虚像のヘルパー

メカ

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退職を決めた日

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その日の朝、俺は迷っていた。
仕事に行くか、休みを取るか。
朝6時、起床。
食パンを片手に、深いため息をついた。
そのため息を聞く度に、母「澄子」は怒りだす。

「仕事が嫌だからって、朝一番からため息なんかつかないでくれる?こっちまで気分悪くなるわ!」

「・・・うるせぇな。」

昔から、母とは反りが合わない。
母は実力主義で兄が高校に上がった頃から「手に職」「資格」と口うるさくなった。
その甲斐あって、兄は見事、看護師の資格を手に入れた。
だが、当の俺は何にも成れない・努力もしない。そんな現代っ子であった。
その為、昔から母には口うるさく小言を言われ育ってきた。
子供ながらに「家族で一番好きな人は?」と聞かれ
真っ先に回答したのは「兄」。
その次が「父」
最後が「母」である。

だが、二十一歳になって半年
一緒に住んでいるのは母の澄子だけだった。

高校を卒業後、一年のプー太郎生活。
昔から俺には具体的な夢が無かった。そのせいで
高校生活もチャランポラン。卒業こそしたが無駄な時間の一年が過ぎた。
そんな俺を見兼ねた兄嫁の紹介で働く事になった初めての職場だ。

ここ最近、毎朝
仕事に行くかどうかを悩む、葛藤の時間がある。
しかし、悩んでいる間に時は流れ、遅刻しないようにと家を出る。
実家から職場までは電車の乗り継ぎと現地で自転車を使って一時間半ほどかかる病院だ。

我ながら、こんなに無駄な時間をよく過ごしたものだと今となっては感心する。

朝一、電車に揺られていると、見たくもない光景にも出会うものだ。
駅で人が乗り込み、座席の前に人が立つ。
すると、さっきまで携帯を弄っていたサラリーマンが途端に寝たふりに移行する。
朝練の為、複数の学生が乗り込み床に堂々と荷物を置き、ゲラゲラと笑い合う。
その荷物がどれだけ邪魔か、気にも留めず。
電車の内部は人の本性が見える。
別段、それは良い。人間観察には興味もないし、自分が他人様の邪魔になっていない事を
再認識できればそれでいい。

雨の日も、台風の日も。
雪で電車が止まろうと俺は職場に行っていた。

そうして二年の月日が流れた。

そして、その日。
俺の怒りは頂点に達した。
限界だった。
これ以上我慢すれば自分が壊れてしまう。そう感じた。

俺は、仕事終わりに看護婦長にコンタクトを取り、現状の報告と共に退職の意を伝えた。
話し合いはそこから2時間続いたが、俺の意思は傾くことなく退職を選んだ。

その日の帰り道
俺は清々しくさえもあった。今まで抱えていた苦しみから解放された喜びと
新しくスタートを切るのだと自分に言い聞かせ喜びに満ちていた。

しかし、この決定が
向こう10年近くの人生を狂わせる歯車が回り出したことを
当時の俺は理解すらしていなかった。
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