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9.手紙
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クラウディアはアルフレートにしつこいくらい体調を確認された後、自分の身に起きたことについて話して聞かせた。体調が良い訳ではないけれど、心に一人で抱え込むより早くアルフレートに知ってほしかった。
学園で襲われたこと。なぜか小さくなったこと。孤児院に逃げ込んだこと。クラウディアは思い出したくなくて詳細を省いたが、アルフレートは相槌を打つだけで指摘はしてこなかった。
「とにかく、公爵邸でしばらく休め。あとは俺が何とかする」
「本当に良いの? 正体不明の子供がウロウロしたら、聖女様と喧嘩になってしまうわよ?」
アルフレートはクラウディアに優しくしてくれているのに、どうしても嫌味を言いたくなる。この半年間の事を考えれば許されるだろうと、罪悪感は無視した。
「は? なんだそれは? 俺の周囲に誰が居ようと、聖女様には関係ないだろう?」
「何よ。わたくしの事を無視してイチャイチャしてたじゃない!」
「イチャイチャしてた?」
アルフレートが白々しく首を傾げるので、クラウディアが見てきた二人の様子を話して聞かせる。ちょっと長くなってしまったが、それだけ色々あったというだけで、クラウディアがずっと気にして見ていたわけではない。
「アルも聖女様の好意を受け入れてたんでしょ?」
「そんなわけ……不味いな。子供の頃から受け取っている愛情が独特すぎて、一般的な好意に気づけてないのかもしれない」
「そうなの?」
子供の頃のアルフレートといえば、優しい前公爵夫婦の笑顔が思い浮かぶ。独特な愛情表現をするような変わった人たちだっただろうか。アルフレートばかり見ていたクラウディアには分からない。
「分からないなら気にするな。それより知っていると思うが、俺はただの世話係だから勘違いするなよ」
アルフレートは第二王子ベンヤミンの命令で聖女の護衛兼世話係をしていたらしい。カタリーナは桁違いの光魔法を使い、伝説になっている異世界から現れた聖女そのものだ。公爵であるアルフレートでも王族に並ぶ地位の聖女には逆らえない。
アルフレートが選ばれた理由は不明らしいが、数少ない光魔法の使い手だからかもしれない。
「何れにしろ、クラウディアにだけは信じてほしかったな。手紙で何度も説明しただろう?」
「手紙? この半年の間に送ってきたことなんてあったかしら? 世話係を引き受けていたなんて聞いていないわよ」
アルフレートは若くして公爵位を継いだので、いつも忙しくしている。それでも、半年前まではまめに連絡をくれていたのだ。
しかし、カタリーナが学園に通うようになってから、それがぱったり無くなった。
「それって、どういうことだ? いつも花束と一緒に贈ってただろう?」
「そんなの知らないわ……」
クラウディアを撫でてくれていたアルフレートの手が止まる。クラウディアがアルフレートの膝の上から見上げると、困惑した表情のアルフレートと目が合った。
「俺はお前が拗ねて無視してるんだと……嘘だろう? 王女と公爵の間の私信を届けないなんて、使用人ならバレたら死刑だってありうる」
「……」
アルフレートはかなり驚いているので、送ってくれていたのは本当なのだろう。クラウディアが臆病にならずにきちんと確認すべきだった。
「自分が思っている以上に余裕がないのかもしれないな。この情勢下で思い込みをするなど、あってはならないことだ」
アルフレートが呟くように反省を口にする。
「これから気をつければ良いんじゃないかしら?」
単純なクラウディアにとってはもう過去のことだ。こうして一緒にいられる今があれば良い。
「慰めてくれるのは嬉しいが、クラウディアは絶対に今の状況を理解してないだろう?」
「今の状況? 誤解がとけたのだから解决でしょ?」
アルフレートが呆れた顔をしながら、クラウディアを見下ろす。別に聞きたくないのに難しい話を始めた。
学園で襲われたこと。なぜか小さくなったこと。孤児院に逃げ込んだこと。クラウディアは思い出したくなくて詳細を省いたが、アルフレートは相槌を打つだけで指摘はしてこなかった。
「とにかく、公爵邸でしばらく休め。あとは俺が何とかする」
「本当に良いの? 正体不明の子供がウロウロしたら、聖女様と喧嘩になってしまうわよ?」
アルフレートはクラウディアに優しくしてくれているのに、どうしても嫌味を言いたくなる。この半年間の事を考えれば許されるだろうと、罪悪感は無視した。
「は? なんだそれは? 俺の周囲に誰が居ようと、聖女様には関係ないだろう?」
「何よ。わたくしの事を無視してイチャイチャしてたじゃない!」
「イチャイチャしてた?」
アルフレートが白々しく首を傾げるので、クラウディアが見てきた二人の様子を話して聞かせる。ちょっと長くなってしまったが、それだけ色々あったというだけで、クラウディアがずっと気にして見ていたわけではない。
「アルも聖女様の好意を受け入れてたんでしょ?」
「そんなわけ……不味いな。子供の頃から受け取っている愛情が独特すぎて、一般的な好意に気づけてないのかもしれない」
「そうなの?」
子供の頃のアルフレートといえば、優しい前公爵夫婦の笑顔が思い浮かぶ。独特な愛情表現をするような変わった人たちだっただろうか。アルフレートばかり見ていたクラウディアには分からない。
「分からないなら気にするな。それより知っていると思うが、俺はただの世話係だから勘違いするなよ」
アルフレートは第二王子ベンヤミンの命令で聖女の護衛兼世話係をしていたらしい。カタリーナは桁違いの光魔法を使い、伝説になっている異世界から現れた聖女そのものだ。公爵であるアルフレートでも王族に並ぶ地位の聖女には逆らえない。
アルフレートが選ばれた理由は不明らしいが、数少ない光魔法の使い手だからかもしれない。
「何れにしろ、クラウディアにだけは信じてほしかったな。手紙で何度も説明しただろう?」
「手紙? この半年の間に送ってきたことなんてあったかしら? 世話係を引き受けていたなんて聞いていないわよ」
アルフレートは若くして公爵位を継いだので、いつも忙しくしている。それでも、半年前まではまめに連絡をくれていたのだ。
しかし、カタリーナが学園に通うようになってから、それがぱったり無くなった。
「それって、どういうことだ? いつも花束と一緒に贈ってただろう?」
「そんなの知らないわ……」
クラウディアを撫でてくれていたアルフレートの手が止まる。クラウディアがアルフレートの膝の上から見上げると、困惑した表情のアルフレートと目が合った。
「俺はお前が拗ねて無視してるんだと……嘘だろう? 王女と公爵の間の私信を届けないなんて、使用人ならバレたら死刑だってありうる」
「……」
アルフレートはかなり驚いているので、送ってくれていたのは本当なのだろう。クラウディアが臆病にならずにきちんと確認すべきだった。
「自分が思っている以上に余裕がないのかもしれないな。この情勢下で思い込みをするなど、あってはならないことだ」
アルフレートが呟くように反省を口にする。
「これから気をつければ良いんじゃないかしら?」
単純なクラウディアにとってはもう過去のことだ。こうして一緒にいられる今があれば良い。
「慰めてくれるのは嬉しいが、クラウディアは絶対に今の状況を理解してないだろう?」
「今の状況? 誤解がとけたのだから解决でしょ?」
アルフレートが呆れた顔をしながら、クラウディアを見下ろす。別に聞きたくないのに難しい話を始めた。
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