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05.猛獣とOLの新しい関係
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日中は暖かくなってきてとはいえ、まだまだ夜間と早朝は寒い日もある。
久々に感じる自分以外の温もりと触れ合う素肌が心地よくて、有季子は甘えるように彼の胸へ顔を埋めた。
(あたたかい? この人は彼なの? 違う、彼は私じゃなくてあの子を選んだのに)
夢と現の境目で彷徨う意識の中、手を伸ばして眠る彼の髪へ触れた。
指の間をするする抜けていく髪はやわらかくて、髪質と長さに違和感を覚えて首を傾げる。
彼の髪はもっと短くて硬い手触りでは無かったか。それに、彼とはもう半年前に別れていていつもは一人で寝ていたはずだ。
(この人は、誰―?)
心地いい眠りへの誘いを振り切り、有季子は重たい目蓋を無理やり開く。
目覚めてすぐに感じたのは、素肌に当たるシーツの感触。
靄がかる視界で首を動かして下方を確認すると、一糸まとわぬ裸で寝ていた自分の胸が上下するのが見えた。隣に寝ている誰かの腕が腰へ回され、顔を上げた有季子は驚きのあまり大きく肩を揺らす。
腕の持ち主も自分と同じく全裸で寝ていたのだ。
どういう状況がすぐには理解できずに、身じろぎすれば体の節々、特に腰に鈍痛が感じて呻く。
全裸の男女が一緒に寝ており、腰の痛みと全身の倦怠感というだけでも、昨夜は横で寝ている男とセックスをしたということで。
「ぎゃあ」と叫びたいのに、乾いた喉では叫び声にはならずヒュウッという空気の漏れる音が鳴る。
いつも枕元へ置いているスマホを探そうと首を動かし、ぐしゃぐしゃに乱れたシーツと開封済のコンドームの袋数個が視界に入り、そこで昨夜の出来事を思い出した。
(そうだ、この人と、クロードさんとセックスしちゃったんだ。最初は無理やりだったのに、ベッドでは自分から彼に跨って、何度も……うわあぁ~!!)
酔った勢いで彼と一夜の過ちを犯した一月前とは違い、昨夜の記憶はしっかりと残っている。最初は抵抗していたのに、理性を失い本能のままに交わってしまった。
何度も達して最後は気絶するほどの、激し過ぎる情事の顛末を思い出してしまい、流されてしまったとはいえ何ということをしたんだという恥ずかしさから、眠るクロードに背を向けて両手で顔を覆う。
動く度に体の節々、特に腰が痛み体中の筋肉が張っているのが分かる。
昨夜の状況を分析して気持ちが少し落ち着いて来ると、汗でべたつく体と額に張り付く髪が気になってきた。
掛け布団を捲り、痛む腰を押さえて上半身を起こしかけた有季子の手首が、横から伸びてきた手によって掴まれる。
「何処へ、行く?」
寝ていたと思ったクロードが寝起き特有の掠れた声で問う。
半開きの目はまだ夢現といった風で、乱れた髪も相まって色っぽさが増して見えドキリと胸が跳ねた。
「えぇっと、シャワーを浴びてくるだけだから、まだ寝ていて」
「ああ」
頷いたクロードは再び目蓋を閉じた。
カーテンの隙間からすでに高い位置へ昇っている陽の光が差し込む。陽光に照らされた部屋の惨状を確認して、有季子は泣きたくなった。
床へ散らばる二人分の服と口を縛った使用済みのコンドームの数は一つや二つではない。昨夜の激しいセックスで、クロードは何回射精したのか。彼の絶倫っぷりに身震いする。
震える脚と痛む腰を叱咤して洗面所へ辿り着き、洗面台の鏡に映る自分の姿を確認して顔を顰めてしまった。
「キスマークを付けるだなんて、信じられない」
鎖骨の下、両胸、腹部、太股の内側に少なくとも十五か所に咲いた、赤い鬱血痕。首筋に付けなかったのは、一応仕事をしている有季子への配慮からか。
キスマークを付けるような男とは思えなかったのに、意外というか、彼に執着されている気がしてきて怖くなった。
バスタオルを洗濯機の上へ置き、浴室の扉を開く。
浴槽にたっぷりとお湯が張られていたことを不審に思いつつ、有季子は床へバスマットを敷きシャワーの切り替えハンドルを回す。
頭からぬるめの湯をかぶっていると、段々と目が覚めてきて思考も纏まってくる。
ボディスポンジにボディソープを垂らし泡立てる。左腕を上げて、二の腕の内側に付けられたキスマークに気付き、唐突にクロードから言われた台詞が脳裏に蘇ってくる。
『俺とお前の体の相性は最高にイイらしい』
色気を含んだ息を吐くクロードは本当に気持ちが良さそうで、始まりが無理矢理だったことを忘れて彼が満足してくれるのが嬉しかった。
(体の相性って、今まで気にしたことはなかったけど、あんなのは知らなかった)
太くて長い陰茎が入ってきた時は、膣を広げられる痛みとひどい圧迫感で苦しかったのに、しだいに気持ちよくてなってクロードの動きに合わせて腰を振っていた。
奥を突かれるのが気持ち良くて、狂ってしまうかもしれないという恐怖と、達した瞬間に思考が全て吹き飛ぶような強烈な快感に支配されるのは、初めてだった。
何度も陰茎が出入れする気持ち良さを覚えている膣がきゅうっと疼く。
体の奥から愛液が分泌されるのが分かって、火照った両肩へ両腕を回した。
カラリ、いきなり開いた浴室の扉に驚き、有季子は目を見開いた。
「な、何で入ってくるの!?」
慌てて手で胸を隠す有季子を見下ろし、クロードはニヤリと口角を上げた。
「何故だと? 俺も入りたくなったからだ」
バスマットに座る有季子の視界に、偉そうな態度で立つクロードの股間の間で自己主張する陰茎が視界に入る。重力に逆らい反り返ったソレは、赤黒い色をした表面に血管が浮き出た、長大な杭。
臨戦態勢で浴室へやって来たクロードの目的など、容易に想像がつく。急いで泡をシャワーで流し、有季子は立ち上がった。
「そ、そうですか。二人で入るには狭いから、私はもう出るね」
引きつった笑顔で告げてもクロードは扉の前から退いてくれない。それどころか、がっちりと有季子の腰へ腕を回して抱き寄せる。
「そう遠慮するな。洗ってやるよ」
結構です、と断ろうと口を開いたのに、凶悪な顔をしたクロードに強引なキスをされて何も言えなくなってしまった。
「はん、んっあぁ、そんなに掻き混ぜちゃあ、やだっ」
狭い浴室に有季子の喘ぎ声と、クロードが人差し指と中指を秘所へ突き入れて掻き混ぜる音が反響する。
バスマットの上へ座ったクロードの股の間に座らされ、背中に当たる筋肉質な胸板に凭れ掛かった有季子は、彼からの執拗な愛撫を受けていた。
水圧を強く設定し直したシャワーヘッドから最大出力で放出するぬるま湯がクリトリスへ当てられ、秘所と同時に責められるという強い快感に体を震わす。
「くくくっ、流しても流しても此処から溢れてくるな。そろそろイクか?」
シャワーを持つ手を離したクロードの指がクリトリスを摘まみ、下腹部に電流に似た快感が駆け抜けた。
「ひぃんっ!?」
強い刺激に体を仰け反らせて達っした有季子は、力の抜けた上半身をクロードへ預ける。
脱力し肩で息をする有季子の唇へ、クロードは触れるだけのキスを落とした。
達したことで収縮を繰り返す膣から指を引き抜き、有季子の背中へ手を添えて倒れないように支えながらクロードは立ち上がった。
「次は、俺を洗ってくれるんだろう?」
緩慢な動きで顔を上げた有季子は、目前にある長大な赤黒い杭へ触れる。
熱く脈打ち、指先で触れればぴくぴくと揺れる陰茎は、不思議と杭ではなく可愛らしいモノに思えてきて唇で軽く触れた。
先走りの液を垂れ流す亀頭へ舌を伸ばし、ぺろりと舐める。舐め取っても先端から垂れてくる液は、汗に似た味がした。
頭上で息を吐く音が聞こえ、上目遣いで見上げれば心地よさそうに目を細めるクロードがいて。彼が感じてくれているのを確認した有季子は、口を大きく開くとばくりと陰茎を咥える。
太さも長さもある陰茎の全ては咥えきれず、咥えられない根本は手で包んで補う。
彼に気持ちよくなって欲しい一心で口を上下に動かし、時折先走りが溢れる先端を軽く吸う。
クロードが吐く息に熱がこもっていくのが分かり、拙い口淫で彼が感じてくれている事実が嬉しくなる。
「いい」
深く息を吐き出したクロードの手が、有季子の頭を押さえ、動きを静止する。
「はぁ、もういい。もう、入れたい」
目元を赤い瞳と同じ色に染めたクロードは、有季子の腕を持ち立ち上がらせる。立ち上がった瞬間、太股を伝い落ちる愛液に気付き、震える太腿へ手を伸ばす。
くちゅり、滴る程溢れ出た愛液に濡れた秘所の入口を中指で撫でた。
「あっ」
「さっきよりビチャビチャになっているな。まさか、俺のを咥えながら興奮していたのか?」
興奮していたのは事実で、反論できずに有季子の顔が真っ赤に染まった。
「だって、」
滴る愛液を止めようと膝を擦り合わせた。
指とシャワーで散々弄られてから咥えたのだ。太くて長い陰茎が自分の中へ入ることを想像して、興奮しても仕方がないというもの。
「有季子」
俯く有季子の耳元で甘く低く囁く声に、蕩け切った子宮の奥が切なく疼く。
「浴槽の淵に手をついて、俺に尻を向けろ」
偉そうな口調でされる命令でも、快楽で染まった思考では腹も立たない。この疼きを治めてくれるのならば、素直に受け入れてしまう。
浴槽の淵へ手をつき、クロードの方へ向けた尻を高く上げた。
「入れるぞ」
丸見えとなった秘所へ熱い先端が当たり、貫かれる期待に鼓動が速まる。
「ああっ!」
ずんっと、突き入れる音が聞こえそうなくらいの強さで膣内へ入れられ、有季子の目の前に火花が散った。
パンパンッと互いの腰と尻がぶつかる音が、狭い浴室中に響く。
「はあっあんっ、激し、おくっおくが、気持ちいいよぉ」
「腰を振ってねだって、そんなに欲しいのか?」
汗ばみ赤く色付く有季子の背中に密着し、激しく腰を振るクロードは彼女の耳朶を食みながら問う。
「はぁん、あぁ欲しいの。もっと、もっとして?」
涙を浮かべ、首を動かして後ろを向きねだる有季子の唇へ顔を近付けたクロードは、口を開いた彼女の舌先へ舌を絡ませる。
「ふっ、欲しいのならば、もっとくれてやる」
捻りを加えて腰を動かせば、太くて硬い陰茎が膣を擦り上げる快感に有季子は崩れ落ちそうになる。膝が床へつく直前、クロードが彼女の腰を抱きかかえ支えた。
「ひっ、ぅう、ふぁ、ああっ、もうだめ、イクッ、あああっ!」
盛大に達した膣壁は精液を欲し、うごめき陰茎を締め付ける気持ち良さに、クロードは眉間に皺を寄せた。数回腰を動かし「出るっ」と呻く。
膣から引き抜いた瞬間、先端から白濁した精液が迸り有季子の背中へかかる。
「はぁ、背中、あつい」
恍惚とした表情で、有季子は息を荒げるクロードを見上げていた。
昨夜の疲労も取れない状態で、湯気が立ちこめる浴室でセックスをした有季子すっかりのぼせてしまい、当然ながら全身に力が入らず立ち上がることも出来なかった。
いわゆるお姫様抱っこで浴室から出た有季子は、朦朧する意識の中で記憶にないバスローブを羽織らされる。
クロードに横抱きされた有季子は、昨夜のままだと思っていたリビングダイニングの状態に目を瞬かせた。
食べ残してあった料理が乗った皿とワイングラスは、脱がされた有季子の服は全て片付けられており、代わりに焼きたてのロールパンとコーンスープ、サラダに厚切りベーコンとスクランブルエッグが置かれていた。
「あー、あのねクロードさん? このバスローブは何処から出したの? あとね、この美味しそうなご飯は何?」
突っ込みたい所は色々あるが、とりあえず有季子が不思議に思ったことを聞いてみる。
「お前が寝ている間に部下へ連絡して用意させた。コレは、風呂でヤッている間に届けさせた」
「えーっと、それってつまり……」
このマンションは古い上に壁は防音では無い。此処は角部屋で、三日前から隣人は出張で不在なのは幸いだった。とはいえ、部屋へ入った相手に情事の音はバッチリ聴こえていただろう。それ以前に不法侵入だ。有季子の顔は一気に青ざめていく。
「聞こえた音、見えたモノは全て記憶から消せと命令してある。だから安心しろ」
「あ、あ、あり得ない」
そういう問題では無いと体が震え出す。抗議の声を上げようとして、彼はデリカシーの無い男だということを思い出した。
ベーコンを切り分けてフォークに刺したクロードは、腕の中にいる有季子の口へ運ぶ。
雛鳥へ食事を運ぶ親鳥のように、クロードは有季子の世話を焼こうとする。
複雑な思いで有季子は口へ運ばれてくる料理を食べていた。本音は自分で食べてたいのに、先程散々乱れたせいで腰が痛くて動けないのだ。
用意された食事を食べ終わり、食後の紅茶もクロードの介助で飲まされて一息ついた。
「お前の休みは週休二日、だったな。俺も明日の夜までフリーにした。あと一日半、堪能させてもらう」
意味深な台詞を言い、ニヤリと口角を上げたクロードは喉を鳴らして笑う。
「あの、クロードさんは恋人、特定のお相手はいないの?」
雰囲気は猛獣をイメージさせる彼は、容姿だけ見たらモデルと言われても納得するくらい整った容姿をしている。そんな男なら付き合っている彼女の一人や二人や三人くらいいるだろうに。
いくら体の相性が良くても、本命、もしくは火遊びの相手がいる男の浮気相手にはなりたくない。
「ハッ、恋人? そんなものは煩わしいだけだ。たとえ女がいたとしても、お前の方がずっと具合がイイだろうな」
「具合って、今のはかなりの最低発言ですよ」
「最低? それは俺にとっては誉め言葉だな。お前を抱けるならば、それなりの対価は払うつもりだ」
価値観の違いを感じて有季子は眉を寄せた。
「対価って、私とは体だけの関係でいるってことですか?」
「ああ。セックスするのに特別な感情が必要なのか?」
“体の関係”とはっきり言い切られ、有季子は体の奥が冷えていくのを感じた。
「もしも、もし、私に好きな人や恋人が出来たら? 私は、恋人がいたら恋人以外の人とはセックス出来ないと思う」
浮気は嫌だなんて伝えたら、「面倒だ」と言って簡単に切り捨てられるのだろうか。
表情を強張らせる有季子の頬を一撫でして、クロードは器用に片眉だけを上げる。
「それならば、恋人は作るな。お前に言い寄る男は、全て排除してやるよ」
「はぁ? それって横暴、」
「黙れ」
「いたっ」
背後からバスローブの合わせをずらし、有季子の首筋に顔を埋めたクロードが鎖骨の上に歯を立てる。
噛まれたこともそうだが、服で隠しにくい部分に歯形が付いてしまったじゃないか、という怒りが沸々と湧き上がってくる。
(この猛獣、一方的に体の関係を続けろだなんて、とても私の手に負えないわ!)
睨みつけても、クロードは涼しい顔でなおも首筋を軽く噛み、歯形がついた鎖骨へ舌を這わせた。
「クロードさんのお仕事は、ううん、何でもない」
「ふっ、知りたいか?」
「部下がいるのなら、社長さん、とか」
彼の纏う雰囲気に気付かない振りをして、あり得ないだろう職業をわざと答える。
「社長、ねぇ。そういうことにしておくか」
背後から有季子を抱き締めたクロードは愉しそうに笑った。
これが、猛獣みたいな男と普通のOL有季子の、体から始まった名前の定まらない関係の始まり。
***
これにて完結となります。
いったん完結にして、納得いく続きを書き貯めたら再開する、という形を考えています。近日中に再開出来るよう精進します。
此処まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
久々に感じる自分以外の温もりと触れ合う素肌が心地よくて、有季子は甘えるように彼の胸へ顔を埋めた。
(あたたかい? この人は彼なの? 違う、彼は私じゃなくてあの子を選んだのに)
夢と現の境目で彷徨う意識の中、手を伸ばして眠る彼の髪へ触れた。
指の間をするする抜けていく髪はやわらかくて、髪質と長さに違和感を覚えて首を傾げる。
彼の髪はもっと短くて硬い手触りでは無かったか。それに、彼とはもう半年前に別れていていつもは一人で寝ていたはずだ。
(この人は、誰―?)
心地いい眠りへの誘いを振り切り、有季子は重たい目蓋を無理やり開く。
目覚めてすぐに感じたのは、素肌に当たるシーツの感触。
靄がかる視界で首を動かして下方を確認すると、一糸まとわぬ裸で寝ていた自分の胸が上下するのが見えた。隣に寝ている誰かの腕が腰へ回され、顔を上げた有季子は驚きのあまり大きく肩を揺らす。
腕の持ち主も自分と同じく全裸で寝ていたのだ。
どういう状況がすぐには理解できずに、身じろぎすれば体の節々、特に腰に鈍痛が感じて呻く。
全裸の男女が一緒に寝ており、腰の痛みと全身の倦怠感というだけでも、昨夜は横で寝ている男とセックスをしたということで。
「ぎゃあ」と叫びたいのに、乾いた喉では叫び声にはならずヒュウッという空気の漏れる音が鳴る。
いつも枕元へ置いているスマホを探そうと首を動かし、ぐしゃぐしゃに乱れたシーツと開封済のコンドームの袋数個が視界に入り、そこで昨夜の出来事を思い出した。
(そうだ、この人と、クロードさんとセックスしちゃったんだ。最初は無理やりだったのに、ベッドでは自分から彼に跨って、何度も……うわあぁ~!!)
酔った勢いで彼と一夜の過ちを犯した一月前とは違い、昨夜の記憶はしっかりと残っている。最初は抵抗していたのに、理性を失い本能のままに交わってしまった。
何度も達して最後は気絶するほどの、激し過ぎる情事の顛末を思い出してしまい、流されてしまったとはいえ何ということをしたんだという恥ずかしさから、眠るクロードに背を向けて両手で顔を覆う。
動く度に体の節々、特に腰が痛み体中の筋肉が張っているのが分かる。
昨夜の状況を分析して気持ちが少し落ち着いて来ると、汗でべたつく体と額に張り付く髪が気になってきた。
掛け布団を捲り、痛む腰を押さえて上半身を起こしかけた有季子の手首が、横から伸びてきた手によって掴まれる。
「何処へ、行く?」
寝ていたと思ったクロードが寝起き特有の掠れた声で問う。
半開きの目はまだ夢現といった風で、乱れた髪も相まって色っぽさが増して見えドキリと胸が跳ねた。
「えぇっと、シャワーを浴びてくるだけだから、まだ寝ていて」
「ああ」
頷いたクロードは再び目蓋を閉じた。
カーテンの隙間からすでに高い位置へ昇っている陽の光が差し込む。陽光に照らされた部屋の惨状を確認して、有季子は泣きたくなった。
床へ散らばる二人分の服と口を縛った使用済みのコンドームの数は一つや二つではない。昨夜の激しいセックスで、クロードは何回射精したのか。彼の絶倫っぷりに身震いする。
震える脚と痛む腰を叱咤して洗面所へ辿り着き、洗面台の鏡に映る自分の姿を確認して顔を顰めてしまった。
「キスマークを付けるだなんて、信じられない」
鎖骨の下、両胸、腹部、太股の内側に少なくとも十五か所に咲いた、赤い鬱血痕。首筋に付けなかったのは、一応仕事をしている有季子への配慮からか。
キスマークを付けるような男とは思えなかったのに、意外というか、彼に執着されている気がしてきて怖くなった。
バスタオルを洗濯機の上へ置き、浴室の扉を開く。
浴槽にたっぷりとお湯が張られていたことを不審に思いつつ、有季子は床へバスマットを敷きシャワーの切り替えハンドルを回す。
頭からぬるめの湯をかぶっていると、段々と目が覚めてきて思考も纏まってくる。
ボディスポンジにボディソープを垂らし泡立てる。左腕を上げて、二の腕の内側に付けられたキスマークに気付き、唐突にクロードから言われた台詞が脳裏に蘇ってくる。
『俺とお前の体の相性は最高にイイらしい』
色気を含んだ息を吐くクロードは本当に気持ちが良さそうで、始まりが無理矢理だったことを忘れて彼が満足してくれるのが嬉しかった。
(体の相性って、今まで気にしたことはなかったけど、あんなのは知らなかった)
太くて長い陰茎が入ってきた時は、膣を広げられる痛みとひどい圧迫感で苦しかったのに、しだいに気持ちよくてなってクロードの動きに合わせて腰を振っていた。
奥を突かれるのが気持ち良くて、狂ってしまうかもしれないという恐怖と、達した瞬間に思考が全て吹き飛ぶような強烈な快感に支配されるのは、初めてだった。
何度も陰茎が出入れする気持ち良さを覚えている膣がきゅうっと疼く。
体の奥から愛液が分泌されるのが分かって、火照った両肩へ両腕を回した。
カラリ、いきなり開いた浴室の扉に驚き、有季子は目を見開いた。
「な、何で入ってくるの!?」
慌てて手で胸を隠す有季子を見下ろし、クロードはニヤリと口角を上げた。
「何故だと? 俺も入りたくなったからだ」
バスマットに座る有季子の視界に、偉そうな態度で立つクロードの股間の間で自己主張する陰茎が視界に入る。重力に逆らい反り返ったソレは、赤黒い色をした表面に血管が浮き出た、長大な杭。
臨戦態勢で浴室へやって来たクロードの目的など、容易に想像がつく。急いで泡をシャワーで流し、有季子は立ち上がった。
「そ、そうですか。二人で入るには狭いから、私はもう出るね」
引きつった笑顔で告げてもクロードは扉の前から退いてくれない。それどころか、がっちりと有季子の腰へ腕を回して抱き寄せる。
「そう遠慮するな。洗ってやるよ」
結構です、と断ろうと口を開いたのに、凶悪な顔をしたクロードに強引なキスをされて何も言えなくなってしまった。
「はん、んっあぁ、そんなに掻き混ぜちゃあ、やだっ」
狭い浴室に有季子の喘ぎ声と、クロードが人差し指と中指を秘所へ突き入れて掻き混ぜる音が反響する。
バスマットの上へ座ったクロードの股の間に座らされ、背中に当たる筋肉質な胸板に凭れ掛かった有季子は、彼からの執拗な愛撫を受けていた。
水圧を強く設定し直したシャワーヘッドから最大出力で放出するぬるま湯がクリトリスへ当てられ、秘所と同時に責められるという強い快感に体を震わす。
「くくくっ、流しても流しても此処から溢れてくるな。そろそろイクか?」
シャワーを持つ手を離したクロードの指がクリトリスを摘まみ、下腹部に電流に似た快感が駆け抜けた。
「ひぃんっ!?」
強い刺激に体を仰け反らせて達っした有季子は、力の抜けた上半身をクロードへ預ける。
脱力し肩で息をする有季子の唇へ、クロードは触れるだけのキスを落とした。
達したことで収縮を繰り返す膣から指を引き抜き、有季子の背中へ手を添えて倒れないように支えながらクロードは立ち上がった。
「次は、俺を洗ってくれるんだろう?」
緩慢な動きで顔を上げた有季子は、目前にある長大な赤黒い杭へ触れる。
熱く脈打ち、指先で触れればぴくぴくと揺れる陰茎は、不思議と杭ではなく可愛らしいモノに思えてきて唇で軽く触れた。
先走りの液を垂れ流す亀頭へ舌を伸ばし、ぺろりと舐める。舐め取っても先端から垂れてくる液は、汗に似た味がした。
頭上で息を吐く音が聞こえ、上目遣いで見上げれば心地よさそうに目を細めるクロードがいて。彼が感じてくれているのを確認した有季子は、口を大きく開くとばくりと陰茎を咥える。
太さも長さもある陰茎の全ては咥えきれず、咥えられない根本は手で包んで補う。
彼に気持ちよくなって欲しい一心で口を上下に動かし、時折先走りが溢れる先端を軽く吸う。
クロードが吐く息に熱がこもっていくのが分かり、拙い口淫で彼が感じてくれている事実が嬉しくなる。
「いい」
深く息を吐き出したクロードの手が、有季子の頭を押さえ、動きを静止する。
「はぁ、もういい。もう、入れたい」
目元を赤い瞳と同じ色に染めたクロードは、有季子の腕を持ち立ち上がらせる。立ち上がった瞬間、太股を伝い落ちる愛液に気付き、震える太腿へ手を伸ばす。
くちゅり、滴る程溢れ出た愛液に濡れた秘所の入口を中指で撫でた。
「あっ」
「さっきよりビチャビチャになっているな。まさか、俺のを咥えながら興奮していたのか?」
興奮していたのは事実で、反論できずに有季子の顔が真っ赤に染まった。
「だって、」
滴る愛液を止めようと膝を擦り合わせた。
指とシャワーで散々弄られてから咥えたのだ。太くて長い陰茎が自分の中へ入ることを想像して、興奮しても仕方がないというもの。
「有季子」
俯く有季子の耳元で甘く低く囁く声に、蕩け切った子宮の奥が切なく疼く。
「浴槽の淵に手をついて、俺に尻を向けろ」
偉そうな口調でされる命令でも、快楽で染まった思考では腹も立たない。この疼きを治めてくれるのならば、素直に受け入れてしまう。
浴槽の淵へ手をつき、クロードの方へ向けた尻を高く上げた。
「入れるぞ」
丸見えとなった秘所へ熱い先端が当たり、貫かれる期待に鼓動が速まる。
「ああっ!」
ずんっと、突き入れる音が聞こえそうなくらいの強さで膣内へ入れられ、有季子の目の前に火花が散った。
パンパンッと互いの腰と尻がぶつかる音が、狭い浴室中に響く。
「はあっあんっ、激し、おくっおくが、気持ちいいよぉ」
「腰を振ってねだって、そんなに欲しいのか?」
汗ばみ赤く色付く有季子の背中に密着し、激しく腰を振るクロードは彼女の耳朶を食みながら問う。
「はぁん、あぁ欲しいの。もっと、もっとして?」
涙を浮かべ、首を動かして後ろを向きねだる有季子の唇へ顔を近付けたクロードは、口を開いた彼女の舌先へ舌を絡ませる。
「ふっ、欲しいのならば、もっとくれてやる」
捻りを加えて腰を動かせば、太くて硬い陰茎が膣を擦り上げる快感に有季子は崩れ落ちそうになる。膝が床へつく直前、クロードが彼女の腰を抱きかかえ支えた。
「ひっ、ぅう、ふぁ、ああっ、もうだめ、イクッ、あああっ!」
盛大に達した膣壁は精液を欲し、うごめき陰茎を締め付ける気持ち良さに、クロードは眉間に皺を寄せた。数回腰を動かし「出るっ」と呻く。
膣から引き抜いた瞬間、先端から白濁した精液が迸り有季子の背中へかかる。
「はぁ、背中、あつい」
恍惚とした表情で、有季子は息を荒げるクロードを見上げていた。
昨夜の疲労も取れない状態で、湯気が立ちこめる浴室でセックスをした有季子すっかりのぼせてしまい、当然ながら全身に力が入らず立ち上がることも出来なかった。
いわゆるお姫様抱っこで浴室から出た有季子は、朦朧する意識の中で記憶にないバスローブを羽織らされる。
クロードに横抱きされた有季子は、昨夜のままだと思っていたリビングダイニングの状態に目を瞬かせた。
食べ残してあった料理が乗った皿とワイングラスは、脱がされた有季子の服は全て片付けられており、代わりに焼きたてのロールパンとコーンスープ、サラダに厚切りベーコンとスクランブルエッグが置かれていた。
「あー、あのねクロードさん? このバスローブは何処から出したの? あとね、この美味しそうなご飯は何?」
突っ込みたい所は色々あるが、とりあえず有季子が不思議に思ったことを聞いてみる。
「お前が寝ている間に部下へ連絡して用意させた。コレは、風呂でヤッている間に届けさせた」
「えーっと、それってつまり……」
このマンションは古い上に壁は防音では無い。此処は角部屋で、三日前から隣人は出張で不在なのは幸いだった。とはいえ、部屋へ入った相手に情事の音はバッチリ聴こえていただろう。それ以前に不法侵入だ。有季子の顔は一気に青ざめていく。
「聞こえた音、見えたモノは全て記憶から消せと命令してある。だから安心しろ」
「あ、あ、あり得ない」
そういう問題では無いと体が震え出す。抗議の声を上げようとして、彼はデリカシーの無い男だということを思い出した。
ベーコンを切り分けてフォークに刺したクロードは、腕の中にいる有季子の口へ運ぶ。
雛鳥へ食事を運ぶ親鳥のように、クロードは有季子の世話を焼こうとする。
複雑な思いで有季子は口へ運ばれてくる料理を食べていた。本音は自分で食べてたいのに、先程散々乱れたせいで腰が痛くて動けないのだ。
用意された食事を食べ終わり、食後の紅茶もクロードの介助で飲まされて一息ついた。
「お前の休みは週休二日、だったな。俺も明日の夜までフリーにした。あと一日半、堪能させてもらう」
意味深な台詞を言い、ニヤリと口角を上げたクロードは喉を鳴らして笑う。
「あの、クロードさんは恋人、特定のお相手はいないの?」
雰囲気は猛獣をイメージさせる彼は、容姿だけ見たらモデルと言われても納得するくらい整った容姿をしている。そんな男なら付き合っている彼女の一人や二人や三人くらいいるだろうに。
いくら体の相性が良くても、本命、もしくは火遊びの相手がいる男の浮気相手にはなりたくない。
「ハッ、恋人? そんなものは煩わしいだけだ。たとえ女がいたとしても、お前の方がずっと具合がイイだろうな」
「具合って、今のはかなりの最低発言ですよ」
「最低? それは俺にとっては誉め言葉だな。お前を抱けるならば、それなりの対価は払うつもりだ」
価値観の違いを感じて有季子は眉を寄せた。
「対価って、私とは体だけの関係でいるってことですか?」
「ああ。セックスするのに特別な感情が必要なのか?」
“体の関係”とはっきり言い切られ、有季子は体の奥が冷えていくのを感じた。
「もしも、もし、私に好きな人や恋人が出来たら? 私は、恋人がいたら恋人以外の人とはセックス出来ないと思う」
浮気は嫌だなんて伝えたら、「面倒だ」と言って簡単に切り捨てられるのだろうか。
表情を強張らせる有季子の頬を一撫でして、クロードは器用に片眉だけを上げる。
「それならば、恋人は作るな。お前に言い寄る男は、全て排除してやるよ」
「はぁ? それって横暴、」
「黙れ」
「いたっ」
背後からバスローブの合わせをずらし、有季子の首筋に顔を埋めたクロードが鎖骨の上に歯を立てる。
噛まれたこともそうだが、服で隠しにくい部分に歯形が付いてしまったじゃないか、という怒りが沸々と湧き上がってくる。
(この猛獣、一方的に体の関係を続けろだなんて、とても私の手に負えないわ!)
睨みつけても、クロードは涼しい顔でなおも首筋を軽く噛み、歯形がついた鎖骨へ舌を這わせた。
「クロードさんのお仕事は、ううん、何でもない」
「ふっ、知りたいか?」
「部下がいるのなら、社長さん、とか」
彼の纏う雰囲気に気付かない振りをして、あり得ないだろう職業をわざと答える。
「社長、ねぇ。そういうことにしておくか」
背後から有季子を抱き締めたクロードは愉しそうに笑った。
これが、猛獣みたいな男と普通のOL有季子の、体から始まった名前の定まらない関係の始まり。
***
これにて完結となります。
いったん完結にして、納得いく続きを書き貯めたら再開する、という形を考えています。近日中に再開出来るよう精進します。
此処まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
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