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第八章 スローライフな学校を作る
EP 4
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働かない三柱と、ラーメン屋台のオヤジ
夜の帳が下りたカイト農場の一角に、赤提灯が揺れていた。
そこには、木造のリヤカーを改造した古き良き屋台が店を構えている。
暖簾(のれん)には達筆な文字で『麺屋 覇王』と書かれていた。
「……カイトよ。食ってみろ。ついに完成したぞ」
屋台の主、竜王デュークがドンブリを差し出した。
普段の威厳あるローブ姿ではなく、ねじり鉢巻に前掛けという、完全に「ラーメン屋の頑固オヤジ」スタイルである。
「おぉ、いい香りだねデューク」
カイトが受け取ったラーメンは、黄金色に輝いていた。
スープは、凶悪な魔獣(※カイトが狩った余り)の骨を三日三晩煮込み、麺は世界樹の葉を練り込んだ特製麺。具材には、分厚い角煮のようなチャーシューが鎮座している。
「今回のスープは、豚骨とドラゴンの骨のダブルスープだ。コクが違うぞ」
「へぇ~、いただきます」
カイトがスープを啜る。
濃厚な旨味が口内で爆発し、食べた瞬間に体中の魔力回路が強制的に活性化する感覚。普通の人なら魔力酔いで気絶するレベルだが、カイトには「ちょっと元気が出るスープ」程度だ。
「うん! 美味い! デューク、腕上げたね」
「ふッ、そうだろうそうだろう! 麺の湯切りに『時空魔法』を使った甲斐があったというものだ」
竜王が満足げに腕を組んだ、その時だった。
「……ちょっと、デューク。いい加減にしてよぉ……」
闇の奥から、ゾンビのような足取りで一人の美女が現れた。
不死鳥フレアだ。
普段の優雅さはどこへやら、髪はボサボサ、目の下には濃いクマができている。その背中からは、負のオーラが立ち昇っていた。
「あら、フレア。顔色が悪いよ? ラーメン食べる?」
カイトが心配して声をかけるが、フレアはデュークを睨みつけたまま、屋台のカウンターをバンッ! と叩いた。
「ラーメンなんて食べてる場合じゃないわよ! 西の大陸で起きた『邪神の欠片』の封印修復、あれ貴方の担当エリアでしょ!? なんで私が残業して直してるのよ!」
フレアの悲痛な叫びが夜空に響く。
世界の調停者としての業務。その大半をデュークがサボり、真面目なフレアが肩代わりしているのが現状だ。
しかし、デュークは湯切りザルを持ったまま、冷徹に言い放った。
「黙れ小娘。今、麺が伸びる」
「世界と麺、どっちが大事なのよぉぉぉッ!!」
「愚問だな。麺だ」
「キーーーッ!! もう嫌ぁ! 仕事したくなぁい!!」
フレアはその場に崩れ落ち、カウンターに突っ伏して泣き出した。
「私だって……私だって、たまにはオシャレして街コンに行きたいわよぉ……。こんな残業ばかりじゃ、お肌も荒れるし、婚期も逃すし……不死鳥なのに過労死しちゃうわよぉ……」
「あーあ、また始まった」
屋台の隅で、すでにラーメンを啜っていた銀髪の青年――狼王フェンリルが、替え玉を注文しながら呆れたように言う。
「おいオヤジ、ニンニク増しだ。……フレア、諦めろ。こいつに何を言っても無駄だ。それより、明日は俺と喧嘩(あそ)ぼうぜ?」
「フェンリル! 貴方もよ! 昨日、東の国で氷山を作って放置したでしょ! あの後始末書を書いたの、誰だと思ってるの!?」
フレアの怒りの矛先がフェンリルに向く。
だが、フェンリルは「知らねーよ」とそっぽを向き、餃子にタレをつけていた。
「うぅ……うぅ……どいつもこいつも……」
涙で化粧が崩れ、パンダのようになったフレア。
カイトはそんな彼女を見かねて、そっとコップを差し出した。
「フレア、これ飲む?」
「……カイト様ぁ……」
差し出されたのは、ルチアナが隠し持っていた地球の酒、『ストロングな缶チューハイ』だ。
フレアはそれをひったくると、プシュッと開けて一気に煽った。
「ぷはぁーっ!! ……うっ、美味しい……でも、虚しい……」
アルコールが回り、泣き上戸モードに突入したフレアは、カイトの手をギュッと握りしめた。
「ねぇカイト様ぁ~、聞いてくださいよぉ~。私、3000年も生きてるのに、まだ彼氏いないんですよぉ? おかしいと思いません? 私、世界一美しいはずなのにぃ~」
「うんうん、フレアは綺麗だよ」
「でしょぉ~!? なのに、寄ってくるのは封印された邪神とか、脳筋のドラゴンとかばっかり! 私が欲しいのはねぇ、優しくてぇ、強くてぇ、野菜を育ててくれるような殿方なんですよぉ!」
それは完全に目の前の人物のことだが、カイトは「そんな人が見つかるといいねぇ」と、孫を見るような目で頭を撫でている。
「ううっ……カイト様のバカぁ……優しさが染みるぅ……」
「よしよし。デューク、彼女に特製ラーメンを一杯」
「承知した。……フン、泣くほど腹が減っていたなら、最初からそう言えばいいものを」
デュークは手際よく麺を茹で上げ、ドンブリに注ぐ。
目の前に置かれた熱々のラーメン。
フレアは涙を拭い、箸を手に取った。
「……いただきます……ズルッ……うっ、美味しい……悔しいけど美味しいわよ、このラーメンバカァ……」
文句を言いながらも、胃袋を掴まれているフレアは完食し、最後は笑顔で寝落ちした。
その寝顔を見ながら、デュークとフェンリル、そしてカイトは静かにスープを啜る。
「……まあ、あいつも苦労人だな」
「お前が言うな、デューク」
カイトのツッコミは、夜風に消えた。
こうして、世界の均衡は(主にフレアの犠牲によって)今日も保たれているのであった。
夜の帳が下りたカイト農場の一角に、赤提灯が揺れていた。
そこには、木造のリヤカーを改造した古き良き屋台が店を構えている。
暖簾(のれん)には達筆な文字で『麺屋 覇王』と書かれていた。
「……カイトよ。食ってみろ。ついに完成したぞ」
屋台の主、竜王デュークがドンブリを差し出した。
普段の威厳あるローブ姿ではなく、ねじり鉢巻に前掛けという、完全に「ラーメン屋の頑固オヤジ」スタイルである。
「おぉ、いい香りだねデューク」
カイトが受け取ったラーメンは、黄金色に輝いていた。
スープは、凶悪な魔獣(※カイトが狩った余り)の骨を三日三晩煮込み、麺は世界樹の葉を練り込んだ特製麺。具材には、分厚い角煮のようなチャーシューが鎮座している。
「今回のスープは、豚骨とドラゴンの骨のダブルスープだ。コクが違うぞ」
「へぇ~、いただきます」
カイトがスープを啜る。
濃厚な旨味が口内で爆発し、食べた瞬間に体中の魔力回路が強制的に活性化する感覚。普通の人なら魔力酔いで気絶するレベルだが、カイトには「ちょっと元気が出るスープ」程度だ。
「うん! 美味い! デューク、腕上げたね」
「ふッ、そうだろうそうだろう! 麺の湯切りに『時空魔法』を使った甲斐があったというものだ」
竜王が満足げに腕を組んだ、その時だった。
「……ちょっと、デューク。いい加減にしてよぉ……」
闇の奥から、ゾンビのような足取りで一人の美女が現れた。
不死鳥フレアだ。
普段の優雅さはどこへやら、髪はボサボサ、目の下には濃いクマができている。その背中からは、負のオーラが立ち昇っていた。
「あら、フレア。顔色が悪いよ? ラーメン食べる?」
カイトが心配して声をかけるが、フレアはデュークを睨みつけたまま、屋台のカウンターをバンッ! と叩いた。
「ラーメンなんて食べてる場合じゃないわよ! 西の大陸で起きた『邪神の欠片』の封印修復、あれ貴方の担当エリアでしょ!? なんで私が残業して直してるのよ!」
フレアの悲痛な叫びが夜空に響く。
世界の調停者としての業務。その大半をデュークがサボり、真面目なフレアが肩代わりしているのが現状だ。
しかし、デュークは湯切りザルを持ったまま、冷徹に言い放った。
「黙れ小娘。今、麺が伸びる」
「世界と麺、どっちが大事なのよぉぉぉッ!!」
「愚問だな。麺だ」
「キーーーッ!! もう嫌ぁ! 仕事したくなぁい!!」
フレアはその場に崩れ落ち、カウンターに突っ伏して泣き出した。
「私だって……私だって、たまにはオシャレして街コンに行きたいわよぉ……。こんな残業ばかりじゃ、お肌も荒れるし、婚期も逃すし……不死鳥なのに過労死しちゃうわよぉ……」
「あーあ、また始まった」
屋台の隅で、すでにラーメンを啜っていた銀髪の青年――狼王フェンリルが、替え玉を注文しながら呆れたように言う。
「おいオヤジ、ニンニク増しだ。……フレア、諦めろ。こいつに何を言っても無駄だ。それより、明日は俺と喧嘩(あそ)ぼうぜ?」
「フェンリル! 貴方もよ! 昨日、東の国で氷山を作って放置したでしょ! あの後始末書を書いたの、誰だと思ってるの!?」
フレアの怒りの矛先がフェンリルに向く。
だが、フェンリルは「知らねーよ」とそっぽを向き、餃子にタレをつけていた。
「うぅ……うぅ……どいつもこいつも……」
涙で化粧が崩れ、パンダのようになったフレア。
カイトはそんな彼女を見かねて、そっとコップを差し出した。
「フレア、これ飲む?」
「……カイト様ぁ……」
差し出されたのは、ルチアナが隠し持っていた地球の酒、『ストロングな缶チューハイ』だ。
フレアはそれをひったくると、プシュッと開けて一気に煽った。
「ぷはぁーっ!! ……うっ、美味しい……でも、虚しい……」
アルコールが回り、泣き上戸モードに突入したフレアは、カイトの手をギュッと握りしめた。
「ねぇカイト様ぁ~、聞いてくださいよぉ~。私、3000年も生きてるのに、まだ彼氏いないんですよぉ? おかしいと思いません? 私、世界一美しいはずなのにぃ~」
「うんうん、フレアは綺麗だよ」
「でしょぉ~!? なのに、寄ってくるのは封印された邪神とか、脳筋のドラゴンとかばっかり! 私が欲しいのはねぇ、優しくてぇ、強くてぇ、野菜を育ててくれるような殿方なんですよぉ!」
それは完全に目の前の人物のことだが、カイトは「そんな人が見つかるといいねぇ」と、孫を見るような目で頭を撫でている。
「ううっ……カイト様のバカぁ……優しさが染みるぅ……」
「よしよし。デューク、彼女に特製ラーメンを一杯」
「承知した。……フン、泣くほど腹が減っていたなら、最初からそう言えばいいものを」
デュークは手際よく麺を茹で上げ、ドンブリに注ぐ。
目の前に置かれた熱々のラーメン。
フレアは涙を拭い、箸を手に取った。
「……いただきます……ズルッ……うっ、美味しい……悔しいけど美味しいわよ、このラーメンバカァ……」
文句を言いながらも、胃袋を掴まれているフレアは完食し、最後は笑顔で寝落ちした。
その寝顔を見ながら、デュークとフェンリル、そしてカイトは静かにスープを啜る。
「……まあ、あいつも苦労人だな」
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