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03.猛獣との再会
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駅前のコンビニで買った弁当とビール入りの袋を片手に、有季子は街灯が少ない住宅街を歩いていた。
夕飯時間はとうに過ぎ、昼食のサンドイッチ以外は口にしていない腹は時折空腹を訴え大きな音を立てる。
明日は休日だというのに有季子の足取りは重い。終業間際に仕事を追加されて残業になった分の疲れもあるが、それ以上に精神的に疲れることがあったのだ。
「はぁ、何であんな男のためにお金を出さなきゃならないの」
思い返す度に苛々してくる。会社では同期入社の同僚として関わり、交際を隠していたとはいえ頭のネジが緩んだ上司が、有季子を裏切って元親友と結婚した元彼氏へ「結婚祝いの品を贈る」と言い出したのだ。
会社から結婚祝い金は渡しているのに、同じ部署だからという理由でお祝いの品まで渡さなくてもいいじゃないか。どうしても渡したければ上司が個人的に渡せばいいと思う。
「いいですね」と盛り上がっているのは上司と一部の男性社員、新卒入社社員のみ。かつて有季子と元彼が付き合っていたことを知っている数人の女子社員は、上司達へ冷ややかな目を向けていた。
空腹と、駅から遠い立地に建つマンションまでの道のりが有季子の苛立ちを増加させていた。
築年数の古さは気になったものの家賃の安さとお洒落な外観に惹かれ、駅から遠い坂の上に建つマンションを選んだことを今ほど後悔したことはない。
息を切らせて坂を上りきり、ようやく赤煉瓦の外壁のマンションが見えてきた時、異変に気付いた有季子はマンション最上階の自室を見上げた。
(あれ? 電気消し忘れてた!?)
ベランダに面した部屋、レースカーテンの越しにリビングダイニングの灯りが煌々と付いているのが分かり、全身から血の気が引いた。
朝から今まで電気が付けっぱなしだったならば、その分の電気代が無駄で勿体ないことになる。
大嫌いな元彼の結婚式とはいえ、上司から出席するように言われてしまった以上、これから御祝儀代や衣装代に数万円は出費するのだ。
息を切らせてエレベーターの無い古いマンションの階段を4階まで一気に駆け上がった。
玄関前まで辿り着き、焦り過ぎてバックの中身をぶちまけそうになりながら鍵を取り出し鍵穴へ入れて扉を開錠する。
「え?」
薄暗い廊下の灯りに照らされて玄関を見て、部屋を間違えてしまったのかと考え、ぐるりと玄関内を見渡して自分の部屋だと確認する。
近所用へ出かけるためのサンダルの横に、黒色の革靴が一足置かれていたのだ。明らかに有季子の履く靴のサイズよりも大きいサイズ。
「ええっ?」
何度か目を瞬かせて確認しても、男物だと思われる革靴は其処に鎮座している。
(元彼から鍵は返してもらっているし、お父さんはこんな洒落た革靴は持っていないはず、まさか泥棒!?)
泥棒がご丁寧に靴を揃えて脱ぐのかと首を傾げつつも、靴の持ち主は父親である可能性を期待してスマートフォンを手に持った有季子は部屋へ上がる。
スマートフォンの画面に110の番号を表示した状態で、意を決し廊下から灯りが付くリビングダイニングへ続く扉を開いた。
「遅かったな」
リビングダイニングに居たのは、父親で泥棒でもなく黒髪の男だった。
寝転がってテレビを見られるサイズのソファーへ腰かけた黒髪の男は、優雅にワイングラスを口元へ傾け唖然と立ち尽くす有季子へ「おい」と声をかける。
固まっていた有季子は、肩を大きく揺らし悲鳴を上げそうになった。というか、驚きすぎて声として喉の奥から出てこなかった。
「な、な、なん、何で?」
口をぱくぱく開閉した有季子は、ソファーへ座る黒髪の男とこれが初対面ではないと思い出して、ようやく掠れた声が口から出る。
「何で貴方がいるの? 鍵は?」
問い掛けに男は器用に片眉を上げた。
「俺が訪ねて来てやったのに、不在だったから中で待っていただけだ。こんな鍵、数秒で開いたぞ」
「はぁ、そうですか」
偉そうに何なの? とか、これは不法侵入では? とか、言いたいことは沢山あるのに口から出てきたのは何とも情けない一言。110番を表示させていたスマートフォンの画面はとうに真っ黒になっていた。
肩を落とした有季子はソファーの方を見ないように部屋へ入り、持っていたコンビニ袋をダイニングテーブルへ置く。
「おい」
「おいじゃないです、私は、」
「有季子」
名前を呼ばれ、渋々といった体で男の座るソファーを振り向く。
「えーっと、お久しぶりです。クロードさん」
男と出会ったのは一月前の出来事だったのに、すんなりと彼の名前が出てきたことに自分でも驚いた。
「手土産だ」
手渡され紙袋に入っていたのは赤ワインのボトル。ボトルに貼られた年代物のラベルから、素人目からも価値のある高級赤ワインだと分かった。
「着替えて一緒に食え」
偉そうなクロードの態度にムッとしながらテーブルに並ぶ料理を見て、有季子のお腹は空腹を訴えだす。ローストビーフや生ハム、ミートタルトや数種類のチーズが並び、有季子はごくりと唾を飲み込んだ。
「直ぐに着替えてきますね」
不法侵入者へ対する危機感が食べ物に負けた瞬間だった。
危機感の薄さに不安を抱くも、自分の持つ常識が通用しない相手を刺激するのは得策ではない。そう判断した有季子はバックを持ちなおして寝室へ向かった。
寝室のベットの上へジャケットを放り、深い息を吐く。
一夜の過ちを犯して、それっきりだと思っていた男が自宅へ不法侵入してくつろいでいるなど、明らかにおかしいことになっている。
今が警察へ通報するチャンスなのに、本能が素性を全く知らないクロードが普通の男ではないと通報などしても無駄だと、気彼に従った方が無事に切り抜けられると訴えてくるのだ。
念のために、とスマートフォンの画面を見る。
「あれ?」
玄関までは電波は届いていたのに、画面に表示されていたのは圏外のマーク。
クロードが何かやったのかと疑いを抱き、首を横に振る。数日前からマンションの電波環境は悪くなっていたのだった。
スカートとストッキングを脱ぎ、クローゼットからスキニージーンズを取り出す。深酒をしてまた雰囲気に流されてしまうかもしれない。せめてもの自衛として、脱ぎにくいジーンズを選択した。
「お待たせしました」
戻って来た有季子の頭の先から足に先まで見たクロードは、指を動かして自分の隣へ座るように促す。
躊躇した有季子だったが、食欲には勝てずクロードと隙間を開けて座る。
「お腹が空いているので、遠慮なく頂きますね」
薄切りではなく厚切りのローストビーフを箸で取り一齧りする。
「美味しいー」
待ちに待った食事に有季子は満面の笑みを浮かべた。
美味しい赤ワインと食事ですっかり警戒心は薄れ、ワインボトルを空にする頃にはクロードと笑顔で話すまで気を緩めていた。話すといっても有季子が一方的に喋り、クロードが相槌を打つ程度だったが。何も言わず、ただ愚痴を聞いてもらえるのは有難かった。
カランッ、ワインからブランデーへ変えたクロードがグラスをテーブルへ置く。
「あれー? もう氷が無くなっちゃったんだ。取ってきます」
アイスペールの氷が無くなっていることに気付き、有季子はブランデー用の氷を取りにほろ酔い気分でキッチンへ向かう。
腰を曲げて冷凍庫から氷を取り出してアイスペールへ入れる。あと必要なものは有るかと、上段の冷蔵庫を開けた。
「有季子」
クロードの声に振り向くと、無表情の彼が背後に立っていた。
「はいはい、氷は今持っていきますよ~」
せっかちですね、と続く言葉はあたたかくてやわらかいものに唇を塞がれて発せられなかった。
「んぅ!?」
突然のことに有季子の目が大きく見開かれる。
視界いっぱいにクロードの端正な顔が入り込み、唇に密着する感触から彼にキスされているのだと、唇を食まれてようやく理解した。
アイスペールを持つ手とは逆の手でクロードの胸を押してもびくともしない。閉じた唇を突き、開くようにとクロードの舌先が催促した。
首を振ってキスから逃れようとしているのに、彼は後頭部へ手を回して更に体を密着させようとするのだ。
長いキスに息苦しくなり、小さく開いてしまった唇の隙間からクロードの熱い舌先が口腔内へ侵入する。
上の歯列をなぞり舌へ絡まりつくクロードの舌の動きに翻弄され、有季子の唇の端からは飲み込めない唾液が零れ落ちた。
キッチンの壁へ押し付けるように押さえ込まれたら、彼からのディープキスを受け入れるしかなかった。
舌と舌を絡ませ合う音が聞こえるのに、舌技に翻弄される有季子には恥ずかしいと思う余裕はなく、必死で彼の舌の動きに応える。
舌を軽く吸われるキスに、息苦しい以外の気持ちよさを拾い始めた頃、クロードの舌が口腔内から出ていく。
互いの舌と舌を透明な唾液の糸が繋ぎ、プツリと切れた。
唇は離れても後頭部へ回された腕は離れず、荒い呼吸を繰り返す有季子の体を支えていた。
「はぁ……なん、で?」
全身が熱くて堪らない。
アルコールによるものではないこの熱は、キスをされた興奮と羞恥によるもの。熱は甘い疼きとなって有季子の全身を支配していく。
クロードの長くて形の良い指が、下を向こうとする有季子の顎を掴み上向けさせる。
見下ろしてくる赤い瞳には、捕らえた獲物の喉元へ今にも牙を突き立て食らおうとする、明らかな欲が浮かんでいた。
「氷はもういい。それよりも、俺に付き合えよ」
目を細めたクロードは口角を上げた。
彼の外見同様、内面からも肉食獣の獰猛さを感じ取った有季子の背筋を寒気が走り抜ける。キスの快楽に蕩けていた思考が冷えていく。
「ちょっと、まって、んんっ」
怯えの表情で身を縮める有季子の唇へ、クロードは噛みつくようなキスを落とした。
***
次話はエロ回です。
電波障害の原因はご想像にお任せします。
評価、ブックマーク、ありがとうございます。
夕飯時間はとうに過ぎ、昼食のサンドイッチ以外は口にしていない腹は時折空腹を訴え大きな音を立てる。
明日は休日だというのに有季子の足取りは重い。終業間際に仕事を追加されて残業になった分の疲れもあるが、それ以上に精神的に疲れることがあったのだ。
「はぁ、何であんな男のためにお金を出さなきゃならないの」
思い返す度に苛々してくる。会社では同期入社の同僚として関わり、交際を隠していたとはいえ頭のネジが緩んだ上司が、有季子を裏切って元親友と結婚した元彼氏へ「結婚祝いの品を贈る」と言い出したのだ。
会社から結婚祝い金は渡しているのに、同じ部署だからという理由でお祝いの品まで渡さなくてもいいじゃないか。どうしても渡したければ上司が個人的に渡せばいいと思う。
「いいですね」と盛り上がっているのは上司と一部の男性社員、新卒入社社員のみ。かつて有季子と元彼が付き合っていたことを知っている数人の女子社員は、上司達へ冷ややかな目を向けていた。
空腹と、駅から遠い立地に建つマンションまでの道のりが有季子の苛立ちを増加させていた。
築年数の古さは気になったものの家賃の安さとお洒落な外観に惹かれ、駅から遠い坂の上に建つマンションを選んだことを今ほど後悔したことはない。
息を切らせて坂を上りきり、ようやく赤煉瓦の外壁のマンションが見えてきた時、異変に気付いた有季子はマンション最上階の自室を見上げた。
(あれ? 電気消し忘れてた!?)
ベランダに面した部屋、レースカーテンの越しにリビングダイニングの灯りが煌々と付いているのが分かり、全身から血の気が引いた。
朝から今まで電気が付けっぱなしだったならば、その分の電気代が無駄で勿体ないことになる。
大嫌いな元彼の結婚式とはいえ、上司から出席するように言われてしまった以上、これから御祝儀代や衣装代に数万円は出費するのだ。
息を切らせてエレベーターの無い古いマンションの階段を4階まで一気に駆け上がった。
玄関前まで辿り着き、焦り過ぎてバックの中身をぶちまけそうになりながら鍵を取り出し鍵穴へ入れて扉を開錠する。
「え?」
薄暗い廊下の灯りに照らされて玄関を見て、部屋を間違えてしまったのかと考え、ぐるりと玄関内を見渡して自分の部屋だと確認する。
近所用へ出かけるためのサンダルの横に、黒色の革靴が一足置かれていたのだ。明らかに有季子の履く靴のサイズよりも大きいサイズ。
「ええっ?」
何度か目を瞬かせて確認しても、男物だと思われる革靴は其処に鎮座している。
(元彼から鍵は返してもらっているし、お父さんはこんな洒落た革靴は持っていないはず、まさか泥棒!?)
泥棒がご丁寧に靴を揃えて脱ぐのかと首を傾げつつも、靴の持ち主は父親である可能性を期待してスマートフォンを手に持った有季子は部屋へ上がる。
スマートフォンの画面に110の番号を表示した状態で、意を決し廊下から灯りが付くリビングダイニングへ続く扉を開いた。
「遅かったな」
リビングダイニングに居たのは、父親で泥棒でもなく黒髪の男だった。
寝転がってテレビを見られるサイズのソファーへ腰かけた黒髪の男は、優雅にワイングラスを口元へ傾け唖然と立ち尽くす有季子へ「おい」と声をかける。
固まっていた有季子は、肩を大きく揺らし悲鳴を上げそうになった。というか、驚きすぎて声として喉の奥から出てこなかった。
「な、な、なん、何で?」
口をぱくぱく開閉した有季子は、ソファーへ座る黒髪の男とこれが初対面ではないと思い出して、ようやく掠れた声が口から出る。
「何で貴方がいるの? 鍵は?」
問い掛けに男は器用に片眉を上げた。
「俺が訪ねて来てやったのに、不在だったから中で待っていただけだ。こんな鍵、数秒で開いたぞ」
「はぁ、そうですか」
偉そうに何なの? とか、これは不法侵入では? とか、言いたいことは沢山あるのに口から出てきたのは何とも情けない一言。110番を表示させていたスマートフォンの画面はとうに真っ黒になっていた。
肩を落とした有季子はソファーの方を見ないように部屋へ入り、持っていたコンビニ袋をダイニングテーブルへ置く。
「おい」
「おいじゃないです、私は、」
「有季子」
名前を呼ばれ、渋々といった体で男の座るソファーを振り向く。
「えーっと、お久しぶりです。クロードさん」
男と出会ったのは一月前の出来事だったのに、すんなりと彼の名前が出てきたことに自分でも驚いた。
「手土産だ」
手渡され紙袋に入っていたのは赤ワインのボトル。ボトルに貼られた年代物のラベルから、素人目からも価値のある高級赤ワインだと分かった。
「着替えて一緒に食え」
偉そうなクロードの態度にムッとしながらテーブルに並ぶ料理を見て、有季子のお腹は空腹を訴えだす。ローストビーフや生ハム、ミートタルトや数種類のチーズが並び、有季子はごくりと唾を飲み込んだ。
「直ぐに着替えてきますね」
不法侵入者へ対する危機感が食べ物に負けた瞬間だった。
危機感の薄さに不安を抱くも、自分の持つ常識が通用しない相手を刺激するのは得策ではない。そう判断した有季子はバックを持ちなおして寝室へ向かった。
寝室のベットの上へジャケットを放り、深い息を吐く。
一夜の過ちを犯して、それっきりだと思っていた男が自宅へ不法侵入してくつろいでいるなど、明らかにおかしいことになっている。
今が警察へ通報するチャンスなのに、本能が素性を全く知らないクロードが普通の男ではないと通報などしても無駄だと、気彼に従った方が無事に切り抜けられると訴えてくるのだ。
念のために、とスマートフォンの画面を見る。
「あれ?」
玄関までは電波は届いていたのに、画面に表示されていたのは圏外のマーク。
クロードが何かやったのかと疑いを抱き、首を横に振る。数日前からマンションの電波環境は悪くなっていたのだった。
スカートとストッキングを脱ぎ、クローゼットからスキニージーンズを取り出す。深酒をしてまた雰囲気に流されてしまうかもしれない。せめてもの自衛として、脱ぎにくいジーンズを選択した。
「お待たせしました」
戻って来た有季子の頭の先から足に先まで見たクロードは、指を動かして自分の隣へ座るように促す。
躊躇した有季子だったが、食欲には勝てずクロードと隙間を開けて座る。
「お腹が空いているので、遠慮なく頂きますね」
薄切りではなく厚切りのローストビーフを箸で取り一齧りする。
「美味しいー」
待ちに待った食事に有季子は満面の笑みを浮かべた。
美味しい赤ワインと食事ですっかり警戒心は薄れ、ワインボトルを空にする頃にはクロードと笑顔で話すまで気を緩めていた。話すといっても有季子が一方的に喋り、クロードが相槌を打つ程度だったが。何も言わず、ただ愚痴を聞いてもらえるのは有難かった。
カランッ、ワインからブランデーへ変えたクロードがグラスをテーブルへ置く。
「あれー? もう氷が無くなっちゃったんだ。取ってきます」
アイスペールの氷が無くなっていることに気付き、有季子はブランデー用の氷を取りにほろ酔い気分でキッチンへ向かう。
腰を曲げて冷凍庫から氷を取り出してアイスペールへ入れる。あと必要なものは有るかと、上段の冷蔵庫を開けた。
「有季子」
クロードの声に振り向くと、無表情の彼が背後に立っていた。
「はいはい、氷は今持っていきますよ~」
せっかちですね、と続く言葉はあたたかくてやわらかいものに唇を塞がれて発せられなかった。
「んぅ!?」
突然のことに有季子の目が大きく見開かれる。
視界いっぱいにクロードの端正な顔が入り込み、唇に密着する感触から彼にキスされているのだと、唇を食まれてようやく理解した。
アイスペールを持つ手とは逆の手でクロードの胸を押してもびくともしない。閉じた唇を突き、開くようにとクロードの舌先が催促した。
首を振ってキスから逃れようとしているのに、彼は後頭部へ手を回して更に体を密着させようとするのだ。
長いキスに息苦しくなり、小さく開いてしまった唇の隙間からクロードの熱い舌先が口腔内へ侵入する。
上の歯列をなぞり舌へ絡まりつくクロードの舌の動きに翻弄され、有季子の唇の端からは飲み込めない唾液が零れ落ちた。
キッチンの壁へ押し付けるように押さえ込まれたら、彼からのディープキスを受け入れるしかなかった。
舌と舌を絡ませ合う音が聞こえるのに、舌技に翻弄される有季子には恥ずかしいと思う余裕はなく、必死で彼の舌の動きに応える。
舌を軽く吸われるキスに、息苦しい以外の気持ちよさを拾い始めた頃、クロードの舌が口腔内から出ていく。
互いの舌と舌を透明な唾液の糸が繋ぎ、プツリと切れた。
唇は離れても後頭部へ回された腕は離れず、荒い呼吸を繰り返す有季子の体を支えていた。
「はぁ……なん、で?」
全身が熱くて堪らない。
アルコールによるものではないこの熱は、キスをされた興奮と羞恥によるもの。熱は甘い疼きとなって有季子の全身を支配していく。
クロードの長くて形の良い指が、下を向こうとする有季子の顎を掴み上向けさせる。
見下ろしてくる赤い瞳には、捕らえた獲物の喉元へ今にも牙を突き立て食らおうとする、明らかな欲が浮かんでいた。
「氷はもういい。それよりも、俺に付き合えよ」
目を細めたクロードは口角を上げた。
彼の外見同様、内面からも肉食獣の獰猛さを感じ取った有季子の背筋を寒気が走り抜ける。キスの快楽に蕩けていた思考が冷えていく。
「ちょっと、まって、んんっ」
怯えの表情で身を縮める有季子の唇へ、クロードは噛みつくようなキスを落とした。
***
次話はエロ回です。
電波障害の原因はご想像にお任せします。
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