリーの魔法も通じない。
『グルルル……』
魔狼が、ゆっくりとこちらへ歩みを進めてくる。一歩踏み出すごとに地面が焦げ、村の防護柵が燃え上がっていく。
このままでは、村の皆も、サリーも、ライザも、全て灰にされる。
「……くそっ」
僕はギリッと奥歯を噛み締め、背中に背負った弓に手を伸ばした。
そして、矢筒の奥底に封印していた『それ』に指を触れる。
『戦場を変えてしまう。どうしてもという時以外、使用は禁ずる』
ヴォルフさんの重い警告が耳の奥で蘇る。
だが、今がその『どうしてもという時』だ。
僕の知識が、この世界を壊すかもしれない。
それでも、目の前の理不尽から大切な人たちを守るためには、この禁忌を解き放つしかない。
「……ライザ。サリー。一つだけ、頼みがある」
僕は立ち上がり、漆黒の金属弾頭を持つ『必殺の矢』を、ゆっくりと弓につがえた。
咆哮と共に、血の池から立ち上がったのは、身の丈5メートルを超える異形の獣だった。
全身の毛が赤黒い炎となって燃え盛っており、その熱気だけで周囲の草木がチリチリと音を立てて灰に変わっていく。数十頭のウルフの怨念と血肉が、高濃度の魔力によって強制的に融合させられた突然変異のバケモノ。
ボスモンスター、『紅蓮の魔狼(ぐれんのまろう)』。
「なんだ、あの魔力……息をするだけで喉が焼けそうだ……!」
僕は熱風に顔を庇いながら後ずさった。
「タロウさん、下がって! 私がやります!」
サリーが前に躍り出た。先ほどウルフの群れを蹂躙した中位攻撃魔法の詠唱に入る。
「『光風刃(ホーリー・カッター)』!!」
不可視の鋭い真空刃が魔狼の首筋へと殺到する。しかし――。
カンッ!!
「え……?」
サリーが絶望の声を漏らす。光風刃は魔狼の炎の毛皮に触れた瞬間、硬質な音を立てて弾き返され、霧散してしまった。
「魔法が、通じない……!?」
「炎の毛皮自体が高密度の魔力障壁になっているのよ! サリー、下がって!」
ライザがサリーを庇うように前に出る。
「魔力が通じないなら、純粋な物理的な斬撃で絶つまで! ――秘剣・『閃光』!!」
赤い残像が奔る。
ライザの放った神速の抜刀術。アーマード・ボアの鋼鉄の皮膚すら容易く両断したその一撃が、魔狼の眉間を正確に捉えた。
だが。
ガギィィィィンッ!!!
「くっ……!?」
火花が散り、ライザの顔が苦痛に歪んだ。
魔狼の毛皮は、ただ熱いだけではない。何十頭ものウルフの骨と皮が圧縮された、文字通りの『鎧』だった。ライザの愛剣の刃が欠け、反動で彼女の細い体が大きく後ろへと弾き飛ばされる。
「ライザ!!」
僕が慌ててライザの体を受け止めるが、その勢いを殺しきれず、二人揃って地面を転がった。
『ガァァァァァァッ!!!』
魔狼が雄叫びを上げる。その口から極大の火球が放たれ、僕たちが先ほどまでいた場所の防護柵を一瞬にして炭化させた。
「駄目だ……格が違いすぎる! おいお前ら、早く逃げろ!!」
足に怪我を負ったサンガさんが、血を吐くような声で叫んだ。
「俺が囮になる! サリーを連れて帝都へ戻れ!!」
「お父さん! 嫌です、私がお父さんを置いて逃げるわけないじゃないですか!!」
サリーが泣き叫びながら、必死にサンガさんの前に立ち塞がる。
絶望。
その二文字が、僕の脳裏を支配し始めた。
僕の『100円ショップ』のトラップ……ワイヤーも接着剤も、あの圧倒的な熱量の前では一瞬で溶けて消えるだろう。
ライザの剣も、サリーの魔法も通じない。
『グルルル……』
魔狼が、ゆっくりとこちらへ歩みを進めてくる。一歩踏み出すごとに地面が焦げ、村の防護柵が燃え上がっていく。
このままでは、村の皆も、サリーも、ライザも、全て灰にされる。
「……くそっ」
僕はギリッと奥歯を噛み締め、背中に背負った弓に手を伸ばした。
そして、矢筒の奥底に封印していた『それ』に指を触れる。
『戦場を変えてしまう。どうしてもという時以外、使用は禁ずる』
ヴォルフさんの重い警告が耳の奥で蘇る。
だが、今がその『どうしてもという時』だ。
僕の知識が、この世界を壊すかもしれない。
それでも、目の前の理不尽から大切な人たちを守るためには、この禁忌を解き放つしかない。
「……ライザ。サリー。一つだけ、頼みがある」
僕は立ち上がり、漆黒の金属弾頭を持つ『必殺の矢』を、ゆっくりと弓につがえた。
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