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EP 50
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意思を持つ武器、雷霆(らいてい)の誕生
ベヒーモスとの死闘を終え、ボス部屋には静寂が戻っていた。
巨大な魔獣の死骸からは、希少な素材や魔石が取れるはずだが、今はそれどころではない。
部屋の奥に、怪しく輝く豪奢な扉――「宝物庫」への入り口があったからだ。
「ベヒーモスの素材回収は後回しにしてさ、先に『お宝』を拝もうよ」
「そうですね! ダンジョン攻略の醍醐味ですもの!」
太郎の提案に、サリーも目を輝かせて賛成した。
一行は重厚な扉を押し開け、宝物庫へと足を踏み入れた。
中は静謐な空気が流れており、部屋の中央にある台座の上に、厳重な装飾が施された黄金の宝箱が一つだけ置かれていた。
「ゴクリ……」
太郎が唾を飲み込む。
ライザが前に進み出た。
「私が確認します。不用意に開けて爆発でもしたら大変ですから」
ライザは長剣の切っ先で慎重に宝箱の隙間を探り、魔力の流れやワイヤーの有無を確認する。
数分間の緊張の後、彼女は剣を引いた。
「……罠は無いようですね。鍵も掛かっていません」
「よし、開けるぞ」
太郎は深呼吸をして、宝箱の蓋に手を掛けた。
ギギギギ……。
重い音と共に蓋が開く。
中から眩い光が溢れる――かと思いきや、そこに入っていたのは「光」そのものではなく、奇妙な物体だった。
白銀色に輝く、液体金属のような不定形の塊。武器のようにも見えるが、持ち手も刃もない。
「なんだこれ……?」
「蓋の裏に、古代語で何か書かれています」
ライザが宝箱の蓋の内側にある刻印を読み上げた。
「何々……『我は無垢なる力。我は主(あるじ)の魂を映す鏡。この武器は意思を持ち、使用者に相応しい形へと変化する』」
「凄い! 伝説の武器よ! 生きたアーティファクトだわ!」
サリーが興奮して声を上げる。
使用者に合わせて形を変える武器。神話に出てくるような代物だ。
「さぁ、太郎さん。触って下さい。このダンジョンの覇者として」
ライザに促され、太郎は恐る恐る手を伸ばした。
「僕がか? ……わかった」
太郎の指先が、白銀の塊に触れる。
ひやりとした感触。だが、次の瞬間、ドクンッ! と脈打つような熱が掌から流れ込んできた。
『契約……承認……』
頭の中に直接、無機質な声が響く。
塊が宙に浮き上がり、生き物のようにうねり始めた。
太郎の手のひらに収束し、長く、鋭く伸びていく。
「おぉ……!」
光が収まると、太郎の手には一振りの美しい「弓」が握られていた。
全体は白銀色だが、弦の部分は青白い光のエネルギーで形成されている。
メカニカルでありながら、神秘的な装飾が施された、この世界には存在しないデザインの弓だ。
「そうか……僕は弓が得意だから、弓の形になったのか」
太郎が弦を引いてみると、矢をつがえていないのに、自動的に魔力の矢が生成された。
100円ショップの矢も使えるし、魔力の矢も撃てるハイブリッド仕様だ。
手に吸い付くようなフィット感。まるで自分の体の一部になったようだ。
「名前を……付けろと言っている気がする」
太郎は弓を撫でた。
指先からバチッ、と静電気が走る。
その青い輝きを見て、一つの言葉が浮かんだ。
「そうだな……雷の如き一撃を放つ弓。『雷霆(らいてい)』……お前の名は雷霆だ」
ブォン……。
弓――雷霆は、その名を受け入れるように低く唸り、青い光を一度だけ強く明滅させた。
『ピカリ知ってる! これ、すっごく強いやつ!』
ピカリも雷霆の周りを飛び回り、その強大なエネルギーに驚いている。
「雷霆……良い名です。太郎さんに相応しい、最強の相棒になりそうですね」
「うん。これがあれば、もっと色んなことが出来そうだ」
太郎は新しい相棒を背中に背負った。
最強の武器を手に入れた元コンビニ店員。
彼の冒険は、この雷霆と共に、さらに高いステージへと進んでいくことになる。
ベヒーモスとの死闘を終え、ボス部屋には静寂が戻っていた。
巨大な魔獣の死骸からは、希少な素材や魔石が取れるはずだが、今はそれどころではない。
部屋の奥に、怪しく輝く豪奢な扉――「宝物庫」への入り口があったからだ。
「ベヒーモスの素材回収は後回しにしてさ、先に『お宝』を拝もうよ」
「そうですね! ダンジョン攻略の醍醐味ですもの!」
太郎の提案に、サリーも目を輝かせて賛成した。
一行は重厚な扉を押し開け、宝物庫へと足を踏み入れた。
中は静謐な空気が流れており、部屋の中央にある台座の上に、厳重な装飾が施された黄金の宝箱が一つだけ置かれていた。
「ゴクリ……」
太郎が唾を飲み込む。
ライザが前に進み出た。
「私が確認します。不用意に開けて爆発でもしたら大変ですから」
ライザは長剣の切っ先で慎重に宝箱の隙間を探り、魔力の流れやワイヤーの有無を確認する。
数分間の緊張の後、彼女は剣を引いた。
「……罠は無いようですね。鍵も掛かっていません」
「よし、開けるぞ」
太郎は深呼吸をして、宝箱の蓋に手を掛けた。
ギギギギ……。
重い音と共に蓋が開く。
中から眩い光が溢れる――かと思いきや、そこに入っていたのは「光」そのものではなく、奇妙な物体だった。
白銀色に輝く、液体金属のような不定形の塊。武器のようにも見えるが、持ち手も刃もない。
「なんだこれ……?」
「蓋の裏に、古代語で何か書かれています」
ライザが宝箱の蓋の内側にある刻印を読み上げた。
「何々……『我は無垢なる力。我は主(あるじ)の魂を映す鏡。この武器は意思を持ち、使用者に相応しい形へと変化する』」
「凄い! 伝説の武器よ! 生きたアーティファクトだわ!」
サリーが興奮して声を上げる。
使用者に合わせて形を変える武器。神話に出てくるような代物だ。
「さぁ、太郎さん。触って下さい。このダンジョンの覇者として」
ライザに促され、太郎は恐る恐る手を伸ばした。
「僕がか? ……わかった」
太郎の指先が、白銀の塊に触れる。
ひやりとした感触。だが、次の瞬間、ドクンッ! と脈打つような熱が掌から流れ込んできた。
『契約……承認……』
頭の中に直接、無機質な声が響く。
塊が宙に浮き上がり、生き物のようにうねり始めた。
太郎の手のひらに収束し、長く、鋭く伸びていく。
「おぉ……!」
光が収まると、太郎の手には一振りの美しい「弓」が握られていた。
全体は白銀色だが、弦の部分は青白い光のエネルギーで形成されている。
メカニカルでありながら、神秘的な装飾が施された、この世界には存在しないデザインの弓だ。
「そうか……僕は弓が得意だから、弓の形になったのか」
太郎が弦を引いてみると、矢をつがえていないのに、自動的に魔力の矢が生成された。
100円ショップの矢も使えるし、魔力の矢も撃てるハイブリッド仕様だ。
手に吸い付くようなフィット感。まるで自分の体の一部になったようだ。
「名前を……付けろと言っている気がする」
太郎は弓を撫でた。
指先からバチッ、と静電気が走る。
その青い輝きを見て、一つの言葉が浮かんだ。
「そうだな……雷の如き一撃を放つ弓。『雷霆(らいてい)』……お前の名は雷霆だ」
ブォン……。
弓――雷霆は、その名を受け入れるように低く唸り、青い光を一度だけ強く明滅させた。
『ピカリ知ってる! これ、すっごく強いやつ!』
ピカリも雷霆の周りを飛び回り、その強大なエネルギーに驚いている。
「雷霆……良い名です。太郎さんに相応しい、最強の相棒になりそうですね」
「うん。これがあれば、もっと色んなことが出来そうだ」
太郎は新しい相棒を背中に背負った。
最強の武器を手に入れた元コンビニ店員。
彼の冒険は、この雷霆と共に、さらに高いステージへと進んでいくことになる。
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