骸行進

メカ

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筆者(メカ)の経験談。

ある看護師の体験

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今回の話に登場する看護師「原口さん(仮名)」は
病院に勤めて勤続十数年の古参であった。

年齢は40代後半。

過程を持ちながらも夜勤をこなす大ベテランだ。

そんな彼女にも・・・あるのだ。
どうしても忘れられない「経験」が。

それは、30代に差し掛かった頃。
彼女は運悪く腰を痛めてしまい、療養の為
暫く休暇を取ったそうだ。

その間も、同僚などから定期的に現場の様子を聞くなど
何時復帰しても良い様に、情報収集は欠かさなかった。

そして、ある情報が彼女にも共有された。

ナースステーションの窓口に一人の患者が立っていた。

「どうされました?」

「看護師さん、隣のじーさんが幾ら話してもテレビの音量を下げてくれないんだよ。
これじゃゆっくり休む事も出来ない。何とかしてくれよ。」

「分かりました、直ぐ伺います。お部屋の番号は?」

良くある日常だ。

件の老人は耳の遠い老人であり、話す際も耳元でハッキリと話さなければならない。
説明を終え、落ち着くかと思っていても
気が付けば、元の木阿弥で再び苦情が来る。

その日の内に、老人は個室へと移されたそうだ。

約一ヶ月の療養の後、原口さんは職場へ復帰。
まだ、腰に不安は残るものの忙しい現場にこれ以上、穴を空けるのも申し訳なかった。

普段通り、仕事をこなし
その日は何事もなく終わった。
短いスパンとはいえ、休んでしまい仕事が回せるか緊張もあった。
・・・だからだろう。
多少、入院患者の入れ替わりもあったようだが
彼女は、その事に重きを置いて居なかった。

「次の出勤時にもう一度、情報を取り直そう。」
その程度の認識でいた。

だが・・・看護師とは多忙を極めるもので・・・。
やろうやろうと思っていても、スムーズに情報を取り直す事が叶わない。

その日、彼女は夜勤だった。

休憩時間を使い、患者の情報を整理しようとステーションへ戻る道中
個室からテレビの音が漏れる。

「あの個室が噂の・・・?」

扉を開くと、そのテレビの音量は数割増しで鼓膜に届く。

急いでリモコンを手に取り、老人へ説明しつつ音量を下げた。

何故、イヤホンを使わないのだろうか?
というか、そこまでの難聴であれば補聴器も視野に入れて良い筈だが・・・。

その疑問は、本人の口から直に聞く事となった。

「俺ぁよぉ!耳に何か嵌めるのが苦手でよぉ!耳が詰まったみてぇで
気持ち悪くてな。だから、イヤホンも補聴器も好かんのよ!」

老人は単に耳が遠いだけで、受け答えはしっかりしている印象を受けたそうだ。
惜しむらくは、その頑固さが周囲との軋轢を産むだけで・・・。

事実、老人は消灯時間を過ぎたらテレビを消して欲しい。という此方の要望にも
素直に従っていたそうだ。

・・・そんなある日の事だ。

日勤の休憩中、彼女はふと個室の老人について「情報整理」していない事に気付き
急いで同僚に話を聞いたそうだ。

「○○号室のお爺さん?・・・あぁ、テレビの?あの後、直ぐ亡くなったよ?」

「・・・え?」

「だから、個室に移った後、二日後だったかな?急変して亡くなったのよ。」

では、あの日・・・夜勤で
原口さんは誰と話していたのでしょうか・・・?
この出来事は、未だに原口さんの中で
モヤを抱いたまま・・・しこりとなって残っているそうだ。
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