『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~

月神世一

文字の大きさ
7 / 50

EP 7

しおりを挟む
兎の村と優しい人々
​キャルルに手を引かれ、足を踏み入れた彼女の生家は、外の冷気とは無縁の温かな空間だった。
​琥珀色に磨き込まれた木の床と壁。梁にはドライフラワーや薬草が吊るされ、馥郁(ふくいく)とした香りが漂っている。
部屋の中央には石造りの暖炉があり、パチパチと爆ぜるオレンジ色の炎が、部屋全体を優しく照らしていた。
​「ただいまー! お母さん、お客さんだよ!」
​キャルルの弾むような声に応えるように、奥の厨房から、エプロン姿の女性が顔を出した。
垂れ下がった長い耳と、柔和な目元。キャルルの数年後の姿を思わせる、母性溢れる兎人の女性だ。
​「あらあら、キャルル。それに、子供たちも無事で……まあ、いらっしゃいませ!」
​母親――ミルルは、勇太という「人間」の姿に一瞬だけ長い耳をピクリと震わせたが、すぐに慈愛に満ちた笑顔を浮かべた。
キャルルが、ゴブリン襲撃の顛末と、勇太の活躍を手短に――しかし熱っぽく――説明すると、ミルルは慌てて手を拭き、何度も深々と頭を下げた。
​「勇太様、とおっしゃるのですね。娘と子供たちが、本当にお世話になりました。感謝の言葉もございません」
​「い、いえ! 頭を上げてください。こちらこそ、キャルルさんに助けてもらったんですから」
​勇太が恐縮して言うと、隣でキャルルが頬を膨らませた。
​「もう、ユウタさん! 謙遜しすぎです。あの時のユウタさん、すごく頼もしかったんですから!」
​「ふふふ。……さあ、立ち話もなんですし、どうぞお掛けください。ちょうど夕食の支度ができたところなんです。粗末なものですが、ぜひ召し上がってください」
​「え、でも……」
​「命の恩人をもてなすのは、ルナキャロットの流儀です。遠慮なさらず! さあ、キャルル、配膳を手伝って」
​ミルルに背中を押され、勇太は使い込まれた木のテーブルに着いた。
やがて運ばれてきたのは、湯気を立てる木製の深皿と、焼きたてのパン。
​「わあ……」
​根菜と豆がたっぷり入った琥珀色のスープ、香ばしい匂いのする黒パン、そして木の実とチーズの和え物。
派手さはないが、作り手の愛情が透けて見えるような食卓だ。
​「「「いただきます!」」」
​異世界の作法は分からないが、勇太も見よう見まねで手を合わせ、スプーンを口に運ぶ。
野菜の優しい甘みと、少しの塩気。
空っぽの胃袋に、温かい液体が染み渡っていく。
​(美味しい……。コンビニ弁当とは違う、生きている味がする)
​森での極限状態から解放された安堵感が、熱い塊となって喉を通る。
ふと、勇太は自分のステータスを思い出した。
​(そうだ、ポイント……。せっかくご馳走になっているんだ。何か、お返しができないか?)
​彼はテーブルの下でこっそりとボードを展開し、『食品・調味料』のカテゴリーをスクロールする。
今の所持ポイントは30P。
そこで、ある商品が目に止まった。
​【黒胡椒(ミル付き): 5 P】
​(黒胡椒……5ポイント!? 安い! これなら!)
​勇太は迷わず購入ボタンを押した。
掌に、ポンッという軽い感触と共に、見慣れたプラスチック製の容器が出現する。
​「あの、ミルルさん、キャルルさん」
​勇太はおずおずと、その透明な筒をテーブルの上に置いた。
​「え? それは……?」
​二人の兎耳がピンと立つ。
見たこともない透明で硬質な素材(プラスチック)の中に、黒い粒がたくさん入っている。
​「これは、僕の故郷の調味料で……『黒胡椒』って言うんです。もしよかったら、スープにかけてみてください」
​「コショウ……? まさか、あの『香辛料』ですか!?」
​ミルルが目を見開く。やはり、この世界でもスパイスは貴重品らしい。
​「はい。……こうやって使います」
​勇太は実演してみせた。容器を逆さにし、カリカリとミルを回す。
挽きたての黒い粉がスープに散ると同時に、鮮烈でスパイシーな香りが湯気と共に立ち上った。
​「っ! なんて良い香り……!」
​キャルルの鼻がひくひくと動く。
勇太は挽きたてのスープを一口飲んだ。
ピリッとした刺激が野菜の甘みを引き締め、味が劇的に立体的になる。
​「うん、美味しい! ……お二人も、どうぞ」
​「は、はい! いただきます!」
​キャルルとミルルは、恐る恐る、しかし期待に目を輝かせながら、自分たちの皿に胡椒を挽き入れた。
そして、一口。
​「「――んんっ!!」」
​二人は顔を見合わせ、目を見開いた。
​「美味しい! 味が……味が跳ねました!」「体がカッと熱くなるみたい! こんなに香りの強い胡椒、初めてです!」
​「それに、この容器……ガラスでもないのに透明で、回すだけで挽けるなんて……魔法道具ですか?」
​ミルルがプラスチックのミルを、まるで宝石でも扱うように慎重に撫でている。
その反応を見て、勇太の胸に温かい充実感が広がった。
​(喜んでもらえた……)
​ゴブリンを殺して得たポイント。それは血生臭い対価だったかもしれない。
けれど、そのポイントで買ったものが、今、こうして誰かの食卓を笑顔にしている。
​「よかったら、それ、差し上げます。お礼のつもりです」
​「ええっ!? そ、そんな! 胡椒なんて、王都の貴族様しか口にできない高級品ですよ!? しかもこんなに沢山!」
​「いいんです。僕のスキルなら、また手に入りますから」
​勇太は笑って答えた。嘘ではない。たった5ポイントだ。ゴブリン半匹分で、こんなに喜んでもらえるなら安いものだ。
​「……ありがとうございます、ユウタさん。大切に使わせていただきます」
​ミルルは胡椒ミルを胸に抱き、涙ぐまんばかりに感謝した。キャルルも、口の周りにスープをつけながら、満面の笑みで頷いている。
​美味しい食事と、弾む会話。そしてスパイシーな香り。
ルナキャロット村の夜は更けていく。
勇太にとって、この異世界で初めての安らぎの時間は、黒胡椒の刺激と共に、深く記憶に刻まれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

『異世界でSWAT隊長になったが、部下が無職のドラゴンと婚活ウサギしか居ない件について〜 裁けぬ悪は、357マグナムとカツ丼で解決します〜』

月神世一
ファンタジー
「魔法? 知らん。閃光弾(フラバン)食らって手錠にかかれ!」元SWAT隊長が挑む、異世界警察24時! ​【あらすじ】  元ロス市警SWAT隊員の鮫島勇護は、子供を庇って死んだ……はずが、気がつけば異世界の新興国「太郎国」で、特別機動隊『T-SWAT』の隊長になっていた! ​ 支給されたのは、最強のリボルバー『Korth』と現代タクティカルギア。  魔法障壁? ゴム弾で割る。  詠唱? 閃光弾で黙らせる。  騎士道? 知るか、裏から制圧だ。 ​ 圧倒的な実力で凶悪犯を狩る鮫島だったが、彼には致命的な悩みがあった。  ――部下がいない。そして、装備の維持費が高すぎて給料がマイナスだ。 ​ 安くて強い人材を求めた彼が採用したのは……  「火力が強すぎてクビになった無職のドラゴン」  「婚活資金のために戦う、安全靴を履いたウサギ」  さらには、取調室にカツ丼目当てで現れる貧乏アイドルまで!? ​ 法で裁けぬ悪を、357マグナムとカツ丼で解決する!  ハードボイルド(になりきれない)痛快アクションコメディ、開幕!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...