『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~

月神世一

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EP 4

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見知らぬ森とゼロポイント(後半)
​大木の陰に背中を預け、勇太は過呼吸気味の息を必死に整えていた。肺が熱い。
​(水筒の水は確保した。でも、これは一時しのぎだ。生き延びるなら、あの川を……あの水源を確保しなきゃならない)
​だが、あそこは狩り場だ。次も運良く逃げられる保証はどこにもない。
​(どうする? ……やるのか? あのゴブリンを、僕が……殺すのか?)
​その思考に至った瞬間、胃袋を雑巾で絞られたような痛みが走った。
人を救うために医学部に入った。解剖実習でメスを握ったことはあるが、それは学習のためだ。
生きている生物の、温かい肉体に、殺意を持って武器を突き立てる?
そんなこと、できるわけがない。
​しかし、脳裏に**“あの事件”**の記憶――乾いた銃声と、砕け散った日常の光景――がフラッシュバックする。
あの時のような無力感は、もう嫌だ。
​(やらなければ、僕が殺される。ここはそういう世界なんだ。……怖い。吐きそうなほど怖いけど、やるしかない!)
​勇太は震える膝を拳で叩き、覚悟を決めた。
彼は周囲を探り、先ほどよりも太く、芯の詰まった樫の枝を拾い上げた。ずしりとした重みが、人を殺める凶器としての現実感を掌に伝える。
​(まずは偵察だ。複数いたら即撤退。勝てる条件を探せ)
​息を殺し、忍び足で来た道を戻る。落ち葉を踏む音すら殺す、ボーイスカウト仕込みの歩行術。
風下の茂みから、川岸を覗き込む。
​いた。
緑色の肌、子供のような背丈の醜悪な小鬼――ゴブリンが一体。
仲間は追跡に飽きたのか、勇太を深追いして森の奥へ行ったのか。とにかく、残っているのは見張り番の一体だけだ。
​(一対一……これなら!)
​勇太は心臓の早鐘を抑えつけ、脳内でシミュレーションを重ねる。
武器は木の棒だけ。「地球ショッピング」は弾切れ(ポイントゼロ)。頼れるのは己の肉体と、わずかな知恵のみ。
​(奴は弓を持っている。近づく前に射られたら終わりだ。……なら、一瞬で距離を殺す!)
​彼は足元に転がっていた、握りこぶし大の石を二つ拾い、ポケットにねじ込んだ。
ゴブリンの死角になるよう、蛇のように背を低くして回り込む。
​チャンスはすぐに訪れた。
ゴブリンが喉を鳴らし、川の水を飲もうと無防備に背中を向けた、その瞬間。
​「―――ッ!」
​勇太は茂みから飛び出すと同時に、全体重を乗せて石を投げつけた。
コントロールなんて二の次だ。殺気さえ伝わればいい。
​「ギャッ!?」
​運良く、石の一つがゴブリンの側頭部にヒットした。
小鬼が短い悲鳴を上げ、よろめく。手から弓が滑り落ちる。
​(今だ!)
​「う、うおおおおおおおっ!!」
​勇太は咆哮した。恐怖を怒りで塗りつぶすための叫びだ。
薙刀の踏み込み――「送り足」で一気に間合いを詰める。
ゴブリンが振り返り、その赤黒い目が勇太を捉えた時には、もう遅い。
​彼は両手で握りしめた樫の棒を、上段から渾身の力で振り下ろした。
​ゴンッ!!!
​鈍く、湿った音が森に響く。
スイカを叩き割ったような、硬いものが砕ける嫌な感触が、棒を通じて腕に伝わった。
​ゴブリンは悲鳴を上げる暇もなく、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
痙攣し、やがて動かなくなった。
​「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
​勇太は棒を構えたまま、荒い息を吐き続けた。
指先が白くなるほど強く握りしめているのに、腕の震えが止まらない。膝が笑い、立っているのがやっとだ。
​目の前には、自分が殴り殺した「元・生き物」が転がっている。
頭部から流れ出るどす黒い液体。鼻をつく鉄錆の臭い。
​「おぇっ……」
​胃液が逆流しそうになり、口元を押さえる。
殺した。僕が。生きるために。
​(やった……助かったんだ……)
​強烈な罪悪感と、それを上回る生存本能からの安堵感。矛盾する感情が脳内でスパークし、視界がぐらぐらと揺れる。
​その時だった。
​【ピンポンパンポーン♪】
​場違いなほど軽快な電子音が鳴り響いた。
​【善行ポイントが 10 P 加算されました】
【現在所持ポイント: 10 P】
​目の前に現れた半透明のボードに、ポップなフォントで文字が躍る。
​「……善行、ポイント……?」
​勇太は呆然と呟いた。
ゴブリンを殺すことが、この世界では「善行」?
生きるために命を奪う行為が、あの女神の基準では「良い行い」としてカウントされるのか?
​「……はは、なるほどね」
​勇太は乾いた唇を歪めた。
この世界のルール、そして手に入れたチート能力の「本当の使い方」を、嫌というほど理解させられたからだ。
怪物を殺せば、飯が食える。
シンプルで、残酷で、分かりやすい等価交換。
​彼は震える手でゴブリンの死体から弓と矢筒を奪い取ると、血の付いた樫の棒を強く握り直した。
もう、ここに来たばかりの無防備な医学生ではない。
​手に入れたのは「10ポイント」という僅かな数字。
だがそれは、中村勇太がこの「アナスタシア世界」で生き抜くための、最初の一歩(あかし)だった。
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