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呪物
理髪道具
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この話は、これまで筆者(私)の独断にて伏せていた話である。
というのも、今回の呪物はその末路が
下手を打てば「自分がこうなっていた」かも知れないモノであったからだ。
群馬県某所に住んでいた中年の女性から、受けた相談である。
「息子が遺した仕事道具が家に届いてから妙な事が起こっている。」
聞けば、息子さんは当時22歳。
当時、私が20歳と年は近い状況だった。
この年から私は数年間、体調不良に悩まされる事になるのだが
この息子さんの話を聞いた時、私は心底世間に絶望した事を今でも覚えている。
彼は美容師の見習いとして駆け出しであったそうだ。
奇しくも、私も当時「介護」の道に足を踏み入れたばかりで状況が重なってみえたものだ。
だが・・・彼はその翌年
命を落とす事になる・・・自殺であったそうだ。
理由は、職場でのパワハラ。
これも、運命かと思えるほどなのだが・・・
彼の務めていた職場は「女性優位」であった。
唯でさえ、数の少ない男性職員。
すれ違うだけでも苦情を言われ、肩身の狭い職場であった。と後の遺書で語られている。
だが、それは氷山の一角でしかない。
彼の残した遺書は、便箋4枚にも及ぶ内容だったそうだ。
最後の数行には、両親への謝罪が記されていたという。
彼は、ある日の仕事帰りに
フラっと駅のホームへ降りた。
そしてそのまま・・・。
証拠品として押収されたカバンの中から、彼の仕事道具である理髪用具一式が出て来た。
それらが、彼の実家へ戻った時。
実家では、奇妙な物音を聞くようになったという。
「最初はコン。やコツと言う小さな音が頻繁になる様になった。」
と彼の母は言う。
「そして、それが次第に大きくなって、今ではカツンッ!っていう金属音っぽい音に変わった。」
私は、仕事の休日に合わせ、そのお宅へお邪魔する事になった。
そして、彼の母が後生大事そうに机の上に広げた「それら」を見た時。
言葉にならない悲しみと吐き気が一片に押し寄せた。
すぐさまトイレを借り、暫くの間、出て来ることが出来なかった。
私はこの感覚を知っている。
当時の数年間、私が毎朝の様に感じていた「モノ」だ。
「拒否感」「拒絶感」「抵抗」「不安」
早まる動悸、こみ上げる胃液。
「あぁ・・・きっとこの人も『壊された人』なんだ・・・。」と瞬時に分かった。
そして、実家で聞こえる奇妙な音も・・・その正体に私は気付いた。
「・・・失礼ですが・・・この道具一式は私が預かってもよろしいですか?」
「え?」
「然るべき場所に収めないと・・・可哀想だ・・・。」
自分で言っておきながら、勝手に涙まで流れて来る始末。
だが、それを見た彼の母は何かを察したように道具を渡してくれた。
私は、その足で郵便局へ駆け込みX氏へ、その道具を送った。
ここで、奇妙な音の正体について話すが・・・。
私がトイレに篭っている際、あるイメージが湧いてしまったのだ。
そして、ソレは私自身にも起きていた事だ。
きっと、彼も毎朝の様に仕事への拒絶感を募らせていたに違いない。
そして・・・場所を問わず「手の震え」が出るまでになってしまった。
美容師にとって「手の震え」など「致命的」であろう。
その「震え」のせいで・・・「落としてしまう」のだ。
自分の意地やプライド・命にも等しい「理髪用具」を・・・。
最初に聞こえていた小さな物音は
恐らく「櫛」や「髪留め」を落としていた時の音だろう。
そして、カツンッという金属音・・・。
察しの良い皆さんなら、もう分かるだろう。
彼はとうとう「理髪用のハサミ」を持てなくなったのだ。
その時の絶望たるや・・・察するに余りある。
そこで初めて、彼は「あぁ、もう限界なんだ・・・。」と気付いた事だろう。
似た境遇を体験したからこそ・・・この話は
一種の私のトラウマであり、話す事が恐ろしかった。
当時、何か一つでも選択を誤って居れば・・・
私も「彼と同じ」だったのだから。
というのも、今回の呪物はその末路が
下手を打てば「自分がこうなっていた」かも知れないモノであったからだ。
群馬県某所に住んでいた中年の女性から、受けた相談である。
「息子が遺した仕事道具が家に届いてから妙な事が起こっている。」
聞けば、息子さんは当時22歳。
当時、私が20歳と年は近い状況だった。
この年から私は数年間、体調不良に悩まされる事になるのだが
この息子さんの話を聞いた時、私は心底世間に絶望した事を今でも覚えている。
彼は美容師の見習いとして駆け出しであったそうだ。
奇しくも、私も当時「介護」の道に足を踏み入れたばかりで状況が重なってみえたものだ。
だが・・・彼はその翌年
命を落とす事になる・・・自殺であったそうだ。
理由は、職場でのパワハラ。
これも、運命かと思えるほどなのだが・・・
彼の務めていた職場は「女性優位」であった。
唯でさえ、数の少ない男性職員。
すれ違うだけでも苦情を言われ、肩身の狭い職場であった。と後の遺書で語られている。
だが、それは氷山の一角でしかない。
彼の残した遺書は、便箋4枚にも及ぶ内容だったそうだ。
最後の数行には、両親への謝罪が記されていたという。
彼は、ある日の仕事帰りに
フラっと駅のホームへ降りた。
そしてそのまま・・・。
証拠品として押収されたカバンの中から、彼の仕事道具である理髪用具一式が出て来た。
それらが、彼の実家へ戻った時。
実家では、奇妙な物音を聞くようになったという。
「最初はコン。やコツと言う小さな音が頻繁になる様になった。」
と彼の母は言う。
「そして、それが次第に大きくなって、今ではカツンッ!っていう金属音っぽい音に変わった。」
私は、仕事の休日に合わせ、そのお宅へお邪魔する事になった。
そして、彼の母が後生大事そうに机の上に広げた「それら」を見た時。
言葉にならない悲しみと吐き気が一片に押し寄せた。
すぐさまトイレを借り、暫くの間、出て来ることが出来なかった。
私はこの感覚を知っている。
当時の数年間、私が毎朝の様に感じていた「モノ」だ。
「拒否感」「拒絶感」「抵抗」「不安」
早まる動悸、こみ上げる胃液。
「あぁ・・・きっとこの人も『壊された人』なんだ・・・。」と瞬時に分かった。
そして、実家で聞こえる奇妙な音も・・・その正体に私は気付いた。
「・・・失礼ですが・・・この道具一式は私が預かってもよろしいですか?」
「え?」
「然るべき場所に収めないと・・・可哀想だ・・・。」
自分で言っておきながら、勝手に涙まで流れて来る始末。
だが、それを見た彼の母は何かを察したように道具を渡してくれた。
私は、その足で郵便局へ駆け込みX氏へ、その道具を送った。
ここで、奇妙な音の正体について話すが・・・。
私がトイレに篭っている際、あるイメージが湧いてしまったのだ。
そして、ソレは私自身にも起きていた事だ。
きっと、彼も毎朝の様に仕事への拒絶感を募らせていたに違いない。
そして・・・場所を問わず「手の震え」が出るまでになってしまった。
美容師にとって「手の震え」など「致命的」であろう。
その「震え」のせいで・・・「落としてしまう」のだ。
自分の意地やプライド・命にも等しい「理髪用具」を・・・。
最初に聞こえていた小さな物音は
恐らく「櫛」や「髪留め」を落としていた時の音だろう。
そして、カツンッという金属音・・・。
察しの良い皆さんなら、もう分かるだろう。
彼はとうとう「理髪用のハサミ」を持てなくなったのだ。
その時の絶望たるや・・・察するに余りある。
そこで初めて、彼は「あぁ、もう限界なんだ・・・。」と気付いた事だろう。
似た境遇を体験したからこそ・・・この話は
一種の私のトラウマであり、話す事が恐ろしかった。
当時、何か一つでも選択を誤って居れば・・・
私も「彼と同じ」だったのだから。
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