田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一

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第十二章 ファミレス12時間耐久レース

EP 2

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【脱走】筋肉痛で動けない。そうだ、天魔窟(楽園)へ行こう
​地獄の早朝ランニングと、1000回のスクワットが終わった後の昼休憩。
カイト農場の食堂は、戦場のような静けさに包まれていた。
​「……うぐっ……手が……震えて……」
​風紀委員長リベラが、フォークを持ったまま小刻みに震えている。
彼女の目の前にあるのは、デューク教官監修の『筋肉定食(茹でたササミとブロッコリーのみ)』だ。
​「……フォークが、重いですわ……。ササミが……逃げていきますの……」
​カチャカチャカチャ……。
震動でササミを突き刺すことすらできない。彼女の腕の筋肉は、完全に限界を迎えていた。
​「もう……無理……」
​隣の席では、創造神ルチアナがテーブルに突っ伏し、白い灰のようになっている。
​「私、神よ……? なんでこんな、生まれたての子鹿みたいにプルプル震えなきゃいけないの……?」
​「脚が……私の美脚が……丸太のように感覚がないわ……」
​魔王ラスティアも椅子から立ち上がれない。
午前中のトレーニングだけで、カイト農場の女性陣(世界最強クラスの面々)は完全に壊滅していた。
​「……皆さん、聞いてください」
​その時、テーブルの下からひょっこりとルナが顔を出した。
彼女もまた、エルフ特有のひ弱さでプルプル震えているが、その瞳だけは異様な輝きを放っていた。
​「……こ、このままでは、午後の『対人戦闘訓練(実戦)』で殺されますぅ」
​「!?」
​全員が息を呑む。
相手はあの竜王デュークだ。筋肉痛の状態で戦えば、物理的に挽肉にされる未来しか見えない。
​「リベラさん……このまま法を守って死にますか? それとも、法を破って生き延びますか?」
​「……法より、今は筋肉(マッスル)の脅威が勝りますわ」
​リベラが苦渋の決断を下した。
生命の危機を前に、風紀委員長のプライドなどササミより軽い。
​「で、でも逃げるってどこへ? 農場の外周はデュークの結界が……」
​フレアが怯える。
だが、ルナはニヤリと笑い、食堂の窓の外に見える「ネオン街」を指差した。
​「……あそこへ行くのですぅ」
​「あそこって……天魔窟?」
​「はい。あそこには、『デモンズ・ガスト』という、24時間営業の聖域(ファミレス)がありますぅ」
​「ファミレス……!」
​その甘美な響きに、女性陣の目の色が変わった。
​「ふかふかのソファ……! 空調の効いた店内……!」
​「そして何より……『ドリンクバー』がありますぅ!」
​ルナが悪魔の囁きを続ける。
​「何時間座っていても怒られません。メロンソーダも飲み放題。……そこなら、デュークさんの筋肉も届きませんよぉ」
​「行くわ!!」
​ルチアナがガバッと顔を上げた。
​「私、行く! メロンソーダの海に溺れるのよ!」
​「私も行きますわ! ササミはもうこりごりです!」
​意見は一致した。
作戦名は『オペレーション・ドリンクバー』。
​「……でも、移動手段は? 歩くなんて無理よ?」
​「大丈夫ですぅ。……丁度いいところに、タクシーがいますから」
​ルナが視線を向けた先。
校庭の隅で、午前の重り引きで疲れ果て、日向ぼっこをして昼寝をしている始祖竜ポチの姿があった。
​   ◇
​「……おい、起きなさいトカゲ」
​『……んご? 誰がトカゲだ……』
​ポチが目を開けると、そこには鬼気迫る形相の美女軍団が立っていた。
​「私たちを天魔窟まで運びなさい。今すぐに」
​『あぁ? なんで俺が……今は休憩中だぞ……』
​「言うことを聞くなら、ファミレスで『山盛りフライドポテト』を奢ってあげるわ」
​『!!』
​ポチの鼻がピクリと動いた。
デュークの監視下で、彼もまたササミ地獄に喘いでいたのだ。
​『……ポテト。塩多めか?』
​「ええ。ケチャップとマヨネーズもつけ放題よ」
​『……乗れ。最短ルートで飛ばすぞ』
​交渉成立。
ポチが翼を広げ、低空飛行の態勢をとる。
女性陣は筋肉痛の体に鞭打ち、転がるようにポチの背中によじ登った。
​「急いで! デュークが戻ってくるわ!」
​「全員乗った!? 出して!」
​『おうよ! 舌噛むなよ!』
​バサァァァァッ!!!
​ポチが強風を巻き起こし、空へと舞い上がった。
​「ああっ!? 貴様ら、何処へ行くぅぅぅ!!」
​食堂から出てきたタンクトップ姿のデュークが、空を見上げて絶叫する。
​「スクワットがまだ900回残っているぞォォォ!!」
​「知るもんですかぁぁぁ!!」
「筋肉ダルマのバーカ!!」
​ルチアナとラスティアが、空の上から「あっかんべー」をした。
遠ざかるカイト農場。
眼下に広がるのは、欲望とカロリーの楽園、天魔窟。
​「待っててね、私のドリンクバー……!」
「待ってろ、俺のポテト……!」
​こうして、地獄のブートキャンプからの大脱走劇は成功した。
向かう先は、ふかふかソファの聖地。
だが彼女たちはまだ知らない。
ファミレスという場所が、一度入ったら抜け出せない「時間泥棒の迷宮」であることを。
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