『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~

月神世一

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EP 28

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行商人ニャングルと新たな風
​フォレスト・ゴーレムとの激戦から数週間。
ルナキャロット村には、かつてない活気と笑顔が溢れていた。
勇太の「要塞化」により夜の恐怖は消え、キャルルとリーシャの「医療体制」により病人は皆無。イグニスという「重機代わりの戦力」のおかげで、畑の開墾も進んでいる。
​そんな平和な昼下がり。
見張り台から、子供の弾んだ声が響いた。
​「おーい! 行商人のオッチャンが来たぞー!」
​その声に、村中の空気が浮き立った。
数ヶ月に一度の行商は、娯楽の少ない村にとってお祭りそのものだ。
​「毎度! ルナキャロット村の皆さん、ごきげんさんですかな~?」
​村の入り口に現れたのは、巨大な陸走鳥(ランドストライダー)に荷車を引かせた、一人の猫耳族(ケット・シー)の男だった。
茶トラ模様の耳と、機嫌よく揺れる長い尻尾。ベストのポケットには算盤(そろばん)やメモ帳がねじ込まれている。
ゴルド商会の敏腕行商人、ニャングルだ。
​「待ってたよ、ニャングルさん!」「今回はどんな珍しいものがあるんだい?」
​「へへっ、今回もええモンぎょーさん仕入れてきましたで! 北のドワーフ製のナイフに、南国の色鮮やかな布地! それに、奥さん方が喜びそうな甘い砂糖菓子もありまっせ!」
​ニャングルが軽妙な関西弁で荷台の布をめくると、村人たちが歓声を上げて群がった。
その様子を遠巻きに見ていた勇太たちの目が、ニャングルの鋭い視線と交差した。
​「……おや?」
​ニャングルの猫目が、スッと細められた。
(見かけん顔やな。……それに、あの連れは……?)
​高貴なオーラを纏う銀髪のエルフ(リーシャ)。
岩のような筋肉を持つ赤銅色の竜人(イグニス)。
そして、一見ただの人間だが、その二人が敬意を払って付き従う黒髪の青年(勇太)。
​「……こらまた、とんでもない『大物』が紛れ込んでますなぁ」
​ニャングルは小声で呟くと、鼻をヒクヒクと動かした。
彼の鼻は、単に匂いを嗅ぐだけではない。「金の匂い」を嗅ぎ分ける商人の鼻だ。
​(この村、空気が違う。……活気が異常や。それに、あそこのゴミ捨て場に転がってる『銀色の空き缶(カセットボンベ)』……あんな精巧な金属加工、王都の職人でも無理やで?)
​ニャングルは商売を手早く進めながらも、チラチラと勇太を観察し続けた。
そして、人波が引いたタイミングを見計らい、擦り寄ってきた。
​「どーもどーも! お兄さん、見かけん顔ですな。旅の方でっか?」
​「ええ、まあ。ユウタと言います」
​「へへっ、ワテはニャングル言います。……ユウタはん、単刀直入に聞きますけど、あの『透明な宝石みたいな容器(ペットボトル)』とか、『銀色の筒(ボンベ)』……あれ、アンタはんが持ち込んだんでっしゃろ?」
​勇太は眉を上げた。やはり、プロの目は誤魔化せない。
​「……目ざといですね。もしそうだと言ったら?」
​「いやいや、他言はしませんて! ただな、ワテの勘が言うてますねん。アンタはんは、ワテら商人が喉から手が出るほど欲しい『宝の山』を持ってるんとちゃうかってな」
​ニャングルはニヤリと笑った。嫌味のない、共犯者のような笑みだ。
勇太もまた、口元を緩めた。この男なら、話が通じる。
​「試してみますか? ニャングルさん」
​勇太はポケットから、一つの小さな物体を取り出した。
それは、「地球ショッピング」で買った**『100円ライター(透明タイプ)』**だ。
​「なんやこれ? 小さな箱……中に水が入ってる?」
​「こう使います」
​カチッ。ボウッ。
親指一本の操作で、小さな炎が灯る。
​「なっ……!?」
​ニャングルの尻尾が逆立った。
​「火打石も、詠唱もなしで火が!? しかも、この透明な素材……ガラスやない! 軽くて割れへん!?」
​「僕の故郷の道具です。……これ、いくらで売れますか?」
​「……言い値で売れまっせ」
​ニャングルはゴクリと唾を飲んだ。
ライター一つでこの反応だ。もし、スパイスや医薬品、ナイフなどを卸せば、どうなるか。
二人の間に、「ビジネスパートナー」としての電流が走った瞬間だった。
​「カッカッカ! 気に入りましたわ、ユウタはん! アンタはんとは、長い付き合いになりそうですな!」
​ニャングルは勇太の手をガッチリと握った。
​「さて、そんなユウタはんに、取引成立のサービスとして……『耳寄りな話』と『厄介な話』、二つ教えまひょか」
​「聞かせてください」
​ニャングルは声を潜め、真剣な眼差しになった。
​「まず『耳寄りな話』。……ここから北へ馬車で十日ほどの場所に、**交易都市『アルトリア』がありまんねん。そこで近々、年に一度の『大商業祭り』**が開かれます。世界中の珍品が集まるその祭りなら、アンタはんの商品も高く売れるし、面白い情報も手に入るはずや」
​「大商業祭り……」
勇太の心が踊った。そこに行けば、この世界のお金も、元の世界に帰る手がかりも手に入るかもしれない。
​「で、『厄介な話』の方は?」
​「……そのアルトリアに向かう街道に、最近**『黒い幽霊』**が出るらしいんですわ」
​「幽霊?」
​「ええ。夜な夜な現れては、商隊や旅人を襲う正体不明の化け物や。……ただな、生き残った奴の話じゃ、その幽霊……**『悲しそうな声で歌を歌っていた』**らしいんですわ」
​「歌う、幽霊……」
​その言葉に、後ろで聞いていたリーシャがピクリと反応した。
​「……まさか」
​「心当たりが?」
​「いいえ、まだ分からないわ。でも……もしそうなら、放っておけないかもしれない」
​リーシャの表情に、微かな陰りが差した。
​「ま、あくまで噂ですわ! ほな、ワテは次の村へ向かいますよって。……ユウタはん、アルトリアで待ってますえ! アンタはんの商品、楽しみにしとりますからな!」
​ニャングルはウィンクを残し、再び陸走鳥の手綱を取った。
新たな目的地「交易都市アルトリア」。
そして、街道に現れる「歌う幽霊」。
​勇太たちは顔を見合わせた。
村での生活は充実している。だが、彼らの冒険の本番は、この村の外に広がっているのだ。
​「……行こうか、みんな。新しい世界へ」
​勇太の言葉に、仲間たちは力強く頷いた。
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