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EP 3
王宮の晩餐。100円のスパイスが帝国を揺るがす
「……セバス。なんだ、この平民の子供たちは」
ルナミス帝国・王宮の広大な厨房。
大理石で作られた調理台の前に立つ、純白のコックコートを着た恰幅の良い男――王宮料理長が、僕たちを不機嫌そうに見下ろしていた。
「料理長。彼らは私が特別にお呼びした、皇帝陛下のための『切り札』です。どうか、厨房の隅と、いくつか食材を使わせていただきたい」
「馬鹿な! 陛下はただでさえご病気で食欲を落とされているのだぞ! どこの馬の骨とも知れん小僧の料理など、万が一にもお出しできるものか!」
料理長が顔を真っ赤にして怒鳴る。無理もない。
僕服はパーカーだし、ライザは鎧、サリーはローブ姿だ。どう見ても場違いな冒険者パーティである。
「……タロウ様。なんとか、あっと言わせるものをお願いします。私の温泉旅行とキャバク……げふんげふん、私の首がかかっておりますので」
「分かってますよ。料理長さん、火と鍋だけ貸してください。絶対に後悔はさせませんから」
僕は呆れる料理長を尻目に、スキル『100円ショップ』を密かに起動した。
(皇帝陛下のような高齢で、しかも食欲が落ちている人に、あの油分と刺激の強いジャワカレーをそのまま出すのは少しリスキーだ。……なら、これだ)
僕がポケットから取り出したのは、二つのアイテム。
一つは、先ほどと同じ**『カレールー(中辛)』。
そしてもう一つは、100円ショップの食品コーナーで売られている、真っ赤な『福神漬け』(100円)と、香り付けの『ガラムマサラ(スパイス瓶)』**(100円)だ。
「な、なんだその茶色い泥の塊は!? まさかそれを陛下に食わせる気か!?」
「泥じゃないです。世界で一番美味しい『魔法の香辛料』です」
王宮の最高級の牛肉と、ゴロゴロとした野菜を炒め、鍋で煮込む。
そこにルーを投入し、最後の仕上げにガラムマサラを数振り。
「――ッ!!」
瞬間、王宮の厨房が、劇的なスパイスの香りに完全に支配された。
「な……んだ、この香りは……っ!?」
「鼻腔を突き抜け、胃袋を直接鷲掴みにされるような……っ! いかん、唾液が止まらん!」
先ほどまで僕を鼻で笑っていた王宮の料理人たちが、一斉に包丁を落とし、鍋の周りにゾンビのように群がってきた。
「よし、完成だ。セバスさん、冷めないうちに」
* * *
豪華絢爛な大食堂。
長大なテーブルの上座には、豪奢なローブを纏い、しかしひどく顔色の悪い老人が座っていた。
ルナミス帝国・第13代皇帝だ。
「……セバスよ。余は食欲がないと申したはずだが」
「陛下、騙されたと思って、一口だけ。一口だけで結構でございます」
セバスが、銀のドーム型の蓋(クロッシュ)を取った。
フワァァァッ……!
「……むっ!?」
黄金色のルーがたっぷりとかけられた白米。そして、その横に添えられた真っ赤な福神漬け。
立ち昇るジャワカレーと追加スパイスの香りが、皇帝の鼻腔を直撃した。
焦点が定まっていなかった皇帝の目に、カッ! と強い光が宿る。
「こ、これは……なんという香りじゃ。匂いを嗅いだだけで、胃の腑が熱く鳴動しおる……!」
皇帝は震える手で銀のスプーンを手に取り、カレーをすくい、おそるおそる口に運んだ。
「…………ッ!!」
皇帝の動きが、彫像のようにピタリと止まった。
「へ、陛下……?」
控えていた護衛の騎士たちが緊張して柄に手をかける。
だが、次の瞬間。
「美味い……!! なんじゃこれはぁぁぁっ!!」
皇帝が、年甲斐もなく立ち上がり、大声を上げた。
「辛い! だが、ただ辛いだけではない! 口の中で無数の香辛料(スパイス)が弾け、肉と野菜の旨味が怒涛のごとく押し寄せてくる! そしてこの白い穀物(コメ)との絶妙な絡み合い! 噛めば噛むほど、未知なる味が口内を支配するわ!!」
「陛下、よろしければそちらの『赤い漬物』も一緒に……」
僕が横から助言すると、皇帝は福神漬けと一緒にカレーを頬張った。
「おおおっ!! な、なんという事じゃ!! ポリポリとした心地よい食感と、爽やかな甘酸っぱさが、燃えるような辛さを優しく中和しおる! この赤い宝石(福神漬け)が加わることで、この料理は完全に『無限』の領域へと昇華されたわ!!」
ガツガツ! バクバク!!
病気で食欲不振だったはずの皇帝が、まるで何日も飯を食っていない若い冒険者のように、皿に顔を近づけて一心不乱にカレーを貪り食っていく。
そのあまりの勢いに、王宮の騎士たちもセバスも、ただポカンと口を開けて見守るしかなかった。
「……ふぅぅぅっ。余は、余は……生き返ったぞ!!」
五分後。
一滴のルーすら残っていないピカピカの皿を前に、皇帝は満足げに大きく息を吐き出し、玉座に深く沈み込んだ。額には爽やかな汗が浮かび、顔色は見違えるように血の気が戻っている。
「天晴じゃ!! これほどの美食、余の長い人生でも口にした事がないわ!」
皇帝は立ち上がり、僕を真っ直ぐに見据えた。
「タロウとやら! 噂は耳にしておるぞ。つい先日、ポポロ村を襲った未曾有の魔獣の群れを、たった三人のパーティで退けたという若き英雄じゃな!」
「えっ? あ、はい。まぁ……」
なぜ皇帝が辺境の村の出来事を知っているのか。驚く僕の横で、セバスが片眼鏡を光らせてニヤリと笑った。どうやら、この有能すぎる(そして俗物な)執事が、あらかじめ僕の功績を皇帝に吹き込んでいたらしい。
「武勲に優れ、これほどの美食の知識を持つ英傑。ただの冒険者にしておくには、あまりにも惜しい逸材じゃ」
皇帝は鷹のように鋭い目で僕を見下ろし、そして、帝国全土を揺るがすであろう、とんでもない宣言を口にした。
「褒美じゃ、タロウ。……お主を『男爵』に叙し、我が帝国の辺境、『アルクス領』の領主に任命する!」
「……セバス。なんだ、この平民の子供たちは」
ルナミス帝国・王宮の広大な厨房。
大理石で作られた調理台の前に立つ、純白のコックコートを着た恰幅の良い男――王宮料理長が、僕たちを不機嫌そうに見下ろしていた。
「料理長。彼らは私が特別にお呼びした、皇帝陛下のための『切り札』です。どうか、厨房の隅と、いくつか食材を使わせていただきたい」
「馬鹿な! 陛下はただでさえご病気で食欲を落とされているのだぞ! どこの馬の骨とも知れん小僧の料理など、万が一にもお出しできるものか!」
料理長が顔を真っ赤にして怒鳴る。無理もない。
僕服はパーカーだし、ライザは鎧、サリーはローブ姿だ。どう見ても場違いな冒険者パーティである。
「……タロウ様。なんとか、あっと言わせるものをお願いします。私の温泉旅行とキャバク……げふんげふん、私の首がかかっておりますので」
「分かってますよ。料理長さん、火と鍋だけ貸してください。絶対に後悔はさせませんから」
僕は呆れる料理長を尻目に、スキル『100円ショップ』を密かに起動した。
(皇帝陛下のような高齢で、しかも食欲が落ちている人に、あの油分と刺激の強いジャワカレーをそのまま出すのは少しリスキーだ。……なら、これだ)
僕がポケットから取り出したのは、二つのアイテム。
一つは、先ほどと同じ**『カレールー(中辛)』。
そしてもう一つは、100円ショップの食品コーナーで売られている、真っ赤な『福神漬け』(100円)と、香り付けの『ガラムマサラ(スパイス瓶)』**(100円)だ。
「な、なんだその茶色い泥の塊は!? まさかそれを陛下に食わせる気か!?」
「泥じゃないです。世界で一番美味しい『魔法の香辛料』です」
王宮の最高級の牛肉と、ゴロゴロとした野菜を炒め、鍋で煮込む。
そこにルーを投入し、最後の仕上げにガラムマサラを数振り。
「――ッ!!」
瞬間、王宮の厨房が、劇的なスパイスの香りに完全に支配された。
「な……んだ、この香りは……っ!?」
「鼻腔を突き抜け、胃袋を直接鷲掴みにされるような……っ! いかん、唾液が止まらん!」
先ほどまで僕を鼻で笑っていた王宮の料理人たちが、一斉に包丁を落とし、鍋の周りにゾンビのように群がってきた。
「よし、完成だ。セバスさん、冷めないうちに」
* * *
豪華絢爛な大食堂。
長大なテーブルの上座には、豪奢なローブを纏い、しかしひどく顔色の悪い老人が座っていた。
ルナミス帝国・第13代皇帝だ。
「……セバスよ。余は食欲がないと申したはずだが」
「陛下、騙されたと思って、一口だけ。一口だけで結構でございます」
セバスが、銀のドーム型の蓋(クロッシュ)を取った。
フワァァァッ……!
「……むっ!?」
黄金色のルーがたっぷりとかけられた白米。そして、その横に添えられた真っ赤な福神漬け。
立ち昇るジャワカレーと追加スパイスの香りが、皇帝の鼻腔を直撃した。
焦点が定まっていなかった皇帝の目に、カッ! と強い光が宿る。
「こ、これは……なんという香りじゃ。匂いを嗅いだだけで、胃の腑が熱く鳴動しおる……!」
皇帝は震える手で銀のスプーンを手に取り、カレーをすくい、おそるおそる口に運んだ。
「…………ッ!!」
皇帝の動きが、彫像のようにピタリと止まった。
「へ、陛下……?」
控えていた護衛の騎士たちが緊張して柄に手をかける。
だが、次の瞬間。
「美味い……!! なんじゃこれはぁぁぁっ!!」
皇帝が、年甲斐もなく立ち上がり、大声を上げた。
「辛い! だが、ただ辛いだけではない! 口の中で無数の香辛料(スパイス)が弾け、肉と野菜の旨味が怒涛のごとく押し寄せてくる! そしてこの白い穀物(コメ)との絶妙な絡み合い! 噛めば噛むほど、未知なる味が口内を支配するわ!!」
「陛下、よろしければそちらの『赤い漬物』も一緒に……」
僕が横から助言すると、皇帝は福神漬けと一緒にカレーを頬張った。
「おおおっ!! な、なんという事じゃ!! ポリポリとした心地よい食感と、爽やかな甘酸っぱさが、燃えるような辛さを優しく中和しおる! この赤い宝石(福神漬け)が加わることで、この料理は完全に『無限』の領域へと昇華されたわ!!」
ガツガツ! バクバク!!
病気で食欲不振だったはずの皇帝が、まるで何日も飯を食っていない若い冒険者のように、皿に顔を近づけて一心不乱にカレーを貪り食っていく。
そのあまりの勢いに、王宮の騎士たちもセバスも、ただポカンと口を開けて見守るしかなかった。
「……ふぅぅぅっ。余は、余は……生き返ったぞ!!」
五分後。
一滴のルーすら残っていないピカピカの皿を前に、皇帝は満足げに大きく息を吐き出し、玉座に深く沈み込んだ。額には爽やかな汗が浮かび、顔色は見違えるように血の気が戻っている。
「天晴じゃ!! これほどの美食、余の長い人生でも口にした事がないわ!」
皇帝は立ち上がり、僕を真っ直ぐに見据えた。
「タロウとやら! 噂は耳にしておるぞ。つい先日、ポポロ村を襲った未曾有の魔獣の群れを、たった三人のパーティで退けたという若き英雄じゃな!」
「えっ? あ、はい。まぁ……」
なぜ皇帝が辺境の村の出来事を知っているのか。驚く僕の横で、セバスが片眼鏡を光らせてニヤリと笑った。どうやら、この有能すぎる(そして俗物な)執事が、あらかじめ僕の功績を皇帝に吹き込んでいたらしい。
「武勲に優れ、これほどの美食の知識を持つ英傑。ただの冒険者にしておくには、あまりにも惜しい逸材じゃ」
皇帝は鷹のように鋭い目で僕を見下ろし、そして、帝国全土を揺るがすであろう、とんでもない宣言を口にした。
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